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マギアの試練上層攻略④

いつもお読み頂きありがとうございます。

 

side 皇遥


『娘、いや、ハルカだったか。久しぶりだな』


「お、お久しぶりです!」


 誰もいない空間に頭を下げる。

 傍目(はため)からは何やってるんだろう? なんて思われそうだけど周りにはクロしかいないし、そのクロも事情を知ってるから何も言わず黙っている。


 でも何だろうこの違和感。


『先程の戦いは見事だった。やはりお前を選んだ私の目に狂いはなかったようだな』


「あ、ありがとうございます!」


 やっぱりだ。

 何だろうこの感じ。

 前話した時はもっとこう......


「あっ!」


 思わず声が出る。


「ん? ハルカ? どうした?」『ん? ハルカ? どうした?』


 クロとマオさんの声が重なる。


「あ、いや、えっと......」


 違和感の正体に気づいたんだけど、聞いてもいいのかな?


『別に遠慮することはない。言ってみろ』


 え? いいの? じゃあ......


「......あの、口調を変えたんですか?」


 前に話した時は「我」とか「汝」とか「褒めて遣わす」とかすごく偉そ......高貴な人の話し方をしていたはず。


『ああそれか。以前主に普通に話せと言われたのを思い出したのだ。だからこの前のことは忘れてくれ』


「あ、そうなんですね。わかりました」


 三柱の主って創造神マギアのことだよね?

 マオさんみたいなすごく......高貴な人にも命令出来ちゃうなんてやっぱりマギアってすごいんだなぁ。


『それでだ、今の私は機嫌がいい。何か聞きたいことがあれば答えるが、何かあるか?』


「え? そうなんですか? えっと、そうですね......」


 聞きたいことはたくさんある気がするけど、急にそんなこと言われても......


「......あの、私の獣装の名前なんですけど、他の二柱と(おもむき)が違う気がするんですけど......」


 何を質問すればいいかわからないから、とりあえず頭に浮かんだのにしてみたけど、こういうのでもいいのかな?


『......不服か?』


「い、いえ! そんなことは......」


 マオさんから伝わる圧がすごい。

 ナイトメアキャットとタイラントドラゴンってすごく強そうな名前だったから私のも......ってすごく期待してたのに......なんてとても言える雰囲気じゃないよ。


『......ふん、まあいい。マオという名は主から頂戴した名で、私はそれ以外を名乗るつもりはない。それだけのことだ』


「そ、そうなんですね。わかりました」


 うん。名前のことはこれ以上触れないようにしよう。

 あと他に聞きたいことは......


「あの、選ばれし者達って誰のことなんでしょうか?」


 ここに来るまでにクロと話していた内容について聞いてみる。

 マオさんならそういう歴史設定とか絶対知ってるはずだし。


 あ、でもその前に......


「あの、マオさんの声ってクロにも聞こえるように出来るのでしょうか?」


 後でクロに説明するより一緒に聞いてもらった方が良いと思ったんだけど、どうかな?


『ふむ、猫が選んだ男か。そういえば以前も一緒にいたな。......なるほど、そういうことか。承知した』


 え? 何がそういうこと?


 なんて私の心の声が届くことはなくて。


『......クロと言ったか? 聞こえるか?』


「......ああ、いや、はい、聞こえます」


 クロにもマオさんの声が聞こえるようになったみたい。

 それにしてもクロが(かしこ)まってる姿なんて初めて見るかも。


『よし。では先程の質問、選ばれし者達とは誰か? についてだが、これはお前達のいる世界とは別の世界から転移して来た者達のことを指している』


 ん? 転移してきた者達?


「え? えっと......どういうことですか? 」


 私達のいる世界とは別の世界があるってこと?

 ちょっと待って、いきなり話が飛び過ぎて頭がついていかないんだけど。


『あまり根幹に迫るようなことはここでは言えぬ。許せ』


「は、はい。わかりました」


 これだけでも十分すごい話な気がするけど。

 あ、でもこれ全部設定なんだっけ?

