第拾壱話 希望運ぶ影、その名はS
「なんだよ! この聞いてるだけで鬱になりそうなサイレンはよ!」
ヤスオとありすが両耳を塞いで顔をしかめている間、ハカセの顔色が変わる。
「これは、地球規模の事件、災害が起きた際に鳴らされる、超特マル種警報サイレン! 地上で、いや、この地球のどこかで人類が滅亡しかねない事象が起きているのだ」
やがてサイレンも鳴り止み、周囲のライト、ランプが赤色に変化する。
「ああ、はいはい。大変だ大変だ。次は宇宙人が攻めてきたとか、悪の組織が独立国家の樹立を宣言したとか言い出すんだろ。さっきのサイレンもどうせオッサンがこっそり鳴らしてんだろ」
ヤスオが冷静に現状を分析していると、後ろから何者かが声をかけてきた。
「本当にそうなら喜ばしいんだけどね。みんなでハカセをボコっちゃう? でも残念。今のサイレンは正真正銘、地球の危機を知らせるものなんだよね。正直、もう逃げたくなっちゃったんだけど、いい?」
ヤスオが驚いて振り向くと、そこには黒のタイツを全身に着込んだ男がいた。照明が落ちていたので気付かなかった。顔を覆う覆面にはなぜか白地でアルファベットのエスの字が書かれている。どう見てもアメコミヒーローをパクったとしか思えないそのビジュアル、口調にヤスオは激しく戦慄する。
「おう。きたか、スパイマン。君がここにいるということは、当然地上で起こっている事態を把握しているということだろうな」
ハカセが黒タイツの男に声をかけた。ヤスオはこの男の危険性を訴えずにはいられない。
「待て、オッサン。こいつは一体何者だとか、いつの間に現れたとか、見た目が変質者にしか見えないとか、そんなことはこの際どうでもいい。ただ、こいつだけは殺した方がいい! もう言い訳ができないだろ! スパイマンって名前もヤバ過ぎる。ていうか、こいつの喋り方はまんま、アレの劣化コピーじゃねえか! もう殺せ。今すぐ殺せ。とんでもない事態を引き起こすその前に!」
「ひどいなあ。初対面でそこまで言われたのは編集長くらいだよ。もっと仲良くしようよ。僕たち、チームじゃないか」
「やめろ! それ以上アメリカナイズな喋り方はよせ! ここは日本だ! ニューヨーカーへの憧憬なんか捨てろ!」
激しく取り乱すヤスオをハカセが宥める。
「さっきからなにを訳の分からんことを言っている、荒死郎。紹介しよう。エデン諜報部のリーダー、スパイマンだ。見てのとおり、服のセンスは絶望的だがスパイとしての手腕は一級品だ。頼りにしてくれていい」
「そっちじゃねえ! もっと見過ごせない大問題があるだろ! こいつを放置してると本当に大変なことになるんだぞ! いい加減気付けよ!」
「ねえハカセ。彼、なにをこんなに怯えてるの? 僕、なにもした覚えないんだけどな。これから一緒のチームでやっていくと思うと先行き不安だよ。今からメンバーチェンジって、できない?」
「スパイマン。君も諜報員なら、荒死郎のデータは入手しているはずだ。君たちは地球を守る正義のチーム。お互いにどんな感情があろうとも、協力するんだ」
「なんでオッサンまで偉い長官みたいな口調になってんだよ。ていうか、またスルーなのかよ。俺は放置かよ。お前等、絶対分かっててやってるだろ」
ヤスオのクレームも虚しく、ハカセとスパイマンは地上の状況の確認を始める。




