4話 魔物を狩りにいきます。
こんにちは。シーズです。
現在、魔物はびこる魔物山に、向かっています。どうやら、本当に誰でも倒せる魔物が現れるスポットがあるらしく、そこに連れて行ってもらっています。魔物山は、傾斜は緩やかですが、かなり、木々が密集しています。小回りが利くような武器で探索した方がよさそうです。
ムールーンさんは、私の魔物との戦闘経験や、魔法について詳しく聞いてきました。魔物との戦闘経験は無い、魔法を使ったこともないというと、驚いていました。魔法は言いたくないというと、すぐに食い下がってもらいました。どうやら、今回倒す魔物は、ナイフ一本で倒せるらしいからです。
「チーズちゃんってとってもかわいいよねー。元メイドといわれてもピンとこないよー。」
「うれしいです。ただ、私は私の容姿を美しいと思ったことはないです。ムーさんこそ、可愛いですよ。」
「確かに。私可愛いもんねー。」
紫色の美しい髪をなびかせながら、ムーさんはずんずんと進んでいきます。愛らしい顔と間延びするような穏やかな性格は、いろいろな人を癒していそうです。
「チーズちゃんはさー。家族とかいるー?私はー、人の家族の話を聞くことが好きなのー。家族って、生まれたその時からの仲間だからー。」
「そうですね・・・。私は、小さいときに家族を失って、メイドとして勤めていた家に引き取られたので、家族を知らないです。物心つく前に、家族を失っているらしいので・・・。でも、私にとっての家族は、勤めていた家の皆様です。幼いころからずっとよくしていただきました。厳しく、そして愛情に満ちた方々でした。」
「そうなんだー。アルヴァイン家のみんなにチーズちゃんは、愛されていたんだねー。愛って素敵。血を分けていても、分かち合えるから」
「そうですね……」
相槌を打ちながら、私はふと違和感を覚えました。いつの間にか、密集していた木々が途絶え、ひんやりとした空気が漂う薄暗い洞窟の中に足を踏み入れていたからです。緩やかだったはずの足場も、ゴツゴツとした岩肌に変わっています。
「……あれ? でもどうして、ムーさんは私の勤め先を知っているのですか?」
私が名前を出したわけではないのに。
立ち止まった私の問いに、ムーさんは振り返りました。紫色の髪が、洞窟の微かな光を反射して怪しく揺れます。
「ふふふふふ。それはねー。チーズちゃんの暗殺を依頼されたからだよー」
「・・・」
「ふふふ。ここはね、誰にも邪魔されずに『お仕事』ができる場所ー。遮音の洞窟なんだー。」
穏やかな声色のまま告げられた言葉に、私の思考は一瞬停止しました。暗殺? 私の?暗殺される心当たりはありません。私が持っている魔法のトラブル以外では・・・。高いお金を払ってまで暗殺するということは、依頼人はアルヴァイン家の方以外に考えられないです。公爵様、リーシャお嬢様は、金貨と馬車を用意してくださったので、その他の長男、次男、三男様でしょうか。どうして屋敷で殺さなかったのでしょうか。その方が後始末も楽なはずです。
ドクン、と心臓が大きく跳ねました。あれこれ考えましたが、私、まだ死にたくないです。
アルヴァイン家のためなら命を懸ける覚悟はありましたが、いざ終わりを突きつけられると、私の内側から強い拒絶が湧き上がってきました
アルヴァイン家のためなら命を懸ける覚悟はありましたが、いざ理不尽な終わりを突きつけられると、私の内側の深いところから、強い拒絶が湧き上がってきました。
ふと、記憶のずっと奥底で、鈴を転がすような『誰か』の明るい声が響いた気がしました。
――私は80歳まで、生きたいわー。でも死んじゃったらその差分、チーズがしっかり生きるのよ。
そうです。私はまだ、生きなければならない。私の命の終わらせ方は、私が決めたいのです。
「何を黙っているのーー。命乞いしてよー。家族がいるのでしょー。まあいいやー。さくっとおわらせちゃおーっと。月神ミネル様に祈りを捧げます。花紫の押印の魔法」
ムーさんが手を天にかかげました。彼女の手に何やら大きなハンマーのようなものが現れました。スムーさんの体の二倍くらいの大きさです。どうやってあの大きさのハンマーを持っているのでしょうか、魔法とはやはり不思議なものですね。私は今から、あのハンマーに潰されるのでしょうか。
「よいしょー。」
どごおおおおおおおん。
ムーさんは、大きく振りかぶって、目の前の岩を壊しました。恐ろしいです。でも、美しいです。ハンマーを振ると紫色の花弁が舞っています。私はとっさに、岩の後ろに隠れました。この洞窟は私を隠せるくらいの岩がぽこぽこと存在しています。岩を盾にして、出口を目指しましょう。といっても、出口側にムーさんは立っているのですが・・・。
「えっとー。かくれんぼかなー。うーん。意味ないよー。」
どごおおおおおおおん。
