表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
32/68

阿吽①

いつもお読み頂きありがとうございます。

 

side 黒月一輝


 クラスマッチの午前中、頼んでおいた刀が2本出来上がったと連絡があった。

 学校終わりに受け取りに行く(むね)のメッセージを送り、次にフレンド登録をした鈴木(ショウ)に刀が出来上がったとスマホからマギア経由でメッセージを送った。


 その日の昼食の時間、鈴木からメッセージの返信があり、今日の受け取りでもいいかと聞かれ了承のメッセージを送った。


 鈴木も親友に早く謝りたいのだろう。

 俺としても早く渡してやりたいと思っていたから丁度いい。


 クラスマッチ終了後、皇に「今日は一緒にできる?」と聞かれ、用事があると告げると目に見えて落ち込まれた。


 最近 皇のこういう表情に弱い。


 だからだろうか、咄嗟(とっさ)に「時間はそんなにかからない、その後でいいなら......」なんて言ってしまったのは。

 皇は「終わったら連絡ちょうだい」と言って嬉しそうに笑った。



 そして現在、マギアにログインした俺はギルドルームにやってきた。


「セツカ、刀を受け取りに来た」


「......ん......これ」


 定位置のロッキングチェアに座って本を読んでいたセツカに声をかけると、相変わらずの半目で俺を見上げた(あと)、アイテムストレージから刀を2本取り出して渡してくる。


「すまない。助かった」


「......いい......お互い様」


 以前ハルカに渡した杖は武器のレア度も低く俺でも気兼(きが)ねなく付与できたが、今回はレア度の高い武器だった為 慎重を()して付与が得意なセツカに頼んだのだ。


 全ての武器には3つのスロットが付いていて、1スロットにつき1種、計3種の効果を付与することができる。


 例えば攻撃力上昇を付与したい場合、普通に付与するとランダムで攻撃力上昇S~攻撃力上昇Eのどれかが付与される。

 そこに専用アイテムを追加で使用することで、高いランクの上昇値が出る確率を上げることが出来るのだ。

 ちなみに1度付与したスロットには再度付与することは出来ない為、やり直しのきかない一発勝負となっている。


 そして今回セツカに頼んだ付与は特殊なもので「最初のスロットに付与する効果は必ず高い上昇値が出る」という効果を付与してもらった。

 俺が使う武器じゃないから使用者に好きな効果を付与してもらおうと考えてのことだ。


「それじゃあ、俺はこれで行かせてもらう」


 ショウとの待ち合わせ時間までギリギリだ。

 (いそ)がないと。


「......クロ」


「ん? どうした?」


 セツカに呼び止められジッと見つめられる。

 何かあったのだろうか。


「......クロ......丸くなった......今の方が......いい」


 そう言ってセツカは顔を(ほころ)ばせて笑う。

 あまり感情を出さないセツカが笑うのは珍しい。

 得した気分だ。


「丸くなったって......」


 もっと別の言い方があるんじゃないのか。

 と思わなくもない。


「......たぶん......ハルカの......おかげ」


「......まぁ、そうだろうな」


 自分でも心当たりが無いわけじゃない。

 ハルカと一緒にいるようになってから自分のペースを乱され続けているが、不思議とそれが嫌だとは感じない。

 だから自分に変化があった自覚はあったが、まさかセツカから指摘されるほどの変化だとは思わなかった。


「......ハルカと......何かあった?」


 そんな質問にギクリと心臓が跳ねる。

 思い出されるのは今日のクラスマッチ、ハルカと2人で話した時の出来事だが、顔に出さず平静を装う。


「......なんでそう思った?」


「......女の......勘」


 セツカはそう言ってふんす! とドヤ顔を決める。


「......そうか」


 なるほど。

