第参拾壱話 臆病は恥ずかしい事なんかじゃない
「いってえな! なんでこの流れで俺が叩かれるんだよ! 意味わかんねえよ!」
ハカセは立ち上がった。その目には涙を溜めていた。
「もうそういうのはいいんだよ! ハカセには分かってるんだよ。口先では強がってても、本当は怖いんだって、死ぬのが嫌なんだって。だから乗りたくないなんて言ってるんだってことも、ハカセは全部お見通しなんだ!」
「お見通しとか言う以前に俺はさっきからそうだって言ってんだろうがよ! 人の話聞いてなかったのかよ」
「だから、もうそんな強がりはよせ。出撃したくないなんて、心にもないこと言うな。もっと自分に素直になれよ。このままじゃお前、一生負け犬だぞ」
「いや、俺いますっげえ素直な気持ちで乗りたくないっつってんですけど」
「お前なんかにハカセの気持ちのなにが分かる! いままで何人もテストパイロットがコクピットで謎の変死を遂げたり、起動実験でミンチよりひでえ状態になったり、中には女作って蒸発した奴もいた。その度に落胆したハカセの気持ちが! 何度も計画が頓挫しかけて、ミナミの闇金にまで資金繰りに行ったハカセの苦悩が! そして、お前というダイヤモンドの原石を見つけて、こいつなら世界を獲れると確信したときの、小躍りしそうな高揚感も、お前なんかに分かってたまるか」
「お、おっさん。あんた、そこまで俺のことを、なんて思うわけねえだろ。なんか途中からボクシング漫画っぽい展開になってたし。大体お前、さっきまで議員に命令されて出撃しないみたいなこと言ってたじゃねえかよ。ミルキーフェイスと温泉旅行に行きたいがために変節しただけじゃねえか」
「それは認める! お前を出撃させて実戦データを、心ゆくまでとりまくる下心ももちろんある! だが、そんなもんは二の次なんだよ。ハカセはお前に一号機に乗ってほしいんだ! 乗って、昨日までとは違うお前の姿を見せてほしいんだ」
「昨日までとは違う、原型をとどめてない肉塊になった姿なんか見てもらっても、俺は嬉しくないんだけどな」
「お前がここに来たからには理由があったはずだ。引きニートで童貞で、ひとつ下の男な自分を変えたい、昨日までの自分と決別して結果にコミットしたい、このままじゃ駄目だ。このままじゃ駄目だ。このままじゃ駄目なんだ! お前のそんな心の声が、ハカセの胸をえぐるんだよ」
「なにどっかで聞いたようなフレーズを三回も連呼してんだ。もしかして流行らせる気? 絶対流行んねえから。そもそもそんなこと思ってねえし。俺がここに来たのはクーポン貰えるみたいなメールが届いたからだし」
「まだそんなこと言ってやがるのか! そんなにクーポンが欲しいならくれてやるよ!」




