表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
26/26

気迫と自白

 --

 -モロッコ王国南部・第三の門……仮眠室



 カーテンの閉められた薄暗いその部屋には、ハンモックが縦に二つ並んでいた。門番達の仮眠室である。


「ぅ、みゅー。」


 下のハンモックにて眠る者がいた。身長百六十程の茶髪の少年……ブラン。彼は昨日の朝から夕までの間、門を見張り疲れて眠っていた。現在、昼過ぎである。彼の帰宅時間はとっくの前だ。


「ぅ、うー?」


 寝返りをうち、薄く目を開いたブランは、カーテンの隙間から光が漏れているのを見た。


(あさ……?いけね。ねちゃってた……。)


 眠い目をこすり起き上がったブランであるが、大きなあくびをしてしまう。


「ふぁぁぁっ……。次の勤務は……昼から。いいや、もうちょっとねよ……。」


 もう一度言う。現在、昼過ぎである。

 そうとも知らずに再びハンモックに身を委ねたブラン。その目はゆっくり閉じていく。

 ブランが再び夢の中へと歩みを進めたその時、コンコンと扉を叩く音が室内に響き、閉じゆくブランの目を開かせる。


「ブラン?ここに居るのか?」


 扉を開き入ってくるは優しそうな雰囲気の小太りじいさん……オルソー。ブランを探していたのだ。


「おじさん……。おはよ。」


 仕方なしと体を起こしたブランは、再びあくびをして、伸びをする。そんな彼をオルソー呆れた目で見る。


「時間になっても来ないからまさかと思っておったが、主、昨日からずっと寝ておったのか?」


「みたいだね。ここ静かだし落ち着くんだぁ……。今から家帰るのいやだし、お昼まで寝かせてよ。」


「いや、今昼なんじゃが?」


「え。」


 ピシリと固まり青ざめるブラン。そういえばと眠った頭を起こし、オルソーの言葉を思い出す。


「時間になってもって……うそでしょ?」


「最悪な寝覚めじゃな!ハッハッハ!!」


「うそだぁぁぁ!!」


 大笑いするオルソーを前に頭を抱えてしまうブラン。寝すぎた。彼の罪はただそれだけだった。


 ー


「おじさん?クノミーお兄さんは?」


 カチャカチャと支給された鎧を歩きながら装着するブランは、前を歩くオルソーへたずねた。


「医務室で入国者を見とるのじゃろう。」


「ぇ?誰か来たの?めずらし。ねね!ぼろぼろだった?だったでしょ?」


「こら。」


 面白半分にたずねるブランを軽く叩くオルソー。「ぁぃてっ」と笑うブランは「だって」と続ける。


「南門から行ける場所なんて、グロウの森ぐらいしかないじゃない。少し行ったとこにあった村も、今まではなんとかもってたみたいだけど、最近魔獣に壊されたみたいだし。南門(こっち)から出る人も皆ぼろぼろになるじゃん。入ってくる人なんかもうね、その時点でお察しっていうか。」


