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海外サーバーの少年

いつもお読み頂きありがとうございます。

 

side 皇 遥


 ギルド本部の入口は二人並んで入るには狭いため、私が先頭で中に入る。

 ここに来るのは太陽と月に加入した時以来。

 建物の中の様子は相変わらずで、交流目的でテーブルを囲む数人のグループがいくつかみられるけど、土曜日で賑わう中央道りと比べると物寂しさを感じる。

 私個人としては、ここが賑わう姿が見たいから、運営にはぜひ何とかして欲しいと思っている。


 ドアベルの音に反応してテーブルに座った何人かがこちらを見てくる。

 ただ、それもこちらの様相を確認すると、すぐに視線を元に戻す。

 そんな様子がなんとも新鮮に感じる。

 普段、普通に顔を出している時は、もっと長い時間見られているし、視線もこんなあっさりしたものじゃない。

 そういえば、街を歩いている時もほとんど視線を感じなかった。

 こういうのを経験してしまうと、人は見た目が9割って言葉が、確かにその通りなのかもと納得してしまう。

 しばらくは覆面でいるつもりだったけど、これは早々に手放せなくなりそうだ。


「ん? ハルカ? どうかしたか?」


「あ、ううん。なんでもないよ」


 後ろからの声に慌てて移動する。

 入口で立ってるの、すっかり忘れてたよ。

 心の中でクロに謝りつつ、そのまま受付カウンターまで進む。

 その途中にも、周りから視線を向けられてはすぐに戻される。その繰り返し。

 覆面の偉大さを再確認。

 部屋の奥にある受付にはギルド職員のお姉さんが座っている。

 見覚えがあるお姉さんだ。

 たぶん前もこの人に手続きしてもらった気がする。


「いらっしゃませ。ギルド本部へようこそ。本日はどのようなご用件でしょうか?」


「あの、マギアの試練・中層に挑戦するためのギルドクエストを受けたいんですけど」


 にこやかな笑顔を浮かべて尋ねてきたお姉さんに用件を伝える。

 前回の感覚ですぐ対応してくれると思ったのに、今回は様子が違う。

 さっきまでの笑みがスっと消えて、表情が真剣なものに変わったのだ。


「お客様、マギアの試練・中層は大変危険なエリアになります。命の保証はございませんが、本当によろしいですか?」


 真っ直ぐ見つめられての問いかけ。

 それが妙にリアルで少し焦る。


「は、はい。大丈夫です」


 内心、これゲームだよね? とは思わずにはいられない。

 数秒の沈黙。お姉さんは諦めたように息を吐く。


「......承知致しました。それでは準備を致しますので少々お待ちください」


 そういって席を立つと、背中を向けて奥でゴソゴソとし始める。

 その間にクロが隣に並ぶ。


「こういうとこ、すごくリアルだよね」


「そうだな」


 お姉さんの背中を眺めながら思ったことを口にする。

 表情の変化や間のとり方、作業の様子など、まるで本物の人とやり取りをしているような感覚になる。

 クロの話だと人によってNPCの対応も違うっていうし、マギアの技術にはいつも驚かされてばかりだ。


「お待たせ致しました。こちらが今回の討伐対象のモンスターの情報になります」


 カウンターの上に20枚近い紙の束が置かれる。

 少し黄色味のある厚手の紙。

 羊皮紙というやつだ。


「この中のモンスターでしたら、どれを倒しても頂いても構いません。対象のモンスターが落とす【封魔玉】というアイテムを50個ほどお持ち下さい」


 お姉さんの話を聞きつつ、手元の羊皮紙に目を落とす。

 上半分には上手なモンスターのイラスト。

 下半分にはこの世界の文字で説明が書かれている。

 今まで何度も目にしている文字だけど、正直サッパリわからない。

 動画投稿サイトで文字についての解説や文書を作ってる人を観たことがあるけど、私には真似できないと高評価ボタンで賞賛を送らせてもらった。


 なので私は、いつものように目の前に現れている吹き出しを頼ることにする。

 今回もよろしくお願いします。

 吹き出しの中には、モンスターのカラー写真と日本語での説明が載っている。

 内容は出現地域とモンスターのランク、そして主な攻撃手段。

 その説明を見ながら、羊皮紙を一枚ずつ確認していく。

