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デート2

「で、どこいくの?」

着替えてきた香はやっぱりかっこいい。白いTシャツに黒い襟付きのジャケット、シルバーネックレス。少し長めの黒髪はワックスでかき上げられている。すれ違いざま、体からほのかに香水の匂いがした。

「買い物。お前、高校に入るんだから色々必要だろ? 合格祝いになんか買ってやる」

たしかに、高校に入るなら揃えなきゃいけないものがたくさんある。施設ではお下がりが基本だから壊れない限り買ってもらえないし、私も下の子たちが使うからと綺麗に使うよう心がけていた。

「昔から『女子高生になったらカバンにぬいぐるみつけたい!』って言ってたろ。どうせなら新品買おうぜ」

私はふと心配になって聞いた。

「香、嬉しいけど……そんなにお金あんの?」

香は物欲があまりない。でも、さすがに私にそんなにお金を使って大丈夫なのだろうか。

「他に使い道もねーし。彩のやりたいこと、俺にできる範囲で叶えてやりたいしな。……さて、もう出るぞ」

香は照れくささを誤魔化すように、部屋の扉を開けた。


「ねー。私の担任が香になることないのー?余命いくばくもない可憐な少女の担任は昔から私を知ってる香の方がいいと思うのよね」

助手席に乗り込む。香の車の匂いだ。

「自分の余命をネタにすんな。担任は俺だ」

「えー!まじ!?香先生初の教え子になっちゃうの!?私!」

「驚きすぎだ。これで余計恋愛は無理になったぞ。」

私はむくれつつ言った。

「少女漫画じゃお決まりじゃないですか。生徒と先生禁断の恋」

「俺まだ教師歴2年目なんだけど。社会的に死ぬって」

軽口を叩きながら車を走らせていると目的のショッピングモールに着いた。

今は入学シーズンだからか学生向けの商品がたくさん売られている。香はなんでも買ってくれた。スクバ、キーホルダー、新しいペンケースやノートなど必要なものや欲しいものはなんでも買ってくれた。その中で私たちが入った雑貨屋さんに真っ赤な鍵付きのノートが売られていた。

「香、これ欲しい」

「いいけど何書くんだ?授業とかでは使いづらそうだけど」

「昨夜見た映画でさ、膵臓の癌の女の子が闘病生活を日記に書いてたの。でも日記は続く気しないなーって思って。でもその子やりたいことリストも書いてて、そりゃ名案だ!って思って私も死ぬまでに香とやり

たいことを書こうと思ったの。禁断の恋だから鍵ついてる方が良くない?」

まただ。

香は病気の話になると、いつもみたいにいじめてきたりからかってこない。それどころか、身を切り裂か

れるような、今にも泣き出しそうな顔になる。 やめてほしい、そう思うと同時に——普段の香が絶対に

見せない表情を、私にだけ見せてくれる。それが、たまらなく嬉しかった。

「……禁断の恋って、まだ付き合ってもないだろ。それに俺なんかとのことより、友達とやりたいこと

を書いた方がいい」

誤魔化すように現実を突きつけてくるけれど、強がっている彼の唇はかすかに震えていた。

「えー。友達できるかなぁ。親がいないだけで腫れ物扱いだったのに、死期が近きゃ誰も寄ってこないと

思うよ」

「なんでそんなあっけらかんと言えるんだよ。……俺も手伝うからさ。まだ諦めんな」。

そう言って、香は震える手で私の頭を撫でた。


フードコートで昼食をとったあと、私は早速ノートを開いてやりたいことを書き込んだ。

「おい。デートって、今してるだろ」

コーヒーを飲みながら、香が横からノートを覗き込んで言った。

「へ? こ、香……香も、これデートだと思ってくれてたの?」

「まあな」

香の頬が、ほんのり赤い。なんだかおかしくて、私はからかってやりたくなった。

「香ってさ、今まで誰かとデートしたことないの?」

「ないよ。俺も施設育ちってだけで、あんま人が寄ってこなかったし。女なんてもってのほか」

飲み終えたコーヒーカップと荷物を持ち、椅子から立ち上がりながら吐き捨てるように言った。

「へぇ〜! じゃあ私が初めての相手?」

ここぞとばかりにいじり倒そうとした、その時。香が急に顔を近づけてきて、私の耳元で低く囁いた。

「……よかったな。俺の初めてを奪えて」

「っ、!?」

耳がいっきに熱くなる。さっきまでの顔とは違う、大人の艶っぽい声が耳の奥に残って離れない。

「行くぞ」

振り返った香は、満足そうに不敵な笑みを浮かべていた。ずるい、大人って本当にずるい。


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