5話 帰還しました。
ムーさんの残骸を崖から落としておりますと、ちょうど日が暮れてしまいました。やむを得ない正当防衛であったため、罪悪感はございませんが、魔物市場の方々に事の顛末をご報告しなければなりません。私の旅は始まったばかりだというのに、人殺しという罪で旅が終わってしまうのは本意ではありません。正当防衛であることを信じて、ありのままを話すべきでしょうか・・・。。
思考を整理したいところですが、急いで下山しなければなりません。視界の悪くなる夜間に、松明も持たずに魔物の山に留まることがどれほど危険か、素人の私にも十分にわかります。体力も限界に近づいているうえに、さらにもう一つの悩みの種ができました。
それは……ムーさんを倒してからというもの、一匹の一つ目蛇がずっと私についてくるのです。まず、彼女の遺体を崖から落とす際にも、自分の体を使って一生懸命に私の真似をしておりました。私が疲れて座り込みますと、肩に乗って頬ずりをしてくるのです。懐いてくれていることはわかるのですが、魔物に懐かれたところで、食べること以外に何か良いことがあるのでしょうか。昨日食べた炭火焼きを思い出し、思わず涎が出てしまいました。それに、普通の一つ目蛇はとても可愛いのですが、この子は少し違います。体が昨日食べた蛇よりも短く、そしてぽっちゃりとしています。以前どこかの文献で見た「ツチノコ」という生き物に似ています。こちらが見つめていると、ぽてぽてとした体で私を見つめ返しています。
「チャー?」
蛇の鳴き声にしては、少し可愛らしすぎる気がします。魔物市場からお借りしたナイフで、今すぐ殺してしまおうかとも考えました。しかし、私の命の危機を救ってくれたわけですし、ひとまずは様子を見ることにしました。
「では一度、魔物市場に向かいましょう。一つ目蛇さん。」
ムーさんと来た道はなんとなく覚えておりましたので、下り坂に身を任せて走り出しました。蛇は私の肩に乗っています。サイズ的には私の顔より少し小さいくらいですので、それほど気にはなりません。夜でも温かいので、「せいふく」と呼ばれるこの服を買っておいて正解でした。生地が良く、通気性にも優れているようです。周囲からは魔物のような唸り声が聞こえてますが、気にせず走り続けます。
「「チャー!!(石竹の瞳の魔法」」
草むらから、狼のような魔物が飛び出してきました。私は反射的に、肩にいる蛇の首元にナイフを当てました。しっかりと命の危機を感じてくれたのか、魔法が発動し、ムーさんを倒した時と同じ魔法で狼が石になりました。これは、実に素晴らしいです。私自身はまだ魔法を使ったことがありませんので、当面は私の仮の魔法として働いてもらうことにします。少しだけ夜道を照らしてくれるのも良いですね。それでは、大急ぎで魔物山を下山したいと思います。
無事に下山いたしました。魔物市場は、煌びやかなランプの灯りに包まれています。まずは一呼吸置いて、息を整えましょう。自分が報告すべきことを、もう一度整理します。ただでさえ魔物を連れてきておりますので、市場の方々がパニックになりかねません。
『ムーさんとは初対面であり、本来は魔物を狩る講習を受けるはずが、私を殺そうと襲いかかってきた。その後、たまたま洞窟内にいた一つ目蛇によって返り討ちにした。命を脅かしたにも関わらず、その一つ目蛇がついてきている……』と。
う、嘘はついておりません。しかし、どうにも現実味がありませんね。
魔物がご迷惑をおかけするかもしれませんので、見つけた裏口のような扉をノックいたしました。ちょうど受付カウンターがあったあたりの裏口かと思います。
「ごめんください。お昼頃にムールーン様と共に、魔物山の講習に伺いましたシーズです。問題が発生し、帰宅が遅くなってしまいました。
その際、魔物に懐かれてしまい、現在は私の肩に乗っている状態です。正面から入るのはご迷惑かと思い、裏口から失礼させていただきます。」
ガチャっと、扉が開きました。中から、昼間にお会いした、三つ編みおさげの受付嬢の方が現れました。
「シーズさん!よくぞ、ご無事で。とりあえず中にお入りください。」
「すいません。この子も中に入っていいんですか?」
「大丈夫です。魔物市場は魔物狩りもある程度できないと働けないのです。それに一つ目蛇は比較的温厚な魔物なので、対処も簡単です。そんなことよりも・・。ムールーンさんが見当たらないのですが・・・。」
「すいません。それが・・・・。」
その後、魔物市場の客室のようなスペースに案内されました。スクレアさんと向かい合って座ると、私は事の経緯をご説明いたしました。もちろん正直に、ただし一部は隠したままで。スクレアさんは、話を聞きながら紙に記録を取っていらっしゃるようでした。ところどころ、かなり細かい質問もされました。真剣に話を聞いてくださっているようなのですが、どうやら一つ目蛇が気になるご様子で、時折ちらちらと視線が蛇に注がれております。
「はい。簡潔なご説明ありがとうございます。災難でしたね。ムールーンは、今日配属され、初仕事の新人でした。彼女の採用は私が担当しました。私の責任でございます。大変申し訳ございませんでした。」
「えっと・・・。私が言うのもなんですが、疑わないのですか?私がムールーンさんをもともと殺すつもりだったとか・・・。」
「それは大丈夫です。秩序神テルミス様の名のもとに。真鍮のはかりの魔法」
ミルクティー色の髪がなびき、スクレアさんの瞳が黄色く光りました。彼女の頭の上に、黄色く光る透明なはかりが現れました。
「私の魔法は、魔物狩りのみなさんの発言の真偽をはかる魔法です。シーズ様の発言に嘘偽りがなかったことを、秩序神テルミス様に誓って、私がここに証明します。」
ひとまず安心しました。もし嘘をついていたとしたら、私はいったいどうなっていたのでしょうか・・・。それにしても、魔法は美しく、それでいて大変便利なものだと改めて実感しました。
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