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マギアの試練上層攻略③

いつもお読み頂きありがとうございます。

誤字報告ありがとうございます。

 

side 皇遥


「この辺りから新しいモンスターが現れるようになるぞ」


 前回来た所よりも奥、全体の半分以上を過ぎた所で隣を歩くクロがそう教えてくれた。


「それってどんなモンスターなの?」


 ここに来るまでに戦ってきたのはゴブリン、ホブゴブリン、オークの前回も戦ったモンスターで、全員イグニス・ファトゥスで倒してきた。

 新しいモンスターっていうのも同じように倒せたらいいんだけど、やっぱり強いのかな?


「トロールというモンスターだ。今までのやつらより知名度は低いがランクはC+。オークよりも強いモンスターだ」


「C+かぁ。でもトロールって聞いたことないかも。どんな見た目のモンスターなの?」


「トロールは耳が長く醜悪な顔をした3メートルを超える巨人で、再生能力を持っている厄介なモンスターだ」


「再生能力? 攻撃しても回復するってこと?」


 なにそれ。

 ちょっとズルいんだけど。

 しかも3メートルって、急に強くなり過ぎじゃない?


「そうだ。手数で攻めるか一撃で倒すのがセオリーだな」


 なら私の場合は一撃でってことになるんだろうけど。


「......私の魔法でも倒せるかな?」


 今まで戦ってきた中で3メートルなんて大きいモンスターはいなかった。

 だから少し不安な気持ちはあったんだけど。


「倒せると思うぞ。心配なら黄属性の魔法を使うといい。トロールは青属性だからな」


 クロが当たり前のように倒せるって言ってくれたから。


「うん! わかった!」


 私の不安はすぐに吹き飛んだ。




「あ、クロ、さっき言ってたのってあいつ?」


 あれからすぐに新しいモンスターが現れた。

 私よりも全然高い身長に尖った耳、大きな棍棒を持った、ゴブリンを灰色にして太らせて大きくしたような姿のモンスター。


「ああ、あれがトロールだ」


「あれが......よし」


 確か黄属性の魔法だったよね。


「......いくよ。『(ストーンランス!)』」


 魔法陣からゴツゴツした岩の槍が勢い良く発射されトロールの体に大きな穴を開けると、トロールが魔石に変わる。


「......あれ?」


 普通に倒しちゃったけど再生は?


「さすがだな」


 隣にいるクロが呟く。


「ねえクロ、トロールって再生するんだよね?」


 私のイメージだと跡形もなく消さないとずっと再生してくるイメージだったんだけど。


「再生はするが不死身って訳じゃないからな。体力が0になればさすがのトロールだって再生しない」


「あ、そうなんだね」


 なんだ。

 普通に倒せるんだ。


「今のハルカならC+も問題なさそうだな」


 ランクCって確か中級者だったよね。


「そっか。私、C+も倒せるんだ」


 あれ? 私ってすごくない?


「これならオーガも問題なさそうだな」


 浮かれる私の隣で、クロが新しいモンスターの名前を口にする。

 そのモンスターの名前は私も知ってる。


「オーガって鬼のモンスターだよね?」


 昔話に出てくるような鬼の姿ですごく強いモンスターってイメージ。


「そうだ。この階層でボスを除いた中で一番強いモンスターになるな」


「ここで一番強いモンスター......でも、私なら倒せるんだよね?」


 トロールだって一発だったし、さっきクロも大丈夫だって言ってくれたし。


「ああ、問題ないはずだ。オーガはB-だが、トロールより体力は低いからな。トロールを一撃で倒す今のハルカならオーガも倒せるはずだ」


「うん、わかった!」


 よかった。

 クロがそこまで言ってくれるなら、何も心配はいらない。




「いくよ!『(アイシームーン!)』」


 あの後、クロからオーガは赤属性だから青属性の魔法がいいとアドバイスをもらい、トロールを倒しながら進んだ先で上半身が凄く発達した鬼のモンスター、オーガが姿を現した。


 今までと同じ様に杖を構えて放った青属性魔法。

 大きな氷の球体を飛ばす中級魔法アイシームーンは、クロの言った通りオーガを一発で魔石に変えてしまった。


 これで上層にいるボス以外のモンスターは全種類倒したことになる。

 しかも全員魔法一発でだ。

 そうなってくると気になることが出てくる。


 こんなに簡単なら、もっと早く来れたんじゃ......


 私が獣装を使いたいと思っていることはクロも知っていたはず。

 だってずっとクロにそうアピールしてきたから。

 だけどクロは今まで連れて来てくれなかった。

 クロにはクロなりの考えがあるっていうのはわかってるけど、その理由ってなに?


「......俺がいたとしても“もしも”があるかもしれないからな。ハルカがボスを余裕で倒せるようになるまで待つつもりだったんだ」


 クロは少し言いにくそうに、そして申し訳なさそうに教えてくれた。


 私がマギアでクロと初めて会った日。

 たくさんのマンティコアに囲まれて恐怖と絶望でいっぱいいっぱいになっちゃった私を見ていたクロは、私に もうあんな思いをさせないようにと私が強くなるまで危ない所には連れて行かないつもりだったそうだ。


