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マギアの試練上層攻略②

いつもお読み頂き本当にありがとうございます。

 

side 皇遥


 マギアの試練に着いた私達は、前に来た時と同じように転移門のある部屋へと向かう。

 途中、私は隣を歩くクロにこっそりと視線を向けた。




 今日の学校での出来事。

 セツキくんの攻略配信を観てどうしても自分の獣装を使いたくなってしまった私は、断られることを覚悟で思い切って黒月くんにお願いしてみることにした。


 黒月くんには黒月くんの考えがあるんだろうし、私がワガママを言っても......


 なんて諦めムードでのお願いだったけど、意外にもすんなりとOKがもらえた。


 私の熱意が通じたのか、何を言っても無駄だと思われているのか、本当のところはわからないけど、黒月くんとの距離が前よりも近くなったのは間違いないはず。


 だから今の黒月くんなら......なんて思って、物理的な距離も縮めてみようとしたけど、結果はまだ微妙って感じだった。




 クロは転移門のある部屋を真っ直ぐ見つめスタスタと足を進める。

 だけど歩くペースは男の人にしては遅い。

 クロは私を見ていないようでちゃんと見てくれているのだ。


 それにさっきのは嬉しかったな。




 学校が終わってマギアにログインした。

 待ち合わせ場所はマギアの炎槌を一望できるあの展望台。

 時間よりも早く来てしまった私は、初めてログインした日と同じように炎槌の中、真っ黒い深淵を覗き込もうとして後ろから声をかけられた。


 声をかけてきたのはキスレ平原でよく話しかけてくる男の人で、私の苦手な自分語りをするタイプの人。

 せっかくの楽しい気持ちが台無しだよ なんて思いながら話をしていると、遠くからクロが歩いてくる姿を見つけた。


 私は待ち合わせの相手が来たから と伝え、挨拶も早々にクロへと駆け出す。

 クロと早く話したかったっていうのはもちろんあるけど、この人が私とクロの関係を勘違いして話しかけて来なくなってくれたら という思惑もあった。


 クロは駆け寄ってきた私を見て、話はいいのか? って聞いてくる。

 それがクロなりの気遣いっていうのは十分わかってるんだけど、男の人と話している私を見てもその人との関係について聞いてこないクロに、少しくらい嫉妬してくれても......とは思ってしまう。


 とはいえただの顔見知り程度だってちゃんと伝える。

 クロは変なところで察しがいいし、空気を読もうとするから、こういうことはちゃんと伝えておかないと要らない気を使われてしまいそうだ。


 そしてクロにあの人との関係を説明する時、本音を言えば話したくない人 ってハッキリ伝えたかったけど、クロに人のことを悪く言う人だって思われたくなかったし、迷惑をかけちゃうかもだから軽い愚痴程度に。そのつもりだった。


 だけど思い出すうちに気持ちがどんどん沈んできて、たぶんそれが表情に出ちゃったんだと思う。

 クロは私に話を聞かせてくれ って言ってくれた。


 あのクロが!? なんて言い方はダメだってわかってるけど驚いたのは本当。

 クロが私のことを気にかけてくれた。

 そのことがすごく嬉しかった。



 クロは私の話を聞いてくれた。

 今思えば初めてラハの森で会った時から、私の話を聞いてくれていたなって思った。

 あの時は私が危ない目に遭わないようにって仕方なく声をかけてくれて、仕方なく話を聞いてくれたって感じだった。

 でも今はクロから話を聞かせて欲しい って言ってくれて、その後 何か考えるって、気づかなくて悪かった って言ってくれてもっと嬉しくなった。


 クロが優しくなった。

 私のことを気使ってくれるようになった。

 だけどクロ本人から言わせれば、いつもと変わらない そうだ。


 でもさ。


 それってクロの中でそれが当たり前になったって事だよね。


 ちょっとポジティブ過ぎるかな?




 転移門を抜けた先は森の中、マギアの試練上層、階層名【選ばれし者達】だ。


 前回来た時は前半エリアで引き返したけど、今回は一番奥にいるボスの討伐。

 時間もないということでマップを見ながら真っ直ぐ目的地へと進んでいく。


「ねえクロ、ここのエリアの名前。選ばれし者達ってどういう意味なのかな?」


 隣を歩くクロに前から気になっていたことを聞いてみた。


 普通に考えれば私達プレイヤーのことなんだろうけど、何に選ばれてるんだろう?


「ああ、そのことか。......実は俺もハッキリとは知らないんだ」


「え? クロでもわからないの?」


 クロは今まで聞いたことは何でも教えてくれたから、このことも知ってるんだと思ってた。


「......俺にだって知らないことはあるぞ」


 フードの中から呆れの混じった声が聞こえてくる。

 だけど。


「......ただ何となく予想はついている」


 そう続けられた言葉には確信めいた何かがあるように感じた。


「予想? それって?」


「......昨日セツキが戦っていたレムナント。選ばれし者達はおそらくあいつらのことを指しているんじゃないかと俺は考えている。......まぁ、あくまで俺の予想だが」


 そう話を区切るクロの言葉を聞いて、昨日の配信のことを振り返ってみる。


「......そういえば昨日のコメントにもレムナントはこの世界の過去の人達って言ってたのがあったよね」


 確かブソンとソフィーは過去の勇者と聖女 とかそんな感じのコメント。


「ああ。そしてここ、マギアの試練は、以前は過去の勇者や聖女のように選ばれた者達しか入ることが出来なかったエリアなんじゃないかと予想している」


「あー、それで選ばれし者達ってことかぁ」


 マギア・ナシナ・オンラインって名前だもん。

 マギアの試練とナシナ空中庭園が関係しててもおかしくないよね。


 でもなんで過去の勇者達があんな真っ黒なレムナントになっちゃったんだろう。

 ......もしかしてみんな試練をクリア出来なくてああなったとか?


