第四十五話:信仰の防衛線と、降り頻る決意の雨
第四十五話:信仰の防衛線と、降り頻る決意の雨
「……よし。配置完了だ。各員、自分の『役割』を死守しろ!」
天狐の社の麓には、異世界の歴史上類を見ない大軍勢が集結していた。宿泊施設にいた百戦錬磨の傭兵たち、帝都から駆けつけたガイの騎士団、そしてアリア王女自ら率いるエストレア、さらにはアーメリア共和国の一個中隊。総勢五千。
本来なら互いに剣を向け合ってもおかしくない混成軍だが、今、彼らの視線は同じ方向を向いていた。
地平線の彼方から現れた、死界の王・アザトース。
その巨躯が放つ絶望的な威圧感は、数キロ離れた戦陣の兵士たちにさえ、内臓を掴まれるような恐怖を刻みつける。だが、誰一人として逃げ出す者はいない。
「……皆、見て。私たちの後ろには、あの『正一位』の社がある。コン様が、聖者様がついているわ!」
アーシェの凛々しい声に、兵士たちが呼応する。彼らの胸に宿っているのは、これまでの「奇跡」を見てきたからこそ芽生えた、絶対的な信仰心だった。
突如、空から激しい雨が降り出した。
強い雨足が軍旗を叩き、地面を泥濘に変える。アザトースの闇が社の黄金の結界を侵食し、小高い丘の上にある聖域を今にも飲み込もうとしたその時。
ショータが、軍勢の最前線へと歩み出た。
激しい雨に打たれながらも、その背中は驚くほどに卒がなく、揺るぎない。
「――ローレライ! 聞こえているか! お前のその身勝手な復讐で、あいつらの夢を壊す気か!」
アザトースの肩の上、冷徹な仮面を被っていたローレライが、ピクリと眉を動かした。
「……何のことだ、人間」
「モリガンたちのことだよ! あいつらは戦いよりも、ただ三人で歌を歌いたかったはずだ。お前はあいつらの『一番の理解者』を自称して、結局はあいつらの未来を、この世界の闇と一緒に握りつぶそうとしてるだけじゃないか!」
ショータの声は、雨音を切り裂いてローレライの胸に届いた。
「お前がやるべきなのは、破壊神の召喚じゃない。あいつらが笑って歌えるステージを、俺と一緒にプロデュースすることだろッ!」
「……だま、れ……!」
ローレライの魔力が揺らいだ。
その一瞬の隙。ショータの脳内で【異世界プロデューサー】の演算が限界を超えた。
「コン、リリィ、キキョウ! 全霊を注げ! 世界の『舞台装置』を書き換えるぞ!」
卒なく、しかし今や「破壊神の心」さえもターゲットに定めたショータ。
雨の中に、黄金の光と漆黒の闇が激突する、運命の最終幕が幕を開けた。




