飛空艇②
いつもお読み頂きありがとうございます。
本日二話投稿しています。
こちらは二話目になります。
side 皇 遥
「すごい......」
ゲートを抜けた先、ひらけた空間に飛空艇は停まっていた。
思っていたよりもかなり大きい。100mはありそう。
そんなものが何本ものロープに繋がれ、宙に浮きながら上下にゆっくりと揺れている。
「私達あれに乗るんだよね?」
「そうだな」
何を当たり前なことを。と、そんな言葉が聞こえてきそうだけど、まだ信じられないんだから確認させて欲しい。
転落防止柵が設置された通路を歩いている時も、視線は飛空艇に釘付けだ。
先に並んでた人達がタラップを渡り、続々と船に乗り込んでいく。
その隣、間隔をあけた所に、その飛空艇よりも小さいサイズの飛空艇が見えた。
こちらの大きさは30mくらい。
大きい飛空艇が旅客機なら、小さい飛空艇は戦闘機って感じのデザインでシュッとしている。
「ねえクロ、あっちの小さい飛空艇はなに?」
たまにだけど、小さい方の飛空艇に乗り込んでいく人もいる。
私達はどっちに乗るんだろう?
せっかくなら大きい方の飛空艇に乗りたいけど。
「あれは高速艇だ。普通の飛空艇よりも早く目的地に着きたい時に使う船だな」
「どれくらい早く着くの?」
「そうだな......普通にフヨウ山に向かった場合3時間くらいかかるが、高速艇なら1時間くらいで行けるはずだ」
「結構早く着くんだね」
「その分料金は跳ね上がるけどな。通常のチケットと一緒に高速艇のチケットも購入する必要があるんだ」
「へぇ、そういう感じなんだ」
今回クロに買ってもらったチケットは一枚だから、大きい飛空艇の方に乗るってことだよね。
よかった。
時間には余裕があるし、空の旅を満喫できそう。
っていうかフヨウ山って3時間もかかるんだ。
時間のこと、全然聞いてなかった。
「足元にお気をつけてお進み下さい」
飛空艇にかかる橋の前、係員さんが注意を促している。
橋の幅は2m。一応手すりが付いているけど、上下に揺れている船に乗り込むのは結構怖い。
落ちたら地面まで真っ逆さまだし。
「ここから落ちた人っているのかな?」
地面まではかなり遠い。普通に死ねるレベルの高さだ。
ゲームじゃなきゃ渡ろうとは思わない。
「まぁ、いるんじゃないか。故意に落ちない限りは大丈夫だろうが」
「うん。そうだよね」
脳裏にはもしもがチラつく。
前の人は平然と歩いて行っちゃったけど、何も感じないのだろうか。
そういえばこの感じ、子供の頃に連れて行ってもらった山の施設のアスレチックに挑戦した時を思い出すなぁ。
あの時は命綱がちゃんとあったけど。
そんな懐かしい気持ちになりながら、慎重に渡り、無事に飛空艇に乗り込むことができた。
飛空艇の上は、宙に浮いていることを感じさせないくらい足場がしっかりしていた。
それに、外から見た時ほど揺れを感じない。
「飛空艇の上ってこんな感じになってるんだぁ」
飛空艇の前側に広がるデッキから周りを見渡す。
デッキの広さは飛空艇全体の3分の2はあって、遮る物もなく遠くまで見渡せる。
荷物や障害物もないから、走り回ることもできそう。
後ろ側、残りの3分の1は建物になっていて、操縦室とかがあるんだと思う。
建物の中に入っていく人はほとんどいない。
みんなデッキの上、思い思いの場所に知り合い同士で固まっている。
私達もデッキの上、人があまりいない端の方に移動する。
そこでふと思う。
「みんな中に入らないけど、ずっとここにいるのかな?」
「ん? ああ、そうだと思うが。なにか気になるのか?」
「うん。飛空艇が動いた時とか、風で飛ばされちゃったりしないのかなって」
走ってる車から手を出すとすごい風が当たる。
飛行機の扉を開けると、すごい風が入ってくるのを映画で観たことがある。
となると、今いるこの場所ってかなり危険なんじゃ。
「ああ、そういうことか。それなら大丈夫だ。飛空艇には魔力障壁が張られるから、俺達が風の抵抗を受けることはないんだ」
「魔力障壁? バリアみたいなものを張るってこと?」
「そういうことだ」
なるほど。魔力障壁っていうのが風から守ってくれるんだ。
さすがファンタジー。魔法様様だ。
「ちなみにだけど、それって船員の人が張ってくれるんだよね?」
まさか自分達で張るなんてことはないと思うけど、一応ね。
そもそもそんな魔法知らないし。
「船員というか、張るのは船自身だな。確か術式が組み込まれているって話だったと思う」
「え? 船が自分で張るの? 魔力はどうするの?」
「魔石から補ってるんじゃないか? この船の動力も魔石だからな」
確かにガソリンや蒸気より、魔石で動いてるって言われた方がファンタジー的にしっくりくるけど。
「魔石って、あんな小さいの一体どれくらい集めたら動くんだろう」
極大サイズの魔石だってそこまで大きくなかったはず。
山積みになった魔石が動力って、ちょっと画的に微妙な気がするんだけど。
「なにか勘違いしてるようだが、飛空艇に使われている魔石は一つだぞ。それにサイズも巨大だ。それこそハルカの身長よりも大きかったはずだ」
「そんな大きな魔石があるの? ランクSSのモンスターが落とすとか?」
ランクSSのモンスターは、まだ誰も会ったことがなかったはず。
だから言ってはみたけど、半分冗談みたいなものだ。
でも、サイズ的にはそうじゃないと釣り合わないと思うんだよね。
「いや、地中から採れる天然の魔石だ」
「地中って、魔石ってモンスター以外からも採れるの?」
「ああ、採掘で採れるぞ。でも飛空艇に使われるような巨大な物は手に入らないがな」
んん? 巨大な魔石は地中にある。
だけど採掘じゃ手に入らない?
