第参拾話 この手を取れ、立ち上がりたいのなら
「え? マジで? 記念すべき第一話の初出撃シーンでそれやる? いきなり主人公パイロットの出撃したくありませんカード切っちゃう? そういうのってさ、敵を何体か撃退して、押しも押されもせぬエースの風格が出てきた中盤にやるから盛り上がるんでしょ? まだなにもしてないうちにそれやってもイタいだけだよ? そんな天才ギャンブラー級のハッタリ許されるのは加藤アイジくらいだよ?」
「加藤アイジはギャンブラーじゃねえし、知ってる奴なんてほとんどいねえだろうがよ。とにかく、俺はこの機体が一億千万パーセント安全で、だから脱出機構もありません、くらいの安全神話が確立されない限り乗る気はねえ」
「そんな無理な単位を言うもんじゃない。どこぞの歌手のカバー曲じゃあるまいし。そんなことを言っていたら人類は永遠に羽ばたけはしないぞ。おーい、ヤツコさーん。君からも荒死郎を説得してくれ。なんなら、それでも男ですかとか罵りながらビンタしてもいいから」
ハカセに縋られ、鬼椿は面倒くさそうに立ち上がり、タバコの煙を吐きながら歩み寄り、ヤスオの前で腰をかがめた。
「ごうしろう、もしがするどアナダならでぎなぐもないがもじれないわー。がんばっでー。ぶじにもどっでぎだら、おでいざんがばいどじでるおみぜにじょうだいじてあげるー」
「……で、いま、このおばさんはなんて言ったんだ?」
「すまん。ありす君がいないとハカセにもヤツコさんがなに言ってるかは分からんのだ。ちょっとヤツコさん、しばらく席を外してくれんかね? 今はハカセが説得してるんだから」
鬼椿はそそくさともといた席についた。ハカセがヤスオの傍にしゃがみこむ。
「荒死郎、すまなかった。本当に悪いと思っている。正直、ハカセはお前をハツカネズミか実験用のチンパンジーくらいにしか思っていなかった。それは認める。だが、それはあくまでお前に会う以前の話だ。今は違う。お前は間違いなく天才エースパイロット、まさに一号機に乗るためだけに生まれてきたような男なのだ。今まで何人ものテストパイロットがフレイムライダーに乗り込み、若い命を散らせていった。だが、お前ならばそんなことにはならないと信じている」
「おい、なにさらっと聞き捨てならないこと言ってんだ。そんなとんでもない事実を今まで黙ってたのかよ。正味、俺は何人目なんだ」
「そんなに多くはない。三、四人目、といったところだ。いや、四は縁起が悪いな。七、八人目、くらいだったかな? 少なくとも十人はいってないと思うな。いや、もしかするといってたるするかも。さすがに二十人はないと思う」
「どんどん増えてるじゃねえか! お前ぶっちゃけ、テストパイロットの命を虫けら以下ぐらいにしか思ってねえだろ!」
「ああ、そうだ。フレイムライダーを乗りこなせず、自意識ばかり高いひと山いくらの連中などハカセにとっては虫けら同然なのだ。だが、お前は違う。今までお前と関わって確信した。お前ならば間違いなく、フレイムライダーを乗りこなす。根拠はなにもない。ただの直感だ。しかし自慢じゃないが、ハカセの直感は今まで概ね大体そこそこ外れたことがない。ハカセが保証する!」
「随分ふわっとした保証だな。不渡り出しそうな予感しかしないんだが。じゃあ、今日初めて会った俺のどこらへんにパイロットの素質を感じたのか言ってみろよ」
「うーん……まず、目力がある。あと、声がイケメン系声優声だ。それと体が細くて体重がなさそうだから飛行機には有利だな。そうそう、ツッコミ気質。これもエースパイロットには必須の条件だ」
「いま、思いついたことばっかり並べただろ! どれもこれもパイロットにおよそ必要とも思えねえことばかりじゃねえか。大体、ツッコミのエースパイロットなんて今まで聞いたことねえよ!」
「そのパイオニアになれるじゃないか。歴代ロボットものになかった主人公像。新しいではないか。これぞイノベーションというものだ」
「それは誰も思いつかなかったんじゃなくて、企画の段階で馬鹿馬鹿しいから誰も手出ししなかっただけの話だろうがよ」
「ばかやろう!」
突然ハカセの平手打ちがヤスオの頬を打ち、渇いた音が響いた。




