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第三巻【最終巻】

ミュージック・クエスト シーズンⅡ 最終巻

  プロローグ


この小さな田舎町が、人類最後の街になった。

新魔王軍は今やこの街以外をすべて手中に収め、あとはこの街を残すのみだった。

日本の普通の中学生が異世界転移し、異世界で人類最後の街を防衛し、新魔王を倒さなければならない。

今まででこんなに悲観的な状況の主人公がいただろうか。

もう逃げることもできない。

まさに、やるか死ぬかである。


「お、お主、何をしているのだ!?」

「奇跡を起こすには、狂ってることをしなくちゃダメなんだよ!」


かつてないスケールの最終決戦が、今始まる。















第一章 王都落城


   1


「陛下!大変です!新魔王自らが百万の大軍を率いて攻めてきました!」

その日、平穏は失われた。

「百万だと!?」

その時、皆が恐怖を感じた。

「迎え撃たねば!皆、すぐに準備だ!」

「陛下、私に策がございます。」

「なんだアスクーシュ、言うてみよ。」

「敵はここに来るまでに戦いを繰り返し、疲れ切っていること間違いなし。ここは陛下自ら出陣され王国軍の士気を高め、総力を持って新魔王軍に当たれば、必ず勝てるでしょう。この城の守りは私の手勢が。」

今から思えば、城を出て戦うべきではなかった。

しかし、この時の私は、この後何が起こるかをまだ知らない。

「よし、我々は総力を持って当たる!各自、準備せよ!」

「はっ!」


   2


「陛下!ユニコーン部隊、準備完了です!」

「よし、無敗のユニコーン部隊なら勝てる!」

私は、その日、新魔王軍の攻撃を防ぐため、王国軍を指揮して戦っていた。

国中から豪傑や知恵者を集め、総力を持って新魔王軍を倒す。

スイタヒトシを呼ぶべきとの声もあったが、アスクーシュがなぜか猛反対した。

「王国軍諸君!この戦いには人類の命運がかかっている!総力を持って新魔王軍を倒すのだ!」

「オオ!」

「アスクーシュ、ここの守りは任せたぞ!」

「はっ!ご武運を!」

そして、王国軍八十万が出陣した。

しかし、私は開戦後、二秒で気づいた。

新魔王軍は、とても強くなっている。

兵士一人一人の強さもそうだが、何より団結力と士気が違う。

「アスク―シュ様、王国軍の旗色が悪いようです。」

「だろうな。敵はここへ来るまでに連戦連勝。士気も高い。それに敵より少ない軍で、しかも長らく戦っていない平和ボケした軍を突っ込ませるなんて狂気の沙汰。なんと愚かな王よ。あんなのに人類は支配されておるのだぞ。フハハハハハ!さて諸君、分かっておるな?かねての打ち合わせ通りだ。」

