襲撃イベント①
いつもお読み頂きありがとうございます。
side 黒月 一輝
ハルカの用事に付き合う形で、フヨウ山に向かう飛空艇に乗っている。
フヨウ山は上級者向けのエリアではあるが、今回ハルカが向かう場所は、比較的安全なエリアだ。
わざわざ俺が一緒に向かう必要もないのだが、今後のハルカの予定を考えると、その方がいいと考えた。
それに、ハルカは巻き込まれ体質なイメージが強い。
正直、放っておけないというのも一つの理由だ。
そして、そんなイメージを裏付けるように、現在襲撃イベントの大規模パーティーと同じ船に乗っている。
おそらく、いや、間違いなく、襲撃イベントは発生するだろう。
そんな確信にも近い予感を感じながら、航路も半分を過ぎた頃。
予感が的中する。
「っ!? な、なに?」
突如鳴り響く警笛。
緊急停止する飛空艇。
耳を塞いだハルカが、忙しなく周りを見回す。
やはり起きた。
今まで何度も経験した事象。
間違えるはずがない。
「襲撃イベントが発生したようだ」
「え、これが......」
ハルカが答えるのと同時。
デッキの上で自由に寛いでいたプレイヤーが一斉に立ち上がり、それぞれの武器を手に警戒を始める。
全員の行動に乱れがない。
さすがファフニールを想定したパーティーだ。
「もしかしてファフニールが来るの?」
雰囲気から察したのか、ハルカが尋ねてくる。
「いや、まだわからない。一応何が来てもいいように、すぐに建物に入る準備はしておいてくれ」
「うん。わかった」
もしもファフニールだった場合、初手は必ず広範囲殲滅魔法と決まっている。
結界石の指輪が必須だが、あいにくハルカの指輪は修理中だ。
いざとなったら俺が守るしかない。
余計な不安を与えないよう、ハルカには最低限の指示だけ伝え、俺も警戒に当たる。
周囲には依然として警笛の音が鳴り響いている。
敵の姿はまだ見えない。
「......来ないね」
緊張した面持ちでハルカが呟く。
ハルカにはフードを外してもらった。
少しでも視界を確保するためだ。
「もうすぐだ」
襲撃者が現れるのは、大体イベント発生~40秒以内。
時間的にそろそろだ。
と、一人のプレイヤーが大きく声を上げた。
「前方西側、モンスター発見!」
全員に緊張が走る。
そして、一斉にその方向に目を向け......
「......嘘」
隣にいるハルカが、声を漏らした。
現れたのはモンスターの大群。
空を黒く染める漆黒の体躯に、翼を生やした大量のモンスターがこちらに向かって飛んで来ている。
「エルダーガーゴイル。ランクB+......く、クロ! 中に入った方がいいかな?」
震えた声で、ハルカが俺の袖を掴む。
今のハルカにとって、ランクB+は珍しいモンスターでもない。
数が異常なのだ。
優に100体は超えている。
初めてこの光景を目の当たりにしたのなら、当然の反応とも言える。
ただ、俺にとっては見慣れたモノだ。
そして、今回集まったプレイヤーにとっては、残念ながらハズレと言えるだろう。
「いや、中に入らなくても大丈夫だ」
「そうなの?」
「ああ」
大量のエルダーガーゴイルもそれなりに脅威ではあるが、ファフニール戦を想定して集められたプレイヤーがこれだけいるのは過剰戦力。
まず負けることはないだろう。
