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王様の娘が俺の彼女になるそうです。  作者: 七詩のなめ
西の王様が訪問してくるそうです
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桜坂高校事件簿

 双子幼女と別れて、早4時間が過ぎた。現代文の授業は着々と進み、眠気は最高潮に達しようとしているところで、俺は真理亜先生に捕まって机に縛られて眠れないことに気がついた。

 結局、颯斗と協力して逃げても、追いかけてくる真理亜先生とお怒りの楓、綾女と楓に脅迫されて泣きそうになりながら能力を使うタカヒロの四人の力によって捕まってしまった。捕まったあとは宣言通り進路指導室に連れて行かれ、そのまま教室で今のように椅子に縛られて静かに授業をさせられている。

 背中を背もたれにぴったりと縛られているために寝るに寝にくい体制で、どう考えても寝られないのだが、颯斗はその体制のままグーグーといびきをかきながら寝ている。羨ましい限りだが、今日に限っては寝たくない。なにせ、いびきが聞こえるたびに真理亜先生の眉間に皺が……。

 とうとう、いびきにキレた真理亜先生がチョークを精密射撃、しかし、


虚実(フィクション)


 寝ているはずの颯斗がつぶやき、飛んでくるチョークを消す。呆気に取られるクラスに真理亜先生。当人は未だいびきをかいて寝ている。

 こいつ……怖いもの知らずだとは思っていたが、本当に怖いもの知らずなんだな。コイツの異能なら怖いものなんて一つもないじゃないか……。

 再度、颯斗の異能の凄さを見せつけられ、俺は人知れずため息を着いた。

 そんなことをしていると、チャイムが鳴って昼休みになった。あっ、と真理亜先生が感嘆に似た声を上げて、残念そうに教科書をたたむ。


「それでは今日はここまで。明日はここの続きをしますから、ちゃんと予習してくるようにしてください。終わります」


 棒読みのような起立、礼の号令。みんなもロボットのように立ち上がって手早くお辞儀する。そして、終わった授業の復習などせず、一斉に弁当に手を伸ばす。

 この高校には購買という設備があるが、内容が日によって格段に違う。値段は同じなのに内容が違う理由は作る人の違いだ。今日は英語の担当のクロエ先生が作る日だから、あまり美味しい日ではない。よって、今日は購買で買ってまで食べる人はいない。

 ちなみに、当たり日は予想外にも校長の東の王が作る日だ。作る日は決まっていないが、極々稀に購買で料理を披露する時があり、その時の購買のご飯は飛ぶように売れるらしい。俺は弁当を自分で作るため購買で食べたことはないが、そういう噂をタカヒロからよく聞くのだ。


「陽陰くん陽陰くん! そういえば、朝の幽霊のこと。詳しく教えてくださいっす!」


 自前の弁当をもって、何やら嬉しそうに近寄ってくるタカヒロ。だが、俺は忘れない。今朝、俺を捕まえるためにコイツが檻をいくつも作って街中に仕掛けていたことを。

 近寄ってくるタカヒロを無視して、俺は巻き卵をかじる。うん。甘さもバッチリで俺好み。まあ、自分で作ったんだからそうだろうけど。

 流石に無視されることはわかっていたようで、それでも諦めずにタカヒロは話しかけてくる。


「い、今ならこの出汁巻き卵をプレゼントするっす!」


 すまないな。俺は出汁巻き卵はあまり好きじゃないんだ。むしろ、甘い巻き卵の方が好きなんだ。

 ふふんっと勝ち誇るように笑って、俺は最後の一口の巻き卵を食べる。さて、今度はほかのおかずに……


「今ならおかずに、お、オレッチ特製、中学校版彩乃ちゃん写真データをプレゼントするっす!」

「よし。話をしたい気分だ。タカヒロ、あの双子はな――――」

「データ削除。タカヒロくん、少し軽蔑しますが、いいですよね? それと、私が写っている写真データを全て削除しました」

「あ、彩乃ちゃん!? そ、そんな! お、オレッチの大切な彩乃ちゃんが……。いずれ作ろうとしていた彩乃ちゃん写真集がこれじゃあ作れないじゃないっすか! 大好きな彩乃ちゃんをいつまでも観察しようと思っていたのに!!」


 おい、ちょっと待て。それは流石に引くぞ?

 彼女に写真データを消されたタカヒロの必死な叫びを聞いて、流石に俺は弁当のオカズを食べられなくなりそうだった。

 そこまで好きだったのか。てか、それはやりすぎだろ。写真集って……。

 これは上原さんに軽蔑されても仕方ない。されたとしても言い訳できない状況をコイツが作り上げたんだ、上原さんも少しはこいつを改めるんじゃ――


「そ、そんなに私の写真がいいんですか?」

「いいに決まってるじゃないっすか! オレッチにとっては宝物っすよ!!」

「た、宝物!? そ、そんな……で、データのバックアップは、あります。で、でも、ほかの人には……あげないで? そ、それと、私もタカヒロくんの写真集……作っても、いいかな?」

「いいっすよ! そうだ! 一緒に作ろうじゃないっすか! き、今日、オレッチの家で一緒に朝まで作ろうっす!」

「き、今日!? し、締切は大丈夫なの?」

「大丈夫っす! 昨日、死に物狂いで終わらせてきましたっす!」


 ……なにこの甘甘なラブシチュ。人の目の前でイチャラブしないでもらえませんか? しかも、上原さんの口調、なんか乙女っぽくなってるし。そっちが素なの? もしかして、敬語なのは心を閉じているから? そっちのほうが可愛いと思いますよ?

