表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
52/68

太陽と月 クロ①

いつもお読み頂きありがとうございます。


誤字報告ありがとうございます。

 

side 皇遥


 中央都市、セントラルエリアから西に進んだ所に、リフルテッドという街がある。


 交易街として有名なこの街は、セントラルエリアには及ばないものの、それなりに発展した街で、行き交うNPCの人達も結構多い街だったりする。


 だけど、周辺に出現するモンスターの強さは、高くてもDランク程度。

 初級プレイヤーか、お使いクエストをしているプレイヤー以外は、ほとんど立ち寄らない街と化してしまっているのが、この街の現状だそうだ。


 そんなリフルテッドの街にも、ギルドバトル会場がある。

 といっても、セントラルエリアにある、トップギルドが戦うようなあんな大きな会場じゃない。


 マギアワールドの各地に存在するギルドバトル会場の中では、中規模に分類される会場で、行われる公式戦も中位ギルドのものばかり。

 その為、観客席が全て埋まったことは今までなかったそうだ。


 そんなリフルテッドのギルドバトル会場が、今は超満員の観客で埋め尽くされている。



「すごい......」


 会場の中央付近、フィールドに一番近い特別席に座る私は、その観客の数に圧倒される。

 聞いた話だと、今日のバトルの日程、会場が発表されてから数分で、会場への入場チケットが完売してしまったそうだ。


 それだけ大勢の人が注目している今回のバトル。

 純粋にクロを応援してくれている人は、一体どのくらいいるのだろう?


 きっとほとんどが、そうじゃない人だ。



 クロとGENESISの話し合いがあったあの日から、クロは色々な所で散々悪く言われてきた。


 調子に乗るな。

 雑魚がデカい口叩くな。

 身の程を弁えろ。

 お前じゃ無理だ。


 マギアの掲示板には、連日クロへの悪口が書き込まれている。

 GENESISにも悪い噂はあるけど、それよりもランキング5位まで上り詰めたギルド相手に「一人で十分だ」と言い切ったことが、プレイヤーから反感を買ってしまったようだ。


 きっとここに集まった観客達も、クロが勝つなんて微塵も思ってない。

 興味があるのは、あれだけ大見得を切ったクロが、どういう行動をとるのか なんだと思う。


 謝罪して戦わないのか。

 言い訳をして逃げるのか。

 結局一人で戦わずに、誰かに助けてもらうのか。

 もしも戦ったとして、どんな無様な負け方をするのか。

 そして、負けたあとにどんな言い訳をするのか。


 今も観客席からはそんな話ばかり聞こえてくるし、まだ誰もいないフィールドに向かって「早く始めろ!」なんてヤジや暴言を飛ばす人達もいる。



「......クロ、大丈夫かな」


 思わず不安が口から零れ落ちる。


 別に応援してくれる人が多いから勝つって訳じゃない。

 それに、クロがすごく強いのはわかってる。

 だけど1対6の戦い。

 絶対負けないなんて言っちゃったけど、どうしても不安な気持ちは拭いきれない。



「あいつなら大丈夫でしょ」


 そんな私の考えは、隣に座るミミさんにきっぱり否定される。


「......そうなんですか?」


 思わず聞き返した疑問に、今度は私の後ろに座るセツキくんが答える。


「クロ先輩は、できないことは言わない人です。

 それに本気のクロ先輩とまともに戦える人なんて、日本だとワタル先輩ぐらいですよ」


「......クロなら......余裕」


 セツキくんの言葉に、ミミさんの後ろに座るセツカちゃんも同意する。


「......そっか、やっぱりクロは強いんだ」


 日本のトップランカーが、クロの強さを肯定してくれている。

 それは名前の知らない何千何万人の言葉より、私の胸に強く響いた。



「......そういえば、ワタルさん来ないですね」


 ここにいる太陽と月のメンバーは、私を入れて4人。

 クロがいないのは当然として、ワタルさんとは会場の入口で別れてからそれっきりだ。


 たぶん、ミミさんの反対側の空席が、ワタルさんの席だと思うんだけど......



「ワタルなら......あ、ほら、あそこ」


「......えっ!?」


 ミミさんの指差す先を見て驚きの声を上げる。

 そして、それと同じタイミングで、会場がざわめき立った。


 フィールドに続くゲートから、GENESISのメンバー6人が現れたのだ。

 ミナトさん、シュウジさんを含む見覚えのある6人。

 以前ミナトさんが、レギュラーメンバーだと紹介した人達だ。


 そして、


 なんでそこにいるんですか!?

 ワタルさん!


