05
うれしいよ、と彼はいう。
僕たちは酒を飲む。ワインを飲み、ビールを飲み、ぼんやりとした明りを覗く。明りに透けた髪を揺らし、店員の過ぎて行く影を足で追いかけ、手の汗ばみを感じる。僕たちは眠そうな声を出し、時には大声で話す。彼は手で何度も頬を擦り、目を擦り、眠そうにしながら、興奮と睡魔の間を行ったり来たりする。僕たちは酒を飲む。
ぼくたちにはなにかがある、とかれはいう。
僕は彼の要求する親密さに応じ、汗ばむような褒め合いを演じる。二つの氷が溶けていき、虹色の液体を垂れ流しながら、一つになろうとする。時が歪み、飴のように緩やかに僕らに降り注ぐ。生暖かな吐息を首筋に感じ、唾液を交換し、歪んだ艶やかな液体を交差させる。すでに終わった音楽を聴いてるかのように、僕らはテーブルの縁にもたれて、過ぎていこうとする時のしっぽを掴もうとする。
必要なんだ、いつからかわからないけど、どうしても必要なんだ、とかれはいう。
僕は彼の分まで代金を支払い、彼を背負って居酒屋を出る。僕たちは身体を寄せ合いながら、外の陰鬱な暗闇の中に出ていく。ぽろぽろ流れる人々の群れを通過し、カラスを追い払い、路地に潜む細長い不気味な暗闇を探す。彼は道路の白線に同化しようとして、寝そべり、僕は彼を眺めている。ビルの縁をねずみが身を擦って通過し、誰かが窓際に人間の影を浮かべて笑いながら僕らを賞賛する。冷たい雨が降り、電柱に細長い染みが付き、ビルとビルの間で雲がじゃれあうようにうごめき、アルコールがあり、眠気と、妄想と、酒と、それから彼と僕と、夢と時と、雨があって、それから。
それから、とかれはいう。
それから?
僕らは工場へやってくる。ベルトコンベアの振動を感じ、鉄の錆びた臭いを嗅ぐ。彼は鉄骨へ身をもたれていた。やがてゆっくりと身を沈め、冷たい床に尻をついた。
「金を貸してくれるかな?」彼は行った。
「いいとも」これは僕が言った。