変わる日常
いつもお読み頂きありがとうございます。
side 皇遥
翌日の学校、いつもと同じように教室に入った私はクラスメイトとあいさつを交わす。
だけど何だかいつもと少し空気が違う。
その原因はすぐにわかった。
後方にある自分の席に座る直美、そして直美と会話をしている鈴木くんと加藤くん。
みんながこの3人の様子を気にしているのだ。
いつも佐藤くん達と一緒いる鈴木くんが別の相手と話しているのも少し違和感だけど、直美とは前から話していたし、そこまで気にならない。
みんなが気になっているのはそこに加藤くんが混ざっていることだと思う。
うちのクラスの目立つ2人とそうじゃない加藤くんの組み合わせ。
しかもその加藤くんは鈴木くんととても仲良さげに話をしていて、まるで長年の親友のように見える。
事情を知らない人が見れば驚くのも無理ないと思う。
「あ、遥おはよー」
「あ、皇さんおはよう」
「皇さんおはよう」
「みんなおはよー」
私に気づいた3人とあいさつを交わしつつ直美の右後ろにある自分の席に座ると、早速直美が振り返って話しかけてきた。
「......ねぇ遥、昨日の話だけどさ」
声のボリュームを抑えながらそう切り出した直美の表情には若干の緊張の色が見える。
それは私の近くに来た加藤くんと鈴木くんも同じで、なんだか私の方まで緊張してしまう。
「あれって全部マジな話なんだよね?」
「う、うん。そうだよ」
昨日の話。
超有名ギルド、太陽と月所属の正体不明のプレイヤー、クロは同じクラスの黒月くんで、同じくクラスメイトの私も絶対入れないと言われている太陽と月に所属している。
そんな誰も想像出来ないような有り得ない話に異常なテンションになった直美達に拘束された私と黒月くんは、絶対に口外しないことを約束に事の経緯を話すことになった。
結局解放されたのは数時間後。
普段は態度を崩さない黒月くんも、昨日は「やっと終わった」と疲れたように呟いてログアウトしていった。
「だよね。あまりにも信じられない話だったから夢だったんじゃないかって思ってさ」
「だよな」
「うん、本当にね」
直美の言葉に鈴木くんと加藤くんも頷く。
「あはは、だよねー」
その気持ちはすごくよくわかる。
私も黒月くんが太陽と月のクロだって知った時は同じ気持ちだったから。
「あー、だから皇さんはクロに詳しかったんだ」
「うん、実はそうなんだ」
鈴木くんが思い出したように口にした言葉に頷く。
黒月くんには言えないけど、最近はよく鈴木くんとクロ談議に花を咲かせていた。
クロのことを悪く言わなくなった鈴木くんに思い切ってクロのことを聞いてみたら、目を輝かせてクロのことを褒めるから、私も嬉しくなって2人でずっとクロの話ばかりしていたのだ。
鈴木くんはマギアに詳しいだけあって私よりもクロの凄さをちゃんと理解していて、クロのここが凄いと力説されて、保存していた過去の太陽と月のギルドバトル映像をもう一回見直してクロの凄さを改めて実感したと嬉しそうに語っていた。
「でも鈴木くんがクロと知り合いだったなんて思わなかったよ」
「本当に偶然だけどね」
昨日の話だと、鈴木くんが加藤くんと仲直りする為の手伝いをクロにお願いして、クロがそれを受けたという話だった。
そんなクロらしくないその行動に内心驚く私にクロは「変わるって約束したからな」とこっそり教えてくれて、私との約束をちゃんと守ってくれていることがすごく嬉しかった。
「って、皇さんこそでしょ。 知り合いどころかギルドに入るなんて凄すぎだよ」
「うん、だよね。私もそう思う」
初めてマギアにログインした日に太陽と月のメンバーに会えただけでも凄いのに、そのギルドに入っちゃったんだもん。
本当に凄い話だよ。
「ちなみにどうやってギルドに入ったの?」
「うん、それは僕も気になるな」
だよね。
だって絶対入れないって言われてるギルドだもん。
「えーと、それは黒月くんに誘われてなんだけど......」
でも私自身 なんで私? って感じなんだよね。
黒月くんが言うにはメンバーはみんな賛成してくれたって話らしいけど、その理由も聞かされてない。
「それって黒月に気に入られたってことじゃね?」
そう言って直美はニヤリと笑ってみせる。
だけど。
「うーん、どうなんだろう......」
今の黒月くんならワンチャンその可能性もあるかもだけど、当時の黒月くんからは一切そんな感じがしなかった。
むしろ避けられてたというか嫌われてるまであった気がするし。