ムーさんは、さっきとは逆に、ハンマーの横振りをしました。ハンマーから放たれた衝撃波のようなもので地形が変わりました。これは驚きました。岩が3つほどしか残ってないです。私の本能が命の危機を感じたおかげで、間一髪、避けることができました。私は今、地面に土下座しています。
どごおおおおおおおん。
危ない。瞬発力で何とかなりましたが、今度も避けれました。
「あれ?避けれるのー?経歴にメイド以外はなかったはずだけど―。まあたまたまかー。よいしょー。」
どごおおおおおおおん。
どごおおおおおおおん。
どごおおおおおおおん・・・・・・・・・・・・・・。
かすっても一撃必殺の攻撃を、私はぎりぎりでよけ続けています。小さいころに遊んだ大繩飛びを思い出します。そろそろよける以外のアクションを取らないとまずいです。よけられていますが、だんだんと洞窟の奥に追いやられています。後ろには、底なしの崖がスタンバイしています。出口も遠のきますし、貸出ナイフで果たして、ムーさんを倒せるのでしょうか。
「当たらないねー。どうしてー。どうしてー。どうして・・・。おとなしく死んでよ。お父さんに、家族に早く認められなきゃいけないの。どうして当たってくれないの!」
暗殺者の割に、かなり感情的ですね。しかし、感情的になったムーさんの攻撃は、精度こそ落ちましたが、その分、破壊範囲がデタラメに広がりました。岩の破片と花弁が嵐のように舞い、視界を遮ります。避けるのもギリギリになってきました。決着がそろそろつきそうです。ただその場合、私の押し花ができるという形での決着ですが・・・。
「死んでよ。ねえ死んで、私はもっと、もっと強くて、権威のある人たちを殺したいの。早く認められなきゃ、早く早く早く!」
ムーさんは、どうやら暗殺を家業とする生まれのようですね、業務は違いますが、メイドの身として、認められたい気持ちはちょっと共感でき・・。おっと危ない。しっかり集中しないといけないですね。どうしましょう。そろそろ崖に追いやられます。
私は崖っぷちまで追い詰められながら、必死に周囲を観察しました。その時、視界の端にそれが映ったのです。これは、もしや、勝てるかもしれません。ハンマーにより変わる地形、感情的な暗殺者、そして視界に移ったそれ・・・。これで確実にムーさんを倒せる保証はありませんし、チャンスはおそらく一度です。命を賭した大勝負をしてみましょう。
「なにー?その避け方。私を倒そうとしてる?もしかしてー。魔法すら使ったことないんだから、無理だよっっと。」
なんとか無理やり、ムーさんの視界にそれを入れないように避け続ました。そして、ムーさんの猛攻によって、変化した地形により、私とムーさんの間におおきな段差ができました。
「はあ。てこづった。でももう終わりね。もうあなたの後ろは断崖絶壁、段差によって、出口側にも逃げられない。ただのメイドに時間を使いすぎたわ。」
「そうですね。もうメイドではないので、ただのシーズです。でもムーさんのよりも、温かい家族がいます。いいでしょう?」
「私の!私の家族を馬鹿にするなー!」
狙い通り。逆上した彼女が、巨大なハンマーを振りかぶり空高く跳ね上がりました。ちょうど私が見上げた位置に。わたしは、貸し出し用のナイフを投げました。ただし、ムーさんにではなく、後ろにいる魔物にめがけてですが。そのまま私は、しっかりと魔物の視線とムーさんの視線がかち合うように大きく横に転がりました。
『でもな嬢ちゃんお目が高いぜ。一つ目蛇は、命の危機を感じると、目が合ったものを石に変えてしまう魔法を使うからな。あまり討伐の人気が無く、見た目の理由もあって、取り扱ってるのはうちくらいなんだよ。』
先ほど私が見つけたそれ、それは昨日、私が炭火焼きの串屋で食べた一つ目蛇でした。蛇の真横に、貸出用のナイフが突き刺さりました。どうやら、十分、彼にとっては、命の危機を感じる状況となったようです。
「「チャーーーー!(石竹の瞳の魔法」」
一つ目蛇の目が、黄色から淡いピンク色に変わりました。蛇の瞳から出た、ピンク色の光線がしっかりとムーさんの瞳に届きました。
「いや、そんな、私、まだ・・・・」
みるみるうちに、顔からムーさんは、石化していきました。ハンマーを振ろうと構えた格好で、やがて空中で体全体が石化しました。
ドガシャ、、
ムーさんは、そのまま地面に激突し、粉々になってしまいました。術者が絶命するとどうやら、魔法は解けてしまうよですね。ハンマーが消失しました。
「……はぁ、……っ、はぁ……」
激しい鼓動の音が耳の奥で鳴り響いています。指先からじわりと震えが伝わってきました。
助かりました。私は、生きています。
足元には、美しく元気溌剌だったムーさんが、ただの石ころのように転がっています。彼女は家族に認められたくて必死だったのでしょう。彼女の家庭環境を推測すると、可愛そうですね。
私は粉々になった彼女の遺体をじっと見つめました。
「さて、どうしましょう。仕方のない殺人なのですが、どうお片付けしましょうか。」




