1-39 火浦空手道場の空手教室 その7 似た者同士
「おかえり、凛ちゃん。水流園さんを追いかけてたにしては、ずいぶん遅かったね?」
柱基の出迎えあいさつにも、凛は「はぁ~」とため息で返す。
「ああ、うん。バカ舞はとっくに更衣室に放り込んだけど、それとは別に、ちょっと厄介事が起こったのよ」
「厄介事?」
誠二は眉をひそめると、凛の後ろでいまだに何やら言い合いをしている大と敬三を見た。
「もしかして、敬三のやつが何かやらかしたのか?」
声に少しだけ剣呑な響きが混じっていたせいか、大をにらんでいた敬三は、あわてて誠二の方を見た。
「ちょ、兄ちゃん、俺は関係ないよッ」
「そうなのか?」
確認するように凛を見る。
「ええ、この二人は全然関係ないわよ」
「なら、敬三はさっきからナニを大とモメてんだ?」
そう問われた敬三は、ビミョーに目を泳がせて、兄から視線をそらしつつ、モゴモゴと言葉を並べる。
「そ、それは、その……あれだよ、今日の稽古で、俺と自由組手をしようって、大に申し込んでたんだよ」
「そうなのか?大?」
敬三の言葉を確認するために、今度は大に問う。
「うん。そうだよ~で、俺のほうが多く技を決められたら、春花ちゃんの誕生日を教えてくれって言われたから、それは本人に聞いてよ、って言っ、ガッ…むぐッ……」
「バカッ!大!余計なことしゃべってんじゃねェよッ!」
突然の暴露発言に、敬三は一瞬で耳まで真っ赤になるほど赤面すると、急いで大の口を押さえにかかった。だが……
「なに?いま誰か呼んだ?」
柱基と誠二の後ろにいて、つい先ほどまで声をかけてきた二年生の女の子と話をしていた春花が、ヒョコっと、こちらの話の輪の中に入ってきた。
「あ~春花ちゃん、そこにいたんだ~」
「あ、天木ッ!?い、いたのかッ?」
「うん、そこで……」
と言って、大柄な誠二の裏側あたりを指差す。
「さっきまで四葉ちゃんの友達と話してたの」
「へ、へェ~そうだったんだ……」
大との交渉事にばかり気がいっていた敬三は、予想外の展開に、大の口を押さえた体制のまま体が固まる。しかし目だけは春花を捉えたまま、ジッとそこから動かせないでいた。
(あ~やっぱ天木は道着姿でもカワイイなァ~)
思考はテンパりながらも、そんな煩悩はキチンと働いていた。悲しいほどの男の性だが、空気を読めない同級生はどこの世界にもいるもので。大は、すっかりスキだらけになった敬三の手を、ヨッとばかりにどける。
「春花ちゃん、敬三君が教えてほしいことがあるんだって~」
「そうなの?なに?岩谷君?」
「うえあッ?!」
変な擬音を発したまま、春花にジッと見つめられた敬三は、耳まで真っ赤だった顔を、さらに湯で上げさせていった。やがて目までグルグル回しだすと、突然、つかんでいた大の体からパッと離れる。
一同が「あ」と思う間に、一言。
「ゴメーーンっ!なんでもないよォーーッ!」
と、叫びながら、道場の端、先ほど入ってきた間口の方へ、ダッシュで走り去っていったのだ。
「敬三のヤツ、逃げやがった……」
手の平で側頭部をゴシゴシこすりながら、誠二がポツリとつぶやく。
そして、当事者の春花は敬三が去った間口の方と、大を交互に見ながらポカンとした顔をしていた。
「大ちゃん、岩谷君、なんでもないって言って、行っちゃったけど、良かったのかな?」
「敬三君がイイなら、イイんじゃない?」
「そうなの?なら、良いんだけど」
実は人の色恋沙汰や恋バナは大好物なクセに、自分のことにはサッパリ気付かない春花であった。兄のことを朴念仁と呆れているが、存外似たもの兄妹なのだ。
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さて、天木兄妹の朴念仁な性格があらわになりましたが、そのおかげか、この兄妹の周りには、人がよく集まります。それがどのような物語を生むのか、いまのところ、作者である私にも全てを把握できません。なにせ、作品が出来上がっていくと、登場人物は、時として一人歩きを始め、作者の予想できないことを、話したり行ったりすることがあるからです。それは作者にとって、楽しくもあり、コワくもあることなんですけどねぇ(苦笑)
なお、前回での告知通り次回の更新は十二月六日・月曜日の八時を予定しています。それ以降は月・水・金・の週三日の更新ペースで活動させていただきます。
どうぞよろしくお願いします。
ではでは~(^^)