 大体がランクC+のモンスターで、たまにB-のモンスターもいる。

 ただ、B-のモンスターは単体や少数での出現と書いてあるので、難易度的にはどれも同じくらいなんだと思う。


「これでよかったよね?」


「ああ、それだ」


 その中の一枚をクロに確認してもらう。

 スカイフィッシュというランクC+のモンスター。

 同じ名前の未確認生物がいるけど、たぶんそれが元ネタ。

 マギアのスカイフィッシュは、見た目が空飛ぶムカデって感じ。

 色は黄色で胴節一つにつき、両側に赤い斑点がついている。

 長さはムカデの半分くらいで、足の数だけ虫の羽が生えている。

 大きさはわからないけど、たぶん大きいんだと思う。

 見るからに気持ち悪い。

 本当は違うモンスターにしたいけど、電光石火を覚えるには、このモンスターの素材が必要みたい。

 なので、クエストついでに素材集めをしてしまおうということになった。


「ありがとうございました」


「期限はございませんので、無理はなさらないようお願いします」


「わかりました」


 お姉さんに羊皮紙を返す。

 受け付け完了。

 これでギルドでの用事はおしまい。

 ギルド本部を出たら、次に向かうのはスカイフィッシュの出現地域、フヨウ山。


「じゃあ、いこっか」


 善は急げ。

 早速カウンターを回れ右。

 二人して歩きだす。

 ここからフヨウ山まではかなり遠いらしく、飛空艇に乗っての移動になるそうだ。


 そう、飛空艇!ずっと乗りたかった空飛ぶ船。

 自然と足も早くなる。

 もうすぐ出口への扉。

 そんなタイミングで、呼び止められる。


「すみません」


 少し幼さを感じる男の人の声。

 逸る気持ちはあるものの無視するわけにもいかず、クロと二人、向き直る。

 そこにいたのは、私と同じくらいの身長で薄茶色の髪とそばかすが特徴の男の子。


「あの、クロさんですよね? 太陽と月の」


 確信しているような真っ直ぐな目で、男の子はクロを見つめ問いかける。

 ギョッとした。

 なんでわかったの? 顔隠してるのに。

 横目でクロの様子を窺う。

 どうするんだろう。

 認めるのか、誤魔化すのか。


 クロは黙ったまま少年を見つめて、


「......そうだが」


 あっさりと認めてしまった。

 ちょっと意外。

 私のイメージだと、人違いだ。とか言いそうだったのに。

 クロの対応に、男の子は嬉しそうに話し始める。


「やっぱり。あの、動画観ました。すごかったです。日本ではワタルさんが有名ですけど、他にもこんなすごい人がいるなんて知りませんでした。ところで......」


 男の子の口から出るのは褒める言葉ばかり。

 ここまで手放しにクロを褒める人を、私は見たことがない。

 それに、勢いはあるのに声は抑えられていて、周りに聞こえないように配慮もしている。

 たぶん、この子はいい子だ。

 会ってすぐだけど、そんな気がする。


「あ、すみません。自己紹介がまだでした。僕、エミールっていいます。海外のサーバーから来たんですけど......」


「............」


「知りませんか?」


「......すまない。どこかで会ったか?」


「あ、いえ。会ったことはないんですけど、すみません。大丈夫です」


 エミールくん。

 目に見えてガックリしている。

 聞いたことない名前だ。

 クロも知らないみたいだけど、言い方からして海外だと有名な人なのかな。

 そういえば、海外サーバーの人と話すのって初めてかも。

 ちゃんと日本語に聞こえるし、同時翻訳機能すご過ぎだよ。


「......それで、俺に何か用か?」


 未だに落ち込んでいるエミールくんに、痺れを切らしたクロが尋ねる。

 少し声に棘がある。

 初対面だし警戒してるのかも。

 ミミさんの話を聞いたあとだと、これが普段のクロなのかとも思う。


「あ、そうでした。あの、すみません。さっきチラッと見えたんですけど、これからフヨウ山に向かうんですか?」


「そのつもりだが」


「飛空艇で、ですよね?」


「そうだな」


「でしたら今、襲撃イベントの臨時パーティーを集めているみたいで、よかったら一緒にやりませんか?」


 エミールくんが目を向けた先には、テーブルからこちらを見ている数人のグループがいる。

