VSフランボワーズ戦
side 皇遥
ギルドルームでの自己紹介が終わった私は、前にナオ達と観光で来たコロッセオ風の巨大建造物、ギルドバトル会場の特別席に腰を下ろしている。
特別席は会場の上部に突き出た形で設置されていて会場全体を見渡せる他、ドローンから送られてきた映像を映し出す複数のモニターによりバトルをより詳細に楽しむことができる造りになっている。
そんなVIPが観戦するような特別な場所になぜ私がいるのかというと、まだ太陽と月に加入したことを公にできない私にワタルさんが配慮してくれた結果なんだけど、正直いって居心地が悪い。
うわぁ、めっちゃ見られてるよ。
特別席にはドレスコードがあるのか他の観戦者の人達は一様に似た服装をしている。
その中でただ一人冒険者の格好をしている私は浮いた存在になっていて常に誰かしらにチラチラと視線を向けられている。
さっきなんて知らないおじさんに「どこのギルドの方ですか?」とか「うちのギルドに来ませんか?」なんて急に話しかけられて断るのも一苦労だった。
*『ギルドランキング』*
ギルドランキングの順位はギルドバトルの勝敗によって増減するGBPの保有数によって変動している。
各ギルドはGBPの保有数によりS A B C D E の6ランクに分けられており、対戦相手のギルドは同ランク内のギルドの中からランダムでマッチングされている。
Sランクギルド GBP保有数 ~50位
Aランクギルド GBP保有数 51位~200位
Bランクギルド GBP保有数 201位~400位
Cランクギルド GBP保有数 401位~700位
Dランクギルド GBP保有数 701位~1000位
Eランクギルド GBP保有数 1001位~以下
眼下では締めの一戦となる、ギルドランキング1位【太陽と月】と、ギルドランキング21位【フランボワーズ】の試合が始まろうとしている。
やっぱすごい人気だなぁ。
対戦相手のフランボワーズの入場が終わり、反対側の入場口から太陽と月のメンバーが姿を現すと会場全体から割れんばかりの歓声が沸き起こる。
今、このギルドバトル会場の主役は間違いなく太陽と月で、私もそのメンバーの一員だと思うと身が引き締まる思いで自然と背筋がピンとなった。
会場では試合前恒例のギルド紹介が行われているので、その間に事前にワタルさんに教えてもらった今回の作戦内容をおさらいする。
対戦相手のフランボワーズは近接中距離戦闘メインの短期決戦型のギルドで、飛行能力を持つプレイヤーがいない為、今回はパフォーマンス重視の戦い方をすると言っていた。
日本で21番目に強いギルド相手に余裕をみせるワタルさんの言動やそれについて特に言及しない他のメンバーには驚かされたけど、それを裏付ける実力と実績があるんだからさすがとしか言いようがない。
ギルド紹介も終わりお互いのメンバーが所定の位置につくと、会場内はシンと静まり返り、あとは試合開始の合図を待つばかりとなる。
ヤバい、緊張する。
自分が戦う訳じゃないのに心臓がドキドキして息が詰まる。
今まではただの娯楽として試合を眺めていたけど、近い将来あの場所に立って、クロや他のメンバーみんなと一緒に戦うことを想像するとこれから始まる戦いは一瞬たりとも目を離したくない。
『それでは、試合開始です!』
試合開始を告げるブザーが会場内に鳴り響くとプレイヤー全員が一斉に動き出す。
「『獣装、ミカエル』」「『......獣装......ユグドラシル』」
最初に動き出したのはミミさんとセツカちゃん。
ミミさんの体から光り輝く魔力が溢れ出し、二重の光輪と3対6枚の翼が現れ、空に舞い上がる。
一方のセツカちゃんは前に出した右手の人差し指から緑色の魔力の雫を一粒地面に落とす。
すると雫が染み込んだ場所から地鳴りと共に巨大な植物が生えてきて、セツカちゃんを枝に乗せながら巨大樹へと生長を遂げる。
セツカちゃんの「ユグドラシル」は獣装では珍しい顕現型の獣装で、見上げるほど大きく雄大なその姿はいつ見ても圧倒されてしまう。
「『守護結界』『セイクリッドサークル』『戦神の加護』『ヘイスト』」
ミミさんが左手に持った聖典を開き右手を前に突き出すと、クロを除く各メンバーを囲うように正八面体の光の結界「守護結界」が現れ、範囲結界「セイクリッドサークル」がワタルさん、ミミさん、セツカちゃんを余裕で囲える程の範囲で展開される。
そして攻撃力と魔法攻撃力を上げる「戦神の加護」と、素早さを上げる「ヘイスト」を付与されたワタルさんとセツキくんの体が一秒程光り輝く。
「『ワード・オブ・マジック』『ワード・オブ・フィジカル』」
そして更に追加でワタルさんの魔法攻撃力とセツキくんの物理攻撃力を上げていく。
「『......樹海生成』『......トラップシード・バインド』」
セツカちゃんが手にしている魔導書が緑色に光ると「樹海生成」の効果で、フィールドの中央部から外に向けて広がるように大量の木々が生えてきて瞬く間に森が形成される。
