清明様の憂鬱 朱雀さんの愛情表現75
婆様はいったん葛の葉をにらんだが、葛の葉の表情は変わらなかった。
「ちょっと待っておいで」と言って
ドアに行こうとした。
「ああああん」その時猫の声がした。
振りかえるとゆうるりと葛の葉が手をついて頭を下げた。
恐ろしくはなかったが、何かしら不条理で不吉な感じを受けた。
葛の葉のためではない。
猫たちがぺたんと前足を投げだしてならんで下を向いて同じ格好をしていた
顔だけは上げて目だけはじっと何かの訴えをもって自分を見ている。
「お前たち、何をしているんだい」
それらがまた、全体的に薄ぼけてきてもう一度目をこすった。
その時また「ドンドン」戸を叩く音がしてはっと我に返った。
「そこで待っておいで」ともう一度行って言って戸をあけに行った。
戸を開けるとそこには白虎と笑顔を浮かべた朱雀がいた。
婆様はほっと息をついた。
「ああお前かい」
「婆様、ありがとうお礼をもってきましたあ」
朱雀が明るく言って笑ったのでますますほっとした。
「ああ、それじゃうまくいったみたいだね、後ろの大きな人は恋人かね?」
「いえ、旦那です」
白虎が黙って頭を下げた。
「あんた、亭主もちだったのかい、まあおはいり、今ちょうど葛の葉が来た」婆様が言いかけると
「あれ」
朱雀のバックがガサガサとなった
「式神が来た」
式神を読んだ朱雀の顔から見る見る血の気が失せた。
「婆様、葛の葉が来たっていいましたよね」
「ああ、言ったが・・・・」
「じゃあ、まちがいだ」その声が震えている
「どうしたんじゃ」白虎が口をはさんだ
「だってだって」朱雀が震える手で式神を持ちながら言った。
「葛の葉が自殺したからすぐ戻れって、清明様が」悲鳴のような声で言った。
「まさか」婆様は笑おうとしたができなかった。
「屑の葉ならすぐそこに・・・」
婆様は店の奥に走りながら言った。
そこには墨汁のようなとろりとした濃い闇があった、
その中でさっきの姿勢のまま動かない猫たちの目だけが光っていて人影はなかった。