「はっ!」

「この城は、本当に住むべき主に住んでいただくのだ。」


「陛下!味方の被害は甚大です!先鋒隊は総崩れとなり、敵はこの中軍にも迫っています!」

そう報告するのは、元反乱同盟軍提督にして近衛隊長のアミラル。

「そうか・・・・、よし、退却だ!一旦城まで戻り、新たな対策を練るのだ!」

「はっ!」

「・・・・それにしても、敵は疲れ切っているというアスクーシュの話はどういうことだろうか。」

「へ、陛下!この作戦はアスクーシュが進言したものですか!?」

「そうだが、それがどうかしたか?」

「・・・・陛下、もしかしたらもう手遅れかもしれません。」

「どういうことだ?」

「とりあえず、これ以上味方の被害を出さないためにも、城へ向かいましょう。」

「うむ。」


そして、なんとか敵の攻撃を受けずに城までたどり着いた。

「開門!開門せよ!私だ!バッハ八世だ!」

・・・・しかし、開かない。

「どうした!開けろ!」

「・・・・陛下、どうやらやはり手遅れだったようです。」

「?」

そして、私はアミラルが指を指している方を見ると、そこにはアスクーシュが仁王立ちで立っていた。

「アスク―シュ!これはどういうことだ!」

「フハハハハハ!残念だったな、愚かな王よ。この城はお前のものではなくなった!」

「なんだと!?」

「この城は、新魔王様に差し上げる!」

「!?」

アスクーシュは裏切った。

「いいねぇその顔!それが見たかったのだよ!フハハハハハ!」

「この裏切者!ぶっ殺してやる!」

「フハハハハハ!やってみろ!さあ者ども、何をしている!陛下に手厚いもてなしをして差し上げろ!」

すると、城から容赦なく攻撃が降ってきた。

そして、反対側からも新魔王軍が迫っていた。

「おい、あれは敵の国王だぞ!あいつの首を取れば幹部になれるぞ!」

「『シールド』っ!陛下、マズいです!このままでははさみうちです!」

「むむっ・・・・どうする?」

「兵もほとんどが討ち果たされ、もう戦いにはなりません!どこかで再起を狙うべきです。」

「どこに行けばいいのだ?」

「・・・・ラタトールがいいかと。」

「ラタトールというと、あの駆け出しの街か。」

「ええ、あそこにはスイタヒトシがいます。彼ならきっと陛下を守って、人類を救ってくれるでしょう!」

「しかし、人類最強の軍隊である王国軍がこれじゃ、ラタトールの駆け出し演奏者たちじゃ戦えんのではないか?どうやら新魔王軍はラタトールにも大軍を向けたようだぞ?」

「いえ、我々が負けたのは、アスクーシュにはめられたからです。スイタヒトシはなかなか頭の切れる男。きっと新魔王軍を退けているはずです!」

「もし、退けてなかったら・・・・?」

「そのときは陛下も討ち死にです。まあ、そうなる可能性は限りなく低いでしょう。」

そう言うと、アミラルはテレポートの詠唱を始めた。

「陛下、ヒトシによろしく言っておいてください!ご武運を!」

「待て、お主はどうするのだ!」

「・・・・二人分の詠唱をするには、時間も体力も足りません。では、おさらば!」

「アミラル―!」

「おい、敵の国王がテレポートする前にシールドを破らないと・・・・。」

「『テレポート』っ!」

「破れたぞっ!」

テレポートが発動したのと、シールドが破られたのは、ほぼ同時だった。

アミラルは最後に笑みを浮かべ、テレポートが成功したのを見届けると、新魔王軍との戦いへと身を投じていった。


   4


「アミラルは最後の力を振り絞り、国王(わたし)をテレポートしたのだ。」

俺たちは、突然テレポートしてきた国王陛下に何があったかを聞いた。

「そうでしたか・・・・、アミラル提督が・・・・。。」

「スイタヒトシ、頼む!私は、彼らの仇を取りたい!」

陛下は俺に向かって、力強く言った。

「・・・・ええ、もちろんです!」

「ありがとう!」

「いえ、当然のことです!」

「あ、そうだ。そういえば、お土産もあるぞ。素晴らしい王都土産だ。」

そう言って陛下が取り出したものは、通常ならこの駆け出しの街に持ち込んではいけないようなものだった。

「ス、ストーン!?」

「ああ、八つのうち六つはノイズが復活に使い失われたが、人類が保管していたあとの二つを持ってきた。」

「す、すごい!」

「しかもそれだけじゃないぞ。私が腰に差している剣を見ろ。」

「こ、これは!?」

それはかつて、まだ俺が反乱同盟軍の士官候補生だったころに見た聖剣。

「聖剣アシュビトゥス!」

「フフ、これでなんとか戦えるだろう。」

「ええ!幸いここには街のすべての演奏者が揃っています。みんな、いいな!この街は人類最後の街になった。我々は人類最後の希望だ。国王もいて、この俺もいれば、きっと新魔王軍は総力を尽くしてこの街を攻めてくる。敵は王都への攻撃ですでに百万だったということは、ここに来るのは百五十万くらいだろう。しかし、慌てることはない!俺には策がある!決戦の時までに、準備を整えておいてくれ!」

