18話 リレー
トップバッターは翼だ。
他のやつも、運動部に所属している速いタイプらしく、声援は大きい。
三名が一列にスタートラインに並ぶ。
そして、スタートの合図。
静かな広い砂漠に一滴の水滴が落とされたような、そんな音を上げた。
その音は、三名の走り出す音にかき消される。
先頭を征くのはa組、岸本瑛人だ。彼も室長らしく、確か勉学も悪くはなく、十位代だったように記憶している。
その次に、我らが室長の翼。練習の時のように、余裕のある走りをしている。
最後に、b組。井村洋介だ。事前情報はあまり聞いていなかったが、前の二人にも食らいついている。
そして、バトンは渡される。
第二走者が女子なのはc組だけだ。渚である。
なんでも、「初っ端から室長を使うのは燃える」らしい。
というわけで、ボルテージは最高潮。c組の士気は格段に上昇した。
男子の運動部に渚が挟まれているのは、なんとも奇妙な光景だ。
高い位置で結ばれたポニーテールをなびかせながら、次の走者へと移る。
渚はテイクオーバーゾーンのギリギリまで走り、円滑にバトンを渡す。
山葵だ。渚の後が良いと言ったのでこの位置になった。
山葵は山葵なりに頑張っているようだが、やはり前方に速い走者を固めているのか、いつの間にかb組にも追い越され、徐々に差は大きくなってしまっている。
頑張れ、としか言えないのが虚しいところだ。
また、バトンが移る。差は余り縮まらないが、後半に余力を残すのが方針なので、仕方がない。
これも、今までの話し合いで定められた、想定内の出来事だ。
a組とb組は前を征き、c組はそれを追う形だ。
舞台は後半戦に差し掛かる。
a組もb組も勢いは落ちてしまっている。ここからは我らのターンだ。
第十二走者、優希だ。
最初、話し合いのときは、かなり速い優希をその順に置いていいのかと言われていた。
結局、翼の「急に速くなったら面白い」という発言に、多くが納得し、優希は十二番になったのだ。
まあ、そのエンタメ精神には、何処か好感を持てる。
実際、バトンが優希に渡たると、グラウンド上に大きな驚愕の声が響いた。
そして全体に緊張感が走るが、それを置いて進むのだ。
バトンを渡されるのは琢磨。
もうタッグのような安定感でバトンをもらい、走り出す。
野球部らしく、その動きは洗練されていて、足元には砂埃が舞っている。
そろそろ俺の番も近づいて、妙な心拍が俺を襲う。
俺は第十六走者。
明からバトンをもらい、涼太に渡すのだ。
こうしている間に、明へとバトンが渡り、俺はコース上に立つ。
湾曲したカーブの奥から、ついに明がやってきた。
集中。
呼吸を整える。
そして、テイクオーバーゾーンの隅っこで、疲れ切った明から、バトンを受け取った。
もう、走り切るだけだ。
最初の直線。
テイクオーバーゾーンは意外と長く感じられ、カーブに差し掛かるまでも体感結構掛かる。
集中。
詰まらないように歩幅を整えて、息詰まらないように呼吸を整える。
そして、カーブに差し掛かる。
見ているときはそこまで感じない曲がり具合。
だが、実際に走る時、それは魔物のように化ける。
もつれそうになる足を必至に回し、少しでも差を縮めようとする。
誰かの声援が、聞こえた気がした。
もうa組もb組も近い。
ここまでの走者が、頑張ってくれたおかげだ。
ラストのストレート。
集中。
こちらに手を振っていた涼太は、もう受け取りの準備ができているようだ。
詰める。
指す。
これは、“貢献”するためだ。
集中。
――バトンを、リョウタに受け渡す。
止まらずに走り出していったが、その後はわからない。
はぁ、はぁ、と息を整えていると、渚が近づいてきた。
大きく深呼吸して、聞いた。
「貢献、できたか?」
「ああ。勿論」
そのポニーテールは、満足気に笑った。




