第六十四話:魔界の勘違いと、ベリアルの「詰み」営業
第六十四話:魔界の勘違いと、ベリアルの「詰み」営業
魔王軍本拠地の円卓。そこには、かつてないほど晴れやかな――しかし、決定的に「勘違い」に満ちた空気が流れていた。
「……素晴らしいわ、ベリアル! あの忌々しい社を、まさか力による破壊ではなく、精神的な屈服で軍門に降らせるなんて! さすがは新四天王よの!」
九尾が扇を叩いて絶賛し、隣でベルゼも満足げに未払いの残業代リスト(のような報告書)を片付けた。
「ええ。プロデューサーを怠惰の底に突き落とし、実質的な機能停止に追い込んだ手際、人事部長としても高く評価せざるを得ません」
一方、新四天王のもう一人、ルシファーは不機嫌そうに鼻を鳴らした。
「ふん、手柄を先越されたか。……だが、ただ眠らせるだけでは甘い。組織は根こそぎ解体してこそ意味がある」
その賞賛と嫉妬の嵐の真ん中で、ベリアルは引きつった笑みを浮かべ、冷や汗を流していた。
(……言えない。……『接待』でベロンベロンに酔わされ、あろうことか『二度と攻撃しません』という不可侵条約に血判を押したなどと、口が裂けても言えるはずがない……!)
そんなベリアルの苦悩を、九尾たちは「謙虚な勝利者の沈黙」と受け取った。
「さて、ベリアル。仕上げよ。あの危険な社に、今こそトドメを刺すのが上策というもの。……その大役、貴方に任せるわ」
「……え?」
「プロデューサーと天狐の処断。そして、あの忌々しい千本鳥居もろとも、領地を更地に変えてくるのです。貴方の虚無の力なら、容易いでしょう?」
ベルゼが「更地化計画書」を差し出す。ルシファーが「しくじるなよ」と挑発的な視線を送る。
「……ああ、そうそう!それ、言おうと思ってた!軍門に入れてやるなど私も手ぬるいやり方は性に合わん……私の『虚無』で、すべてを終わらせてこよう……」
強がって立ち上がったベリアルだったが、その足取りは重い。懐には、破れば魂が消滅する「不可侵契約書」の写しが入っている。
数時間後。天狐の社の麓、『再起の広場』。
ベリアルは一人、絶望的な顔で立ち尽くしていた。
「……どうすればいいのだ。更地にせねば私が消される。だが、攻撃すれば契約違反で私が消える。……詰んでいる。完全に、詰んでいるではないか……!」
そこへ、社の麓の魔物駆除をしていたキキョウが音もなく現れた。
「……あら、お得意様。……お酒のおかわり、……要る?」
卒なく、しかし今や「魔界の板挟み」という最大のデバフにかかったベリアル。
果たして彼は、ショータに泣きつくのか、それとも第三の「卒のない」解決策を見出すのか――。