「一概にそうとは言えんじゃろうに。無事に帰還する冒険者だっていように。」


「冒険者だったの?」


「身分証をなくした一般人のようじゃ。聞けば帝国からモロッコへ向かう馬車が盗賊に襲われたところ、命からがら逃げ延びたとの。」


「ぷは!めずらし中のめずらし!てことはなに?森中歩き回って西門を向かったところ、ぐるっ下に向かって南門に来ちゃったってこと?最高だね!」


 大笑いしたブランは再びオルソーに叩かれてしまう。


「とにかく、わしとクノミーは別れて事情を聞くから、主は門の見張りを頼んだぞ!」


「はい!おまかせ!……と、あれ、僕一人?」


「うむ。」


「えー!いやだ!一人はさびしいって!!おしゃべりしたいよ!おじさぁん!!」


「これも仕事じゃろうに。わしはこっちじゃからのサボるんじゃないぞ?なにかあったらちゃんと連絡するんじゃぞ?いいの?」


「うぅ……わかったよぉ。」


 渋々ながら了承したブランの背中をオルソーは見送る。少し歩いたブランは右手を耳元へ持っていく。


「あ!クノミーお兄さん?今ひまー?」


「こら!ブラン!!」


 ー


「はぁ。まったく。クノミーといい、ブランといい……近頃の若者は。それだと仕事に精を出す喜びを知れずに歳をとるだけじゃぞ。」


 ため息を吐き石畳の廊下を歩くオルソー。ふるふると首をふるうと、両手をぐっと握る。


「やはり!最高齢のわしががんばらんとの!若者を引っ張っていくんじゃもん!」


 ふんすと鼻息を荒らげるオルソーは、「なるなるはやはやぁぁ!!」と気合いを込め直し、廊下を早歩きで行く。


(廊下は走っては行けませんっっ!!)


廊下を歩くオルソーは笑顔であった。


 ー


 石造りの部屋。窓は四つ、机一つに椅子四つ。部屋を照らす明かりは天井から吊る下げられた程よい光を放つ魔道具だけ。たったそれだけの小さな部屋だった。


 そんな部屋に二人いた。

 肩まで伸びた茶髪の綺麗な身長百八十程の女性……ムー。

 長い金髪を後ろでまとめた身長百九十程の男性……ミー。

 シャワーを借り、体を清めた二人はさっぱりした様子であったが、まとう雰囲気は別であった。

 堂々と椅子に座っているムーと反対に、落ち着かないのか、そわそわしているミー。その様子は少し不安そうであった。


「ムーさん。俺、悪いやつッス。」


 不安に耐えきれなくなったか、ミーは吐露するように呟いた。


「なにがよ?」


 堂々と座っているムーはチラリとミーを見て聞き返した。大体察していると言うのに。


「門番と話して、自首なんてしなくてもいいんじゃって思ったんス。会話の流れからきっと、黙ってれば何事もなく門を通れた。黙ってさえいれば、ムーさんと二人で過ごせた。……そんな事が頭を過ぎるんス。」


 ミーの頭を過ぎるは、門番オルソーと対面していた時のこと。あまりに間の抜けた門番だったから、ミーはそのような事を考えてしまったのだ。自分は運が良いのかもしれないと。難なく通れるのではないか。と。


「二人で決めたじゃない。罪を償うって。あれは嘘だったの?」


 バツの悪い顔をしてしまうミー。しかし、精神的状況は変わっていた。


「だって、やっぱり嫌なんス。やっと自由になったのに、また拘束されるなんてあんまりじゃないッスか!」


 八年である。ミーとムーが盗賊団の元で活動した期間は。それはあまりに長すぎた。不自由に嘆く時間も。手が黒に染まり行く時間も。


「グランツ王国の精鋭部隊長にアゲルトが殺された時、アジトが破壊された時、俺は解放されたと思った。今までやってきた事だって全部命令されてッス!俺とムーさんは被害者で、ようやっと自由になったんだって!だから……!」


 ムーの両手がミーの両頬を挟む。


「むっ……。」


 頬を挟まれたミーはしばらく見開いた目を閉じずに居た。なぜ今ムーは自分の頬を挟むのか、思考が回らなかった。


「だから……。」


 そんなミーへムーは呟くように話始める。その声は少し、悲しそうだった。


「だから。この手で殺した被害者あのひと達を、同じ理不尽に怒り涙した被害者あのひと達を、その憎悪を、なかったことにするの?」


「……。」


「私だってミー君と一緒に過ごしたいわよ。誰にも邪魔されず、たった二人で静かに。でも無理だわ。手を見れば私の目に血が映る。人が寝てれば白目を向いてる。鳴き声を聞けばそれが悲痛に聞こえる。忘れるなんて無理なの。ふとした時に蘇るわ……!あの悪夢かこが!」