 そろそろ行くか。




  セツカと別れギルドルームを(あと)にした俺は、そのままショウとの待ち合わせ場所であるセントラルエリアにやってきた。


「悪い、待たせた」


「あ、クロさん。大丈夫です。わざわざ来てもらってすみません」


 既に待ち合わせ場所にいたショウに声をかけると、ショウは笑顔で頭を下げてくる。


「いや、気にしないでくれ。武器の説明をしたいと言ったのはこっちだしな」


 ショウに出来上がった武器を渡す方法として、セツカから武器を受け取って(あと) ハルカの時と同じようにギフトとして送るという方法もあった。

 だが武器の性能や付与効果の説明を、長文が送れないマギアのメッセージ機能で説明するのが面倒(めんどう)だった俺が直接渡したいと申し出たのだ。


「俺の為にわざわざ時間を作って説明までしてくれるなんて......本当にありがとうございます!」


「......まぁ、これくらいはな」


 毎回思う事だが普段のショウを知ってる分こういう反応をされると とてもやりづらい。

 だからこれ以上勘違いされる前にさっさと要件を済ます事にした。


「......それで早速で悪いが確認して欲しい。これが......」


「ショウちゃん......」


 アイテムストレージから刀を取り出そうとした時、ショウを呼ぶ声が聞こえ、釣られた俺もそちらに顔を向ける。

 そこに立っていたのはショウの甲冑とよく似たデザインの装備を身に()けた大人しそうな黒髪の少年。


「......シンヤ」


 ショウがポツリと名前を呟く。

 どうやら彼がショウの親友で間違いないだろう。

 そして俺はこの少年に見覚えがある。

 彼の名前は加藤信弥。

 今日のクラスマッチで俺とペアを組んでバドミントンで優勝したクラスメイトだ。



「......ショウちゃん、こっちで会うのは久しぶりだね」


「......お、おう、そうだな」


 俺達の近くまで来た加藤(シンヤ)はショウに話しかける。


 2人とは毎日のように教室で顔を合わせているが、話をしてる姿は(ほとん)ど見たことがない。

 そして久しぶりと言うだけあってお互い遠慮しているようで何ともぎこちない感じがする。


「......それで話したいことって何かな? もしかして隣の人と関係あったりする?」


 シンヤがショウに向けていた視線をこちらに向ける。

 何となく敵意を感じるような視線。

 昼間の加藤とは大違いだ。


「え? いや、この人は......」


「もしかしてショウちゃんが新しくパーティを組んだ人?」


 ショウの言葉をシンヤが(さえぎ)る。

 どうやら俺とショウの姿を見た時から、シンヤの中で一つの答えが出ていたようだ。

 全く見当違いな訳だが。


 このままだと話が変な方向に行きそうだな。


 そう考えた俺はすぐに2人の会話に割り込むことにした。


「いや、違う。俺はショウの手伝いをしただけで今回の話には関係ない。

 それでシンヤと言ったか? 悪いがショウの話を聞いてやってくれないか?」


 初対面のフリをしつつ、自分は無関係なことを伝え、ショウの話を聞いてもらえるように(うなが)す。


 以前の俺ならこんな面倒な事なんてやらなかっただろう。

 我ながらすごい心境の変化だと思う。


「え? あ、はい。わかり、ました......」


 シンヤは話が見えないなりに頷く。

 雰囲気も柔らかいものに変わった。

 どうやら一応誤解は解けたようだ。

 それを確認した(あと) 今度はショウに話しかける。


「ショウ、シンヤに伝えることがあるんだろ? さあ」


「は、はい。ありがとうございます」


 背中を軽く押してやると緊張した面持ちでショウが頷き、シンヤへと目を向ける。

 シンヤもショウの緊張した表情に顔を強ばらせながらショウの目を見つめる。


「......シンヤ、今まで本当にごめん! 自分から距離おいてこんな事言える筋合いないかもしれないけど、また俺と一緒にマギアをやってくれないか? お前と一緒にやりたいんだ。頼む!」


