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猿……見ず聞かず言わず。

 --

 -


「ぅ……ぅう……。」


 太陽が地平線の彼方かなたから顔を出し、地上を照らし始めた頃にルナは目覚めた。


「……ぅん?ここ……どこ?」


 真っ暗な森の中。

 朧気おぼろげひとみで辺りを見回すルナであるが、全く知らない景色にまゆを寄せてしまう。そして、その目はようやく地面に倒れ、自分の下敷したじきとなっている者へと向けられる。


「わっ!?黒?どうし」


 直ぐに退こうとしたルナはしかし、視界がずれた次の瞬間尻もちを着いてしまう。ぬかるんだ地面に足が取られたのだ。


「……ってて……あれ?痛くない?それになんだか体も軽い気が……。」


 眠る前は人をかついでいるかのごとく重かった体。しかし、今や羽が生えたかと思えてしまえる程体が軽かったのだ。


(眠れば治る……そんなの迷信だと思ってた……。)


「……て、そんな場合じゃないや。黒が倒れてるんだよ!黒?大丈夫!?……じゃないよね、倒れてるんだもんね!?」


 黒の体をするルナ。しかし、ルナは少しだけ嫌な予感がしてしまう。それは黒の体が冷たく、自らの手がれた気がしたのだ。それだけで絶望の一つ手前まで叩き落されるのだから、彼女がどれほど人の死に敏感びんかんか知れる。


「ら……'光球ライト'……。」


 つぶやかれるは魔法のトリガー。頭上にあらわれるは暗闇を照らし出す光の球体。途端にごっそりとルナの体から魔力が抜け、脱力故に木へと寄りかかるルナは、球体が照らし出すニメートル範囲の景色をその瞳に映してしまう。


「そんな……。なんで……。」


 驚き故に見開かれるルナの瞳。それにボロボロな黒の背面が映っては、見にくいが後頭部にある打撃痕だげきこんが映っては、地面につくられた血溜まりが映っては、絶望の一つ手前で止まっていたその思いが一歩踏み込んでしまう。


「死んで……。」


 ドクンッとルナの心臓が鼓動こどうする。


「なんで……黒が……。」


 見開いた瞳が揺れる。


(酷い出血……。頭から……?)


「死んじゃう……?」


(頭から血が……。)


 ズルッと脱力してしゃがみ込んでしまうルナは、その震える手を黒へ伸ばす。その手が血にれた黒の体にれては、ルナの瞳は再び見開かれる。黒の心臓は弱いながらも鼓動こどうを続けていたのだ。


(生きてる……!!)


 見開いた瞳を希望に染めるルナは、とにかく黒の体を起こし木に寄りかからせる。大怪我人に対してそれが正しいのか分からないルナであるが、このまま地面に倒れたよりかはマシだと思ったのだ。


(ぅわ……これはひどい。)


 身を起こした黒の前面を見てルナは思わず息をのんでしまう。ひたいほおは切り裂かれ、腹には刺突された様子が見られた。こちらも血こそ止まっているものの、やはりかなりの量を流したのだろうと予想がついてしまう。背面も前面も怪我だらけの黒は、見て分かる通り命の瀬戸際せとぎわに立っていたのだ。


「どうしよう……どうしよう!」


 あわあわと慌てる始めるルナは、黒が生きているか何度も確認し、その度に何かしなくてはと言う思いにられる。


「何か出来る事……何か……。」


 黒を助けたいというルナの抱く思いはぐちゃぐちゃな思考を前にしてそれだけに留まってしまう。涙目になってしまうルナは必死に泣こうとする自分を律するも、黒の冷たい体にれては、やはり自制など効かずポロポロと涙を流してしまう。


「冷たい……黒が死んじゃう……。」


 しかし、ルナは涙をぬぐう。やる事をようやく理解したのだ。


「火……起こさなきゃ……。」


 行動を始めたルナの手際は良いと言えるものではなかった。れ木を見つけられる程見極める力が優れている訳でもなく。たくさん木を集めたいが、その手に持てる量は限られている。


「ぅっ!!」


 露出ろしゅつした木の根に足を引っかけては転び、手に持っていた集めた木を散らしてしまう。折れていた木を出来る限りたくさん持ったため足元がよく見えないのだ。

 共に行動をしていた者が死にかけ、なんとかせねばと頑張るも転んでしまう。もどかしい思いはどこにもぶつけれず。そんな状況、普通ならば泣きわめくべきであるが、ルナは声を上げなかった。