 だとしたら私も......


「......まぁ運営が何も言及してないから全て予想の範疇を出ないし、メタ的なことを言ってしまえばそういう設定ってだけの話だから、そういうものかと思っておくぐらいでいいと思うぞ」


「あ、そうだよね。設定だもんね。そっか、設定かぁ」


 そうだった。

 あまりにリアルだからゲームだってことつい忘れちゃったよ。


 そう安堵する私の隣でクロが足を止める。


「......ゴブリンがいるな。ハルカ、一人でやれるか?」


 そう言って見つめてくるクロに頷く。


「大丈夫!」


 前はクロに手伝ってもらわなきゃ危なかったけど、今の私なら。


「わかった。なら今からハルカにスキルを使う」


 そう言ってクロは私に向けて手をかざす。


「『サイレントボイス』......これで声を出さずに魔法が使えるようになったはずだ」


 ってクロは言うけど。


「そうなの? 特に変化はないけど......」


 そう言いながら自分の体を確認する。

 体が光った訳でもないし本当に何も感じなかった。

 クロを信用してないって訳じゃないけど、こう変化がないと......


「実感がないのは仕方ないがやればすぐにわかるぞ」


「うん。クロがそう言うなら......」


 杖の先をゴブリンに向ける。

 ゴブリンの数は4体。

 大丈夫、全部私の魔法の届く距離だ。


 せっかくだし新しく覚えた魔法を使ってみよう。


「じゃあ、いくよ。『(イグニス・ファトゥス!) 』あっ! 声が出ない!?」


 驚く私を他所(よそ)に杖の先には4つの魔法陣が展開され、青白い火の玉がそれぞれのゴブリンへと飛んでいく。

 飛んでいくスピードはファイアボールの方が全然早い。

 だけどこのイグニス・ファトゥスは追尾の魔法だからゴブリンをどこまでも追ってくれる。


「なるほど、イグニス・ファトゥスか」


 そんなクロの呟きが聞こえると同時にゴブリンに着弾。

 青白い炎がゴブリンを焼き尽くしていく。


 前に森で火の魔法は使っちゃダメだってクロに言われたけど、この火の玉は他に燃え移らないから森で使っても大丈夫。


 そんな私の言葉を実証するようにドロップアイテムを残して消えた4体のゴブリンの周りには焦げ跡一つ残っていない。

 覚えてから一度も使ったことがなかった魔法。

 それはそれで感動したんだけど、私の関心はそれよりもクロが使ってくれたスキルの方にあって。


「クロ! このスキルすごいね! 声が全然出なかったよ!」


 声を出したつもりなのに声が出ない。

 そんな初めての感覚に興奮する私に対してクロは、スっと少し後ろに下がりながら。


「......そうか。よかったな」


 いつも通りの反応。

 そしてちゃっかり距離を詰めたのもしっかりとバレていた。


 残念。


「あ、ギルドバトル中にクロが喋らないのってもしかしてこれを使ってるから?」


 ふと浮かんだことをクロに聞いてみる。


「ああ、その通りだ。自分で使う時はスキル発動時も口に出さなくていいから、このスキルは重宝(ちょうほう)している」


「そっかぁ、そういうことかぁ......」


 前にワタルさんはクロはデバフ担当だって言っていた。

 デバフは相手の意識外から使うと掛かりやすいって聞いたから、声を出さないスキルはクロにピッタリだ。


 試合中、クロはひと言も喋らないからスキルを使ってないんだと思ってたけど、実はちゃんとスキルを使ってメンバーの為に動いていたんだ。


「ふふ、また一つクロに詳しくなっちゃった」


 マギアに詳しくない私はクロが凄いってことはわかるるけど、何が凄いかまではちゃんとわからない。

 しっかり頭のメモ帳に書き込んでおかないと。


「......そうか。それは何よりだ。さあ、先を急ごう」


 クロは話は終わりだとさっさと移動を始める。

 私はそんなクロの隣に並んで話しかける。


「ねえ、クロ」


「......なんだ?」


 私を訝しむような声。

 また変なこと言ってくるんだろうな とか思われてそう。

 でも全然変なことじゃない。


「またクロのこと教えてね?」


 少なくとも私にとっては。

 そしてそんな私の顔をしばらく見つめていたクロは。


「......機会があったらな」


 それだけ言って前を向いてしまった。

 クロが言った言葉は約束を守らない人の常套句だ。

 だけど。


「約束だよ?」


「......ああ」


 クロは約束をちゃんと守ってくれるから大丈夫。


お読み頂きありがとうございました。

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