 思いを伝えたショウは深々と頭を下げる。


「............」


 シンヤはその姿を何も言わず見つめている。

 しかしその表情は様々な思いに心を揺らし、なんて声をかければいいか迷っているように見えた。

 だからだろうか。


「......ショウとは卯月城で会ったんだ」


 俺もお節介(せっかい)になったもんだ。


「え......」


 突然 俺が口にした卯月城という名前に、シンヤの表情が驚きに変わる。


「虹色玉鋼を手に入れる為にずっと一人で卯月城に潜っていたらしい。自分のせいで疎遠になった友達と仲直りする為にはそれが必要だと言ってな。

 ......それでリクドウを倒すのを手伝って欲しいと頼まれたんだ。虹色玉鋼以外のアイテムなら要らないと言われてな」


「リクドウ......って!? ショウちゃん! リクドウと戦ったの!? ムミョウより強いやつじゃん! いくらなんでも無謀だよ!」


 リクドウの強さを知っているシンヤは、ショウの無謀な行動に抗議する為 ショウに詰め寄る。

 それが虹色玉鋼、自分の為だと言うのだから(なお)の事だろう。


「......わかってたさ。リクドウの強さも、それが無謀だってことも。でも俺一人じゃ虹色玉鋼を手に入れることが出来なかったんだ。

 だから頼んだんだ。この人に、太陽と月のクロさんとならリクドウと戦えるんじゃないかって思ってさ」


「え? 太陽と月? クロさん? それって......じゃああなたは、あの太陽と月の、クロさん?」


 ショウの言葉に驚いたシンヤがこちらに顔を向ける。

 まだ状況を理解出来ていないのか、自分に言い聞かせるようにゆっくりと言葉を(つむ)ぎながら。


「ああ、俺がそのクロで間違いない。

 ショウはリクドウと正面から戦ったよ。そして勝ったんだ。大した奴だよショウは」


 ショウの頑張りをしっかりアピールする。

 リクドウの強さを知っている人ほどショウがどれだけすごいことをやって退()けたのか伝わるはずだろう。


「本当に? あのリクドウを倒したの? ショウちゃんが?」


「ほとんどクロさんのおかげだけどな。俺一人じゃ到底無理だったよ。もう一度やれって言われても勝てる自信ないしな」


 そう言って苦笑いするショウにシンヤは首を振る。


「それでもだよ。リクドウと戦ってしかも勝つなんてショウちゃんはすごいよ」


 シンヤがショウを笑顔でたたえる。

 その反応にショウも満更(まんざら)でもなさそうだ。


 2人の(わだかま)りが()けてきた気がする。

 あともうひと押しか。


「......それでリクドウから虹色玉鋼はドロップしなかったんだがショウが【冥月】をドロップしたんだ。でも約束だからと俺に渡してきた。俺はショウが欲しいなら譲ってもいいと思ったんだがな」


「え? 冥月って、何で!? ショウちゃん! あの冥月だよ! ショウちゃんだってあの刀の凄さを知ってるでしょ?」


 冥月はレア度、性能共に最上位クラスの刀で、装備してるだけで一目(いちもく)()かれるくらい強力な武器の為、手に入れることを目標としているプレイヤーも数多い。


 その価値を知ってるからこそのシンヤの慌てよう。

 そしてそんなシンヤにショウは苦笑いで返す。


「元々の約束だったし、俺はシンヤともう一度マギアをやりたくてリクドウと戦ったんだ。冥月や強い装備が欲しかった訳じゃない。だから冥月のことはいいんだ」


「ショウちゃん......。そっか。うん、なんかショウちゃんらしいね」


「だろ?」


「うん」


 ショウとシンヤが笑い合う。

 昔からの親友と言うだけあって、お互いを理解しているのが俺にも伝わってくる。


「だがそれだと俺が納得いかなくてな、冥月を受け取る代わりにショウに刀を作らせて欲しいと言ったんだ。

 そしてこれがその刀なんだか......」


 アイテムストレージから2本の刀を取り出してショウとシンヤに見せる。


 刀の種類は2本とも冥月と同じ打刀(うちがたな)