「じゃあ、その巨大な魔石は地中のどこにあるの?」
「龍穴にあるって話だ」
「龍穴? 龍穴って、龍が住んでる穴?」
龍が魔石を守ってるみたいな感じかな?
「住んでるかもしれないが、今言ってる龍穴は風水の意味合いの方だ。この世界には魔素と呼ばれるものが空気中に存在していて、魔素を体内で変換することで魔法やスキルが使えるようになるんだ。それはハルカも知ってるよな?」
「う、うん」
初耳だけど知ったかしちゃった。
なんか知ってて当たり前みたいな言い方だけど、これってマギアの常識なのかな?
「魔素は地中では龍脈に沿って移動するんだ。龍脈はわかるか?」
「えっと、気の流れる道、かな?」
「そうだ。で、龍穴は龍脈から流れてきた気が集まる場所、パワースポットがこれに当たる場所だ。同じように魔素も龍穴に集まってくる。それが何年もかけて巨大な魔石を作り上げていくって話だ」
「じゃあ、パワースポットに巨大な魔石があるんだ」
「そういうことになるが、知られている場所は全てギルド本部の管理下にあって、立ち入り禁止になっているから、採りに行くのは無理だな」
「そっかぁ。ちょっと興味があったんだけど、そういうことなら仕方ないね」
もしかしたら飛空艇とか作れちゃうかもって思ったけど、残念。
でも夢のある話だ。いつか自分達の飛空艇を作れたらいいな。
数分後、大きな鐘の音が鳴り響いた。
いよいよ出発の時間だ。
タラップと繋がれていた全てのロープが外され、飛空艇がゆっくりと動き始める。
乗り場からある程度離れたところで、船の周りに虹色の膜が張られ、すぐに見えなくなる。
たぶん今のが魔力障壁。
その後、船はどんどん高度を上げていく。
気持ちは遊園地のフリーフォールに乗ってる気分。
そして停止。動力音が大きくなると同時に前進。どんどんスピードを上げていく。
思ったり速い。めっちゃ速い。
地面が猛スピードで流れていく。
「すごい。もうこんなに来たんだ」
後ろを見ると、遠くの方にセントラルエリアが見える。
まだそんなに経ってないのに。
このスピードで3時間。フヨウ山ってどれだけ遠くにあるんだろう。
「ねえクロ、フヨウ山ってどんな場所なの?」
横並びで流れていく景色を見ながらのトーク。
二人きりの旅行って感じがすごくいい。
「どんな場所か......名前の通り山なんだが、かなり高い山で、山頂は常に雲に覆われて見えないな。あと、広大な樹海に囲まれた陸の孤島って感じだな」
「そういえば、歩いていくのは現実的じゃないって言ってたよね? それって樹海があるから?」
「ああ。フヨウ山の樹海はマップが表示されないから、一度迷うと自力で脱出するのは不可能と言われているな」
「え、それ大丈夫なの?」
「死ぬか、アイテムを使うか。あとは10日経てば入口に戻されるって話だ」
「もしかしてフヨウ山って、結構危ない所なの?」
そんな樹海に囲まれてる場所が普通なわけないのはわかるけど、どれくらい危険なのかは聞いておかなきゃいけないと思う。
あと、自分で振っておいてだけど、樹海とか死ぬとか、デートとは程遠い会話をしている気がする。
「場所によるとしか言えないな。麓の村の近くや、これからハルカが向かうスカイフィッシュの出現地域なんかは比較的安全な場所だ。ただ、山頂付近はかなり危険だ。モンスターも強いし、なにより獄級ダンジョンの一つ、飛仙之門があるからな」
「え、獄級ダンジョン?」
なにその物騒な名前。
響きだけでヤバさが伝わってくるんだけど。
*【獄級ダンジョン】*
マギアの世界に5つある最高難易度のダンジョンの総称。
難易度はマギアの試練・深層と同等と言われている。
天獄ダンジョン 飛仙之門
地獄ダンジョン 頷之門
煉獄ダンジョン 貂裘之門
凍獄ダンジョン 宝貝之門
獄楽ダンジョン 成道之門
補足として、獄級や天獄と言った名称はプレイヤーがつけたもので、正式名称は○○之門となっている。
「まぁ、山頂に近づかなければ危険はないから大丈夫だ」
「う、うん。わかった。じゃあ、この船に乗ってる人達はみんな山頂や、その獄級ダンジョンに向かう人達ってことだね」
言われてみれば、みんな強そうな装備を身につけているし、レベルも高そう。
これから危険な場所に向かうのだとしたら納得だ。
「いや、ここにいるのは襲撃イベントのために集まったプレイヤーがほとんどだろう」
「え? この人達みんなそうなの? だって100人近くいるよ」
「場合によってはそれだけの人数が必要だからな」
