01 創造主
目覚めると、真っ暗であった。
そこは、無音の静寂に包まれた世界。
暗闇の中では、ものが軋む音も、人の呼吸音も、鼓動の音も、そこには、響いてはいなかった。
……夢の中か。
夢の中だと自覚している夢は、とても珍しいものだ。
夢だと自覚してていると、夢では、自分の好きなように出来ることを知ったのは、小三の頃、今から、八年近く前だ。
淡い色の空を縦横無尽に飛んだり、好きな人を召喚して、何でも俺の意のままに合意してくれる彼女とデートをして、その後、二人っきりの彼女の家にお邪魔しちゃたりして、子作りに励んだり、などなど、何でもし放題。
所謂、明晰夢だな。
それにも興味があった。俺は欲求に忠実に生きていく人間であった。
しかし、明晰夢は起きている時だって、四六時中妄想をしている俺には、必要ない。
自論だが、明晰夢だって所詮、妄想の話だ。描写は雑で、画質も荒い。それでいて、話の流れには矛盾を孕んでいる。
初心者がサークルで作ったアニメの方が、画質は良く、web小説と同じくらい、脚本は雑で、見るに堪えないだろう。
ということで、俺は身体を起こそうとした。
寝ている俺は、布団の上でスヤスヤのはずだ。
いつも通り起きて、何ら変哲のない一日が始めるつもりだった。
だが、身体の動く感触がしなかった。
ここがどこなのか確認する手筈だった俺の目も言うことを聞いてくれない。
目は開くこともなく、何も映してはくれなかった。
瞼からは一筋の光も漏れてこない。
いつも、瞼を閉じると視界に映る暗闇は、絵の具で塗りつぶされたような、まだら黒だ。
しかし、今目に映るものは、まるで深淵だ。
見たことのないくらいの闇だ。
何だ?
突如として、起こる身体の異常。
感じたことのない違和感。
こういう時は、素数を数えるべきか。いやもっと記憶の中を探るものだ。
そう、歴代徳川将軍の名前を思い出して、冷静になるべきであろう。
一代目は家康、三代目は家光だろ。
飛ばしてしまったが、確か、二代目は秀忠。
ここまでギリ分かるが、四代目は誰だったけ……
クソ、普通に素数を数えれば良かった。
っと、そんなことよりも今の状況の最悪な可能性達だ。将軍の名前はどうでもいいのだ。
やはり、目が見えないことが一番の気掛かりだ。
そこから連想される俺の状態といったら、良いものは思いつかない。
まず一つ目の説は、盲目だ。
目が見えないことを説明するのに、これ以上分かりやすく、一番初めに思い浮かぶものだ。
視力が低下したか、眼に傷がついたというのも、考えられる。
俺ももともと視力が弱く眼鏡をしてきたが、これまで異常という異常は確認できなかった。
それに、この説では、身体の感覚がないことの説明がつかない。
二つ目の説は、何かしら拘束されているパターンだ。
手錠をつけられて、ベットに大の字で寝かせられ、目隠しをさせられている可能性だ。
俺は裸で、隣には、ストーカー気質の女の子がいて、それからどんなことが起きるのかは、考えずとも分かる。
しかし、この説の問題は、話が飛躍しすぎている点だ。俺が何で拘束されているのか、が不明すぎる。
睡眠薬を入れられたら、前後の記憶がめちゃくちゃになることはあり得る。
現に、俺が寝る前の記憶は、あやふやだ。
しかし、都合の良いように、解釈しすぎだ。いや、都合は全く良くないけど。
これまでストーカー被害だってなかったし、俺が誰からか恨みを買うこともないだろう。
三つ目の説は、死んだという説だ。
認めたくはないが、この説がどの説よりも可能性があり得そうで、本命だ。
死後の世界を見たという者はいない。
いや、ネットでそのような話を耳にはするが、人の思考なんて、読み取れない。それが事実だとは思わない。
俺でなくとも、嘘だと思うだろう。
確か、ポリグラフ検査は、法的証拠にならないと聞いたことがある。
人の思考を読むとることが出来たとしても、それが本当に確実なのかは、分からない。
読み取られる人、読み取る人、どちらもグルの可能性だってある。
催眠やマジックだって、事前に打ち合わせしていて、本番で、たった今に鉢合ったと皆に思わせる二人が、打ち合わせ通りにやったら、観客には気づかれない。
そういう怪しいものは、たくさん見てきた。
俺は実際に体験した身でもないけどな。
つまり、完全に人の思考を読むことは出来ない。イコール、死後の存在証明は、現状、不可能だ。