「……やっぱり痛くない。……なんで?」


 涙が引っ込む程の疑問。盛大に転んだら痛い。当然の事なのに実際は痛くないのだ。


「わからない……。もぅ……わからないよ……。」


 ゆっくりと立ち上がるルナ。暗い辺りを照らすため、'光球ライト'を維持するだけでも魔力はガンガン消費して行き、その度に力も抜けていく。

 散らばった木を集め終え、相も変わらず意識を失ってる黒の元へ戻る頃にはくたくたで、歩くのも嫌になるくらい疲れていた。


(とりあえず、これだけあれば……。)


 目の前に十本のえだを置いたルナは休憩きゅうけいするでもなくそれを組み始めた。


(確か……黒はこうやって組み立てていたはず……。)


 今朝、たきぎを組み立てる黒の姿を見ていたルナは、頭に残る曖昧あいまいな記憶に従って組み始める。


(……。……まぁこんな感じでいいや。)


 さっさと火をつけて黒を温めたいルナは、'光球ライト'を解除して手先に集中しようとするも、体を襲う疲労感に思考が乱され、いつものように行かず、焦燥感しょうそうかんにも思考を乱され始める。


(あたしがやらなきゃ……黒はこのまま……。)


 そう考えた瞬間に怖くなり手が震え始めてしまうルナは、いつも出来る事が出来ずに歯がゆく感じ、ぎっ!と奥歯を噛み締める。


「集中しろ……集中しろ……!集中しろ……!!」


 暗闇の中、ルナの悔しさを押し殺した声がむなしく消える。


(もぅ……誰かがあたしのせいで死ぬなんて嫌っっ!!)


 頭を過ぎるは、血まみれの小屋の中心で横たわる男性の死体。それに鋭い歯を突きつける下位魔物の姿。襲われそうになった自分を突き飛ばし、頭蓋骨ずがいこつを下位魔物に噛みくだかれた女性の姿。複数の下位魔物に囲まれ徐々に食い千切られて行く男性の姿。そして……振り返り逃げ出す自分の姿。


(逃げるのだって、何も出来ないのも……。お願い……。)


「だからお願いっっ!!」


 チッ!と赤い火花がルナの手から弾け出る。


「'火炎球つけっっ'!!」


 叫ばれるは'火炎球フレイム'のトリガー。ぶわっと真っ赤な炎がわずかに吹き出し、絶望的な暗闇を薄っすらと照らす炎は、ぐるぐると一点に集まり球体をつくり出して行く。


「やった……。……ついた……。」


 目に映る燃え上がり収縮していく炎。喜び故に泣き出しそうになるルナの体から、ごっそりと魔力が抜けると、さらなる疲労感がその体に蓄積ちくせきされる。しかし、ルナは歯を食いしばり、喜びの声を上げそうになるのも、泣き出しそうになるのも、集中が途切れそうになるのもこらえる。

 つくり出される一センチ四方の炎の球体。

 ルナが組んだたきぎの中央へそれを置くようにそっと放つと、パッ……!と炎の球体が小さく破裂する。直にパチパチと心地よい音がたきぎから奏でられ、その場を温かく照らす炎が完成する。


「出来……たぁぁぁ……。」


 燃え上がり、徐々に安定していくき火に安心したルナは、脱力と疲労故に黒のとなりに座り、同じ木に身を預ける。


「……。……どうすればいいんだろ……。もぅ……やる事わかんないや……。」


 ただき火を起こしただけなのに、異常な程疲れたルナはこてんっと黒の肩に寄りかかる。


(黒……あたしが寝てる間に何があったの?なんであたしの体に傷がないの?なんであたしは痛みを感じないの?あたしは……何をしたらいいの……?)


 何もやる事が思い浮かばない。何があったか分からない。黒ばかり痛い目にう。そんな事を理解しては、自然とルナの内に罪悪感が生まれてしまう。


「黒……まだ起きないの……?」


 パチパチとはじけるき火と、あらい息を吐く、苦しそうな黒の呼吸が異様なほど大きく聞こえる空間の中。

 十五分経ち、ルナの瞳に不安がありありと浮かぶも、三十分経ち、ルナの瞳にわずかな絶望が浮かび始めるも、一時間経ち、日が昇り空が明るくなり始めても、二時間経ってルナの魔力量が体感できる程度に回復し、活力がある程度戻った頃になっても……何も変わらず。


