太陽と月 クロ①
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side 皇遥
中央都市、セントラルエリアから西に進んだ所に、リフルテッドという街がある。
交易街として有名なこの街は、セントラルエリアには及ばないものの、それなりに発展した街で、行き交うNPCの人達も結構多い街だったりする。
だけど、周辺に出現するモンスターの強さは、高くてもDランク程度。
初級プレイヤーか、お使いクエストをしているプレイヤー以外は、ほとんど立ち寄らない街と化してしまっているのが、この街の現状だそうだ。
そんなリフルテッドの街にも、ギルドバトル会場がある。
といっても、セントラルエリアにある、トップギルドが戦うようなあんな大きな会場じゃない。
マギアワールドの各地に存在するギルドバトル会場の中では、中規模に分類される会場で、行われる公式戦も中位ギルドのものばかり。
その為、観客席が全て埋まったことは今までなかったそうだ。
そんなリフルテッドのギルドバトル会場が、今は超満員の観客で埋め尽くされている。
「すごい......」
会場の中央付近、フィールドに一番近い特別席に座る私は、その観客の数に圧倒される。
聞いた話だと、今日のバトルの日程、会場が発表されてから数分で、会場への入場チケットが完売してしまったそうだ。
それだけ大勢の人が注目している今回のバトル。
純粋にクロを応援してくれている人は、一体どのくらいいるのだろう?
きっとほとんどが、そうじゃない人だ。
クロとGENESISの話し合いがあったあの日から、クロは色々な所で散々悪く言われてきた。
調子に乗るな。
雑魚がデカい口叩くな。
身の程を弁えろ。
お前じゃ無理だ。
マギアの掲示板には、連日クロへの悪口が書き込まれている。
GENESISにも悪い噂はあるけど、それよりもランキング5位まで上り詰めたギルド相手に「一人で十分だ」と言い切ったことが、プレイヤーから反感を買ってしまったようだ。
きっとここに集まった観客達も、クロが勝つなんて微塵も思ってない。
興味があるのは、あれだけ大見得を切ったクロが、どういう行動をとるのか なんだと思う。
謝罪して戦わないのか。
言い訳をして逃げるのか。
結局一人で戦わずに、誰かに助けてもらうのか。
もしも戦ったとして、どんな無様な負け方をするのか。
そして、負けたあとにどんな言い訳をするのか。
今も観客席からはそんな話ばかり聞こえてくるし、まだ誰もいないフィールドに向かって「早く始めろ!」なんてヤジや暴言を飛ばす人達もいる。
「......クロ、大丈夫かな」
思わず不安が口から零れ落ちる。
別に応援してくれる人が多いから勝つって訳じゃない。
それに、クロがすごく強いのはわかってる。
だけど1対6の戦い。
絶対負けないなんて言っちゃったけど、どうしても不安な気持ちは拭いきれない。
「あいつなら大丈夫でしょ」
そんな私の考えは、隣に座るミミさんにきっぱり否定される。
「......そうなんですか?」
思わず聞き返した疑問に、今度は私の後ろに座るセツキくんが答える。
「クロ先輩は、できないことは言わない人です。
それに本気のクロ先輩とまともに戦える人なんて、日本だとワタル先輩ぐらいですよ」
「......クロなら......余裕」
セツキくんの言葉に、ミミさんの後ろに座るセツカちゃんも同意する。
「......そっか、やっぱりクロは強いんだ」
日本のトップランカーが、クロの強さを肯定してくれている。
それは名前の知らない何千何万人の言葉より、私の胸に強く響いた。
「......そういえば、ワタルさん来ないですね」
ここにいる太陽と月のメンバーは、私を入れて4人。
クロがいないのは当然として、ワタルさんとは会場の入口で別れてからそれっきりだ。
たぶん、ミミさんの反対側の空席が、ワタルさんの席だと思うんだけど......
「ワタルなら......あ、ほら、あそこ」
「......えっ!?」
ミミさんの指差す先を見て驚きの声を上げる。
そして、それと同じタイミングで、会場がざわめき立った。
フィールドに続くゲートから、GENESISのメンバー6人が現れたのだ。
ミナトさん、シュウジさんを含む見覚えのある6人。
以前ミナトさんが、レギュラーメンバーだと紹介した人達だ。
そして、
なんでそこにいるんですか!?
ワタルさん!
