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1-40 火浦空手道場の空手教室 その8 厄介事

 敬三(けいぞう)のヘタレ騒動で場の空気が少しユルんでしまったが、柱基(よしき)がまっさきに思い出して(りん)を見た。

「敬三くんのことで話がそれてたけど、凛ちゃんの言ってた厄介事って何だったの?」

「ゴメン、そうだった。その厄介事ってのは、道場の外に止まってるデッカイ外車のことなのよ」

「デッカイ外車?それって、もしかして……」

 と、凛の言葉で、柱基が何かに思い当たった時。

 フニョ。

 と、腕に何か柔らかいものが当たる感触と同時に、顔のすぐ横から、自分が言おうとした言葉と、全く同じ言葉が聞こえてきた。

「それって、もしかして、黒いベンツのことじゃない?」

「エッ、水流園(つるぞの)さん?いつの間に……って、ちょっと、何やってんのッ、離れてよッ」

 気付くと、いつの間にか道着に着替えた(まい)が柱基の隣に来て、その腕に抱きついていたのだ。当然だが、肘や二の腕が、舞の胸にピッタリとくっついている。

「やァ―だぁ~道着に着替えたら寒いんだもん。あっためてよ、ヨッちゃん」

 柱基だけでなく、周りにいた一同も、ほとんど気配を立てず突然現れた舞に目を白黒させたが、現れてすぐ始まった少年漫画のラブコメ仕様な展開に、またまた別の意味で目を白黒させる。

 だが、その少年漫画のラブコメ状況も、少年漫画のギャグ漫画展開に一蹴されるのだった。

 すなわち。

 スパァ――――――ンッ!

 再び凛のハリセンが舞の頭を直撃した。

「イッタァーーーイッ!何すんのよ凛ッ!」

「厄介事が起こってるのにッ、この上厄介なことを増やすんじゃないわよッ、バカ舞ッ!」

 凛にどやされた舞は、少し涙目になって、たたかれた頭を押さえる。そして、再び柱基の腕をつかむと、わざとらしい声で泣きついた。

「エェ――ン、ヨッちゃん~凛が舞のことイジメるんだよォ~ヒドイよねェ~」

 つかまれた柱基は苦笑しつつも、スッゴク怖い目でこちらをにらむ凛や、やや呆れ顔の周囲の面々(身内を含む)の視線にさらされ、男子としてはうれし恥ずかしな状況から離脱する決意をする。

「つ、水流園さん。今は本当に緊急だから、凛ちゃんも怒ってると思うんだよ。だって、ホラ、時計を見てみてよ」

 柱基がそううながすと、舞だけでなく、その場の面々も一斉に道場の西側の壁に掛けられた時計に注目した。

「あれ?四時を過ぎてる」

「ホントだ」

「どうして師範は来ないんだ?」

 通常空手教室は四時から始まるが、師範の(けん)はいつも四時前にはやって来て、全員に集合をかけ始める。だが、今日はその師範が、四時を過ぎても来ていないのだ。

 その異常に気づいた一同は、今度は一斉に凛を見た。

「だから、さっきから言ってる厄介事のせいなのよ。道場の外に止まってるデッカイ外車のせいで、父さんもおじいちゃんも、こっちに来られないんだって」

「マジかよ」

 誠二(せいじ)があからさまに顔をしかめる。

「そのデッカイ外車って、さっき水流園さんが言ってた黒いベンツのことだよね」

 まだ腕をつかまれたまま、柱基は凛にたずねてみたが、凛は舞の体をつかんで、柱基の腕から引っペがしながら、難しい顔で答える。

「私はデッカイ外車としか聞いてないから、黒いベンツかどうかは知らないのよ。舞、アンタは見たの?その黒いベンツ?」

 凛に強引に引き離され「アアン」と小さな悲鳴を上げた舞は、背筋を伸ばして道着の合わせを整えながら、一転、少しマジメな声で答えた。

「見たわよ。道場に来る途中で。この辺では見慣れない大きな外車だなァ、と思ったから、よく覚えてるわ」

「そっか~でも黒いベンツが路上駐車してるだけで、父さんたちが来れないほど厄介な事になるなんてあるのかしら?」

 凛が先ほどからずっと疑問に思っていたことを口にする。駐車違反ぐらいなら警察にでも取り締まってもらえばいいのに、と。

「アレじゃねェか、ベンツだけに、乗ってるのがヤクザ者とかで、怖くて誰も言いに行けないから、師範たちにお願いしに来たとか?」

 誠二が少しうれし気にそう言った。どうやら師範たちが頼られていることを誇らしく思っているようだ。

「ン~たぶん違うんじゃなァい」

 舞がユルい口調で水を差す。

「ムッ、なんだよ、水流園」

 誠二が少し不機嫌に問うが、舞は大して悪びれもせず、ユルい口調でサラリと言った。

「だってそのベンツ、ヤクザより厄介な人の車だったから」

「ヤクザより厄介だァ?何だソレ?」

 誠二が少し驚いた声を上げると、柱基も眉根を寄せる。

「どうして水流園さんはそう思ったの?」

 舞は道着に着替える時、長い髪はジャマになるため、ゴムの髪留めで後ろ側にくくっていた。その時耳に少し残った後れ毛をかき上げながら、相変わらずユルい口調で答える。

「ん~そのベンツね、大使館ナンバーを付けてたからだよ~」

 ここまで読んでいただきありがとうございます。

 もし、この作品を気に入ってくださった方は、ブックマークや星☆の評価などよろしくお願いいたします。

 さて、新キャラがたくさん出てくると、集まった時の描写が大変です。自分で自分の首を締めてる感じですが、集まってワイワイするシーンもわりと好きなので、その辺はうまく折り合っていこうかと思います~

 なお、次回の更新は、新しい更新ペースとなりますので、十二月八日・水曜日の八時を予定しています。

 どうぞよろしくお願いします。

 ではでは~(^^)

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