 ムーの手が震える。容易に思い出せるのだ。初めて人を殺した日の事を。汚い言葉で罵られ、憎悪をぶつけられた日の事を。抗える手段はないと自分を騙し続けた日々を。


「ムーさん……。」


 ミーは自分の頬を挟むムーの手を握る。


「この胸の奥にある罪悪感は一生私を許さない。私達が少しでも幸せに生きたいなら、償わなきゃだめなの。自分達の幸せのために償うなんて違う気がするけど……罰されないのはもっと違う!」


 ムーはミーの胸に体を預ける。弱々しく肩を震わせるムー。


「大丈夫よ、寂しくないわ。」


 絞り出したムーの声が静かに響いたその時、コンコンッと扉を叩く音がした。


「「っっ!!」」


 扉が開くとミームーは元の姿勢へと戻る。入って来たのは門番のオルソーであった。その目は少し、赤くうるんでいた。


「失礼するよ。」


 咳払いしてからそう口にしたオルソーは、ミームーの反対側の席に座り、机の上に冊子と羽根筆、そして、青い筋の目立つゴツゴツとした石……記憶石を置いた。


「まず初めに、私と君達の会話はこれに残る。言葉は選ぶことだ。」


 そう言ってオルソーは記憶石に魔力を流した。しばらくすると、記憶石よりジジジ……と音が聞こえ始める。記録が始まったのだ。


「それでは聞かせてもらう。君達は八年もの間、盗賊だった。それは、事実か?」


 門の前で会った時のオルソーの優しそうな雰囲気はまるでなかった。その瞳に宿すは、犯罪者を前にした取り締まる側の人間のものだった。

 思わずミーは息を飲んでしまう。自分が侮ったオルソーの迫力はそれほどのものだった。


「えぇ。紛れもない事実よ。でも、あの二人は違うわ。彼らは本当に盗賊に襲われた一般人よ。私達はそれに乗じて逃げてきたの。」


 ミーが息を飲む中、ムーは堂々と答えた。嘘をつくつもりはないと言わんばかりの姿勢に、ミーは自分がいかに情けないかを痛感する。


「では、詳しく聞いていく。なぜ、盗賊なんぞに堕ちたのだ?」


「……それは。」


 ミーはムーの肩に手を置いた。話そうとしていたムーの視線は、オルソーからミーへと移った。ミーのその優しそうな青い瞳に、ムーはほっと息を吐いて安心した。


「オルソーさん。俺が、俺が全てをお話します。」


 目を瞑ったミーが一呼吸あけると、口を開き喋り始めた。


 ーー

 ーモロッコ王国南部・第三の門…医務室



 カチャカチャとペンダントに巻かれた鎖をいじる金髪イケメンの門番……クノミー。


「しまった……絡まった。」


 黒からペンダントを回収してからペンダントをいじり続けているクノミーであるが、変に留め具を外したせいで絡まってしまっていた。


「こんな細い鎖……ちぎったろか?いや、流石にそれはバレるな。出来れば彼が起きる前に確認を終えたい。いやはや、参った参ったー。」


 椅子の背もたれに寄りかかり、ため息を吐きながらペンダントを眺めるクノミー。その時、コンコンと扉が叩かれる。


「お?やっときたかー。遅かったねー。」


 けらけらとクノミーが笑う中、扉を開けて入ってくるは短な金髪の身長百四十程の女の子であった。


「フィア。」


 クノミーが目を細め口を開く。すると、女の子は背伸びをしてクノミーの額に指を立てる。


「……ん?どしたー?」


 女の子はそのまま力を込めた。


「ぅっ!?」


 椅子を傾けていたクノミーは、急な加重に耐えきれず、地面に思い切り倒れてしまう。


「いってて〜。何するんだよー。」


 怒り出すクノミーを無視して、フィアと呼ばれた女の子は簡素なベッドの方へ向けて歩き出す。


「ここではクミが私の名。忘れた?」


「ちぇ。分かってるって。ちょっとふざけただけなのにさぁ。」


 悪態をつきながら身を起こし、立てた椅子に座るクノミーは、黒のペンダントを机に置く。


「どう?見た感じ。治せそ?」


「どうだろ。」


 あくびをかくクノミーに呆れながらも、クミはベッドに横たわる満身創痍な男性の体を見た。直ぐに眉を寄らせてしまう。


(無理に体を強化でもしたのか?筋繊維にかなりの負担がかかってる。特に足。もしまた同じことをすれば直ぐにダメになるだろうな。それに、両手から両肩まで、酷い火傷痕だ。炭化している手をよくもまぁまだ動かせるものだ。特に目立つのは裂傷。どこ見てもあるし……。)


