聞きたかったこと
いつもお読み頂きありがとうございます。
side 皇遥
「......ハルカ、少し話せないか?」
ナオ達がいなくなったキスレ平原で、そう呼び止められた私は、隣を歩くクロを横目に見ながら、胸の高鳴りを必死に抑えていた。
クロの話って、もしかして......いやいや、そんな素振りなかったし......でも、もしかしたら......
さっきからずっとこの繰り返し。
期待に胸を踊らせる自分に、現実を見ろと何度も言い聞かせている。
正直、期待するだけ無駄だと思ってる。
だってあのクロだし。
だけど、もしかしたら......
そんな僅かな希望を胸に抱きながら、私はクロが話しかけてくるのを今か今かとずっと待っている。
そして......
「......ハルカ、悪かったな」
その一言で私は、クロの話がどういうものなのかを理解した。
......まぁ、そりゃあね。そうだと思ってたよ。
今までのドキドキな気分を、溜め息として小さく吐き出すと、気持ちを通常モードに切り替えて、クロに返事をする。
「......えっと、私、クロに何かされたっけ?」
そう言いながら自分でも考えてみる。
だけど、クロに謝られるようなことなんて、何一つ思い浮かばない。
謝ることなら、いくらでもありそうだけど......
「いや、何かしたんじゃなくて、何もしなかったんだ」
クロは言いづらそうにそう話す。
「......実は、ハルカの様子がおかしいことには気づいていたんだ」
「今日の朝の時.......だよね? 私に何かあったか? って聞いてくれた時の」
あれは嬉しかったなぁ。
クロが私を気にかけてくれてるってわかったから。
おかげでGENESISと戦おうって気力が湧いてきたんだよ。
「いや、昨日から気づいてたんだ。時折思い詰めたような表情をしていたからな」
「え? そうだったの?」
昨日って、モミジさんから話を聞いた次の日だよね?
あれ? ってことは、すぐに気づかれちゃってたってこと?
うーん。しっかり隠してたつもりだったんだけど......
「ああ、でも何も言わなかった。
ハルカなら、何かあれば相談してくる。だから、何も言ってこないってことは、大したことじゃないと勝手に結論づけたんだ」
でも、クロがそう思っちゃうのも仕方ないと思う。
だって私は、ずっとクロに頼りっぱなしだったから。
「......でも今日の朝、学校でハルカを見た時に、自分の行動が間違っていたことに気づかされたよ」
クロはそこで話すのを一旦止めると、私の方に向き直る。
「ハルカ、すまなかった。もっとちゃんと気を遣うべきだった」
そう言ってクロは私に頭を下げる。
だから私は、慌ててクロに声をかけた。
「そんな、クロが謝る必要ないって。むしろ助けてもらってありがとうって気持ちしかないから。
それに、謝らなきゃいけないのは、勝手な行動をした私の方だよ」
そのせいでナオ達の作戦を駄目にしちゃったし、クロにも迷惑をかけることになっちゃった。
こんなことなら、ちゃんとクロに相談すればよかったって絶賛後悔中だよ。
「......すまない。そう言ってもらえると助かるよ。
これからは俺の方からも声をかけるから、ハルカも何かあったらすぐに言って欲しい」
クロがそう言ってくれるのはすごく嬉しい。
だけど......
「......いいの? たくさん迷惑かけちゃうかもしれないよ?」
ていうか、絶対迷惑かけちゃうよ?
「......ああ、構わない。正直かけてくれ方が気が楽だから、遠慮しないで言って欲しい」
「う、うん、わかった。じゃあ、何かあったら話すようにするね」
なんかすごく気になる言い方だけど、これって、喜んでいいんだよね?
「......指輪、壊れたのか?」
「え? あ......」
クロの視線が、私の右手の指に向かっていることに気づき、咄嗟に左手で隠す。
「昨日か?」
確信を持った言い方。
誤魔化せないと思った。
「......うん。ごめんね、実は昨日死んじゃった時に壊れちゃってさ。
で、でも、名入れしてあるから大丈夫! またお金が貯まったらちゃんと直すから!」
雰囲気が暗くならないように、なるべく明るく振る舞う。
昨日のバトル、デスペナルティで壊れたのは【結界石の指輪】だった。
死んじゃったのはもちろんだけど、壊れたのがクロからもらった思い出の指輪だったっていうのがすごいショックだった。
だから、すぐに直そうとしたけど、私の手持ちのお金じゃ全然足りなくて、しばらくは寂しくなった右手の薬指を眺める日が続きそうだと、意気消沈しているところだった。
「......俺に直させてくれないか?」
「え?」
そんな私に、クロから思いがけない提案の声が上がる。
正直すごく助かるけど......
