第3部7話 守るため、闇へ降りる
……ここか」
蓮は葛城達が特定した座標地点を再度、確認した。
人がいるとは思えないほど、今にも崩れそうな廃屋だ。
夏だと言うのに、異様に風が冷たい。
この場所だけ、異質だ。
風の音だけが闇夜に消えていく。
蓮はゆっくりと廃屋の門を開け侵入する。
古い金属のはずなのに音がならない。
–いる。
使われていなければ錆び付いて動かないはずだ。
そのまま、建物内へと進んで行く。
建物内部も暗く、様子は伺えない。
が、隠しきれていない殺気が多数。
(…数は、2.30って所か…)
その瞬間。
—パンッ。と乾いた銃声の音。
それと共に蓮の目の前に複数の敵が同時に切りかかってくる。
蓮は弾丸を容易く避け、切りかかってきた敵をなぎ払う。
「…雑魚どもが」
低く呟く、蓮のその瞳は結、奪還の火が灯されていた。
一気に敵の銃火器部隊を蓮は制圧していく。
(…雇われ暗殺部隊か?)
統率は取れているが、遅い。
以前の黒影部隊よりも弱いと感じた。
圧倒的な強さで蓮は銃火器部隊を制圧すると
切りかかってくる者達もまるで踊るかのように倒していく。
だが、蓮はいつもの自分とは少し戦いのリズムが違う事にも気が付いていた。
(焦りか…)
その時だ。
無機質な声が聞こえた。
「一人で来たのか?」
声を合図に蓮への攻撃が止まった。
攻撃が止まると同時にきりかかってくる、怪しげなマントの男。
キィィンッ‼︎っと蓮と男の刃が交わる。
一撃、ニ撃と男が切り込んでくる。
実力は互角か…相手がやや上か。
蓮に先程までの荒さはなくなり、冷静に男の動きを読んでいく。
が、交わしきれなかった1撃を受け、血が吹き出す。
そんな事に構わず、蓮は剣を振り上げた。
—ガキンッ。と蓮と男の刃が交わる。
「この程度か。笑わせる…」
「お前、また失うぞ」
男の言葉と共に蘇る、あの日の蒼真の姿。
陽葵へと伸ばされる腕。
ゆっくりと力を失っていく体…。
蓮は眼を閉じた。
「……それでもいい」
そして、再び眼を開けると
「守れなかったままで終わるよりマシだ」
そのまま、蓮はズバッと男を切り裂いた。
周囲の敵は男が倒された事でバタバタと外へ逃げていく様子が見られた。
蓮はもうすぐ到着するであろう、橘達に処理は任せようと、荒い息を整え、タバコに火をつけ歩き出した。
先程の傷から血が流れている。
足元へとぽたぽたと流れた血が落ちていく。
「……結」
娘の名を呼ぶが返事はない。
その時だ、足元にこの廃屋にはあるはずのないものが落ちていた。
—結のお気に入りのキーホルダーだ。
「…っ!」
やはり、結はここにいる。
キーホルダーを拾い上げるとズボンのポケットへと大切にしまう。
その時だ、風など吹くはずのない室内で風の音が聞こえた。
それも壁からだ。
蓮は壁に耳を当てる。
微かだが、風が流れて来ている。
「ここか」
壁を押すとゆっくりと壁が動き、地下への階段が現れた。
蓮はタバコをひと吸いし、踏み消すと階段をゆっくりと降り始めた。
階段を降り切ると、ひとつの扉。
扉に耳を当てると、微かだが人の気配がする。
ゆっくりと周囲を警戒しながら扉を開ける蓮。
すると…。
「……来ないで」
—それは紛れもなく、娘、結の声だったが、助けを拒む声だった。