「えっと、襲撃イベントってどんなイベントなの? そんな難しいイベントなの?」
エミールくんがクロを誘ってたから、それなりのイベントだとは思ってたけど、私が考えてた以上に大規模なイベントだったりするのかも。
「襲撃イベントは飛空艇で発生するイベントだ」
「え? ここで起こるイベントなの?」
「ああ。発生確率は大体3~4割で、飛空艇への搭乗人数で難易度が変わるんだ」
「じゃあ、今回の100人以上って」
「難易度はかなり高めだな」
「ええ!? それ大丈夫なの?」
せっかく飛空艇に乗ったのに、襲われて死んじゃうとか嫌なんだけど。
「そこは大丈夫だ。危険だと思ったら飛空艇の中に入れば襲われずに済むからな」
「あ、そうなんだ。飛空艇が落とされるとかはないんだね」
「それはそれで面白そうだが、さすがにそこまで酷いイベントじゃないな」
面白そうって。
私はこの高さから落ちるって考えただけで怖いよ。
あ、でもクロと一緒ならちょっと平気な気がする。
それに、落ちたら落ちたらで直美に自慢できそう。
「それで、いくら難易度が高めと言っても、襲ってくる相手によって難易度はかなり変わるんだ。空賊から上級モンスターまで様々なのが襲ってくるからな」
「空賊って、人間も襲ってくるの?」
「NPCだがな。姿は見えないし、空賊に限っては殺すことはできない。相手の飛空艇を損傷させて撤退させれば終わりだ。まぁその辺は配慮されてるんだろうな」
マギアプレイヤーの中にはPVPをやりたくないってプレイヤーもいるもんね。
でも空賊の飛空艇ってどんなことしても破壊できないのかな?
ワタルさんがドカンと一発やっても沈まないとか、それはそれで無敵な気がするけど。
「ちなみに、最初にクロが言ってた100人必要なモンスターってどんなモンスターなの?」
「ファフニールだ」
「ファフニール?」
どこかで聞いたことある名前のモンスターだ。
どこだったかな?
「ランクS-のイレギュラーエンカウントのモンスターだ。通常どこに現れるか予測できないモンスターだが、かなりの低確率で襲撃イベントに現れる場合があるんだ。今回集まったプレイヤーはファフニールが目的のプレイヤーだろうな」
ランクS-。100人のプレイヤーが必要なモンスター。
ランクAのモンスターにすら会ったことのない私には、想像できないモンスターだ。
一体どれくらい強いモンスターなんだろう。
やっぱり一撃で死んじゃったりするのかな。
「そのファフニール? ってモンスターのために100人集まったっていうのはわかったけど、確率が低いんだよね? 毎回こんなに人を集めるの、大変だと思うんだけど」
「恐らくだが、過去の出現統計から出やすい日を選んでるんだと思うぞ。それでも現れる確率はかなり低いだろう」
「じゃあ、もしもファフニールが現れたら、クロも戦うの?」
「どうだろうな。他のプレイヤーの実力を見てとしか言えないが」
「やっぱりクロでもランクSのモンスターは厳しい?」
「さすがにな。他のメンバーがいるなら、5人でもやってやれないことはないと思うぞ」
それって100人を5人で相手するってことだよね。
無理って言わないところ、ホント太陽と月ってとんでもないギルドだと思う。
「そこにハルカが加われば、間違いなく勝てるだろうな」
「うっ。が、頑張ります」
そういうプレッシャーのかけ方、よくないと思う。
それに今、フードの下で笑ってるよね?
声でそういうの、わかるんだから。
「まぁ、そういうわけで、景色に飽きたら建物の中で休んでても大丈夫だぞ。中はセーフエリアになってるから、ログアウトしても問題ないし。到着時間にログイン出来なくても、次にログインした時は向こうの飛行場の中だから、そこまで時間を気にする必要もない」
「クロはどうするの?」
「俺はここにいるつもりだ。襲撃イベントが起こるかも見ておきたいし」
「なら私もいる。元々ずっと乗ってるつもりだったし、ここでクロと一緒にいる方が楽しいから」
「......まぁ、ハルカの好きなようにすればいい」
「うん。そうする」
ふふ。クロが少し動揺した。
ちょっとはさっきの仕返しになったかな?
100%本心なんだけど、きっと伝わらないだろうな。
「襲撃イベント、ファフニール来るかな?」
「確率はかなり低いからな。一応、すぐ中に入るつもりでいた方がいいぞ」
「もしもの時は、クロが守ってね?」
「......まぁ、善処する」
そしてしばらくして、襲撃イベントが発生する。
お読み頂きありがとうございました。