「あー、でも黒月にそんな力無いかー」
「うん、さすがの黒月くんでも一存でって訳にはいかないでしょ」
直美と加藤くんのニュアンスは違うけど言ってることは同じ。
どんなに黒月くんが凄くても他の4人を差し置いてって言うのは私も無理だと思う。
ていうかミミさんとか絶対譲らないと思う。
「ねえ遥、実際黒月って他のメンバーと仲良いの? 嫌われてるとかハブられてるって話しか聞かないけど」
「うん、仲良いよ。ワタルさんと話してる時とか親友なんだなって感じするし」
クロは公の場では全然喋らないし、ミミさんもバフをかけなかったりで勘違いされてるけど、メンバーは全員仲良しだ。
その中でもクロとワタルさんは特に仲良しって感じ。
「へぇ、黒月とワタルさんが親友ねぇ」
「......思ったんだけど、会話にワタルさんの名前が普通に出てくるの凄いよね」
「確かに。昨日の黒月も普通にセツカさんの名前出してたし、なんて言うかヤバいよな」
「あー、やっぱ黒月って凄いやつなんだよね? 普段のイメージが強すぎて、いまいちピンと来ないというかさー」
「いやいや、凄いやつどころの話じゃないでしょ。超有名人だよ」
「だよねぇ。うわぁ、なんか黒月に会うの緊張してきた」
「わかる。でも黒月に会うのに緊張してるのなんて俺達ぐらいだよ」
「だよね」
3人がすごく盛り上がってて楽しそう。
昨日までただのクラスメイトだった人が実は誰もが知ってる有名人で、その秘密を知ってるのは自分達だけなんてシュチュエーション、盛り上がらない訳がないよね。
私も同じ立場だったら一緒になって喜んでたのにちょっと疎外感を感じてしまう。
「てゆーか遥、あんたよく平然としてられたよね」
「え?」
「え? じゃなくてさ、黒月の正体知った時とか何とも思わなかったの? 遥がおかしくなった記憶とか全然ないんだけど」
「それは驚いたけど、誰にも言わない約束だったから」
私の時の黒月くんは今みたいじゃなかったし「バラしたら、一生関わらないからな」的な圧があったから隠すのに必死だったんだよ。
「そんな約束よく守れたよね。私だったらこっそり誰かに話してるわ」
「直美、それはダメだよ。絶対内緒って約束したじゃん」
「あーごめんごめん冗談だって。さすがにこんな話軽々しく出来ないわ」
本当かなぁ?
しばらく目を光らせておいた方がいいかも。
「でも言ったところでこんな話誰も信じないだろうな」
「だよね......あ」
鈴木くんに相槌を打っていた加藤くんが、教室後ろの入り口に視線を向けたまま声を漏らす。
そんな加藤くんに釣られるように全員が入り口に目を向け、空気が張り詰める。
きた! 黒月くんだ。
後ろの入り口からいつものように静かに入ってきた黒月くんは、相変わらずの猫背と無気力な装いで、昨日の出来事なんてまるでなかったかのような普段通りの振る舞いで自分の席へと腰を下ろす。
「黒月くんおはよう」
他の3人が黒月くんを見つめるだけでなにも言わないから私が声をかける。
「......ああ、おはよう」
黒月くんはこちらを一瞥して短く挨拶を返す。
教室にいる時の黒月くんは相変わらず素っ気ない。
「......ねえ黒月、昨日マギアで私と会った?」
直美が確認するように黒月くんに問いかける。
黒月くん、マギアで会った時とギャップがあり過ぎるから直美も困惑してるのかも。
「......会ったな。昨日のことは他言無用で頼む。あと鈴木と加藤も頼む」
「わかってるって」
「ああ、もちろんだ」
「うん、わかってる」
3人共黒月くんの言葉に素直に頷く。
さすがにここで嫌とは言えないよね。
「......黒月、あのさ」
鈴木くんが言いにくそうに話しかける。
「ん? どうした?」
「今まで色々悪かった。本当にごめん」
そう言って鈴木くんは黒月くんに頭を下げる。
だけどその光景は昨日散々見たもので。
「昨日も言ったが気にしてない。それに謝罪は昨日十分に受けとった。だからもう必要ない」
「でもさ、今までクロのことずっと弱いって勘違いしてめっちゃ悪口言ってたし、謝り足りないんだよ」
「そうは言ってもな......まぁ実際そう見える戦い方をしていたのは事実だし、鈴木だけが悪い訳じゃない。だから本当に気にしないでくれ」
「......わかった。ありがとう、黒月」
黒月くんの返事を受けて鈴木くんの顔に笑顔が戻る。
そして鈴木くんとは逆に黒月くんは居心地悪そうに頭を搔く。
そんな黒月くんを見た私は、ニマニマを抑えられなくなって。