 それならそう割り切るけど。


 そんな私の隣で今度はクロが質問する。


「......ナシナ空中庭園にいるレムナント達は選ばれし者達ですか?」


 この質問はここに来る途中聞いたクロの予想だ。

 クロは確信を持ってそうだったけど。


『あれはナシナが作り出したモノであって本人とは無関係だ。だが選ばれし者達を模した姿で作られてはいるな』


「......そうですか」


 なるほど。

 本人たちが影みたいになっちゃったって訳じゃないんだ。


『他に聞きたいことはあるか?』


「創造神マギアと創造神ナシナはどういう関係ですか?」


 クロがマオさんにどんどん質問する。

 私じゃこんな冷静に質問なんて出来ないから、やっぱりクロに一緒に聞いてもらったのは正解だった。


『そうだな。一言では難しいが......協力関係だな。互いの目的が一致した関係と言うべきか』


「互いの目的、それはなんですか?」


『ここでは話せない。だがここの最深層に辿り着いた時、全てを話すと約束しよう』


 ここの最深層。

 マギアの試練をクリアしろってことだよね。


「......最深層には誰がいるんですか?」


『創造神マギアと我ら原初の三柱だ』


「......そうですか」


 やっぱりマギアが最深層にいるんだ。

 でもマオさんの話し方だと、マギアがラスボスって訳じゃなさそう。

 じゃあラスボスって何だろう?

 ううん。そもそも最深層を目指す意味って?


『ん? そろそろ時間か。では最後に一つずつ質問に答えるが何か聞きたいことはあるか?』


 そんなマオさんの言葉に、少し悩む素振りを見せたクロが静かに口を開く。


「......このマギア・ナシナ・オンラインはただのゲームですか?」


「え?」


 思わずクロに顔を向けるも、クロは真っ直ぐ正面を向いたまま動かない。

 この質問の答えによってはすごい大変なことになっちゃいそうだけど。


『ゲームだ。少なくともお前達にとってはな。そしてこれからもそれは変わらない。安心するといい』


「......わかりました。ありがとうございます」


『うむ』


 よかった。

 これがゲームじゃないなんて言われたらどうしようかと思ったよ。

 でもゲームのキャラクターのマオさんが、ゲームって言い切っちゃうのもおかしな話だよね。


『ハルカは何か聞きたいことはあるか?』


 何か聞きたいこと。

 ほとんどクロが聞いてくれたから、あと聞きたいことと言えば......


「......あの、何で私を選んだのですか?」


 私よりも強い魔法使いなんてたくさんいるし、その人達に比べたらレベルだって全然低いし、私を選んでくれた理由があるなら知りたい。


『可能性を感じたからだ』


 マオさんの確信を持った声が頭に響く。


「......可能性、ですか?」


『そうだ。今まで見てきた誰よりも私の力を使いこなせるという可能性だ。おそらく猫や竜もそう感じた者を選んだのだろう』


「私に、そんな......」


 だって猫と竜が選んだ人って、クロとワタルさんのことだよね?

 クロみたいに強くなりたいとはずっと思ってたけど、それは願望や目標みたいなもので、実際になれるかって言われたら......


『ハルカ、今はまだ2人に遠く及ばないが、お前は必ず2人と肩を並べる存在になる。お前を選んだこの私が言っているのだ。自信を持て』


「......はい。頑張ります」


 まだ自信なんかないけど、マオさんがそう言ってくれるなら......


『うむ。では最後に私のオリジナル魔法を一つ授けるとしよう。属性は赤と黒の複合魔法でいいな?』


 複合魔法。

 すごく強そうな響きだけど、なんで赤と黒の色指定なんだろう? ......あっ!


