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クロを語る会①

いつもお読み頂きありがとうございます。

誤字報告ありがとうございます。

 

side 皇 遥


 一輝くんとのお昼休みが終わり急いで教室に向かう。

 南校舎から教室までは結構距離がある。

 私がゆっくり歩いて一輝くんに追いつかれちゃったら、一緒に教室に戻ることになってしまう。

 それに、ちょっと用事が、なんて言って教室を飛び出したのに、一輝くんと戻って来たら絶対に怪しまれてしまう。


 ああ、そうだ。なんの用事だったか聞かれた時の言い訳も考えないと。


 人目のない所では走って、頭では言い訳を考えて、忙しいはずなのに、心はすごく軽い。


 一輝くん、全然怒ってなかった!


 南校舎に向かう時はすごく心が重かった。

 怒られるかも。距離を置かれるかも。最悪嫌われるかも。

 悪い考えがどんどん大きくなっていって、早く、早く、早く会って謝らないと! って。

 今思えば、一輝くんがそんなことで怒るわけないって簡単にわかるのに、あの時はただひたすら会わなきゃって必死だった。

 それにしても。


 さっきの一輝くん、いつもより優しかったな。


 普段から優しいんだけど、なんかもっと優しくなったっていうか、雰囲気が優しくなったっていうか。正直よくわからないんだけど。

 とにかく、早速名前呼びの効果が出たってことだよね!

 このままもっと距離を縮めて......じゃなかった。

 言い訳だよ言い訳......ん?


 ポケットのスマホが振動している。

 誰かからメッセージが届いたみたい。

 送り主はミミさん。

 今日の学校での出来事が知りたいみたい。

 ちょうどよかった。私もミミさんに話を聞いてもらいたかったから。

 メッセージを素早く打ち込んでいく。

 よろしくお願いします......っと。


 クラスのみんなには一輝くんのこと話せないもんね。

 あ、でも余計なことは言わないようにしないと。

 あとで一輝くんに怒られちゃう。

 言っちゃいけないことは......うん、たぶん大丈夫。

 最初にそういうのちゃんと考えておかないと、絶対喋っちゃうもんね。

 やばっ、今から楽しみになってきた。

 あぁ早く授業終わらないかなぁ。


 よし、教室に到着っと。

 あ、言い訳......。




────




 学校が終わって、今の時間は20時ちょっと前。

 身の回りの準備を終わらせて、あとは寝るだけにしたところでマギアにログイン。

 目の前には現実と見間違えるほどリアルで精細な、それでいて非現実的な美しい世界が広がる。

 日本時間で動いているこのサーバーも現在は夜。

 通路の両脇にある松明には火が灯り、青白く発光する無数の小さな光達が闇夜を鮮やかに彩り、昼間とはまた違う装いをみせている。

 初めて見た時はその神秘的な光景に感動して、その場から動くことが出来なかった。

 今でもたまに立ち止まって見入ってしまったりするけど、今日は予定があるからまっすぐ目的地へと足を進める。


 目的地の転送ポータルにはすぐについた。

 外観は金属製の細長い丸い形で、光の線が壁にある溝をなぞるようにいくつも走っている。

 機械的だけど、現代の機械というよりはファンタジーの超古代文明の機械みたいな感じ。

 いくつも並んだそのうちの一つに入ると、半透明の板、操作端末が現れる。

 その端末を操作して行きたい場所を設定。

 向かう先はギルドルーム。

 転送開始のボタンを押すと、入口の扉が閉まり機械が動き始める。

 装置内の下から上に向かって光の線が流れていく。

 その数がだんだんと増えていき、やがて目の前が真っ暗になった。


 体感だと一瞬の出来事。

 次に目に映った景色は扉一つの小さな部屋。

 この扉の向こうが、私達、太陽と月のギルドルームだ。



────



「すみません、遅くなっちゃって」


「なに言ってるの。全然時間通りじゃん」


 ギルドルーム内に置かれた長方形のテーブル。

 長辺側に置かれた三人掛けのソファーに腰をおろしている私は、紅茶を淹れてくれているミミさんの姿に、申し訳ない気持ちでいっぱいになる。

 ミミさんと約束した時間は20時ちょうど。

 一応時間前に着いた訳だけど、ミミさんはそれよりも早く来ていて、色々と準備してくれていたのだ。


「はい、どーぞ」


「すみません、ありがとうございます」


「どーいたしまして」


 淹れたての紅茶が目の前に置かれる。

 その隣には予め用意されていた砂糖とミルク。

 そして、美味しそうなチーズケーキ。


「ここだと食べても全然太らないから、遠慮しなくていいからね」


 マギアの中ではどんなに食べても太らない。

 実際には食べてないんだから、当たり前と言えば当たり前なんだけど。

 でも、食べるとお腹に溜まっていく感じはするし、逆にお腹が減ったり、喉が渇いたりもする。

 一輝くんが言うには、状態異常みたいなものらしいけど。

 一体どういう仕組みなんだろう。


 対面のソファーに座るミミさんが紅茶を口へと運ぶ。

 ただ紅茶を飲んでいるだけなのに、その所作には品があるというか、とても様になって、普段の物言いとのギャップもそうだけど、良いところのお嬢様なんだということを改めて認識させられる。