 反対側のゲートから、クロとワタルさんが姿を現した。



「テメェ、一人で戦うんじゃねーのかよ!」


「ふざけんなっ!」


「結局ワタル頼みかよ!」


「デカい口叩きやがって、一人じゃ無理ですってか!」


「お前一人で戦えよ!」


「ワタルは帰れ!」


「クロ一人にやらせろ!」


 フィールドの中央へと歩みを進めるクロとワタルさんに、暴言罵倒の雨が降る。

 そして、それは次第に会場全体を巻き込んでの、ワタルさんに対する帰れコールへと変わっていく。



「うわぁ、ヤバ......」


 会場を眺めながら、ミミさんが引き気味に呟く。


「ミミさん、なんでワタルさんはあんな所にいるんですか?」


 さっきのミミさん、ワタルさんについて何か知ってる感じだった。

 ワタルさんがしようとしていること。

 知ってるなら教えて欲しい。


「あー、ワタルはGENESISと少し話をしに行っただけなんだけどね......」


 ミミさんは、困ったように頬を掻いた。


「話、ですか?」


「今回のこと、ハルカのことも含めてだけど、GENESISのやり方に全員が頭に来てるんだよね。

 それで、ただバトルするだけじゃつまらないって話になって、ワタルがあたしらの代表で話をしに行ったんだけど......まさかワタルがあんな風に言われるなんてねぇ」


 フィールドを歩く2人を見つめながら、ミミさんはそう話す。


「......大丈夫でしょうか」


 会場に響く帰れのコールは一向に止む気配がない。

 あんな中で話をするなんて、正直できないんじゃ......


「まっ、大丈夫でしょ。今回のことで一番怒ってたのワタルだしね」


「ワタルさんがですか?」


 いつもニコニコしてて、物腰もすごく柔らかい。

 あのワタルさんが怒るなんて、全然想像できない。


「そっ、ワタルとクロって、バカみたいに仲良いから。

 何もしないで戻ってくるってことはないんじゃないかな......あ、ほら、なにか話すみたい」


 ミミさんに促され、フィールドに視線を向けると、中央でクロとワタルさんがちょうどGENESISと対峙したところだった。



 最初に口を開いたのはミナトさん。

 観客を味方につけて気分がいいのか、ニヤニヤと笑いながら、ワタルさんを挑発し始める。


「ワタルさぁ、この観客の声が聞こえないわけ?

 さっさと引っ込んだらどうなの?」


「話が終わったらすぐに戻るさ。といっても、話ができる状況じゃないね......

 ところで、サクラは何人仕込んだんだい?」



 ワタルさんとミナトさんが、何か話をしているみたいだけど、会場全体に響く 帰れコールのせいでよく聞こえない。

 隣に座るミミさんも「全然聞こえないじゃん」なんて言いながら舌打ちをしている。


 でも、この状況に違和感みたいなものを感じる。


 さっきミミさんも言ってたけど、いくらクロと一緒に出てきたからって、あの人気者のワタルさんがあんな風に言われるのは、なんだかおかしい気がする。


 GENESISが何かしてる?


 そう思ったりもするけど、何も確証はない。

 そして、私がこんなことを考えている間も、ワタルさんとミナトさん、2人の会話は続いている。



「サクラ? ちょっと言ってる意味が、わかんないなぁ」


 ミナトさんはヘラヘラ笑いながら答える。

 口ではそう否定してるけど、その態度が事実だと認めている。


「てゆーかさ、話ができないなら、もう用はないでしょ?

 さっさと帰ってくんない? 俺達も暇じゃないんだよ」


 鬱陶しそうに、面倒くさそうに、ワタルさんへ蔑みの目を向ける。

 だけどワタルさんは、気にした様子もなく話を続ける。


「そう時間はとらせないさ。観客にもすぐに静かになってもらう」


「はぁ? 今から静かにして下さいってお願いでもすんのかよ? 学校じゃあるまいし、そんなんで黙る訳ないじゃん」


 馬鹿にした物言い。

 他のメンバーからも笑いが起こる。


 しかし、ワタルさんの言葉は現実になる。


「いや、そんな時間がかかることはしないさ。

 こうすればいい......」


 ワタルさんは、緩やかな動作で右手を上にあげ、握り込む。


「『スーパーノヴァ』」



 その瞬間、閃光が走る──


 ──直後、会場の上空で大爆発が起こった。



 っ!?


 凄まじい爆音に思わず耳を塞ぐ。

 そして、音のした方向、空を見上げ、言葉を失った。


 なに、あれ......


 その光景は劫火。

 轟々と唸りを上げる爆炎が空を覆い尽くし、空間を赤黒く染めている。

 あれだけ騒がしかった観客達は、全員が口を開けたまま、ただその光景を見上げている。


 レベルが、違いすぎる......