「......でも、いいの?」
素直に受けていいものなのか躊躇してしまう。
費用が高いのはもちろんだけど、壊れた原因が、私が勝手なことをしたから と、自業自得感が否めない。
だからクロにお願いするのは、申し訳ないという気持ちが強いんだけど。
「ハルカが悩んでいることを知ってて、見過ごしたんだ。俺にも責任がある。だから、それくらいさせて欲しい」
クロは自分にも責任があると言う。
そんなもの、あるはずないのに。
「それに結界石の指輪は大事なものだ。ハルカも無いと困るだろ?」
「うん、それは困るよ。だって、すごく大切なものだもん」
クロが初めてくれたものだもん。
壊れたままになんてしておけないよ。
「だろ? だから俺に直させてくれ」
私が頷いたことで、クロが勢いづく。
でもこの反応、私の言った大切の意味、絶対わかってないよね。
そう思いつつも、クロが言った、結界石の指輪が大事なアイテムというのも間違いじゃないから、
「......じゃあ、お願いしてもいい?」
「ああ、もちろんだ」
私はクロに指輪を直してもらうことにした。
「ありがとう、クロ」
よかった。
これで指輪はなんとかなりそうだ。
そこでふと、さっき気になったことを思い出したから、聞いてみることにした。
「ねえクロ、ちょっと気になったんだけど、私を太陽と月のメンバーだって言っちゃってよかったの?」
さっきのクロは、私が太陽と月のメンバーだってことを、ミナトさん達に隠すつもりが全くなかったように見えた。
だけど、前に話した時は、私が強くなるまでは内緒にしておこうって話だった気がしたんだけど。
「ああ、そのことか。それなら大丈夫だ。ワタルからは話すタイミングは任せると言われていたからな」
「え? そうなの?」
それ初耳だよ。
「一昨日のマギアの試練での出来事をワタルに話した時、ハルカのことも一緒に話したんだ」
「私のこと?」
「ハルカが色々なギルドから勧誘を受けてるって話だ」
そういえばあの日、クロにそのことを相談したんだっけ。
確か、あの時のクロは、何か考えておくって言ってくれて。
そっか、ワタルさんに話してくれたんだ。
「それでワタルからは、ハルカのことを公表するタイミングは俺に任せると言われたんだ。
まぁ、正直それはもう少し先と考えていたんだが、状況が状況だったからな。太陽と月の名前を抑止力として使うことにしたんだ」
太陽と月は、知らない人がいないくらいの超有名ギルドだ。
そこのメンバーに何かしようとする人なんて、そうそういないもんね。
だけどそうなると、もう一つの問題が出てくる。
「でも、大丈夫かな? 私まだ全然強くないし、その、アンチとか......」
元々は、私がアンチに叩かれないように、強くなるまでは内緒にしておくって話だった。
今の私は、メンバーとしてまだまだ全然弱いし、今公表なんかしたらアンチの恰好の的だと思うんだけど。
「それについては一応メンバー全員から、ハルカの加入を歓迎している旨のメッセージを発信してもらえるよう頼んではあるが......まぁ叩いてくる奴は、それでも叩いてくるだろうな」
「......そうだよね」
太陽と月に入れなかった人や、私の加入を邪推するような人が、それだけで黙るとは到底思えないよ。
「だから、どちらを優先するか という話だったんだが、ハルカの身に直接の危険が及んでいる こちらを優先することにしたんだ」
その気持ちはわかる気がする。
私だって知り合いが、直接の危険に遭う ってなったら、きっと同じ選択をすると思うもん。
正直、アンチの方は書き込みを見なければ済むことだし、私がすごく強くなったって、叩く人は叩くだろうから、気にするだけ無駄ってことだよね。
......まぁそんなこと言っちゃったら、元も子もないんだけど。
「ただ、実際被害を受けるのはハルカだ。それを相談しないで勝手に決めたのは悪かったと思ってる。
俺もハルカが悪く言われないように動くつもりだが、すまかった」
「え、いいよいいよ。私、全然平気だし」
私自身、クロのしたことに怒っても困ってもないし、むしろ感謝の気持ちしかない。
「それにさ、実は嬉しかったりもするんだよね」
「嬉しい? 何がだ?」
「だってさ、これからは私も太陽と月のメンバーだって言えるんだよ」
今までは所属してるのにいない扱いというか、仮メンバーみたいな存在だった。
だけどこれからは、私も太陽と月のメンバーだって大手を振れるんだもん。
「......だが、そのことでアンチの標的になるんだぞ? それでもいいのか? 」
「それでもだよ」
だってそれは、人気の裏返しみたいなもので、太陽と月という名前にはそう思われても平気なくらいの魅力がある。
クロは、太陽と月がどれくらいすごいギルドなのか、あんまりわかってない気がする。
