アンラッキーヒーロー15
もし車の真ん前に歩行者が飛び込んできたら、大抵のドライバーはつい大きな声で怒鳴ってしまうだろう。そうでなくても、ぶつけてしまったかそうでないか、外に出て確認くらいはするはずだ。
ところが車からは誰も降りて来なかった。何かおかしい、と訝った宮部は運転席を見た。黒いフィルムが貼られ、車内は見えにくい。運転席と助手席に、黒いスーツの男がいるのがわかった。
(……!)
前のシートの隙間から、後部が僅かに見えた。そこに、横倒しにされた短いスカートと足が見えた。
それは一瞬のことだった。
仮にも人を轢きそうになったというのに、何のリアクションもなく車は通り過ぎた。これでもし宮部が怪我でもしていたら轢き逃げしたことになってしまうというのに、それにも関わらず消えてしまったのだ。
(なんなんだよ。しかも、後部座席のアレ……)
宮部の胸がざわついた。とんでもない事件に頻繁に遭遇するくせにこんなときに限って何も起きないかと思いきや、予想の斜め上のことが起きようとしている気がした。フィルムをかけた車の後部座席に、女のような姿。顔から流れ出る汗は、あわや交通事故になりかけたこととは関係なかった。
「あのナンバー…“GCI”かよ……」
宮部の斜め後ろで、日凪が手帳をめくりながら呟いた。
「さっきは悪いことしたな。バカにしたわけじゃないんだ。まさか、お前さんが……」
日凪は何か言いかけてやめた。
「少し、歩こうか……」
日凪の提案に、宮部は少し戸惑った後、ゆっくりと首を縦に振った。