反対側のゲートから、クロとワタルさんが姿を現した。
「テメェ、一人で戦うんじゃねーのかよ!」
「ふざけんなっ!」
「結局ワタル頼みかよ!」
「デカい口叩きやがって、一人じゃ無理ですってか!」
「お前一人で戦えよ!」
「ワタルは帰れ!」
「クロ一人にやらせろ!」
フィールドの中央へと歩みを進めるクロとワタルさんに、暴言罵倒の雨が降る。
そして、それは次第に会場全体を巻き込んでの、ワタルさんに対する帰れコールへと変わっていく。
「うわぁ、ヤバ......」
会場を眺めながら、ミミさんが引き気味に呟く。
「ミミさん、なんでワタルさんはあんな所にいるんですか?」
さっきのミミさん、ワタルさんについて何か知ってる感じだった。
ワタルさんがしようとしていること。
知ってるなら教えて欲しい。
「あー、ワタルはGENESISと少し話をしに行っただけなんだけどね......」
ミミさんは、困ったように頬を掻いた。
「話、ですか?」
「今回のこと、ハルカのことも含めてだけど、GENESISのやり方に全員が頭に来てるんだよね。
それで、ただバトルするだけじゃつまらないって話になって、ワタルがあたしらの代表で話をしに行ったんだけど......まさかワタルがあんな風に言われるなんてねぇ」
フィールドを歩く2人を見つめながら、ミミさんはそう話す。
「......大丈夫でしょうか」
会場に響く帰れのコールは一向に止む気配がない。
あんな中で話をするなんて、正直できないんじゃ......
「まっ、大丈夫でしょ。今回のことで一番怒ってたのワタルだしね」
「ワタルさんがですか?」
いつもニコニコしてて、物腰もすごく柔らかい。
あのワタルさんが怒るなんて、全然想像できない。
「そっ、ワタルとクロって、バカみたいに仲良いから。
何もしないで戻ってくるってことはないんじゃないかな......あ、ほら、なにか話すみたい」
ミミさんに促され、フィールドに視線を向けると、中央でクロとワタルさんがちょうどGENESISと対峙したところだった。
最初に口を開いたのはミナトさん。
観客を味方につけて気分がいいのか、ニヤニヤと笑いながら、ワタルさんを挑発し始める。
「ワタルさぁ、この観客の声が聞こえないわけ?
さっさと引っ込んだらどうなの?」
「話が終わったらすぐに戻るさ。といっても、話ができる状況じゃないね......
ところで、サクラは何人仕込んだんだい?」
ワタルさんとミナトさんが、何か話をしているみたいだけど、会場全体に響く 帰れコールのせいでよく聞こえない。
隣に座るミミさんも「全然聞こえないじゃん」なんて言いながら舌打ちをしている。
でも、この状況に違和感みたいなものを感じる。
さっきミミさんも言ってたけど、いくらクロと一緒に出てきたからって、あの人気者のワタルさんがあんな風に言われるのは、なんだかおかしい気がする。
GENESISが何かしてる?
そう思ったりもするけど、何も確証はない。
そして、私がこんなことを考えている間も、ワタルさんとミナトさん、2人の会話は続いている。
「サクラ? ちょっと言ってる意味が、わかんないなぁ」
ミナトさんはヘラヘラ笑いながら答える。
口ではそう否定してるけど、その態度が事実だと認めている。
「てゆーかさ、話ができないなら、もう用はないでしょ?
さっさと帰ってくんない? 俺達も暇じゃないんだよ」
鬱陶しそうに、面倒くさそうに、ワタルさんへ蔑みの目を向ける。
だけどワタルさんは、気にした様子もなく話を続ける。
「そう時間はとらせないさ。観客にもすぐに静かになってもらう」
「はぁ? 今から静かにして下さいってお願いでもすんのかよ? 学校じゃあるまいし、そんなんで黙る訳ないじゃん」
馬鹿にした物言い。
他のメンバーからも笑いが起こる。
しかし、ワタルさんの言葉は現実になる。
「いや、そんな時間がかかることはしないさ。
こうすればいい......」
ワタルさんは、緩やかな動作で右手を上にあげ、握り込む。
「『スーパーノヴァ』」
その瞬間、閃光が走る──
──直後、会場の上空で大爆発が起こった。
っ!?
凄まじい爆音に思わず耳を塞ぐ。
そして、音のした方向、空を見上げ、言葉を失った。
なに、あれ......
その光景は劫火。
轟々と唸りを上げる爆炎が空を覆い尽くし、空間を赤黒く染めている。
あれだけ騒がしかった観客達は、全員が口を開けたまま、ただその光景を見上げている。
レベルが、違いすぎる......