 同じ装飾が施された赤を基調とした刀と、青を基調とした刀。


「この刀の名前は【()】【(うん)】という」


「阿......」


「吽......」


 ショウが赤い刀【阿】を、シンヤが青い刀【吽】をそれぞれ見つめる。


「単体ではそこまで強い武器ではないが、この刀には特殊効果があって装備者同士が近くにいる場合ステータスに補正が入るんだ。ちなみにその際の攻撃力は冥月以上になる」


「冥月以上......」


「すごい......」


 2人とも言葉短くジッと刀を見つめている。

 驚くのも無理はない。

 冥月の性能を超える武器なんて()()うないからな。

 まぁその分素材も貴重な物を使っているのだが、そんなこと説明する必要は無い。


「それに(くわ)えセツカに頼んで、最初に付与する効果は必ず高い上昇値で付与されるようにしてもらってある。だから好きな効果を付与するといい」


「セツカって、あの太陽と月のセツカさん......。すげぇ、セツカさんもこの刀の為に......」


「またすごい名前が......」


 ショウもシンヤもそれぞれの反応だがセツカの名前に驚いている。

 同じギルドに所属しているがセツカのネームバリューは俺なんかとは比べ物にならないからな。

 まぁセツカに限った話ではないが。


「あの、本当にいいんですか? こんなすごい刀、俺なんかがもらっちゃって......」


 ショウが遠慮がちに尋ねてくる。


「もちろんだ。俺が持ってても仕方ないしな。それに冥月の代わりなんだ。受け取ってくれ」


「ありがとうございます。......これが俺の新しい刀......」


 ショウは俺の手から【阿】を受け取るとマジマジと眺め口元を緩ませる。

 その顔が見れただけで作った甲斐があったというものだ。


「............」


 しかしその一方でシンヤは【吽】を見つめたまま一向に受け取ろうとしない。

 隣で阿を眺めていたショウもそんなシンヤの様子に気づいたらしく、真剣な表情でシンヤに話しかける。


「......シンヤ、その刀をもらってくれないか? 俺はお前にその刀を使ってもらいたいんだ」


 そんなシンヤは、俯いたまま目を閉じた(あと) ゆっくりと首を振る。


「......ショウちゃんごめん。僕には受け取れない」


 シンヤの拒絶の言葉にショウは悔しそうに俯く。


「......何でだ? やっぱり俺のこと許せないからか? シンヤには本当に悪かったと......」


「違う! そうじゃないんだ。僕は最初からショウちゃんのこと怒ってないよ。受け取れないのは別の理由なんだ」


「......なんだよ? 別の理由って」


「......僕、ギルドに入ったんだ」


「っ!?」


 シンヤの言葉に驚きで反応できないショウをそのままにシンヤは言葉を続ける。


「だから、ショウちゃんと一緒にはマギアを出来ない。それを受け取る訳にはいかないんだ」


「そっか。ギルドに......それは、しょうがないか」


「うん、ごめん」


 ショウもシンヤも俯き、まるでお通夜のような状態になってしまう。

 だがシンヤの事情を知っている俺としてはそこまで問題があるようには思えない。


 シンヤが入ったギルドというのは相澤のギルドで間違いないだろう。

 確か相澤がシンヤを誘った理由は男避けが欲しいだったはず。

 そして相澤とショウの仲は悪い訳じゃない。

 それに相澤の性格なら、シンヤとショウの関係を知れば上手くやってくれる気がする。


 なら俺がすべきことは......


「......2人共ちょっといいか。思ったんだが、そのシンヤの入ったギルドにショウも入ることは出来ないのか?」


 何も知らない無関係者を装い、思い付いた風に提案する。


「......シンヤ、出来るのか?」


 ショウもその考えが頭にあったのか、すぐに期待を込めた目をシンヤに向ける。


「わからない。けど、そうだね、お願いしてみるよ。相澤さんならいいって言ってくれるかもしれなし......」


「相澤さん? なあ、それってもしかしてうちのクラスの相澤さんか?」


「う、うん。そうだよ。その相澤さん」


 ショウの指摘にシンヤがぎこちなく頷く。

 心做(こころな)しかシンヤが照れてるように見えるのは俺の気のせいだろうか?


「......シンヤさぁ、それを早く言ってくれよ。全然知らないギルドかと思ったじゃん」


 相澤のギルドと聞いて気が抜けたのか、ショウがシンヤに物言いたげな目を向ける。


「ご、ごめん。なんか言い出しにくくて......」


「......でも相澤さんなら、もしかしたら俺も入れてもらえるかも......」


「そうだよね。僕も一緒にお願いしてみるよ」


 よかった。

 これなら何とかなりそうだな。


 ショウもシンヤも表情が随分明るくなった。

 あとは相澤次第だが、まぁ問題ないだろう。


「......じゃあ、この刀はシンヤのでいいな?」


 (いま)だ俺の手にあった【吽】をシンヤに渡す。


「え? あ、はい! ありがとうございます!」


 シンヤは刀を受け取ると嬉しそうに頭を下げる。


 これで俺の役目は終わりだ。

 正体がバレる前にさっさとお(いとま)するとしよう。


「じゃあ俺は......」


「あれ? なんでシンヤと一緒にショウもいんの?」


 ショウとシンヤに別れを告げようとしたタイミングで声がかかる。


 まずいな......


 聞き覚えのある声を聞き背中に嫌な汗が伝う。

 恐る恐る声のした方へ振り返ると、そこにいたのは数人の女性。


 1人は相澤。

 ショウとシンヤに声をかけた人物で、神官服を着た彼女はマギアの世界でも相変わらず気だるそうな雰囲気を(まと)っている。


 その近くには見覚えのない3人の女性。

 おそらくこの3人が相澤のギルドメンバーだろう。


 そして。


「......え、なんで......」


 ショウでもシンヤでもなく俺の姿を驚いた表情で見つめる1人の女性。


 それは俺のセリフだ ハルカ。

 なんでここにいるんだよ......


お読み頂きありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