 はぁ、とため息を着いて、俺は残っている弁当を食べ始める。

 結局、幽霊の話を聞いてきて、タカヒロ自身がそのことを忘れてしまったようで、遠くで上原さんとイチャイチャと見せつけてくる。

 弁当を食べ終わると、俺はおもむろに隣に顔を向けた。すると、俺の隣で楓がウトウトと船を漕いでいるのが見えた。今にも椅子から落ちそうになっている楓を見ていると危なっかしくていられない。

 俺は思わず楓に声をかけてしまった。


「おい。楓?」

「え? ど、どうしたの、陽陰君」

「まさか眠いのか?」

「そ、そんなこと……ふぁぁ」

「言ってるそばからあくびしてるじゃねぇか」

「だ、だって、昨日は目が冴えちゃったんだもん」


 昨日? そういえば、こいつ。家の玄関のところで座り込んで俺の帰りを待っていたよな。確か、理由は幽霊の二人と一緒に居たくなかったから。接すれば可愛げのある双子だが、幽霊という前提から楓はあまり快く近寄ることができない。まあ、コイツ自身がコミュニケーション能力が高いのでいずれ大丈夫になるだろうが。

 そして、問題の目が冴える原因だが、きっと双子が楓に悪夢でも見せたのだろう。俺は昨日疲れていて、すぐに寝入ってしまった(もちろん、楓とイチャイチャしたが)。そのせいで、いつもなら気が付くことも気がつかなくなっていたのだろう。そのせいで楓は眠りが浅かったらしく、眠いみたいだ。

 話している最中も船を漕ぐ楓。これは授業に支障が出ると思って、俺は机と椅子を近づけて、楓を抱き寄せる。


「ひ、陽陰君?」

「いいから寝てろよ。授業が始まったら教えてやるよ」

「で、でも……恥ずかしいよぅ」

「でも、眠いんだろ? さっきみたいな寝方じゃ、ちっとも寝られないぞ?」

「むぅ……でも、あったかいね」


 やがて、吸い込まれるように意識を失う楓。完全に眠りに落ちたらしい。俺はというと、片手にコーヒーを持って、一口啜る。

 ほろ苦さが思考を冴えさせる。そして、冴えた頭がいらぬ言葉を認識する。


「見て、あの二人イチャイチャしてるわよ?」「ホントだー。仲いいよね、あの二人」「どうでもいいけどよ。どうしてこのクラスはイチャイチャする奴が多いんだ」「ほんとそれなー」


 男女の冷やかしの声。楓が寝ていることから声を小さくしているようだが(決して楓が寝ているからではない)、冴えた俺の頭はそんな声じゃ聞き取っちゃうぞ?

 本日三度目のため息。別にイチャついているわけじゃないんだ。いちゃついているというならタカヒロと上原さんだろ。もしくは、人知れずベタベタとジャレついている颯斗と綾女だ。俺と楓はそこまでイチャついていない。

 そう言い切って、俺は聴覚の冴えを抑えた。

 しばらくして、授業が始まるチャイムが鳴りそうになると、それよりも早くクラス中の電話が鳴った。いや、テレビも、ラジオも、電子機器全般が一斉に音を出す。

 と、次の瞬間。


『ハロー、エヴリワン。マイネーム、イズ《ミイラ取り》。さて、東日本のみんなー、こーんにーちわー! みんな大好き怪盗のお時間だよ~』


 なんともふざけた放送が始まった。カタカタとノートパソコンを取り出した上原さんが、どうやらハッキングしているようだが、画面を見つめながら青ざめた表情を見せた。

 その理由は、上原さんの口から伝えられる。


「この放送。この学校から出ています」

「何? じゃあ、怪盗ミイラ取りって、もしかしてこの高校の近くにいるわけ?」

「はい。背景から察するに、屋上だと思いますけど……」

『うーん。いい判断だよ、上原彩乃さん。そう! 私は今、あなたの高校に来ている! この、西の王の宝物を持ってね!』


 クラスの空気が一瞬にして冷める。戦闘の準備のための冷めと、西の王の宝物を見て何とも言えぬ感情が起こったからだ。

 もちろん、あれほどで長い間、俺たちを止めておく事はできない。だが、


『東の王には感謝しているよ。なにせ、私を匿ってくれたのだからね』


 その言葉に、クラスは唖然とした。そして、やっぱりかという念がジワジワとクラスを回る。

 あのバカ王。とうとう戦争でもおっぱじめようと言うのだろうか。西の王に喧嘩を売ってどうする気だ?

 俺の考えなど及ばないだろうが、この行動には少しだけ不明な部分が多かった。

 しかし、そんな俺の考えも、いつものように邪魔される。冷めたおかげで聴覚が自動的に音を拾い、俺は一瞬早く寝ている楓を抱いて、何者かの攻撃の余波を避けた。

 ガラスは割れ、校舎は少しだけ揺れる。その原因は、どこからか高速で飛んできた怒り狂った西の王、河西杏の攻撃だ。


「東の王に、少しだけお話があるのだけれど、ここにいるかしら? 家には……脱走した形跡しか残っていなかったわ」


 青筋を浮かばせて西の王、我が校に立つ。

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