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第9話「英雄の素質(中)」

「くそっ、キリがねぇ……!」


ガルドの悲鳴に近い声が、荒い呼吸と共に広場へ響く。


オークウォーリアーが低く唸るたび、周囲の魔物たちの動きが目に見えて鋭くなっていく。ボスの持つ【鼓舞】と【統率】のスキル。これによって強化されたオークの一撃は重く鋭くじわじわと私たちの前線を削り始めていた。


「ベルン、耐えなさい!」


「……っ、分かって、いる!」


セレスの支援魔法を受けながら、ベルンが大盾でオークの棍棒を受け止める。だが、その腕は微かに震えていた。重装戦士の彼ですら、限界が近い。


(このまま泥仕合を続ければ、遠からず前線が崩壊する)


それは、私の後ろで必死に耐えているナリアの死を意味していた。


だが、仲間たちの消耗を冷徹に分析する私の脳裏には、それとは全く別の「感覚」が流れ込んでいた。


(――あ、レベルが上がってる)


ここに来るまでに切り伏せたゴブリンやオークの経験値によるものだろう。


脳内で自分のステータスを確認すると、そのMPの欄はすでに10000をも超える異常な数値を叩き出していた。


魔力の底が全く見えない。


これだけの出力が出せるなら、もう搦め手を使う必要なんてない。


戦術の基本は「数の有利を潰すこと」だ。ならば文字通り、一瞬で一掃すればいい。


「セレスさんは水魔法使えますか?」


まずは準備ができるかを確認する。無くても不可能では無いが、これがあるに越したことは無い。


「一応使えばするけど、何するつもり?威力は風の方が高いし魔力的にも余裕はないわよ」


よかった。セレスは今まで風魔法しか使っていなかったから不安だったが、複数の属性を使えるらしい。それが分かれば十分だ。


「魔力が足りないならこれを使ってください!」


そうしてマジックバックから魔力回復ポーションを取り出しセレスに投げる。受け取った彼女は目を丸くしている。


「これどこから…ってマジックバック!?…もう何も聞かないわよ」


これでまだセレスも戦えるだろう。


「あとは…ナリア!」


振り返り、後ろで身を硬くしている少女の名を呼ぶ。


「えっ、あ、はい!?」


「さっきの練習を思い出して! あいつらの足元に向けて、出せるだけの水を一気に出して! 形を広げるイメージだよ!セレスさんもこの子に合わせて同じように水魔法をお願いします!」


「う、うん……! やってみる!」


ナリアは恐怖に震えながらも、私を信じて真っ直ぐに右手を突き出した。

彼女の胸元から右手へ、驚くほどスムーズに魔力が流れていく。やっぱりこの子は操作の天才だ。


「――広がれぇっ!!」『ダイダルウェーブ』


2人叫びと共に突撃してきていた数十体のオークたちの足元へ大量の水が激流となって溢れ出した。ぬかるみとなった地面に魔物たちの足元が一瞬だけもつれる。


「ガルドさん、ベルンさん!一歩下がって耳を塞いで!!」


「えっ、おい、何を――」


「早く!!」


私の気迫に押されたガルドたちが、反射的にベルンの盾の裏へと飛び込む。


それを見届け、私は体内の膨大な魔力を、一気に自然魔法へと変換した。


狙うはナリアが濡らしてくれた、オークたちの足元の水溜まり。

科学的な文明が未発達なこの世界では、水と雷の相性なんて誰も知らないかもしれない。


でも、前世の知識を持つ私には、これが最も効率的な広域殲滅の最適解だと分かっている。


空気が震える。


肌を刺すような静電気が周囲へ広がり、地面に散った小石がパチパチと火花を散らした。


「な、なんだこの魔力量……!」


後方でルークが息を呑む。


セレスも杖を握ったまま目を見開いていた。


「ありえない……こんなの、人間の魔力量じゃ――」


私の周囲を淡い雷光が走る。


制御しきれないほどの魔力が、自然そのものを無理やり捻じ曲げ始めていた。


「『ライトニング・サージ』――!!」


放たれたのは、細い電撃などではなかった。


広場全体を真昼のように白く染め上げる、極大の雷撃の奔流。


水面を走った雷は、一瞬で広場全域へ広がった。


閃光。


次の瞬間、世界から音が消える。


視界を真っ白に染める雷光と共に、遅れて爆音が森を揺らした。


木々が激しくしなり、地面が跳ねる。


感電したオークたちは断末魔すら上げられず、その場で黒く炭化して崩れ落ちていく。


鼻を突く焦げ臭さ。


立ち込める白煙。


ほんの数秒前まで押し寄せていた魔物の軍勢は、跡形もなく消えていた。


「ガ、アアアアアアアアアアアアアッ!?」


水へと着弾した雷は、伝導率を何倍にも跳ね上げ、濡れた大地の上にいた100体近いオークの群れへ瞬時に伝播した。


鼓膜を破らんばかりの轟音。


空間そのものが焼き焦げるような衝撃波が吹き荒れ、感電したオークたちが悲鳴を上げる暇すらなく、一瞬で炭化して崩れ落ちていく。


ほんの数秒前まで広場を埋め尽くしていた魔物の大軍が、文字通り「一撃」で消滅した。


静まり返る戦場に、ただ、焦げた土の匂いだけが漂う。


「……は? 嘘、だろ……?」


盾の裏から顔を出したガルドが、呆然と口を開けたまま腰を抜かしていた。セレスもルークも、言葉を失って私を見つめている。


一人の子供の魔法使いが出していい威力なんてものは完全に逸脱していた。


「……よし、雑魚は終わり」


私は腰の背中側から、水色の短剣を静かに引き抜いた。


まだ魔力の残滓でパチパチと火花が散る空間の向こうで大軍を失い、怒りに目を血走らせたオークウォーリアーが、獰猛な咆哮を上げてこちらを睨みつけていた。


「次は、あいつだ」


身体強化を全開にする。


ここからは、私の戦いだ。

よーやく心の中の声を()の中に入れることを覚えた

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