更に魔導書から捕縛の罠スキル「トラップシード・バインド」飛んでいき雨のように森に降り注ぐ。
「『獣装、フェンリル』」
突如セツキくんの足元から激しいブリザードのような竜巻が発生してその姿を覆い隠す。
そしてその数秒後、弾けるように白い竜巻が霧散すると、中から白い狼耳と尻尾、途中で鎖が切れた無骨なデザインの首枷と、同様の手枷を両手に嵌めたセツキくんが現れ、会場全体から女性の黄色い声が沸き起こる。
「では行きましょうか」
そんな会場の反応も意に介さないセツキくんの言葉にクロが無言で頷くと即座に駆け出し、二手に分かれて森の中へと消えていく。
その間にフランボワーズも準備が終わったようだ
明らかに罠と分かる森には向かわずにメンバー全員でミミさん達の所へ向かってくる。
「『豪弓』『スプレットショット』」
「『サンダーレイ』」
兎耳と角の付いた獣装、ジャッカロープの弓使いが矢を、狐の獣装、テウメソスの魔法使いが電撃を帯びた光線をワタルさん目掛けて同時に放つけど、光の結界『セイクリッドサークル』がそれを防ぐ。
「悪いけど、全員森に入ってもらうよ」
尚も目の前まで迫ってくる複数の攻撃に微動だにしないワタルさんは、普段と同じ口調で空に向け右手を掲げる。
「『メテオレイン』」
右手を振り下ろすと、空から無数の小型隕石が中央の森を避けるようにフィールド上に降り注ぐ。
激しい衝突音と共に次々とクレーターが形成されていき、回避不可と判断したフランボワーズのメンバー達は堪らずといった感じで全員森に逃げ込んでいく。
うわぁ。これは、やば過ぎだよ。
私のいる特別席の目の前を次々と隕石が通り過ぎ地面に衝突していく。
そんな地球最後の日のような光景に、私も含め特別席や観客席にいる全員の顔が引きつる。
「『アースクリエイション』」
隕石が止むと同時にワタルさんが右手の手の平を地面に着け唱えると、中央の森を囲うように地面が隆起していき、巨大な土壁によって全員が森の中に閉じ込められる。
「『......サモン・エント』」
それを待っていたセツカちゃんが召喚魔法を唱えると、樹海が召喚光により数秒間光り輝いた後、樹海の中を歩く巨大な植物モンスター、エントが姿を現した。
巨大な土壁と深い森によって戦いを視認することが不可能になった観客達は、会場に設置された映像モニターでの観戦に切り替える。
そんな森の中では今まさにクロとセツキくんがそれぞれ別の場所でフランボワーズのメンバーと交戦している。
「『疾風迅雷』『剛気解放』」
ミミさんからのバフに加え『疾風迅雷』と『剛気解放』で素早さと瞬発力、攻撃力を上げたセツキくんは物凄い速さで木々の間を移動し相手と接敵する。
セツキくんが相手をしているのは、セツキくんと似た狼の獣装、スコル、ハティの格闘系コンビとさっき『サンダーレイ』を使用していた狐獣装の魔法使いの3人。
「『青闘衣』」「『白闘衣』」「『黒闘衣』」
セツキくんが青色、スコルの人が白色、ハティの人が黒色の闘気をそれぞれ纏い激しくぶつかり合う。
高速で移動しながらの戦闘は闘気同士がぶつかり合う度にお腹に響く轟音と衝撃が発生して、某バトル漫画さながらの光景を生み出している。
「『ストームランス』」
合間縫って、魔法使いがセツキくんに向かって風魔法の槍を複数放ってくる。
「『喰らい尽くせ、グレイプニル』」
魔法の発動を一瞥したセツキくんが声を上げる。
すると手枷の鎖が意思を持ったように魔法を薙ぎ払い、その全てを喰らい尽くす。
「くっ!『サンダー......』」
「させません! 『縮地』」
「う゛っ! きゃぁぁぁああ!」
もう一度魔法を使おうとした魔法使いに一瞬で近づき、顎への掌底からの回し蹴りで、セツカちゃんが設置した『トラップシード・バインド』まで吹き飛ばす。
するとそれに反応したトラップシードから勢い良く木の根が飛び出し、魔法使いを雁字搦めに捕縛する。
「......さあ、続きをやりましょうか」
セツキくんは相手2人を見据えるとニコリと笑い駆け出す。
セツキくんが1人を捕縛した段階で、もう一方のクロはまだ3人と戦っている。
クロが相手をしているのは鬼の獣装、八瀬童子の侍と、山羊の獣装、ヘイズルーンの神官、それにジャッカロープの弓使いの3人。
ただ、こっちは1対3じゃなくてセツカちゃんが召喚した植物の巨大、エントがクロとコンビを組んで2対3で戦っている。
だけど相手の3人はエントを無視してクロに襲いかかっている。
侍が刀で斬りかかり、神官がメイス振るう。その隙を埋めるように弓使いが矢を放ち、クロに隙を与えないように攻撃を仕掛けている。
それをクロは正確に見切り最小限の動きだけで全て避けている。
たまに手に持ったナイフで攻撃を受けたり、矢を防いだりしているけど、反撃する様子は一切ない。
傍目には防戦一方に見える戦い方。
だけど見る人が見たら......
