第八十一話:魔王の「真意」と、面接室の落涙
第八十一話:魔王の「真意」と、面接室の落涙
境内のベンチが、さながら現世の「圧迫面接」の会場と化していた。ショータの口から放たれる質問は鋭く、淀みがない。
「組織における君の『機動力』の損益分岐点はどこだ?」
「部下が不祥事を起こした際、君は『連帯責任』と『トカゲの尻尾切り』、どちらを優先する?」
ルシファーは、戸惑いながらも一つ一つの問いに、これまでにないほど真剣に向き合った。ショータの瞳は冷徹だが、同時にルシファーという「個」を、魔王軍の駒ではなく一人の「プロフェッショナル」として解剖し、評価しようとしている。それが、今のルシファーには堪らなく心地よかった。
そして、最後の質問が飛ぶ。
「――で、結局のところ。なぜ君は、あれほど憧れた魔王軍を辞めたいんだ?」
その問いに、ルシファーの脳裏にあの円卓の情景が鮮明に蘇った。ベルゼの隠蔽、九尾の嘲笑。そして、すべてを「面白い」と切り捨てた魔王の、あの底知れぬ微笑。
「……私は、耐えられなかったのだ。命を懸けた敗北すらも、トップにとってはただの『余興』に過ぎなかった。私の三ヶ月の苦悩も、成長も、すべてが無価値だと……そう、突き放された気がしたのだ……」
ルシファーは声を震わせながら語った。しかし、言葉にすればするほど、自分の中で何かが「再構成」されていく。
(……待て。魔王様は……本当は、何を見ておられたのだ? あの絶望的な状況、組織の腐敗、同僚との軋轢……。それらすべてを『面白い』と仰ったのは、私がその理不尽という壁をぶち破り、一回り大きな『個』へと脱皮する過程を……楽しめと、そう仰ったのではないか!?)
ショータの「卒のない」質問に答えていくうちに、ルシファーの歪んでいた視界が、パズルのピースが嵌まるように晴れていった。
魔王の威光だけで勝ちを拾うことに、何の価値があるのか。泥を啜り、仲間に裏切られ、それでもなお「自分の力」で立ち上がる。その泥臭い「成長のダイナミズム」こそが、魔王の求めた「面白さ」だったのではないか。
「……あ、あぁ。……私は、なんて浅はかだったのだ……ッ!魔王様....!」
ルシファーの瞳から、大粒の涙が溢れ出した。
辞めたいなどと口にし、敵であるショータの元へ逃げ込もうとした自分。魔王の、あまりに高く、深すぎる「新人育成」の片鱗に気づけなかった自分。その未熟さが、あまりにも恥ずかしかった。
「……ショータ殿。……面接の途中だが、取り消させてくれ。私は、まだ辞めるわけにはいかない」
ショータはノートPCをパタンと閉じ、真っ赤な目で立ち上がるルシファーを、薄く笑って見送った。
「……そうか。内定辞退(辞退)だな。……いいよ、ルシファー。自分の『現場』で、せいぜい面白い仕事をしてこい」
「……感謝する、プロデューサー。……ベリアル! 掃除をサボるなよ! 次に会う時は、戦場か、あるいは……もっと高い場所だッ!」
翼を広げ、一陣の風と共に魔王城へと飛び去るルシファー。
卒なく、しかし今や「敵の忠誠心」さえも、あえて覚醒させて送り返したショータ。
コンが隣で呆れたように呟く。
「……ショータ。貴様、確信犯……いや、わざとあいつに『気づかせた』な? 辞めさせるより、強くして返した方が、後々の『取引』が有利になると踏んだか?」
「……さてね。……ただ、あいつみたいな『熱血タイプ』は、一度絶望してからのV字回復が一番伸びるんだよ。……いい『長期投資』になっただろ?」