自分で反論を出して、それを論破する意味の分からないことをしているが、
それが意味することは、ここが、死後の世界の可能性だってあるという言葉だ。
寝る前の記憶を思い出してみよう。
寝る前の記憶が思い出せれば、三つの説のどれかが分かる。
俺的には、二つ目の説が安牌だ。
一つ目の説は、二度と世界を拝めないのは、最悪だ。三つ目も、同様。死んでいるのは、論外だ。
……二つ目の何が安牌かは分からないが。
他の説も、思いつくかもしれない。
記憶の整理は大切だ。
けれど、思い出せたのは、俺が自室で、絵の練習をしていた記憶だ。
絵を描ける人って良いよなという魂胆で、スケッチしていた。
けれど、さほど俺は、絵が上手く描けるのではない。
これを思い出したところで、これは説を裏付けるものがないではないか。
……さて、どうしようか。
これ以上、することがない。
もし、三つ目の説を正とすると、
もう諦めることしか出来ないのだろう。
死者が生き返ることはない。
つまり、俺は、この状況を脱却する術はないのだ。
普段することがないなら、エッチな妄想をしている。
なので、ここで、俺のフェチの話をしよう。
することがないからな。
卒業式の練習だって、暇な時間では妄想をしてきた。
まず、俺は純愛でないと無理だ。
無理矢理や可哀想なのは、言語道断、漫画の中で回想であろうと、一瞬でもそのようなシーンがあると、萎えてしまう。
次は、好きなものだ。
女の子の皆さん、メモを取ってください!
ハーレムは、シュチュエーションとしては良きだ。
純愛が良いのに、ハーレムが好きなんて矛盾していると思う人間がいるだろう。だが、俺と彼女たちは愛し合っているのだ、何も問題ない!!
タイプとしては、誰でも良い。
学校の廊下で、すれ違った子との恋でも、辺鄙な田舎で、生まれてきた少ない若い子の俺と幼馴染との恋も大歓迎!?
はっきり、何でもオッケーだ!!
こんな妄想も、ここに来てからも幾度もしてきた。そろそろ、精神が蝕まられ、崩壊してくる頃だろう。
死後の世界は、何があるのかは、考えたことがあった。天国はあるのかとか、死んだら輪廻転生は出来るのかとか、そういう初歩的で一般的ことだけだが。
そんな時の俺もこんなにも暇だったとは、思いもしなかった。
少なくとも、美少女の話し相手がいて、二人きっりで、空の上から、神々しい壮大な天国の景色を共に見て、二人でもう一度天国に行く。
それを何日も続ける。
……また、妄想をしている。
情けない奴だ。
妄想のまま開花することなく、死んだ。
後悔したって意味がない。
今は、精神を保つことだけを意識するべきだ。
死んでいたとしてもだ。
万が一、生きていた場合、精神か崩壊していたら意味がない。
なので、また考えごとでもして、時を明かすとでもしよう。
いろんなことが頭に巡る。
ちゃんと生きれば良かった。後悔なく、やってきたつもりだったのに、まだ足りたかったんだ。
最後は、真っ暗な空間に閉じ込められて、今はまだ平気だが、精神が崩壊して、意識を失う。それが俺の最期だと思う。
『……まだ、生きたいな』
頭の中で呟いた。
掠れる声だったと思う。
現実で言ったら、この言葉は誰にも聞こえず、もっと大きな声で言え、とか正論をぶつけてくるだろう。
そうしたら、俺は自分が情けない奴だと思う。
けど、その言葉を呟いたのだ。
その刹那、瞼が開いた。いや、ずっと開いていたのだ、ただ景色が存在しなかった。けれど今、この景色は出来たのだ。
神秘的な景色がそこにはあった。
真っ白な地平線に、海のような淡い空が広がっていた。
この景色、目掛けて世界中から、絶景を見ようと雌雄を決す刺客が、現れそうなものだが、
相変わらず、俺は世界の中心でぽつんと立っていた。
めまいがするというのか、意識が朦朧としているが、そんなことはどうでも良かった。
ついに来たと、でも言うのだろうか。
俺は思った。
ここは天国だ。それくらい美しい。
そして今から神が現れる。
多分、これから神様に導かれ、あの世で残りの人生を過ごさせられるのだろう。
…………
いくら待とうと何の進展もない。
何だ?神は俺を忘れているのか、だとしたら、俺は可哀想な奴だな。
しかし、待ったと言っても、二十分。
この時間は、普段アニメやゲームなど、娯楽と、下にお熱だった俺にとって、長い、長すぎる!!