......クロ、凄すぎだよ。
クロが戦っている姿は死の森での圧倒的な戦い以降目にしていない。
あの時は一瞬で相手を倒しちゃって何が起きてるかわからなかったけど、今回は違う。
獣装を使っている3人の上位ランカーの攻撃を全て避ける異常なくらいの反射神経と高い身体能力で、3人の意識を完全に引き付けている。
相手も最初はクロの反撃に警戒していたけど、反撃してこないと分かると攻め一辺倒になっている。
そしてその表情には焦りが見える。
だって3人で攻撃してるのに全然攻撃が当たらないだもん。
そりゃあ焦るよね。
そしてクロはただ避けるだけじゃなくて、ある場所に誘導をしている。
その先には......
「ぐぅっ! は? なんだよこれ!?」
「ちょっと! 何やってきゃぁぁぁあ!」
侍がトラップシードに捕縛され、弓使いが批難の声を上げた時、後ろから来ていたエントの張り手で吹き飛ばされ、その先にあるトラップシードに捕縛される。
「お、おい。一体......」
「破っ!」
「がぁっあ!......ぐぅっ」
いきなり仲間が2人やられ戸惑っている神官に、援護に来たセツキくんが素早く突きを入れ、トラップシードに捕縛させる。
「クロ先輩、あっちも片付いてます。戻りましょう」
セツキくんの言葉を受け、クロが頷くと2人は素早く森を離脱する。
「......ワタル......全員捕まえた......エント......戻す......」
トラップシードからの信号を受けたセツカちゃんがワタルさんに報告し、エントを帰還させる。
「わかった。それじゃあ、仕上げといこうか。『獣装、タイラントドラゴン』」
ワタルさんが右手のひらを突き出すと、体から濃密な黄金色の魔力が溢れ出し周囲を黄金色に染めていく。
背中には同色の竜の翼が現れ、ワタルさんの琥珀色の瞳がキラキラと輝きを増す。
そんなワタルさん獣装を見てふと思った。
ワタルさんの獣装、クロと似てる。
初めてクロ以外の獣装を見た時からずっと思っていたことがある。
クロの獣装の方がすごかったって。
だけど初めて見た獣装がクロだったし、私がクロに特別な感情を持っているから、思い出を美化してるだけだと思っていた。
だけどワタルさんの獣装を見て確信した。
空間を染め上げるほど溢れ出る濃密な魔力と魔力光によって光り輝く瞳、そして周囲を圧倒する存在感。
クロとワタルさんの獣装は明らかに他の獣装と一線を画している。
「ワタル先輩戻りました」
「2人共ありがとう。あとは任せて欲しい」
セツカちゃんが土壁に作った根の足場を使い、役目を終えたクロとセツキくんがワタルさん達の元へと戻ってくると、ワタルさんは空高く飛翔する。
そしてそのまま土壁を飛び越えて森の中心部に降り立つと腰に下げた鞘から剣を引き抜き、空に掲げて剣身に魔力を込めていく。
「さあ、終わりにしよう。『......カタストロフィ』」
ワタルさんが魔力によって黄金色に輝いた剣を両手で握り地面に突き立てる。
すると足元から凄い地鳴りが襲ってきて、爆発音と共に超高熱のマグマが噴き出し、轟音を響かせながら森全体を飲み込み天高く昇っていく。
フィールド上には溶岩が降り注ぎ、熱を持った暴風が吹き荒れる。
観客達はジリジリと肌を焼く高温に晒されても誰1人動こうとしないで、目の前で起こっている天変地異とも言える光景に目を奪われている。
土壁を優に超える高さのマグマが噴き出し続けること10秒間。
マグマの噴出が終わった土壁の中はワタルさんが立つ地面以外全てが溶解していて、今も残り火が所々に燻っている。
そんな場所にワタルさん以外の生存者が存在しているはずはなく、静寂に包まれた会場に試合終了のアナウンスが響きわたるのを以て、本日最後の戦いは幕を閉じた。
この日本最強ギルドの名を体現したような一戦、太陽と月VSフランボワーズ戦によって、太陽と月の名前は最強ギルドの名を確固たるものにした。
だけどその反面、クロのあの戦い方に、ごく一部から称賛の声が上がったものの、やはりクロのギルド所属は不適当という大多数の声にかき消されてしまい、結果的にクロに対する扱いが更に酷くなることになった。
お読み頂きありがとうございました。