「やっぱり……黒はもう……。」


 ルナは黒が死ぬかもしれない不安に、しゃべる相手のいないさみしさに、先の見えない真っ暗な森の恐怖に、げればきりがない複雑な思いが混じり、「ははっ……。」と小さな笑い声をもらしてしまう。


「人が死にそうなのに……どうしたらいいのじゃないだろ。」


 今更ながらも二時間前の自らの発言を馬鹿にするルナはしかし、ひたすらに黒の目覚めを待つだけでやはり何もしない。自嘲じちょうし認めたくないのに、実際その通りだからこそいきどおり、ルナは自身のうでを強くつねるも痛みはなく。


(自分をいましめる事すら出来ないんじゃ……'仕方ないか'……。)


 チラチラとルナの頭を過ぎる、毎回何も出来ずに誰かが傷つく姿から目をそらし逃げる自分の姿。途端にルナの内に悲しみに近い怒りが湧き上がり、それはルナにぎりっ!と歯ぎしりをさせる。


(それも違うだろ!!それは甘えなんだ!気付けよあたし……!!)


 ルナは地面に落ちている黒の簡槍をにぎり、それを支えにして、未だ少し脱力気味の足をふるふる震わせながらも立たせようとする。


(何も出来ないじゃダメだ。もっと何かやるべき事を探すんだ!思考停止で助けを待ってたって、黒を助けれるのはあたししか居ないんだから!!)


 なんとか立ち上がったルナはその場で足踏みをして、自分が歩ける事を確認すると黒の簡槍をぎゅっと強くにぎり締める。覚悟と不安に揺れる瞳が薄暗い森の奥を見据える。


(薬草だ……。森のどこかに薬草があるはずなんだ。)


 歩き出そうとしたルナはしかし、その足を止めてしまう。


(……怖い。)


 空は明るくなりつつあるが、森の奥まで日の光はわずかしか入らない。故に、き火の光が照らす範囲外はまだ少し暗いのだ。薄暗い森を恐れるルナであるが、振り返り傷だらけの黒を見据えてはふるふると首を振るう。


(あたしがやるんだ。毎回守られてばかりじゃ……ダメなんだ。)


 ルナは瞳に内包する不安を覚悟で染める。怖い思いを押し殺し今度こそ歩き出す。暗い森に消えて行くその背中は当然……心細そうであった。


 --

 -


「ぅっ……うぅ……。」


 太陽が真上に登る頃、木に寄りかかり意識を失っていた黒の目が薄らと開かれる。苦しそうなうめき声が自分の耳にこびり付く。発声するだけでも頭がガンガンと痛むのだ。


(焚き火……跡?火を起こしてから寝たっけ?そもそも、なんで地面で寝て……)


「ぃっ!!」


 焚き火の跡を見て記憶の整合がとれない黒は、少し動こうとした際にズキッ!と全身……特に切られなぐられた箇所が痛み、強制的に思い出されてしまう。


(あぁそうか……思い出した。生きてたか……俺。)


 黒の頭を過ぎるはドライ・ツヴァイ戦にて、切られ突かれ殴られと致命的な攻撃を受け、生と死のさかい彷徨さまよいながらも必死に逃げる自分の姿。


(油断してやられるとか……情けなぃ……。)


 '負けた'……。その単語に黒はくちびるを噛み締め地面をなぐろうとするも、当然痛む体がそれを阻害そがいする。


「くそっ。とにかく移動しなきゃな。」


(奇跡的に見つかっていないだけかもしれないが、夜の森で俺を直ぐに見つけたあいつらが、倒れている人間二人を見つけられないはずがない。見逃されたんだろうな。)


 なおさら自分を情けなく感じた黒は首を振るい、木に頼りながらきしむ体を起こそうとする。


「っってて。ルナ、肩借りても……。」


 手を伸ばす黒はようやくその存在を思い出す。先日助けた幼い少女の事を、自分の居場所である少女の事を、身の危険をおかしてでも守ろうとした居場所を。


「ルナ……?……どこだ?」


 ようやく周囲を見回した黒は、辺りにルナが居ない事を知る。見開かれた瞳は不安に揺れる。嫌な予感がしたのだ。起こした覚えのないき火に、自分の武器……簡槍がない事に、そして何よりルナが居ない事に。

 ガンガンと痛み回らない頭を必死に回転させ、いくつも可能性を見出そうとする黒であるが、すでに浮かび上がっている予感を思っては、その顔は険しくなっていく。どうやっても最悪な予感しかしないのだ。


(ルナが焚き火を起こし'奴ら'にバレた……。奴らは俺を死んだと見なし、簡槍とルナを……連れてった。)


 ドクンッと鼓動こどうする心臓が黒に訴えかける。'お前は何を失った?'と。


(俺の居場所がまた……うばわれた?)