「せっかくだし、ハルカも戦ってみるか?」
「え? 戦うの? あんなにたくさんいるのに?」
信じらない。
そう言いたそうな顔だ。
確かに。数だけ見ればそう思うだろう。
でも実際は違う。
「モンスターの数は多いが、こちらも人数が多い。戦うとしてもせいぜい1、2体だ。それなら戦えるだろ?」
「えっと、クロも戦ってくれるの?」
「ああ。でも今回は盾役だ。ハルカを守るやつが必要だからな」
「そういうことなら、うん! やってみる!」
「決まりだな。早速準備してくれ」
「わかった! すぐ準備するね! ......クロ、ちゃんと守ってね?」
僅かに声が揺れている。初めての状況に不安なのだろう。
真っ直ぐハルカの目を見て返す。
「もちろんだ」
今のハルカなら十分戦える相手だ。
それに、俺がサポートすれば、万が一もないだろう。
────
エルダーガーゴイルの大群が迫る中、俺達も準備を整える。
ハルカが手にしている武器は、歪な形をした木製の杖の先に、行使する魔法に応じて七色に変化する魔石、ヒヨク石が嵌められたモノ。
防具同様、俺達が作成した新しい装備だ。
俺の装備は緑属性の短剣と、ヘイト増大効果が付与されたバックラー。
マギアの試練・上層では役に立たなかったバックラーだが、今回はちゃんと仕事をしてくれることを期待している。
「エルダーガーゴイルは黄属性のモンスターだ。緑魔法を使うといい」
「わかった!」
元気のいい返事が返ってきた。
気合い十分といった感じだ。
他のプレイヤーも5、6人でグループを組み、一定の間隔を空けながら飛空艇を守るように全方位に配置された。
準備万端だ。
大群が目前まで迫ってきた。
なかなか迫力のある光景だ。
エルダーガーゴイルは、魔力障壁に接近したところで散開、飛空艇を取り囲む。
俺達の前にも複数体がやって来た。
体長は3メートル。
背中に翼を生やした筋肉質の悪魔といった見た目だ。
「グヴォォォォォォ!」
そのうちの一体が咆哮をあげると、前方に黄色く輝く魔法陣が出現する。
徐々に構築されていく巨大な石の槍は、完成と同時に撃ち出され、風切り音を響かせて魔力障壁に衝突、ヒビを入れる。
間髪入れず、他のエルダーガーゴイルも次々に魔法を撃ち込んでくる。
徐々に破壊されていく魔力障壁。
消失まで、約10秒。
ハルカに指示を出す。
「魔力障壁の消失が戦闘開始の合図だ。俺達も動くぞ」
「魔力障壁って壊されちゃうの?」
「襲撃イベントが終われば、また張られるから大丈夫だ。まず俺がデバフでタゲ取りをする。ハルカはそいつを狙ってくれ」
「うん! タゲ取りはよくわかんないけど、とにかくクロが狙った相手を攻撃すればいいんだね?」
「そういうことだ」
会話中もヒビは拡大していく。
そして、魔力障壁が消失した瞬間────
「総員、戦闘開始!!」
一人のプレイヤーの雄叫びと同時に、全員が動きだした。
「『獣装、サラマンダー!』」
「『獣装、温羅』」
「『獣装! バロメッツ! 』」
「『獣装、サンダーバード!』」
「『獣装、スクヴェイダー』」
「『獣装、グローツラング!』」
プレイヤーが一斉に獣装を発動、6色の魔力光が飛空艇を覆いつくす。
そして、光の消散と共に現れたのは異形の集団。
竜、鬼、植物、鳥、爬虫類、獣etc......
