予期せぬ問題
この頃、幽霊は出るわ、西の王に襲われそうになるわ、彼女は怒るわで色々と多忙な毎日を送っている。まあ、それもいい経験、記憶になるだろうと信じながら毎日を過ごしているのだが、それにしても多忙だ。高校生がここまで多忙だと気がつくのに、ついには一年を丸々使うはめになるとは。
俺は明らかに疲れたというように肩を大きく落とし、ノシノシと教室まで歩いていく。隣にはいつものように楓が。その後ろには居候になっている双子幼女の幽霊が……ん!?
「お、お前ら……ついて、きたのか?」
「え? ……わっ! び、びっくりしたぁ……」
どうやら、素で気がついていなかったようで楓も振り返って驚きの声を挙げていた。
宙にプカプカと浮遊している双子幼女の幽霊、クゥとシィは相互に違った笑いを見せて、面白おかしく宙を舞っていた。
「うんっ! だってだって、二人で留守番ってつまんないだもん!」
「そうです。二人は意外とつまらないんですよ?」
「そ、そうは言っても、ここは高校だぞ? しかも、普通じゃない高校っていうか何というか……」
前々からこの二人が高校に興味を持っていたことは知っていた。帰りが遅くなればその理由を聞き出し、高校というものに興味を示し出していたのだ。
そして、今や幽霊である双子幼女と普通に話すことができるようになった楓は、少し困ったように笑って、二人の説得に入った。
「ここはクゥちゃんとシィちゃんのような小さな子供が来るところじゃないんだよ? だからね? 帰って、お留守番してて?」
「うるさいなー。家に帰ったらホラー映画を見せちゃうよ?」
「うっ……そ、それはい、嫌かなー?」
ちなみに、楓は双子幼女の幽霊と話ができるようになっただけでホラーが得意になったわけではない。むしろ、幽霊の前例が心の中に出来上がってしまったせいで、フィクションとノンフィクションの違いがわからなくなって、もっとホラーものを嫌うようになってしまった。
楓の説得も予想通り失敗。俺がどうこうできるものでもないので仕方ないのだが。このままでは幽霊という存在を教室まで連れて行かなくてはいけなくなる。俺としては連れて行ってもいいのだが、興味本位で研究材料にされるのも癪に障る。どうにかしてこいつらを隠さなくてはいけないのだが……。
「オッス! どうもどうも、オレッチすよ~」
元気よく、好奇心の塊とも呼べる小説家のタカヒロが挨拶をしてこちらに向かってくる。
まずい。あいつはこいつらを研究するかもしれない対象だ……!
すぐさま俺は動き、タカヒロの首筋に手刀で打ちつけようとするが、タカヒロの未来予測にも達する勘と、タカヒロの行動をなぜか読み切っている上原さんのコンビネーションが炸裂。タカヒロは俺の攻撃よりも早く首元を守るプロテクターを生成。それをどこからともなく上原さんが強化して完全に攻撃を防いだのだ。
「何するっすか! もう少しで当たる所じゃないっすか!」
「いやいや、蚊が止まっててな……」
俺の攻撃は阻まれた。だが、まだ優秀なハンターが存在する。俺は目配せで楓に援護射撃を求める。すると、楓はパチンっとウインクをすると見えないように一枚の呪符を取り出して、
「ごめんね、タカヒロくん!」
「えぇ!?」
廊下であるにも関わらず、炎の魔術を開放。全弾タカヒロへ向けて迫っていく。ちなみに、俺は逃げる合間に上原さんが使っているであろう廊下の監視カメラ、そして廊下の窓ガラスに一瞬だけ布を押し付けて技を止められないように目隠しをする。
俺と楓のコンビネーションが、二人の秘密を守るためだけに炸裂する。しかし、そんな華麗な攻撃も、なかったことにする輩がいた。
「――虚実――おいおい。朝っぱらから喧嘩か? 俺も混ぜろよ」
異能者、黒崎颯斗だ。あいつはどういう理屈か全ての技や攻撃をなかったことにできるらしい。本人曰く、事象改変だというが、どうもそれだけではないような気がする。
ともかく、俺たちの攻撃は全て止められた。このままでは二人の存在が明らかになってしまう! それを避けるために俺は会話で間を取り持とうとするのだが……
「皆さん? これはどういう状況ですか? それと、誰ですか。幽霊の幼女を校内に侵入させたのは?」
よりにもよって、教師に見つかった。しかも、怒らせたら怖い真理亜先生に。
ゴクリと、俺は生唾を飲んだ。楓もあははと力なく笑っている。どうやら諦めたようだ。クゥとシィもジタバタと暴れているが、どうやら逃げられないらしい。終わった。俺の高校生活終わった……。きっと明日から、ゴーストロリコンとか呼ばれるんだろ? わかってるよ。そうなんだろ?