 焦点しょうてんの合わない瞳が、不安に揺れる瞳が黒を責める。'誰のせいで?'と。


(……俺が油断したから。命を狙われたのに……殺そうとしないから。)


 ズンッと踏み出した足が重い体を、痛む体を支える。'動け'と黒に命令をする。


(探す……?どこに連れて行かれたかも知れない子どもを……?)


 メキッと踏み出した黒の足がれ木をへし折る。頭ではわかっているのだ。'見つかるはずがない'と。しかし、その足はふらつきながらも動かされる。


(また……一人か。)


 見開かれた瞳が諦めをはらむ。

 黒にはどうする事も出来ないのだ。ボロボロの体で再度連中とぶつかれば、負けるだろうと想像に難くないし、そもそも現在地がどこかも分からない。

 黒はルナを探す事を諦めていた。どの様に考えても見知らぬ深い森で、どこに向かっているかも分からない連中からルナを取り返すなど不可能だった。


「また……独り……。」


 黒は木に頼りながらも歩く。黒はルナを探す事を諦めている。しかし、ボロボロな体にむちを打ち、どこまでも続く森の中を行こうとしていた。

 どう足掻いても見つける事など不可能と頭では分かっていた。しかし、黒の体は勝手に動く。例え傷が開きかけて痛くても、身も心も不安定な状態であったとしても、その瞳は森の奥をギロリとにらみつけていた。


 --

 -


 薬草を探して森を行く事幾時間。ルナは歩き疲れて休憩きゅうけいしていた。


「はぁ……。疲れたぁ……。」


 森の中はだいぶ明るくなったものの、薬草が近くにあるとは限らず。黒がやっていた様に、戻る時のため印をつけてぐんぐん奥へ進んでしまったルナであるが、その印も消えてしまった。


(確かに木に印をつけたはずなんだけど……やっぱり'グロウの森'。木の成長は早いんだなぁ……。)


 ふぅ……とおだやかそうにため息をつくルナは、流れる様な動作で頭を抱える。


「どうしよう……帰れないや。」


 薬草を持ち帰るどころか、帰る事すら出来なくなったルナはひどく落胆していた。


「そうだ!記憶を辿たどって……。……それが出来ないから印をつけたんだったや。そうだ!足跡……。……辿たどれる程強く踏みしめてないや。そうだ!あたしは魔法が……。……魔力は回復してるけどそれも動ける程度に……。」


 八方塞がりとはこの事か、ルナは再び頭を抱えて悩んでしまう。


「早く帰らなきゃ黒が危ないのに!こうなる前に帰っておけばよかった……!黒ならこんな失敗はしなさそうなの……に……。」


 ハッとするルナはそこで突破法を思いつく。


「そうだ……黒だ。黒ならこういう時どうするかを考えれば!」


 希望に染まるルナの顔。


 --そもそもこんなに離れて……拠点の場所は分かるの?