それぞれの特長を持ったプレイヤーが、自分の役割りを果たすため、行動する。
「すご......」
後ろにいるハルカから、驚嘆の声が聞こえた。
どうやら空気に呑まれたようだ。
大規模戦闘も一斉獣装も初体験なら、当然の反応ともいえるが、今は戦闘中だ。気を引き締めてもらわなければ。
「ハルカ、今は戦いに集中だ。これからタゲ取りをする。見逃すなよ」
「あ、ご、ごめん! わかった!」
ハルカの声に頷き、正面にいる一体、こちらを意識していないエルダーガーゴイルに、短剣の先を向ける。
「『マジックアーマーブレイク』」
対象に黒いモヤが発生。体の中に吸い込まれていく。
付与成功。
対象のエルダーガーゴイルに、魔法防御力ダウンのエフェクトが表示された。
「『グガァァァァァ!』」
エルダーガーゴイルの正面に魔法陣が出現。
こちらに向けて拳大の岩が生成される。
それと同時、エルダーガーゴイルの頭上に、雷雲が発生した。
「『ジャッジメント!』」
中級緑魔法、ジャッジメント。
轟音を響かせ、太い雷がエルダーガーゴイルに直撃する。
ハルカが放った落雷は、エルダーガーゴイルの左半身を破壊するも、倒すまでには至らない。
「まだだ! 追撃!」
「うん!」
ハルカが再度、魔法行使に入る。
その間、エルダーガーゴイルが魔法を行使。拳大の岩が発射される。
「『シールドバッシュ』」
タイミングを合わせ、バックラーで弾岩を砕く。
「行け! 『ストームランス!』」
三本の風の槍が背後から抜けていく。
中級緑魔法、ストームランス。
三本の槍がエルダーガーゴイルの胴体を貫き、体の3分の2が消失。
エルダーガーゴイルがボロボロと崩れ落ちていく。
「やった!」
「喜ぶのはまだだ。次が来るぞ」
ハルカの魔法に反応した、二体のエルダーガーゴイルがこちらに向かってきた。
短剣の先を向ける。対象は二体。
「『マジックアーマーブレイク』」
二体のエルダーガーゴイルの体表に黒いモヤが発生する。
うち一体はモヤが体の中に、もう一体のモヤはそのまま霧散する。
付与成功は一体。
認識下でのデバフ付与はレジストされやすい。
加えて、複数同時行使の場合も同様。
ただ、今回の目的は付与ではなくタゲ取り。
そちらについては、二体共成功したようだ。
「『ヴォォォォォ!』」
「『ガァァァァ!』」
二体のエルダーガーゴイルが魔法を行使する。
正面に魔法陣が発生。拳大の岩が複数発射される。
それに少し遅れて、二体のエルダーガーゴイルの頭上に雷雲が発生。
「『ジャッジメント!』」
ハルカが雷撃を叩き込む。
一方、俺の元には複数の弾岩が飛んできている。
後ろにはハルカ。
すべてを迎撃するつもりでスキルを発動する。
「『疾風迅雷』『シールドマスタリー』『ウィンドブースト』『オーバードライブ』」
スピードと瞬発力を上げて両手を振るう。
盾で砕き、短剣で打ち落とす。
次々に飛来する無数の弾岩。
その全てを破壊する。
「『ストームブラスト!』『サンダーレイ!』」
ハルカが魔法を行使した。
極大の暴風弾が二体のエルダーガーゴイルの体を砕き、一体が消滅。続けて放たれた雷光線がもう一体の胸部を貫き、二体目のエルダーガーゴイルも崩れ落ちていく。
「…終わったな」
近くに敵がいないことを確認して構えを解く。
襲撃イベント自体はまだ続いていて、各所では魔法が飛び交い、激しい戦闘音が響いている。
エルダーガーゴイルもまだ半数以上残っているが、他のパーティーが相手をしているため、俺達が戦うモンスターはもういないだろう。
「もう終わり?」
「そうだな。今残ってるモンスターは、他のパーティーが相手をしているやつらだ。手は出さない方がいい」
「そっか。わかった」
ハルカはまだ戦い足りないといった様子だ。
始まる前は不安そうにしていたが、いざ戦ってみれば大したことはなかったのだろう。
ただ、他のパーティーも苦戦している様子はない。
無理に手を出して、余計な火種を起こすのは避けた方がいい。
「そういえば、さっきのクロすごかったね。飛んできた石を全部落としちゃうんだもん」
「ああ、あれか。後ろにハルカがいたからな。盾役と言った手前、ハルカを危険な目に遭わせるわけにはいかないからな」
