第拾参話 反撃開始。未来閉ざす記憶
『女王ベリエザス様のけだるげ吐息。○月×日。長年親友だと思ってたナダイアが私に黙って婚約しやがった。カレシがいるなんておくびにも出さなかったくせに、私達いつまでも友達だよねと言い合っていたのはなんだったの。しかもご丁寧にあなたも早く幸せになって、また対等な立場でお茶しましょうねとか言ってきた。ムカツクー! 腹いせにどっかの星の生命体を滅ぼしてやんなきゃ気が済まないわ。早速侍女のワットアネントを伴って、レッツ虐殺よ』
「……なんかもう、色々詰め込みすぎで、どこにツッコむべきか途方に暮れるんだけど、こいつ、正気か? まるでピクニックか、傷心スイーツバイキングにでも繰り出すみたいなノリでひとつの星を滅ぼすおつもりなのか? 高次元に住まわっしゃる意識の思念体様って、そんなに横暴なのか? 下手な独裁者も裸足で逃げ出すぞ」
「よくいるよね。カレシに振られた腹いせに長年飼ってた金魚を金魚鉢ごと自宅前にぶちまけて殺しちゃうヒステリー女性。それと同じ感覚じゃないの? 女って怖いね」
「そんな女見たことねえよ! それ実話だろ! お前のカノジョの話だろ!」
「おっと、こうしちゃいられない。僕はそろそろ行くよ。こいつの情報をさらに集めとく必要があるんだ。大きな機密は大きな漏洩を伴う。正義のスパイって辛いね。じゃ、バイバイ」
スパイマンはそう言うと四つんばいになり、蜘蛛を思わせるすばやい動きでその場から姿を消した。
「なんだったんだあいつは。別にいてもいなくてもどっちでもよかったんじゃないのか。あいつの存在は必要だったのか? 俺としてはもう二度と現れてくれないことを祈るばかりだぞ」
すると突然、ヤスオたちのいる格納庫内に鈍い振動が起きた。ありすがヤスオの腕にしがみつく。
「なにこれ? 地震? やだやだ。荒死郎、ありす怖い」
「いや、この状況下で地震とかって、天然過ぎるだろ。おいオッサン、糞の役にも立たねえ諜報部もいないし、地上の状況を知る手段とかないのかよ?」
ヤスオに促され、ハカセも動揺から立ち直る。
「お、お、落ち着くんだ、荒死郎。あ、あ、慌てるんじゃあない。こんな時こそ、冷静になるのが、か、かか、肝要なのだ」
「ああ、そうだな。ものすげえ説得力あるよ。だから一旦深呼吸しろ。傍から見ていて痛々しいから」
「ひー、ふー。スパイマンの言葉を思い出せ。敵は極楽楽座の直上にいる。ならば、我々エデンが構築した監視システムを使って情報を得ることが可能だ。こちらへきたまえ」
ハカセがヤスオを案内した場所には中型のモニターと、それを操作するコンソールが一体となった端末があった。