「は、はい! それで! それでお願いします!」


 マオさん、意味がわかりました。

 ありがとうございます。


『うむ。しばらく待て......』


 そう言われてすぐ、頭の中に新しい魔法が浮かんできた。


 マオさんがくれた魔法は上級魔法で、今の私にはまだ使えないみたい。


『どうだ? 覚えたか?』


「はい! ありがとうございます! 頑張って使えるようになります!」


 必ず使えるようになってみせます。


『うむ、励むがよい。......では時間だ。また話せる日を楽しみにしている』


「はい! ありがとうございました!」「......ありがとうございました」


 クロと2人誰もいない空間に頭を下げる。

 そして。



「......行ったか?」


「うん、たぶん」


 しばらく下げていた頭をゆっくり上げる。

 声も聞こえないし、もういないみたい。


「......ねえクロ、さっきの話って全部本当なのかな?」


 隣で考え事をしているクロに、早速さっきのことを聞いてみる。


「......まぁ嘘ではないだろうな。ただもう少し整理する時間が欲しい。それにワタルの意見も聞いておきたい」


「そっか、そうだよね」


 さすがのクロでもあんな話聞かされて、すぐに答えが出る訳ないもんね。


「とりあえず今日は戻ろう。あそこのサークルから外に出られる」


 そう言ってクロが指を差す先には、さっきまでなかった光のサークルがある。

 きっとボスを倒したことで出現したんだと思う。


「......ねえクロ」


 サークルへ進む背中に声をかける。


「ん? なんだ?」


 振り返ったクロは普段通り。

 あんな話を聞いた後なのにすごく落ち着いているように見える。


 本当にすごい。

 だからこそ。


「私、強くなるから」


 クロに今の気持ちを伝える。

 これは言わば決意表明だ。


「......強くなってどうする?」


 普段なら「そうか」とか「頑張れ」って言って終わりのクロが理由を聞いてきた。

 きっと私の言いたいことが伝わったんだと思う。

 だからこそハッキリ言葉にする。


「私も行くよ。最深層に」


 クロも行くんだよね?

 だって顔にそう書いてあるもん。


「......ハルカは嫌じゃないのか? さっきの話は何となく普通じゃなかった。もしかすると何か大きな......」


「嫌じゃないよ」


 クロの言葉を遮る。

 クロが私を心配してくれているのはわかってる。

 だけど。


「クロと一緒に行きたいから」


 私はクロと一緒に行きたい。

 どこまでだって......


「......わかった」


 しばらく私を見つめていたクロが諦めたようにそう呟く。


「やった!」


 私の粘り勝ちだ。


「......まぁこの話は後日メンバー全員と相談するとして、今日はもう帰ろう」


「うん、わかった」


 そう言って疲れたように歩くクロの背中にもう一度声をかける。


「クロ、今日もありがとね」


 ボスまで来れたのもボスを倒せたのも。

 ううん、今ここに私がいるのも全部クロのおかげだから。


 クロ、いつも本当にありがとう。


「ああ、どう致しまして......」


 と、そこでクロが不意に立ち止まり、こちらを振り返る。


「......そういえば、何で赤と黒の複合魔法なんだ?」


 ふと思い出したようにそう告げられた質問。

 もちろん言い訳なんて用意してなくて。


「え? それは......そうっ! 強そうだからだよ!」

 

 とっさに浮かんだ言葉。

 自分でも無理があると思う。


「強そう? 他の属性だって......」


「いいからいいから! ほらっ! 帰るんでしょ?」


 何か言いたげなクロの背中を押して、さっさとサークルに入る。


 クロの鈍感。

 言えるわけないじゃん。

 私とクロの属性を選んだなんて......





 マギアからログアウトした私は、スマホにメッセージが届いていることに気づく。

 送り主はモミジさん、直美のギルドにいる女の子だ。


 メッセージの内容は、相談したいことがあるから電話で話したいとのこと。


 直美じゃなくて私に?

 一体なんだろう......

 

お読み頂きありがとうございました。

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