そう考えて、俺は無性に泣きたくなった。どうして、どうして俺がこんな惨めな目に!!
「おお。これは珍しいっすね! 幽霊っすか!?」
「幽霊? ああ、ゴーストか。そういえばそんな種族もいたわな。見るのは初めてじゃねぇけど。久しぶりくらいだな」
と、反応が薄いタカヒロと颯斗。
あ、あれ? もしかして、俺の考えていたことなんて起こらない?
そこで思い出した。俺が今どんな高校にいるのかを。そう、ここは高校だが、普通の高校ではない。先程も自分で言ったじゃないか。ここは普通じゃない高校だと。
普通じゃないのなら、普通じゃない幽霊など見飽きているか、見てもそれほど興味を示さない! 多少の噂にはなるかもしれないが、それ以上にはならないはず!
勝った。完全勝利じゃないか。
ニヤリと勝利の笑みを浮かべる俺に、真理亜先生がまたお前かという視線を俺に向けてくる。
「火蔵くん? この幽霊たちは……」
「あ、その……ついてきてしまって……」
「楓、説明してください」
「う、うん。その子達は、この前の爆発の時に生まれた幽霊みたいなんだ。どこにも行くアテがないって言ってたから、陽陰君が引き取って、今はとりあえず陽陰君の家に住み着いてるんだ」
「なるほど……確かに、そのほうが安全かもしれませんね。火蔵くんの家にはA級魔術師もいることですし。でも、高校に連れてくるのは見過ごせません」
「うー! 離しなさいよ! 離しなさいってば! 恭介! なんとか言ってやりなさいよ! 毎朝抱きついてあげてるでしょ!?」
「そうです! 恭介さんには毎朝抱き枕にされています!」
……おい待てゴラ。それは今、言うことじゃないですよね?
勝利の笑みが、だんだんと青ざめた表情に変わっていく。最悪のシナリオに変わりつつある現状は、もう俺の手の届かないところまで飛んでしまっている。
なるほど、ある意味で修羅場か。これは、どうしたらいいんでしょうね?
俺が助けを懇願するが、楓はキッと俺を睨みつけ、真理亜先生も俺を目の笑っていない笑顔で見つめてくる。タカヒロはあははと一歩ずつ引いていく。ど、どうすればいいの!?
しかし、神という存在は存在した。困っている俺の肩をぽんと叩き、その神はこう言ったのだ。
「大丈夫さ。みんなわかってる。みんな、お前が『ゴーストロリコン』だってことはわかってるはずさ」
「お前はつくづく期待と予想を裏切らねぇな!」
黒崎颯斗は神である。ただし、死神だが。
人をどん底に落としてケラケラと笑うその姿はまさに死神。人の死を弄ぶような笑みに、俺は血の涙を流す。
そんな中、処罰をどうするかを考えている真理亜先生の元に、
「呼ばれないけどジャジャジャジャーン! みんな大好き牙獣先生のお時間だよ!」
「タナトスさ……牙獣先生。本当にどうしてここに?」
「うん。ちょっと面白い気配がしたからね。少し連れて行こうかと思ってね。いいかい? えっと、火蔵陽陰君?」
「え、ああ、その……クゥとシィがそれでいいなら」
「はあ!? いいわけ無いでしょ!?」
「そ、そうです! なんかこの人、鼻息が荒いです!」
「だ、大丈夫さ! す、少し調べるだけだから! そ、それについてきてくれたら、アメをあげちゃうよ?」
「「え……行きます!」」
ということになり、俺たちが授業中は牙獣先生が面倒を見ていてくれることになった。
ちなみに、牙獣芙美先生は年齢は大人の女性なのに、なぜか高校生の姿。しかも、高校の制服が似合ってしまう人で、しかも女子が好きと有り得ない性癖の持ち主だ。と言っても、女子を研究対象にしているからに過ぎないのだが。
それに、この人は根は真面目な人なのか、それとも計算高い人なのか、いつだって自分の考えているであろう答えに導いてしまう。例えば、人間関係などを修復させるなどを容易くできてしまう。まるで神様みたいな人だ。
担当教科は保険体育。生死に関わることならばエキスパートらしいが、まだ課程がそこまで行っていないのでわからない。
とにかく、この人ならば安心して預けることができる。そう思って、俺は快く二人を送り出した。
はー。やっと普通の生活に……。
「さぁ、行こうぜ。ゴーストロリコンさんとその彼女さん?」
「なあ、そろそろ怒ってもいいよな?」
「やめようぜ。お前を消したくはないからな」
「安心しろ。お前の異能よりも早く俺がお前を消してやる」
「二人共。とりあえず進路相談室に行きましょうね」
その後、俺と颯斗は見事なコンビネーションで高校から逃げ出し、日が高いうちから槍を持った真理亜先生に追い掛け回されることとなった。