もしかしたら、わかった上で私の心配してくれているのかもだけど............うん、そう考えた方が気持ちが上がるから、そうしよう。
「......そうか」
クロは私の顔を見つめ、呟いた。
声からしてあまり納得してない感じだけど、一応は納得してくれたみたい。
なんとなく、今ならずっと気になっていたことを聞ける気がした。
「......ねえクロ、なんで私をギルドに誘ってくれたの?」
さっき、ミナトさんと話している時のクロは、私に才能と素質があるって言ってくれた。
それは嬉しかったし、きっと本心なんだと思う。
だけど、クロが私をギルドに誘ってくれたのは、私がマギアを始めて3日目の時だ。
正直、あの時から私に才能と素質があることがわかっていた と言われても、とても信じることができない。
だから、私を選んでくれた本当の理由が知りたかった。
例えそれが、どんな理由だったとしても。
「......さっきも言ったが、ハルカには才能と素質があった。それだけじゃ、納得出来ないか?」
「うん。だって、あの時の私は、まだ始めたばかりだったし......」
クロは私の顔をジッと見つめてくる。
......やがて、諦めたように息を吐き出したクロが、静かに口を開いた。
「......メンバーを増やす必要があったんだ」
「え?」
「......ハルカをギルドに誘った日の前日にミーティングがあって、メンバーを6人に増やす必要があるとワタルに言われたんだ」
「うん」
「それで、ハルカのことを話したんだ。
まだ始めたばかりだが、やる気があって、先入観もないし、ちょうどいいと思ってな」
「それって......」
その先を言おうとして、口を噤む。
クロが言った条件の人なんて何人もいる。
その中で私が選ばれたのは、たまたま運がよかっただけ。
じゃあ......別に私じゃなくてもよかったんだ。
「......そっか」
本当は少し期待していた。
クロが私じゃなきゃダメだっていう理由を言ってくれることに。
でも、そんなことなかったんだ。
気持ちが沈んでいく。
理由を無理に聞いておいて、落ち込んだりなんかしたら、クロを困らせちゃう。
わかってる。
わかってるけど。
気持ちが上を向いてくれない。
前向きな気持ちになれない。
でも。
それでも、笑顔を作って「教えてくれて、ありがとう」って言わないと。
「......と、ここまでが表向きの話なんだが」
「え?」
そんな私の耳に届いたクロの言葉に、思わず俯いていた顔を上げる。
すると、私を見ていたクロが気まずそうに頬を掻いた。
「その、なんて言うか......引かないで聞いて欲しいんだが......」
「う、うん......」
そう言って、クロは前置きをする。
今までに見たことないくらい、すごく言いにくそうなクロの姿に、緊張がどんどん高まっていく。
そして......
「......見惚れたんだ」
「......え?」
あまりにも予想外過ぎるその言葉に、思考が停止する。
え? え? 見惚れた? 私に? クロが? あれ? 見惚れたって、どういう意味だっけ?
処理し切れず、疑問がどんどん頭を埋め尽くしていく。
なのに、そんな私を置いてけぼりにするように、クロは話を続ける。
「......ラハの森で初めて見た時、薬草集めを本気で楽しんでいるその姿に、目を奪われたんだ」
ちょ、ちょっと待って! 待ってよ!
「......今思えばあの時から、心のどこかでハルカをギルドに誘いたいと思っていたのかもしれないな」
これってさ、もしかしなくても、そういうことだよね?
............っ。
そして、クロの言葉の意味を理解していくにつれ、自分の顔がどんどん熱を帯びていくの感じ、思わず両手で顔を隠す。
ダメっ! こんな顔、クロに見せられないよっ!
嬉しさと恥ずかしさで顔がすごく熱い。
それにニヤニヤが止まらない。
こんな顔見られたら、絶対気持ち悪がられちゃう。
落ち着くまで顔を隠さないと。
そんな私の行動を勘違いしたクロが、慌てて弁解を始めてしまう。
「あ、いや、別に他意は無いんだ。
だからハルカをどうこうとか、全く考えてないから安心して欲しい。変なことを言ってすまなかった」
そんなっ!?
他意あってよ!
どうこう考えていいから!
私を安心させないで!
だけど、うまく声が出せない私は、首を左右にぶんぶん振るのが精一杯で。
もちろんそんなことで、私の本心がクロに届くはずもなく。
結局この後、落ち着きを取り戻した私とクロの間には、すごく微妙な空気が流れ続けた。
そして、その日の夜。
GENESIS発信の元、太陽と月の新メンバーの情報、太陽と月のクロとの対戦情報。
そして、改悪編集された、クロとGENESISのやり取りの動画が公開された。
お読み頂きありがとうございました。