「スーパーノヴァって、さすがにやり過ぎでしょ......」
ミミさんは額を押さえている。
「......はい。気持ちはわかりますけど、これはちょっと......」
セツキくんは微妙な表情をしている。
そして、セツカちゃんは、
「......いいね」
ワタルさんに向け、サムズアップした。
「......化け物かよ」
爆炎が覆う空を見上げ、ミナトさんは苦々しく呟く。
「......その言葉を使うのは、まだ早いよ」
それに対するワタルさんの言葉は意味深。
ミナトさんが眉をひそめる。
「あ? ......どういう意味だよ?」
「すぐにわかるさ、嫌でもね。
......それより、観客も静かになってくれたし、話をしようか」
ワタルさんに、そのことを話す意思はない。
ミナトさんにもそれが伝わったらしく、気持ちを切替える。
「チッ......で、こうまでして話したいことってなんだよ?
まさか今さら一人で戦いませんとか言わねぇよな?」
「もちろん、戦うのはクロ一人だ。
俺の話は提案。デスペナルティの変更さ」
デスペナルティの変更。
その言葉に、苛立ちを募らせていたミナトさんの顔が、ニヤリと歪んだ。
「おいおいおい、公式戦みたいにデスペナルティ無しで戦いたいってか? するわけねーだろ! バカがっ!」
苛立ちを勢いに変え、ワタルさんを罵る。
そんなミナトさんに賛同するように、観客からも批判の声が上がる。
徐々に賑わい始める会場。
ワタルさんへの落胆の声も上がり、会場の雰囲気がまたGENESISに傾き始める。
そんな雰囲気を、ワタルさんの言葉が切り裂く。
「勘違いしないで欲しい。むしろ逆だよ」
「......は? 逆だと?」
訝しむミナトさんを、ワタルさんの目が真っ直ぐ捉える。
「俺の提案は、死亡したプレイヤーの全装備の消失。
破損ではなく消失だ。どうだい? 面白そうだろ?」
そう言ってワタルさんは笑う。
会場全体が、一気に静まり返った。
「......正気かよ?」
睨むミナトの目は鋭い。
信じられない。
そんな感情を多分に含んだ、観客の総意とも取れる問いかけ。
ワタルさんは当然とばかりに答える。
「もちろん正気さ。
そうだな......提案しておいて、俺だけ何もないのはフェアじゃないから、クロが負けた場合、俺も全ての装備を破棄しよう。
無敗のGENESISのフルメンバー対、君達が言うあのクロ、6対1の戦いだ。まさか提案を受けないなんてことはないだろ?」
ワタルさんらしくない笑みを浮かべての、挑発的な口調。
会場がざわつく。
どう考えても不利な側が出す提案じゃない。
だけど、ワタルさんの表情からは絶対の自信が窺える。
何かある。
受けるべきじゃない。
そう考えずにはいられない。
だけど、GENESISは、ミナトさんは断らない。
断れない。
散々煽ってきたから。
今日、この日まで、クロを貶めて、愚か者だと馬鹿にしてきたから。
そんなクロ側が出してきた提案。
この提案を受けないということは、6対1でもクロに勝てる自信がないと言っているようなもの。
ヘタレ。
ビビり。
臆病者。
例えクロに勝ったとしても、GENESISは今後、臆病者のレッテルを貼られ、後ろ指を指され続けてしまうだろう。
だから、ミナトさんはこう答えるしかない。
「......上等だ。やってやるよ」
ワタルさんを射殺すような目で睨みながら、その提案を受け入れた。
「......決まりだね。一応確認するけど、クロもそれでいいね?」
「ああ、問題ない」
事前に伝えてあったのだろう、クロは迷うことなく頷いた。
「うん。なら俺の話は終わりだ。邪魔をして悪かったね」
そう言って踵を返したワタルさんは、クロの肩に手を置き、顔を耳に近づける。
「......一輝、ハルカを不安にさせるような戦いはするなよ?」
「ああ、もちろんだ」
迷いなく即答するクロに、ワタルさんは目を見開いた。
......なに話してるのかな?
クロとワタルさん、顔を近づけての内緒話。
ここからだと、2人の声は全然聞こえない。
でも、
きっと、いい話だよね?
ワタルさんの表情を見れば、それが悪い話じゃないってことは、何となくわかった。
「......そうか。ハルカをギルドに入れたのは、やはり正解だったようだ」
ワタルさんは顔を綻ばせる。
「ん? どういう意味だ?」
「いや、こっちの話だよ。......それじゃあクロ、頼んだよ?」
「......ああ」
訝しむクロの肩を軽く叩き、ワタルさんは颯爽とフィールドから去っていく。
入場時、あれだけ騒がしかった観客達は、誰も何も言わず、ただその姿を見送った。
完全に場の空気を持っていかれたGENESISのメンバーは、そんなワタルさんの背中を苦々しい表情で睨みつける。
そして、
ワタルさんがいなくなったフィールド。
そこに立つのは、クロとGENESISのメンバー6人。
もうすぐ、戦いが始まる。
お読み頂きありがとうございました。