いつも、することがないなんて滅多になかったからだ。
もう妄想するネタも尽きた。
卒業式でも似たことになる。毎回寝る寸前の意識を誰かの声を元に復活させていた。
寝るのも手だが、神のもとに行くのに、寝ていたら、勿体ないではないか。
景色も充分に堪能した。
ここは、幻想的であるが、美人も三日で飽きるというやつだ。すでに飽きた。
もし、この景色がブサイクなら、顔の穴という穴ってやつを全て、見つけてやったのにな。
それだけで、三日以上は潰せるぞ。
もしかしたら、美人の方がつまらないのではなかろうか。
っと、そんなわけないか。
それにここでは、身体を動かせる。
身体が動かせないないと、閉所に包まれて、緊迫感で、精神が参ってしまうからな。
ここなら、それがない。
手を閉じたり、広げたり、しながら空を仰いだ。
それと、ここは無音だと言ったが、そんなことはなかった。
景色に感嘆して、息をすることすら忘れていたというやつだ。
呼吸音は普通に聞こえるようになったし、声も出せば聞こえてくるし、歩けば、自分の足音もする。
この足音というのが、今は変に感じるんだよな。
いや、あの世だから当たり前なのかも知れないが、土やコンクリートと違って踏み締めている感じがしない。
湿地のようにぬかるんでしまいそうだ。
だが、地盤はしっかりしている。
いくら踏んでみても、一切の跡もつかない。
やはりというべきか、ただの地面ではない。
これでは、死後の世界という説が真実味を帯びている。
しかし、神が来ないのだ。
やはり神はいないのか。
それなのに死後の世界があるのは、解釈が分からない。
死後の世界には、何があるんだろうか。
せめて、景色に変貌があればと思う。
俺の好きな景色は、絵画のような風景だ。
かといって、美術の勉強をしているのではない。
ルネサンスという言葉は知っているが、絵については知らないので、端的だと、中世ヨーロッパみたいな景色が良い。
赤色の屋根の家が集まった町に、黄金色の麦の匂いが充満とした村、そんな世界が好きだ。
しかし、この世界は現在は空白。
何をしたら良いのだろうか?
好きなことをやってでもみたいが、それも出来ないのがもどかしい。
好きなことをしたくても、その肝心のしたいことがないな。
案外、一人の時にはすることが思い浮かべないものなんだよな。
せめて、緑の土地があれば良いな。などと思っていた。
ガキの頃は、校庭の土を弄っていたのが懐かしいな。目の前のやつが土で遊んでいるのが怒られて、俺だけ神回避した思い出。
そんなことを思い出していると、身体に違和感だ。身体が地面と一体化するような雰囲気。地面と同じ血を交えたように、地面がドクドクとする。
すると、不思議の地面が、緑色の短い草が全面を覆う土地へとなっていた。
「……」
どうやら、俺はこの場を好きに創り変えられるらしい。明晰夢に近い。明晰夢は体験したことがない。こんなに、感覚が違うものなのか……
ここはまるで新たな世界。俺のいた地球とは違う所謂異世界だ。
俺はこの世界の創造主となったのだ。