 たぶんあの人達が臨時のパーティーメンバーだ。


「すまないが遠慮させてもらう」


 悩む素振りもなくクロは答える。

 たぶんそう言うかなって思ってた。

 私はちょっと興味があります。

 なんて言ったら、クロに怒られちゃうかな。

 襲撃イベントって一体どんなイベントなんだろう。

 クロに声をかけるってことは、それなりに難しいイベントなのかも。


「そうですか。残念ですが仕方ないです。でもまだ時間もありますので、もし気が変わったら、また声をかけて下さい。たぶん同じ船に乗ると思うんで」


「ああ、わかった。あと俺達のことは......」


「大丈夫です。誰にも言いませんから」


 唇に人差し指を当てて、二ッと笑ったあと、エミールくんはテーブルに戻って行った。

 なんていうか、話していて気持ちのいい人だったな。

 テーブルでパーティーメンバーと笑いながら話している彼を見て、そんな風に思った。


「それじゃあ、行くか」


「あ、うん」


 クロに続いてギルド本部を後にする。

 次に向かうのはセントラルエリアの北側にある飛行場。

 そこから飛空艇に乗って、フヨウ山に向かう予定。

 艇は一日三便の運航らしく、クロに聞いたところ、次の便の出発までは、まだ十分余裕があるとのこと。

 飛行場までの移動は徒歩。

 道中の話題は、当然エミールくんについてだ。


「さっきの男の子、すごく明るかったね」


「そうだな」


「なんかクロのことすごく褒めてたし、たぶんすごくいい人だよ」


 表情豊かで裏表がなく人懐っこい、それでいて周りへの気配りまでできるんだもん。

 たぶん友達も多いんだろうなって感じ。


「その言い方だと、俺を褒める奴は、みんないい奴って聞こえるんだが」


「そうなるのかな?」


「いや、ならないだろ」


 ならないのかぁ。

 クロを褒める人はみんないい人って感じがするけど。

 もちろん本心から思ってる人に限るけど。


「そういえば、さっきクロですか? って聞かれた時、なんで素直に答えたの? てっきり誤魔化すかと思ったのに」


「あぁ、あれか。どうやら俺に気づいてるようだったからな。正直に言った方がいいと思ったんだ。それに悪い奴じゃなさそうだったしな」


 ちょっと意外。

 初対面の相手でもそんな風に思うんだ。

 もっと疑ってかかるというか、冷たい感じなんだと思ってた。

 でもエミールくん。最初からいい人オーラが出てたし、特別ってこともあるのかな。


「でも、それにしては話し方が少しキツい感じがしたよ?」


「そうか?」


「うん」


 少なくとも、私と話す時はもっと優しい。

 それこそ今みたいな感じに。

 直美達と話す時だってそう。

 それだけ私達の距離が近くなったとも言えるんだけど。


「まぁ、ハルカがそういうなら、そうなのかもな」


「うん。だからもうちょっと......」


 優しい感じを意識した方がいいよ。

 そう言おうとして大変なことに気づく。


 そんなこと言ったら、クロの周りに人が集まっちゃうじゃん。


 ただでさえクロの顔がバレて人気が出てるっていうのに、そんなアドバイスしたらもっと人が寄ってきちゃう。

 そしたら、私の居場所なんて簡単になくなっちゃうよ。

 危なかった。

 気づいてよかったよ。


「ん? どうかしたか?」


「ううん! やっぱりクロは今のままがいいかなって。ほら、クロらしさを失ったらクロじゃなくなっちゃうしさ?」


「俺らしさ? ちょっとわからないんだが、どういうことだ? 」


「今のままでいいってこと」


 少し悪い気もするけど、クロには今まで通り、刺々しい感じでいてもらおう。

 大丈夫。

 私だってそれを乗り越えて来たんだもん。

 そこで躓くような人に、クロの近くにいる資格なんかない。


 なんて、都合のいい言い訳だよね。

 でも仕方ないじゃん。

 嫌なんだからさ。


お読み頂きありがとうございました。


25.01.15 第5話 ラハの森②

25.01.15 第6話 遭遇

25.01.15 第7話 獣装

修正しました。

よければ御覧下さい。

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