 一輝くんの話だと、ミミさんの家は結構なお金持ちで、ミミさん自身も小さい時はそれに見合う振る舞いをするTheお嬢様だったそうだ。

 そんなミミさんの前での食事。食べ方の汚い女って思われないようにしないと。


「それで、今日の学校はどうだった? みんな驚いてた?」


「あ、はい。朝からクロについて聞かれっぱなしで大変でした。あ、その前の学校に行く時からも......」


 今日起こったクロ関係についての話をミミさんに伝えていく。

 朝の登校時から学校での出来事まで。

 クロについてみんながなんて言っていたか。なんて聞かれたか。私が話したこと。話さなかったこと。

 私の主観を交えて、それはもう色々と話をさせてもらいました。

 さすがにお昼休みの一輝くんとの会話は言えなかったけど、それでもミミさんが聞きたかった話は十分できたんじゃないかなって思う。


「......なるほどねぇ。そんなにすごかったんだ。まぁ、あいつ、無駄に顔だけはいいからね」


 納得がいったように、ミミさんがうんうんと頷く。

 一輝くんのことを「無駄に顔だけ」と評する辺り、本当に恋愛感情とか無いんだろなって改めて感じる。

 ただ、それは最初からわかっていたことだから心配はしていない。

 問題はそれ以外の人達。


「だからちょっと心配なんですよ。もしクロが一輝くんだってバレたら、絶対みんな寄って来るじゃないですか。それで女の子に言い寄られたらコロッといっちゃいそうな気がして。一輝くん、押しに弱いから」


 結局なにが一番嫌か? って聞かれたら、やっぱりこれだと思う。

 一輝くんのことを全然知らないような人に、一輝くんを取られること。

 それが一番嫌だ。

 だからって、知ってる人ならいいって訳じゃないけど。

 そんな不安な気持ちをミミさんに吐露した訳だけど、どうやらミミさんの考えは違うみたい。


「ん? あいつが押しに弱い? ちょっと意味がわからないんだけど、あいつって押しに弱いの?」


「はい。最初は嫌な顔するんですけど、お願いするとなんだかんだ引き受けてくれるんですよ。最近だと結構無理かもなってお願いも、受けてくれるようになったりして」


「私が知ってるあいつなら、嫌なことなら死んでもやらない気がするけど......ねぇハルカ、やっぱあんたが特別なんじゃない?」


「いやぁ、そうな風には......そうだといいんですけどね。全然そういう感じがしないんですよね」


 初めの頃は、学校では関わりたくないって言ってたのが、今では彼氏のフリをしてくれている。

 マギアで実力を晒したのだって、元のキッカケは私がクロをバカにされたのが悔しいって愚痴ったのが始まりだと思う。

 それが私に好意を持ってくれたから。っていう理由ならすごく嬉しいけど、断るだけ時間の無駄とか、諦めの気持ちから来たものならちょっと切ない。

 まぁ、嫌われてないっていうのはわかるけど。

 表情とかほとんど変わらないし、一輝くんが私のことをどう思ってるのか全然わからないよ。


「あの、ミミさん。一輝くんって昔からああいう感じなんですか?」


「ああいう感じって?」


「感情を表に出さないというか、クールというか、冷たい感じです」


「あー、まぁ最初からあんなではあったけど、もっと取っ付きやすかったイメージ、だったなぁ。変わったのは中学一年の時......」


 そこまで言ったところで、ミミさんが言葉を詰まらせる。


「......あの、何かあったんですか?」


「......まぁ、ね」


 言葉を濁す感じ、あまりいい思い出ではないみたい。

 一輝くんの過去の話、気にならないはずがない。

 でも、ミミさんが言いたくない話を無理に聞くのはやっぱりよくない。

 うん。やっぱり聞くのはやめよう。


 すみません。変なこと聞いちゃって。


 そんな言葉を口にしようとした矢先、ミミさんが口を開く。


「......ねぇハルカ、太陽と月が、渉と一輝が作ったギルドっていうのは知ってる?」


「あ、はい。それは知ってます」


 前に一輝くんから聞いた覚えがある。

 幼馴染み二人で作ったギルド。それが最強になっちゃうとかホントすごいと思う。


「じゃあ、それより前に、渉が別のギルドに入っていたっていうのは?」


「え? い、いえ、それは初めて聞きました。そうなんですか?」


 渉さんが別のギルドにいた。

 そのことに少なからず動揺している自分がいた。

 だって二人は幼馴染みで、小さい頃から仲良しで、だから、マギアでもずっと一緒にいたんだと思っていたから。


「ギルド、GROUND・ZERO。それが渉とあたしが入っていたギルドの名前」


「グラウンド・ゼロ。ですか......」


 口に出してみてもピンとこない。

 全然聞いたことない名前のギルドだ。

 ワタルさんだけじゃなく、ミミさんも入っていたギルドなのに。


「聞いたことないでしょ?」


「はい。すみません」


 太陽と月に入ってから、もっとマギアについて勉強しなきゃと思って、ゲームのことはもちろん、クロやワタルさん、他のみんなのことも調べたつもりだったけど、その情報はどこにも載ってなかった。


「別に謝らなくたっていいよ。クラスの連中同士で作ったお遊びのギルドだからね。知らなくて当然だし」


 返ってきた言葉はひどく素っ気ないものだった。

 本当に心底どうでもいいって、全く愛着も何もないって気持ちが伝わってくるくらいに。

 普段のミミさんとは明らかに違う感じ。


 何かあったんだと思った。

 過去にそのGROUND・ZEROというギルドで。


お読み頂きありがとうございました。

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