ミーミル
優里は舞香の提案に驚きで言葉を失ったが、すぐに緊張に包まれた。
「わ、私のプレイを…ですか?」
優里は動揺しながら舞香を見つめる。
「ええ、優里ちゃんがどんな風にヴァルフロを楽しんでいるのか、実際に見てみたいの。それに、ガルムのメンバーもあなたのプレイに興味を持つはずよ。」
舞香は優しく微笑んでいたが、その瞳には鋭い観察力が宿っているように見えた。
フェンリルも腕を組んで頷き、「確かに興味深いですね。チームにどんな刺激を与えてくれるのか、ぜひ見せていただきたいです」と真剣な表情で言った。
優里は内心の不安を抑えつつ、舞香とフェンリルの期待に応えたい気持ちが湧き上がってきた。
「…わかりました。まだまだ未熟ですが、精一杯やってみます!」
「その意気よ、優里ちゃん!」
舞香は満足そうに微笑んだ。
フェンリルが最新のゲーミングPCの前に優里を案内し、PCの設定を整えながら言った。「ヴァルフロは準備完了です。いつでもどうぞ」
優里は深呼吸し、舞香とフェンリルが見守る中でPCに向かい、ゆっくりとマウスを握りしめる。
「よし、いくぞ…!」
その瞬間、舞香が後ろで小声でフェンリルに話しかけた。
「今、ミーミルが配信中よね?」
フェンリルはこくりと頷いた。
「はい…確かファンとパーティを組んでランダムマッチ中だったかと」
「ちょうどいいわね。そこに優里ちゃんをマッチさせて。どうせ敵陣も萎えて、一人ぐらい離脱者がいるでしょうし、いなければ強制離脱させて紛れ込ませて」
「ヘル様、管理者権限を使えと?それに、これは我々の課題訓練の一環ですが…あの子には厳しいのでは?」
「大丈夫よ、あの子なら。なんてったって、アイツとも互角に戦ったんだから」
舞香はにやりと笑い、フェンリルに指示を出した。
フェンリルは「どうなっても知りませんよ」とため息をつきながら、PC操作を始めた。
優里がログインしランダムマッチを開始すると、既に戦闘中のマッチに入るがスコア画面を見て愕然とする。
「これは…負け試合ね」
画面には味方の撃破数がほとんどゼロに近く、敵チームのトップスコアには見覚えのある名前があった。
舞香はモニターを見て、にこりと微笑んだ。
「あら、偶然ね。ミーミルもこのマッチにいるわね」と、あたかも偶然のようにさらりと告げる。
「えっ、ミーミル!?あのガルムの…!」
優里は画面に映る名前に目を凝らした。
「そう。でも今日は配信中だから狙撃は封印しているみたいね。代わりにサブマシンガンで戦っているわ。でも、ちょうど良い機会ね、優里ちゃん。この不利な状況でどれだけ戦えるか、見せてもらえる?」
「え、ええ…でも」
戸惑いながらも、優里は覚悟を決めたようにモニターに向き直った。
舞香の期待に応えたい気持ちと、かつての記憶が優里の胸を熱くした。
優里の脳裏に浮かぶのは、絶望的な状況で楽しむように戦ったヘルの姿だ。
こんな絶望的な状況でも冷静に分析していた様子を思い出し、優里も同じように肩の力を抜いて分析を始めた。
「占領エリアは私たちが1、敵側が4。味方は1を守ってるけど、あそこが落とされたら終わり…なら、今使える手は…」
優里は戦術が閃いたようにキャラクター「フレイヤ」を操作して味方の元へと駆け出した。
だが、すでに味方チームは壊滅状態。4人中3人が倒され、回線を切った者までいる。
かろうじて1人だけが必死に機関銃で敵を食い止めていた。
「やらせはせん!やらせはせんぞ! 最後の一人になっても!」
味方プレイヤーが叫びながら、迫る敵を機関銃で撃退している。
どうやら味方はデモリッシャーであり「エインヘリヤル」を発動して、障害物を破壊できる能力で敵を遠ざけているようだ。
その威力に敵側は陣地に占領エリアに近づけずにいた。
「なかなか上手い味方ね…」と感心しているが、それも時間の問題だ。エインヘリヤル化が解ければ、敵は一気に攻めてくるはず。そして、ついにその時が来たのか「エインヘリヤル」が解け始めた。
「くっ…やっぱり時間稼ぎにしかならないか…」
エインヘリヤル化していた味方のオーラは失いはじめ、はじめ爆発力のあった機関銃の射撃は落ち着きを取り戻しはじめた。
「エインが解けた!みんな、突撃!」
その声には聞き覚えがあった。
ガルムのメンバーでありストリーマーでもあるミーミルの声だ。普段は冷静かつ正確な狙撃手だが、配信中は視聴者にスリルを届けるため、サブマシンガンのMP5で接近戦に挑んでいる。
その号令を受けて、敵たち4人は一斉に陣地取りへと走り出していた。だが、それは無防備にも固まっている。優里はその様子を見逃すことはなかった。
「あっ、みんな待って!」
だが、ミーミルが何かに気づいたように叫んだが、すでに優里の手は動いていた。
「もう遅いわ」
M203グレネードランチャーから「ポンッ」という音が響き、炸裂音とともに敵の足元で爆発が起こる。4人の敵が一瞬で吹き飛ばされ、悲鳴を上げて画面外へと飛ばされていく。
唖然とする味方プレイヤーが、優里のキャラを見て驚きの声を上げた。
「この戦法…まさか、戦火の皇女!?」
優里は静かに言葉をつぶやいた。
「さあ、ペイバックよ」
優里とフレイヤによる逆襲が、ここから始まろうとしていた。




