アンラッキーヒーロー5
宮部は柵に体を乗り上げた。
ズボンのポケットと柵がぶつかって、カツンと鳴った。中にはなんとなく持ってきた、このビルで買った最初のオモチャのピストルが入っている。具体的な理由もなく持ってきたものだ。
自分自身の意味不明な行動を自嘲して、宮部はもう一度下を見た。覚悟はとうに決めたはずだったが、さすがの高さに唾を飲んだ。
これから彼はヒーローになる。自らの命と引き換えに、この世界にいてはいけないものを滅ぼすのだ……
果たして
宮部の自己犠牲は
うまくいかなかった
背後の声が彼を邪魔した。
「こら若者、自殺なんてやめなさい」
自己陶酔に溺れていた宮部の決意が、たった一言で打ち砕かれた。
振り向いた宮部の目に、昇降口を塞ぐ恰幅のいい中年男性の姿が映った。胴の太さが宮部の倍近くありそうだ。だが単純にデブというわけでもなさそうだ。肩幅の広さが、体の太さが鍛えた末のことであることを示していた。
火のついていないタバコをくわえていることから、タバコを吸いに屋上に上がったら宮部と出くわしたことを察することが出来た。歩行禁煙などというあってないような規則を気にするなんて、変なオッサンだと宮部は思った。
宮部は本気で飛び降りるつもりであったので、男のことなど無視することにした。せっかくの英雄的行為を邪魔されたくない。