「少なくとも、一目見て生きていると思うやつは少ない。街を歩けば腐敗者ゾンビの類として討伐対象だ。とはいえ、無理に完治でもすれば、しばらくは自然治癒力を失うだろうな。それほどの重体だ。」


「あらら……。かわいそうに。」


 微塵も思っていない事を口にするクノミーに、「最低」と言わんばかりのジト目をくれてやるクミ。


「まぁ、とりあえず自然治癒力を失わない程度に治してみる。」


「よろー。」


 とっくに興味をなくし、ペンダントと戦い始めたクノミーを無視して、クミは魔力を放ち始める。

 淡く光る青い粒子がチラチラと部屋に舞う。クミが両手を黒の体へ向けると、チラチラと舞っていた粒子が、黒の体を包み込む。


「再生魔法……'再生回復リージェル'」


 黒の体が再生していく。黒焦げた両手両腕は肌色を取り戻して行き、全身に目立っていた裂傷は徐々に閉じ行く。


(外側はこれで治せるとしても、やはり全身に負荷は残る。彼には申し訳ないけど、体に残った負荷分は自分で頑張ってもらうしかない。これだけでも……やっぱり。)


 再生した黒の肌の表面には、カサカサとした乾いた皮のような物が多く見られた。それをクミが軽く指で落とそうとすると、皮のような物は簡単に取れ、血が滲み始めた。


(治癒力を活性化させる事で生じてしまうほころび。今は腕にしか現れていないようだけど、これ以上は全身に広がりかねない。やはりここら辺にしておこう。)


 集中しているクミの後ろで、クノミーは鼻歌を歌いながらカチャカチャと鎖を解こうと頑張っていた。その時、右手の指輪が少しだけ熱くなる。


「お?」


 クノミーは右手から指輪を外し、耳にカチリと取り付ける。


「おう!ブラ坊!どした?」


 カチャカチャと鎖を解きながら会話に応じるクノミー。


 ーーあ!クノミーお兄さん!今ひまー?


 ーーこら!ブラン!!


「あっはは、くまちーめちゃおこじゃん?」


 ーーそー!聞いてよ!おじさんったら僕一人で門番をさせる気なんだ!


「それは寂しいなぁ。あんなの、空見てぼーっとする他ないもんなぁ。」


 ーーだよねぇ!だからさ!クノミーお兄さんも早くこっちおいでよ!遊ぼ!


「遊ぼて……。またくまちーに言われるぞ?仕事だって言わないと!」


 ーーあちゃー。そうだった。忘れてたやぁ。


 くすくすと笑うクノミー。するとどういう事か、先程までてんで解けそうもなかった鎖が、するすると解ける。


「お!やった!きたきた!!」


 ーーえ?なになに?クノミーお兄さん?何かあったの!?


「あいや、大人の遊びだ!気にすんな!」


 ーーちぇー!また僕を子ども扱いして!ひどいんだから。僕これでも二十三なんだよ?!


「はいはい、ガキガキ。」


ーーも〜〜〜っっ!!!


 ぶつくさ文句を言うブランを他所に、クノミーは鎖を解いていく。ようやっと鎖が解け、両断されたペンダントの下部分が露わになった。


(これはなんなんだろうか……!)


 わくわくが隠せないクノミーは、ごくりと固唾を飲み、ペンダントの蓋を開けようとした。カチッと小さな音であった。


「「っっ!!」」


 その瞬間。医務室は異様な雰囲気に包まれる。


(なんだ……この悪寒は……!!)