「ハルカが獣装を使うのをずっと楽しみにしているのはわかっていたんだが、今思えば過保護過ぎたかもな」


 現実と区別がつかないくらいリアルな世界だけどゲームはゲーム。

 死んでやり直すことが前提とも言える世界。

 そんな中でもクロは私が危ない目に遭わないようにしてくれていた。

 クロが言う通りそれは過保護過ぎなのかもしれないけど、私はそんなクロの気持ちがすごく嬉しかった。

 だから。


「ううん、そんなことないよ。クロ、ありがとう」


 クロにはありがとうって気持ちしかない。


「......そうか。それなら、まぁ、よかったよ」


「うん!」




 日が沈んだ森を抜けた先には大きな湖があった。


「着いたぞ」


 湖の近くまで来た所でクロが立ち止まる。


「ここにボスが?」


 辺りを見渡しても凪いだ湖面に満月が映る美しい風景が広がっているだけでモンスターの姿は見当たらない。

 だけどクロは一方向、森の方に視線を向けたまま動かない。

 そして。


「......来るぞ」


 短くそう告げるとアイテムストレージから短剣を2本取り出す。

 私達が来た所とは別の方向から聞こえてくる足音。

 満月の下にあっても真っ黒なそのシルエットに浮かぶのは4つの赤い瞳。


「......なに、あれ」


 近づくにつれて鮮明になったその姿は尻尾が蛇の双頭の犬。


「あいつがこの階層のボス、オルトロスだ」


「オルトロス......」


 その獰猛そうな姿に自然と杖を握る手に力が入る。


「......俺が抑える。ハルカは魔法で攻撃してくれ」


「う、うん」


 クロは迷わずオルトロスに向かって歩きだす。

 あんな恐ろしい見た目のモンスターに怯(ひる)むことなく向かっていくクロの後ろ姿が何だか遠く思えてしまう。

 だけどすぐに「あ......」と言って振り返り。


「......なるべく俺を避けるように魔法を撃ってくれ。今のハルカの攻撃はさすがに俺でも痛いからな」


 それだけ言うとクロはオルトロスへと駆け出す。

 そんな後ろ姿に向けて。


「ふふ、クロの嘘つき」


 私の魔法なんて簡単に避けちゃうし、当たったところで全然平気なくせに。

 でもありがとう。

 おかげでさっきまで感じていた恐怖はなくなったよ。


「よしっ!」


 頬を叩いて気合いを入れてから魔法の届く距離へ移動する。

 視線の先ではクロが自分よりも何倍も大きなモンスターと戦っている。


 クロがギルドバトルで戦ってる所は何度も観てきた。

 だけど神話に出てくるような大きな怪物と1体1で、しかも苦戦する様子もなく戦っている姿を見るとやっぱりクロはすごいんだと思い知らされる。

 だけど。


 私も負けてられないよね。


 杖をオルトロスに向けて構える。

 私だって太陽と月のメンバーになったんだ。

 いつまでもクロに助けてもらってばかりじゃ一緒に戦うことなんて出来ないよ。


「いくよっ! 『(ホーリーランス!)』」


 杖の先、正面に幾つもの魔法陣が展開され光の槍が一斉に発射される。


「まだまだ! 『(フレイムランス!)』」


 続けて同じ数の炎の槍を。


「これでっ!『(アイシクルランス!)』」


 さらに続けて同じ数の氷の槍をオルトロスへ向けて一斉に放つ。


 次々と飛んでいく中級魔法。

 そのほとんどがクロの足止めのおかげで命中、オルトロスを絶叫させると同時にその姿を土煙が覆い隠す。


「......倒した?」


 杖を構えたまま一人呟く。

 土煙で何も見えないけど何かが動く気配も音もしない。


「......倒したよね?」


 自分に言い聞かせるようにもう一度呟き、構えを解く。

 その直後、煙の中に動く何かが見えて身構えるも、それがよく知る人物だとわかりすぐに警戒を解いて駆け寄る。


「クロ! あいつは? オルトロスは?」


 クロがここにいる時点で結果はわかってるんだけど、一応確認してみる。


「......倒れたよ。これがドロップした魔石だ」


 そう言ってクロが魔石を渡してくる。

 何となく物言いたげな声に聞こえるのは気のせいだろうか。


「え、あ、うん。ありがとう」


 受け取った魔石は【赤の魔石 中】と表示されている。

 見た目が真っ黒なモンスターだったから黒属性かと思っていたけど赤属性だったみたい。


「......それでさっきの魔法なんだが......」


「ねえクロ! これで私も獣装が使えるってことかなっ!? あ、ご、ごめん! 何かな?」


 はやる気持ちを抑えられなくて、クロが何か言おうとしているのを遮ってしまったことをすぐに謝り聞き返すけど。


「......いや、いい。それで獣装についてだが、おそらく使えるようになっているはずだ。ステータスボードを確認してみるといい」


「う、うん。わかった」


 クロの話も気になるけど、言われるがままステータスボードを確認してみる。

 すると今まで暗くなっていた獣装の項目に色がついていることに気がついた。


「クロ、前に暗くなっていた獣装の所に色がついてる」


「なら獣装が使えるようになったってことだろうな。項目をタップすれば詳細がわかるはずだ。確認してみるといい」


「わかった!」


 獣装の項目をタップする。

 すると今まで反応しなかったウィンドウが切り替わり獣装の詳細画面が表示された。


 たくさんの文字が私の獣装について説明している。

 だけどまず一番に確認したかったのは獣装の名前。


 私の獣装は原初の三柱の一柱だ。

 きっとナイトメアキャットやタイラントドラゴンみたいなすごい名前に違いない。

 そう思って獣装の名前を確認してみたんだけど。


「......え? マオ?」


 マオ。

 これが私の獣装の名前なの?


『なんだ?』


「わぁっ!」


 急に頭の中に声が聞こえ、思わず叫んでしまう。


「ん? ハルカ? どうした?」


 クロのこの反応。

 やっぱり聞こえてないんだ。


「クロ、頭の中にまた声が......」


 クロには聞こえない声。

 これって......


『娘、いや、ハルカだったか。久しぶりだな』


 私の獣装。

 原初の三柱、最後の一柱の声だ。


お読み頂きありがとうございました。

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