 --直感で帰れるし、いざとなったら木につけた印を辿たどるから問題ない。

 --……そっか。


 しかし頭を過ぎるは、魔法陣の件に巻き込まれる前の黒との会話。


「直感……。印は保険で、直感……。」


 分かりやすく絶望するルナは、木に背を預けずるずるとしゃがみ込んでしまう。


「ぁあ……あたし、やっぱり帰れないや。」


 しくしくと泣きたい思いになるルナはしかし、その耳に確かに聞き入れる。どこからか聞こえる……笑い声を。


「……人?」


 ---


「おいおい!本当に見たのかぁ!?嘘だったらアゲルトさんに薬中として突き出すぜ?」


 盗賊……片目のダニーは手に持つナタで草を切り分け、道を作りながら怪しむ。


「あぁ!間違ぃなぁんだな……!!おでは見たんでぇ!!あれは……子どもの女なんだなぁん!!」


 盗賊……地獄耳のジョニーはダニーの切り開いた道をヘラヘラ笑いながら行く。


「……。……くだらん。どうせいつもの幻覚だろう。」


 盗賊……無口のケニーは辺りを警戒しながら行く。


「けっ!くだらんじゃねぇよ!このムッツリが!クールぶっていつも羽目外すのてめぇじゃねぇか!」

「……。私はやる時にやる男だ。」

「うぇっ気持ち悪ぃ。男ならガツガツ快活に行こうぜぇ!!」

「流石なぁんだな!それでこそ!ぉでを助けた男なぁんだなぁん!!」

「ハッハァッ!!俺についてきなぁ!!」

「……。暑苦しいのは嫌いだ。」

「んだとぉ!?」

「ぉでは!ぉでは!カッケぇと思うんだなぁん!!」

「うるっせぇ!とっとと探せぇ!!」


「なぁん!!」「……。分かった。」


 ---


(あたしの事だ……!!)


 男らの話を聞いてルナは彼らが誰を探しているのかを察してしまう。今自分の居る場所が分からなくとも、近くに人里がない事は知っているルナ。そんな中で見つかるような女の子どもなど、自分以外に居るだろうか?いや、ない。間違いなく自分を探しているのだと確信していた。


(いつ見つかったんだろ……?人の気配なんて感じなかったのになぁ?)


 思い返すも、「だなぁん!!」と言う声など覚えになく。しかし、逃亡生活の所為せいかおかげか、追われていると言うのにルナは落ち着いていた。


(……薬草は無いし、黒の所には帰れないし、見知らぬ連中……多分見つかったらまずい連中に探されているし……。……ぁれ?)


 冷静に現状を整理したルナの顔は、次第に青冷めていく。


(やばくない……?)


 否。落ち着いて居られるはずがなかった。人間は理性なき魔物とは違う。知能はあるし魔法も使う。必然と、追跡能力にも差が出てくる。そんな相手が三人も居るのだ。そんな自分の置かれた現状を理解しては、ドクドクと心臓の鼓動こどうが早くなってしまう。


(どうしよう……!本当にどうしよう!?)


 あわあわとするルナは、ぎゅっと簡槍を抱き締める。


(とにかく音を立てずに……この場から移動しなきゃ。)


 注意して移動を始めるルナであるが、現実は無慈悲なもので……。チラリとルナが声のする方向を見た時であった。


 パキッ……と、れ木を踏んでしまう。


「ふぬぅっ!!音がしたんだなぁん!!あっちの方だなぁん!!」


 地獄耳のジョニーは確かに聞き取った。パキッとわずかに鳴る音を。


「ぃっっ!!」


「おまけに声も聞こえたんだなぁん!!」


 思わずらしたルナの声を聞き取る地獄耳のジョニーは大声で報告をする。


(見つかった!?耳良すぎでしょ!!)


 かくれても無駄だと悟ったルナはけ出す。まだ魔力が回復しきって居ないため、体には疲れが残っている。それでもルナは必死にける。まるで、下位魔物に追われていた時のように。


「居たぞ!!てめぇら行」


「ィィイィヒャッハー!!見ぃぃつけたぜぇっっ!!」


「ぉいこらケニー!!俺とキャラ被りしてん……してねぇか?」


 片目のダニーの指示をさえぎけ出す無口のケニー。その豹変ひょうへんっぷりに首をかしげるダニーもまた、ルナへ向けてけ出す。


「ぶもっぉおぉおぉ!!'豚水(プアァタァ)'ァァアッッ!!」


 ジョニーが白目をき、手元に集中すると八センチ四方の水球がつくり出され、ルナへと向けて散弾のごとく放たれる。


「ふっ'火炎球(フレイム)'!!」


 咄嗟とっさに迫り来る'豚水(プアァタァァ)'の散弾へ向けてわずかな炎を放出するルナ。ごっそりと魔力が抜けたルナは力も抜け、勢いのまま崩れる様に転んでしまう。


「んねっぇぇぇ!?森で火はダメなんだなぁん!!」


 '豚水(プアァタァ)'の散弾の一つが'火炎球(フレイム)'に触れた直後。わずかな炎は火力を増し、他の散弾にも引火。巨大な炎となりて'豚水(プアァタァ)'を辿たどる。