 全身に吹き出る冷や汗は何か、クノミーは直ぐに理解した。その直後であった。クノミーの右肩は凄まじい力で握られる。


「ぐっ!!」


 痛みに顔をしかめたクノミー。


(全身がまるで動こうとしない……!これは、これは知っているぞ!……恐怖だ!!)



「返せ。……それは、てめぇが触れていい過去ものじゃない。」



 ガタガタと震えるクノミーの背後には、男が立っていた。黒髪黒眼。身長百七十程の男性……時宗黒である。全身からあふれ出すドス黒い粒子は、医務室内をチラチラと嫌な光を放ちながら舞い、更なる恐怖をクノミーへ抱かせる。


「す、すま、すまない……。」


 クノミーは振り返れずに、震える手でペンダントを後ろへ回した。クノミーの肩より手を離し、ペンダントを受け取った黒は、慣れた手つきでペンダントに鎖を巻いて行き、カチリと留め具で固定し、首に下げる。

 しばらくの間、ペンダントを握り深呼吸をする黒。その間、ずっとクノミーは生きた心地がしなかった。だらだらと吹き出る冷や汗が、ドクンドクン脈打つ心臓が全力で警鐘を鳴らしていたのだ。


 ーークノミーお兄さん?どしたの?なんかあった?


 何も知らずにブランが聞くも、それに答える余裕は今のクノミーにはなかった。

 しばらくして、幾らか落ち着いた黒は現状を振り返る。


(ルナが寝てる?疲れたのか。倒れた俺を運んでくれたんだな。医務室か?体が治ってる?いや、表面だけだ。体が重いということは蓄積したダメージまでは治ってないのか。とはいえ、かなりマシになった。)


 黒は振り返ると、縮こまって震えている?クミを見た。治してくれたのは彼女だろうと理解したのはすぐだった。


「ありがとう。助かった。」


 それだけ言って黒はルナをベッドへ横にした後、クノミーを睨む。


「俺はどこに行けばいい?」


 お前は許さないと言わんばかりの圧に、クノミーは早口になり説明する。


「た、待機室に君の仲間がいる。この部屋を出て右に真っ直ぐ進めば案内がある。到着したらもう一人の門番に話しかけてくれ。ほら、小太りのおじさんだ。彼を頼ってくれ。」


(ごめん、くまちー。俺、むり。あとは頼む……!)


「……わかった。」


 そう言って黒はガチャッと扉を開け、医務室から出てってしまう。バタンと扉が閉じれば、ドッと全身の緊張がほぐれ、大きなため息を吐き出してしまう。


「なんなんだよ……あれ。アインスに睨まれてるのかと思った……。」


 椅子に寄りかかり、脱力しているクノミー。


 ーーアインスって誰?クノミーお兄さん?


「あ、と、ちょい切るわ。」


 ーーえ!?そんな雑な切り方あ


 耳から外した指輪を指にはめると、クノミーはクミを見る。


「なに顔赤くしてるんだ?」


「うるさいノイン。別に。アインスを思い出しちゃっただけ。」


「あそ。」


 再び大きなため息を吐いたクノミーは、天井を見てはぼやく。


「やべぇのが入って来たな。こりゃ。」


 ーー

 ーモロッコ王国南部・第三の門…そこらの廊下



 案内に従って歩く黒は、迷うことなく待機室へと到着した。


(ここか?中から話し声が聞こえるし、間違いはないか?)


 間違えてノックしては恥ずかしいため、黒は最終確認のために少しばかり耳をすました。すると、部屋の中での会話が聞こえるようになる。


「八年前、南西部の領地を治めるワーカー家のご令嬢が、護衛に連れ去られたという事件があったと思います。」


(ミー?何を言ってる?)


 何の話をしているのか理解できない黒は、また少し耳をすませる。はたから見ればその姿は盗聴してる輩である。それに気づかず、黒は耳をすまし続ける。


「ムーさんの本名は、ムートラル・ワーカー。ワーカー家のご令嬢で、俺は……。私は、その護衛でした。」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