第百四話:山崎の再演と、虚妄の影武者
第百四話:山崎の再演と、虚妄の影武者
空を埋め尽くす光の白狐たちが、地上で吠える魔銃列隊へ神罰の如き突撃を繰り返す。
地表ではアーシェ率いる帝国騎士団が、疲弊した骸の兵を泥沼の戦いの中で着実に押し戻していた。
「……骸の補充が追いつかぬか」
果心居士が焦燥に杖を鳴らす。前線への呪い(バフ・デバフ)を担う隼人正もまた、ベリさんの虚無の槍に釘付けにされ、軍略の歯車は決定的に狂い始めていた。
本陣の天海は、戦況の不利を悟り、隣の老人に告げる。
「……果心居士よ、時は今、ではなかったようだな。一度兵を退き――」
その退却の号令を紡ごうとした刹那、背後の雪煙を切り裂き、一筋の「影」が天海の左脇へと吸い込まれた。
「――っ!?」
交錯する視線。火花を散らす記憶の断片。
「貴様……我が飼い犬、忍びのキキョウか……!」
二人の脳裏に、現世の忌まわしき光景が鮮明にフラッシュバックする。
『山崎の敗戦の後……落ち延びたあの竹藪の中、我が左脇を刺し貫いたのは……貴様(私)だったのかッ!』
――ズブリ、と重い肉の感触。
「ぐああああああッ!!」
天海の断末魔が本陣に響き渡る。キキョウは確かな手応えと共に、逆手に持った短刀を深く抉り込んだ。
「……獲った! この感覚……現世で山崎を落ちる際、光秀様の野望を終わらせるべく、私があの竹藪で刺した、あの瞬間の――!」
勝利を確信したキキョウ。しかし、その歓喜は一瞬で氷結する。
刺したはずの感触が、急速に「木」のような硬質で無機質なものへと変質していく。
「……残念だったな、キキョウよ、こんなこともあろうかと、な」
背後から響く、冷徹な声。
キキョウが刺していたのは、天海の姿を模した『身代わりの木人形』。本物の天海は、数歩離れた影の中から、憐れみすら含んだ瞳で元部下を見下ろしていた。
「……かつての飼い犬が二度も牙を剥くとは。……果心居士、この裏切り者に相応しい『絶望』を与えてやれ」
「歴史の再現」すらも罠として利用した天海。
白玉越しに叫ぶショータの声。
『キキョウ、離れろ! そいつは偽物だッ!』