「スーパーノヴァって、さすがにやり過ぎでしょ......」


 ミミさんは額を押さえている。


「......はい。気持ちはわかりますけど、これはちょっと......」


 セツキくんは微妙な表情をしている。

 そして、セツカちゃんは、


「......いいね」


 ワタルさんに向け、サムズアップした。




「......化け物かよ」


 爆炎が覆う空を見上げ、ミナトさんは苦々しく呟く。


「......その言葉を使うのは、まだ早いよ」


 それに対するワタルさんの言葉は意味深。

 ミナトさんが眉をひそめる。


「あ? ......どういう意味だよ?」


「すぐにわかるさ、嫌でもね。

 ......それより、観客も静かになってくれたし、話をしようか」


 ワタルさんに、そのことを話す意思はない。

 ミナトさんにもそれが伝わったらしく、気持ちを切替える。



「チッ......で、こうまでして話したいことってなんだよ?

 まさか今さら一人で戦いませんとか言わねぇよな?」


「もちろん、戦うのはクロ一人だ。

 俺の話は提案。デスペナルティの変更さ」


 デスペナルティの変更。

 その言葉に、苛立ちを募らせていたミナトさんの顔が、ニヤリと歪んだ。


「おいおいおい、公式戦みたいにデスペナルティ無しで戦いたいってか? するわけねーだろ! バカがっ!」


 苛立ちを勢いに変え、ワタルさんを罵る。

 そんなミナトさんに賛同するように、観客からも批判の声が上がる。

 徐々に賑わい始める会場。

 ワタルさんへの落胆の声も上がり、会場の雰囲気がまたGENESISに傾き始める。


 そんな雰囲気を、ワタルさんの言葉が切り裂く。


「勘違いしないで欲しい。むしろ逆だよ」


「......は? 逆だと?」


 訝しむミナトさんを、ワタルさんの目が真っ直ぐ捉える。



「俺の提案は、死亡したプレイヤーの全装備の消失。

 破損ではなく消失だ。どうだい? 面白そうだろ?」



 そう言ってワタルさんは笑う。

 会場全体が、一気に静まり返った。


「......正気かよ?」


 睨むミナトの目は鋭い。


 信じられない。

 そんな感情を多分に含んだ、観客の総意とも取れる問いかけ。

 ワタルさんは当然とばかりに答える。


「もちろん正気さ。

 そうだな......提案しておいて、俺だけ何もないのはフェアじゃないから、クロが負けた場合、俺も全ての装備を破棄しよう。

 無敗のGENESISのフルメンバー対、君達が言う()()()()、6対1の戦いだ。まさか提案を受けないなんてことはないだろ?」


 ワタルさんらしくない笑みを浮かべての、挑発的な口調。

 会場がざわつく。

 どう考えても不利な側が出す提案じゃない。

 だけど、ワタルさんの表情からは絶対の自信が窺える。


 何かある。

 受けるべきじゃない。


 そう考えずにはいられない。

 だけど、GENESISは、ミナトさんは断らない。

 断れない。


 散々煽ってきたから。

 今日、この日まで、クロを(おとし)めて、愚か者だと馬鹿にしてきたから。


 そんなクロ側が出してきた提案。

 この提案を受けないということは、6対1でもクロに勝てる自信がないと言っているようなもの。


 ヘタレ。

 ビビり。

 臆病者。


 例えクロに勝ったとしても、GENESISは今後、臆病者のレッテルを貼られ、後ろ指を指され続けてしまうだろう。


 だから、ミナトさんはこう答えるしかない。


「......上等だ。やってやるよ」


 ワタルさんを射殺すような目で睨みながら、その提案を受け入れた。



「......決まりだね。一応確認するけど、クロもそれでいいね?」


「ああ、問題ない」


 事前に伝えてあったのだろう、クロは迷うことなく頷いた。


「うん。なら俺の話は終わりだ。邪魔をして悪かったね」


 そう言って踵を返したワタルさんは、クロの肩に手を置き、顔を耳に近づける。


「......一輝(かずき)、ハルカを不安にさせるような戦いはするなよ?」


「ああ、もちろんだ」


 迷いなく即答するクロに、ワタルさんは目を見開いた。




 ......なに話してるのかな?


 クロとワタルさん、顔を近づけての内緒話。

 ここからだと、2人の声は全然聞こえない。

 でも、


 きっと、いい話だよね?


 ワタルさんの表情を見れば、それが悪い話じゃないってことは、何となくわかった。




「......そうか。ハルカをギルドに入れたのは、やはり正解だったようだ」


 ワタルさんは顔を綻ばせる。


「ん? どういう意味だ?」


「いや、こっちの話だよ。......それじゃあクロ、頼んだよ?」


「......ああ」


 訝しむクロの肩を軽く叩き、ワタルさんは颯爽とフィールドから去っていく。

 入場時、あれだけ騒がしかった観客達は、誰も何も言わず、ただその姿を見送った。


 完全に場の空気を持っていかれたGENESISのメンバーは、そんなワタルさんの背中を苦々しい表情で睨みつける。


 そして、


 ワタルさんがいなくなったフィールド。

 そこに立つのは、クロとGENESISのメンバー6人。


 もうすぐ、戦いが始まる。

お読み頂きありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