「んんんなぁぁぁぁぁぁん!!?」


 迫り来る巨大な炎を前に驚き、動けずに居るジョニーは直後。あっさりと炎に飲み込まれてしまう。


「あっついんだなぁん!?」


「この馬鹿!!何やってんだ!!仲間まで殺す気か!?」


 髪に引火した炎を「あちちぃぃ……!!」と叫びながら払うジョニー。それを見て怒鳴るダニー。


「だって!!森で火を使う非常識っ子だとは思わなかったなぁんね!!」


「森で子ども追ってる非常識ぃずに言われたくねぇだろうよ!?」


 ジョニーの巨大な炎に驚き頭を守っていたルナは、脱力した体を無理矢理動かし、直ぐに立ち上がると更に遠くへ行こうとする。


「ホゥホゥホゥホゥフェッハハァァ!!'闇沼(ブゥマレ)'ェェェッッ!!」


 豹変中ひょうへんちゅうのケニーが地面に手を付けると、どろどろの液体が地面をおおい始めた。


「……!?」


 ねちねちと音を鳴らす黒色の液体が木々にれると、ジュゥッ!!と音を立て、接触面から数センチ程度をがす。液体が何なのか見ようと速度を落としていたルナは直ぐに気づく。否。ルナだけでなく、ダニーもジョニーも気づいてしまう。


「……。あたしの方が……早い?」

「子どもの方が早い……な?」

「遅すぎるんだなぁんw追いついてないんだなぁん!!」


 訪れる静寂せいじゃく。'闇沼(ブゥマレ)'のジュワジュワとなる音が異様に大きく聞こえた。ケニーの'闇沼ブゥマレ'は残念な事に、粘度ねんどの高い溶岩のごとく、ゆっくりと地面をおおっていた。


「ちょ!ケニー!ぉまwなんでその魔法を選んだ!?」

「しっっっかたないだろ!!私の豹変度合いによって変わるのだぁぁぁ!!」

「ちな、高いとどうなる?」

「高まる度に固くなるのだぁぁぁぁぁ!!」

「相性最悪じゃねぇかw」


(なんかよくわからないけど……。この人達……どうしようもない位にマヌケだ……。)


 途端に逃げれる気がしてきたルナはける速さを戻し、今度こそ振り返る事なく逃げ続ける。


「ったく。んでおめぇらはそうも使えねぇんだ。だから毎回俺の班は個性だけの雑技団とか笑われるんだ。」


 ダニーの目がルナをするどとらえる。


「'飛痺電々(エレ・ラサス)'」


 一瞬の事。ダニーからルナへ向けて細い針のような電気が十本飛ばされ、ルナの足に直撃する。


 ---


「ぐっっ!!……ぁっっつ!!」


 木を頼りに森を歩いて居た黒は、突如とつじょしびれだした足を抑え倒れ込んでしまう。


 ---


 しかし、そんな事など知りもしないルナは、何も体に異変が無いために首をかしげてしまう。


「……?なんかわからないけど……ばいばい!もっと連携れんけいしたほうがいいよ!!」


 あまりにへっぽこな盗賊らにアドバイスをしてしまいながらも、ルナは逃げ出す。


「なぁ……。あれ当たったよな?」


 何事もなかったかのように逃げるどころか、お情けにアドバイスを残したルナを見て思わずジョニーとケニーに聞いてしまうダニー。


「……。知らん。お前の精度が悪いのだ。」

「わからんなぁんけど!!カッコつけて逃すなぁんだ流石なぁんだなぁん!」

「ジョニー!てめっ!めてんのか!?馬鹿にしてんのか!?どっちだこの野郎!!」

「なぁん!してなぁんよ!ただ……カッコ悪いなぁんて!」

「なぁん!やめろ!馬鹿にしやがって……。おい!多少の負傷は構わねぇ!絶対に逃がすな!!」


「……。頑張る。」「なぁん!」

おまけ



「な……なんだこの痛みは……っっ!!足が痺れる……だと!?」


木々を渡る三匹の猿たちは、丁度地面に倒れ込んで藻掻く黒を見て、サッと目耳口を塞ぐ。

目を隠し綺麗な歯を見せて笑い、耳を塞ぎ大きな口を開けて大笑いし、口を塞いで大袈裟に木を叩く。


「にゃろ……。てめぇら……笑いやがっ!?」


立ち上がろうとした黒は、ズルッと滑り転んでしまう。


「「「キッッキィィィッッッ!!!」」」


吹き出して笑いだした猿たちは、自らが持っていた果実を黒へ投げつけた。まるで「面白い物を見た。」と言わんばかりに。


「なんだ……この思い……。」


惨めに感じた黒は、シャリッと投げつけられた果実をかじる。


「まっっっっっっず!!!」


「「「キッッキィッッッ!!!」」」

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