「......なんだ? 皇」
「ううん、別に」
黒月くんの訝しむ視線に見つめられるけど、怒ってないのを知ってるから全然平気。
「......皇も随分逞しくなったな」
「黒月くんのおかげだね」
嫌味も全然気にならないよ。
「......あんた達こんな所でイチャイチャすんのやめてくんない?」
直美の苦言に加藤くんも苦笑い。
そして黒月くんは。
「......勘弁してくれ」
さすがにそろそろ止めないと。
嫌われたら元も子もないし。
「......あのさ、黒月」
「......今度はなんだ?」
様子を伺っていた鈴木くんがまた黒月くんに声をかける。
「その......握手してくれないか?」
「......別にいいが」
スっと差し出された右手を恐る恐るといった感じで両手で握る鈴木くん。
そんな光景を遠目に見ていた佐藤くんから声がかかる。
「おい鈴木! お前何黒月の手握ってんだよ。ソッチにでも目覚めたか?」
「鈴木ヤベェな」
「罰ゲームか?」
「黒月って言うのがウケるよな」
佐藤くんのグループから鈴木くんを小馬鹿にしたような声と笑い声が上がり、他のクラスメイトも黒月くんに握手をお願いした鈴木くんに奇異の目を向ける。
だけど鈴木くん本人はそんなこと一切気にも留めない様子で。
「......やべぇ、本物だ。すげぇ......」
自分の世界に入って感動している。
「......鈴木、もういいか?」
「あ、ああ、ありがとう」
一頻り握手を堪能された黒月くんが居心地悪そうに声をかけると、鈴木くんは名残惜しそうに手を離した。
やっと解放されたと安堵する黒月くん。
だけど。
「黒月くん、僕もいいかな?」
「......加藤。お前もか」
今度は加藤くんにお願いされて渋々といった感じに右手を差し出す。
その手を加藤くんも鈴木くんと同じように両手で掴み。
「......これは感動するね」
「だよな」
加藤くんの呟きに鈴木くんがうんうん頷く。
鈴木くんに続いて加藤くんも黒月くんと握手をお願いした。
その光景に戸惑うクラスメイトの中で、佐藤くん達のグループだけは相変わらずこっちを見て馬鹿にしたように笑っている。
だけど黒月くんの凄さを知っている2人は全く気にしていない。
そしてこの絶好の流れに乗らない手はない私は。
「黒月くん私も、私もいいかな?」
加藤くんが手を離したタイミングで黒月くんにお願いする。
「......皇、お前は違くないか?」
そう言いつつも右手を出してくれる黒月くん。
きっと鈴木くんと加藤くんが流れを作ってくれたおかげだ。
そういえば黒月くんの手に触るの初めてかも......
内心のドキドキを隠しながら私も両手で黒月くんの手を掴む。
うわぁ! 黒月くんの手だ! 大きくて男の人って感じ。でも指とか思ってたより細いんだなぁ......
周りに気づかれないくらいの力でニギニギしたりして感触を堪能する。
黒月くんからは物言いたげな目を向けられてるけど、ここは気づかないフリだ。
「見てみ、佐藤達の顔マジウケるから」
直美の言葉に鈴木くんと加藤くんは苦笑い。
そんな一場面があったみたいけど、私の意識は黒月くんに向いていて全然気づかなかった。
「......皇、もういいだろ?」
「う、うん。ありがとう」
どれくらいの時間が経ったのかわからないけど、痺れを切らした黒月くんからの終了のお知らせを受けて私のボーナスタイムは終了を迎えた。
じゃあ、次は直美?
そんな気持ちで目を向けると悪そうな表情をした直美と目が合って。
「私は誰かさんの目が怖そうだから遠慮しとくわー」
そんなことを言われてしまった。
でも全くその通り。
「ところで話変わるんだけどさ、遥っていつデビューさせるの?」
「まだ先だろうな。今の皇の実力じゃ、アンチが許さないだろうしな」
うん、だよね。
獣装だってまだ使えないし、試合に出てもまともに戦えるなんて思ってないよ。
「まぁそれもそうか。てゆーか黒月がアンチを語るとか説得力あり過ぎてウケる」
「確かに」
「だね」
「............」
直美の言葉に鈴木くんも加藤くんも頷き、黒月くんが物言いたげな目を向ける。
昨日から黒月くんのこういう姿をよく見る。
黒月くんは不本意かもしれないけど、私は黒月くんとの距離が近くなった気がして嬉しい。
太陽と月のクロの正体。
黒月くんと私、2人だけの秘密じゃなくなっちゃったのは残念だけど、この5人で秘密を共有するのも悪くないと思った。
お読み頂きありがとうございました。




