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04

 2ヶ月が過ぎた。僕は忙しかった。

 仕事に忙しくしているせいで、休みもほとんど取らなかった。週末になると参加していたミカのパーティーにも行けずにいた。

 それからさらに数週間が過ぎた。僕はようやく仕事に一区切りが付き、忙しい時期を抜けようとしていた。夏は過ぎていた。秋が来て、冬が来ようとしていた。夏の強い日差しは消え、陰鬱な曇り空が立ち込めるのを僕はよく眺めた。家の側の公園の芝生で遊ぶ若者は消えていた。代わりに茶色を基調にした服を来た老人が来るようになった。彼らはベンチに腰掛け、遠い風景を見つめながら、遠い過去か、あるいは既に感じている終わりの予兆を掴もうとしていた。

 僕は公園を一人で歩いた。それから空を過ぎていく赤い時を見ていた。

 家は雑然としていた。もうずっと片付けていないせいだ。部屋は脱ぎ捨てた服で溢れ、食べ終えたカップ麺や、臭いを放っている台所の食べ物があった。風呂場の排水口に詰まった毛の束があった。読みかけたまま伏せられた本があった。窓に挟まって、そのままにされているカーテンがあった。埃がたまり、空気が澱み、僕はリビングに立っていた。モリさんから電話は無かった。

 忙しい時期に、彼から何度か連絡があったことには気づいていた。しかし、一度折り返すのを忘れると、彼からの電話はひどく重荷に感じた。彼からの着信が残り、かけ直さなくてはと思うたびに、僕は仕事により没頭した。そうして、彼からの電話は次第に減っていくのだった。

 僕は彼に電話をかけた。長いコール音だった。

 彼はようやく電話に出た。「もしもし」と言った。久しぶりに声を出したような、弱々しい声だった。

 「僕ですよ」と僕は言った。彼の声を聴いたうれしさがあった。

 「やあ、久しぶりだね、元気かい?」彼の声は、無理に紳士ぶっているように聞えた。僕らは次の週末に会う約束を交わした。そしてその日になった。彼は歩いてやってきた。いつものように、いつもの駅に。

 「元気だったかい?」彼は語尾をゆっくりと伸ばしてそう言った。

 「元気でしたよ」

 「何を?」

 「何をって?」

 「ここ最近は、何をしていたの?」

 「ずっと忙しかったんですよ。仕事ばかりしていました」

 「へえ、そうか」

 彼は僕らがよく利用した飲み屋の淡い光の下でそう言った。掠れた声で、小さく。ようやく出したようなその声は、彼が無理をしていることを感じさせた。

 「病気でもしたんですか?」

 彼は答えなかった。代わりにワインを一口飲んだ。ワインが彼の喉を過ぎていく音が僕には聞えた。それはまるで、決心するみたいな音だった。

 「平気ですか?」僕は聞いた。

 「何がだい?」彼はゆっくり間を取ってそう言った。

 「病気でもしているように見えますよ」

 「僕が?」

 「ええ、すごく痩せたし、弱って見える」それに彼は髭を剃っていなかった。彼の顔に髭が生えているのを見るのは初めてだった。口元から頬にかけて、柔らかな髭がぽつぽつと生えていた。

 「まさか」彼は言った。

 「病気じゃないんですね?」

 「病気なもんか。僕はとても元気さ、ブラックホールみたいにね」




 時間が12時に近かった。僕たちは帰らなくてはならなかった。それが僕らの暗黙のルールだったからだ。僕らは日をまたがない。彼は頑なにそのルールを守り、僕にも守らせた。理由は知らない。ただ、彼がそれを決して破ろうとしないよう、強く決めているのを感じていた。何かが崩れようとするのを抑える、防波堤みたいに。

 「帰りますか」僕は言った。

 「まだだね」彼は言った。「まだだ、まだだよ。僕らはもっと話し合う必要がある。音楽や映画や、芸術や人生について。それに、僕らは久しぶりにあったんだ。君も明日は休みなんだろう?僕らは朝まで語らなければならないのさ」

 僕はどこかで滴が落ちる音を聞いた。

 

 

 

 

 

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