デート1
初めて投稿させていただきます。
短命な少女彩と幼馴染の青年香の物語です。
温かい目で読んでいただけると嬉しいです!
「香!受かったわ!今度こそ付き合って!」
私は目の前にいる男のマンションに押しかけていた。手には、この男が勤める県内有数の進学校の合格通知書。しかし、当の本人は休日だからと昼過ぎまで寝ていたのだろう。ボサボサの髪にスウェット姿で、眠そうに目をこすっている。
「おはよ、彩。……受かったなら尚更付き合えないだろ。お前、春から俺の生徒になるんだからな」
まずはおめでとうの一言もないのだろうか。香にはきっと、私はいつまでも「妹分」にしか見えていないのだろう。
「まだ入学してないからギリセーフ!見てよ、今日の私、ちょっと大人っぽくない?」
朝から気合いを入れてメイクも髪もセットしてきた。施設育ちだから高価な服は買えないけれど、今着ているこのツイードのセットアップは、香が去年の誕生日に買ってくれたものだ。私の、一番の宝物。
「おー、かわいいかわいい。さすが俺の選んだ服だな」
頭をぽんぽんと雑に撫でられる。全く効いていない。やはり9歳という年の差は、そう簡単には埋まらないらしい。本当にあと3年で彼を落とせるのだろうか。私はふと、自分に残された時間に思いを馳せた。
「……冗談だって。すごく可愛いよ。合格おめでとう、彩。今日はお祝いしようか」
私の一瞬の陰りに気づいたのだろう。全く、香はずるい。本当は私が受かっていることも知っていたくせに。散々いじめておいて、最後にこういう優しい顔をするのだから。
「お祝い!何してくれるの?」
私は甘えるように顔を覗き込んだ。本当は、香と一緒にいられるならどこだってよかった。
「せっかくだし、どっか出かけるか」
出かける。それってつまり——。
「デート!?」
「ちげえよ。まあ、そう思いたいならそれでもいいけどさ。お前、今日は何時まで平気なんだ?」
またそうやって、大人ぶってはぐらかす。
「何時まででもいいよ。どうせ施設まで送ってくれるでしょ?」
「まあな。俺も久しぶりにみんなの顔見たいし。……薬、ちゃんと持ってきたか?」
「もちろん!これなきゃ死んじゃうもん」
そう。私は死ぬのだ。 慢性骨髄性白血病という病気。簡単に言えば、血液のガンだ。
今はこの薬(分子標的薬)のおかげで普通に過ごせているけれど、私の体質や進行速度からして、薬が効いていられるのは長くてあと3年。この病気がわかってからもう5年ほど経つ。最初は薬を飲み続ければ10年以上は生きられると言われていた。でも私はすぐに薬が効かなくなってしまう体質で、この薬が最後だ。
親戚のいない私は骨髄移植の希望も少ない。20歳までこの体が持つ保証はないと医者に言われている。
だから私は、この限られた3年で香にたっくさんわがままを言うんだ。
そして、最後に死んじゃう時には——。
「妹」なんかじゃなく、一人の女性として看取ってほしいな。