「ふふ。ありがとう。かっこよかったよ」
かっこよかった、か。
面と向かってそう言えてしまうハルカの方が、俺はすごいと思うが。
いや、俺が気にし過ぎているだけか。
ハルカにとってはただの感想と変わらないのだろう。
「ハルカの魔法もよかったぞ。また威力が上がったな」
「えへへ。そうかな? でもまだ一発じゃ倒せそうにないから、もっと頑張らないと」
複数のランクB+をあれだけ短時間で倒せるだけでも十分すごいんだが。
まぁ目指している姿がワタルだからな。そう感じてしまうのも無理はないだろう。
なんにせよ、目標が高いことはいいことだ。
ハルカには引き続き、最強の魔法使いを目指してもらおう。
「あ、そうだ。私、クロに聞きたいことがあって」
「なんだ?」
ふいにハルカがそんなことを言ってきた。
聞きたいことか。
ハルカは俺が何でも知っていると思っているらしく、気になったことがあればすぐに聞いてくる。
別にそれが嫌とは言わないが、聞かれたからには答えなくてはというのは、中々のプレッシャーだ。
おかげで日々知識を積み上げる毎日を過ごしている。
さて、今回はどうだろうか。
答えられるものだといいのだが。
「ずっと気になってたんだけど、戦ってたから聞けなくて......アレなんだけどさ」
「ん?」
ハルカが指を差した先。
そこにいたのはエルダーガーゴイルと戦っているプレイヤー。
特におかしな所はないように思えるが。
「あの人、空の上を歩いているように見えるんだけど。あ、ほら! あの人も。あの人も。あれも獣装の力なの?」
「あー、あれか」
飛空艇から飛び出して、空の上で戦っているプレイヤーは結構多い。
そのほとんどが近接職のプレイヤーで、エルダーガーゴイルと接近戦を繰り広げている。
翼を持った獣装のプレイヤーも多いが、ハルカが聞きたいのはそれ以外のプレイヤーのことだろう。
まるで空の上に足場があるように、自由に動き回っているプレイヤーが何人もいる。
「あれは獣装の能力じゃなくて、【スカイブーツ】というアイテムを装備しているんだ」
「スカイブーツ? それがあれば空を歩けるの?」
「そうだ。使える場所は限られているが、空を駆け上がったり、飛び降りたり、自由に動けるようになるんだ」
使用場所はかなり制限されている。
今回のような空の上での戦闘や、特定のダンジョンでは重宝されるアイテムだが、通常のエリアや対人戦では全く効果がないただの装備扱いとなってしまう。
もちろんそれには理由がある。
飛行能力を持つ獣装のアイデンティティが無くなってしまうからだ。
飛行能力を持つ獣装は、持たない獣装に比べ、ステータスの上昇率が低く設定されている。
均衡性を保つためだ。
若干の例外もいるが、それは置いといていいだろう。
「へぇ、おもしろそう......」
瞳を輝かせて、ハルカは空を眺めている。
なんともわかりやすい表情だ。
気持ちはわからなくもない。
あれはアレで結構楽しいからな。
「欲しいか?」
答えはわかっているが、一応聞いてみる。
「欲しい! くれるの!?」
即答だった。
期待に満ちた目で見つめてくる。
今にも空に飛び出してしまいそうだ。
ただ、残念ながらすぐには用意できない。
「悪い。予備は持ってないんだ。数日待ってもらえれば用意できるが、それでもいいか?」
俺のを、と言いたいところだが、名入れをしてあるから渡したくても渡せない。
いや、他人が履いていたブーツは、例えゲームとはいえ心理的に嫌か。
しかも男だしな。
やはり新しいものを用意するべきだな。
「うん......わかった。じゃあ、お願いしてもいいかな? 何か手伝うことあったら言ってね?」
「大丈夫だ。そんなに難しいわけじゃないからな。ハルカは自分のことを優先してくれ」
「うん。いつもありがとう。いつか絶対お返しするから」
「ああ。期待して待ってる」
ちょうどフヨウ山に素材になるモンスターがいる。
それなりに強いモンスターだが、ハルカの用事が終わる頃には戻って来れるだろう。
残念そうな表情のハルカを見ると、早く用意してやりたいという気持ちになる。
少し前の俺からすれば、本当に信じられない変化だ。
お読み頂きありがとうございました。