「オオ!」

そして俺たちは、ここラタトールで、人類の命運を賭けた最終決戦に臨むこととなった。

大丈夫。きっと大丈夫。

勝算なんかこれっぽっちもないけど。

うん、きっと大丈夫。

俺は、今までもいろんな戦いを経験した。

しかし、この戦いは、今までのどの戦いよりスケールがデカく、そして苦戦するだろう。

しかし、俺らならきっと何とかなるはずだ。

今まで何とかなってきたのだから。





第二章 不思議な老人


   1


翌日。

陛下はこの街で一番豪華なホテルに案内され、俺たちは屋敷に戻った。

「また水が切れかけてるわね。補充しとかなくちゃ。」

マレーズが小瓶に水を補充している。

そう、俺たちは来るべき新魔王軍との決戦に向け、準備をしていたのだ。

俺はチューバのピストンにオイルを差すなどのお手入れをしていた。

日本にいたころ、楽器のお手入れをサボって、大惨事になったなあ。

俺はふと、日本にいたころのことを思った。

いかんいかん、決戦前に思い出を思い出すのは死亡フラグだ。

せっかく俺は珍しく『異世界もので今だ一回も死んでない主人公』なんだから、命を大切にしなければ。

「さて、俺は矢を作るために楽器屋から石を買ってくる。」

「あ、ヒトシさん!私も楽器屋さんに用があるので、一緒に行きましょう!」

俺は、レクアスを連れて、楽器屋へ行こうとドアを開けると。

「スイタ・・・・ヒトシ君だね?」

奇妙なお爺さんが立っていた。

「はい、いかにも俺がスイタヒトシですが。」

「そうかそうか。君に話がある。・・・・とても大事な話がな。」

「そうですか。レクアスすまない、金はやるから、ここにメモしてある石も買ってきてくれ。」

「わ、分かりました。」


   2


「さて、話とはなんでしょうか?」

「・・・・ちょっとクエストにでも行かんかね?」

「・・・・え?」

「案外、ここでクエストを請けたことが生死を分けるかもしれんぞ?」

「それはどういうことですか?」

「いや・・・・、それよりどうかね、クエスト。」

「いいですよ。最終決戦に向けての肩慣らしだと思えば。」

「フフ・・・・、そうか。さて、なにを請けようか。まあ、悩むまでもないと思うがな。」

「ええ、ですね。」

俺とお爺さんは、あの草原へ向かった。


「懐かしいな・・・・、ここ。」

俺はいつも通り、適当に一発放つ。

他のファンタジーと違い、ここでは『魔力』の変わりが『肺の中の空気』である。

他のファンタジーで土壇場によくある『魔力切れ』のようなことが起きれば、それはすなわち、肺の空気が0ということだ。

また、肺活量によっても、使える奏法は変わってくる。

少しでも多く吹けば、それだけ肺が鍛えられ、肺の中にしまえる空気量も肺活量も向上する。

このクエストもまるっきり無駄ではないのだ。

「おお、見たまえスイタ君!ニセベートーベンが集まってきたぞ!わし的には『ニセベートーベン』なんて作者のセンスを疑うが。」

それは俺も同意見だ。

「『アッパーシフト』っ!」

俺は、スキル屋で教わった必殺技を放つ。

すると、十体くらいのニセベートーベンを仕留めた。

「フフ・・・・威力も精度もまだまだだな。お手本を見せてやろう。」

「お爺さんもチューバを吹くんですか?」

「ああ、見てろよ!これがほんとのチューバの音じゃ!『アッパーシフト』っ!」

お爺さんの放ったアッパーシフトは轟音と共に何十体ものニセベートーベンを仕留め、そしてその音はまるで身体の中まで揺らすような迫力があった。

「す、すげえ・・・・。」

「フフ・・・・聞いたかねこの音を。」

「あ、あなたは何者ですか!?」

「フフフ・・・・、君ならもう分かってると思ってたがね。」

「え?」

「お、そろそろ帰らねば。あまり長く滞在すると、時空にゆがみができてしまう。」

お爺さんはそう言うと、奏法陣を作り出し、詠唱を始めた。

まさか・・・・これって・・・・。

「最後に一つ、教えてほしいことがあります。」

「なんだね?まあ、わしは何を聞かれるか知ってるわけだけれども。」

「新魔王軍との最終決戦が、近づいています。」

「うむ。だから君は準備を進めているのだろう。」

「この戦いは、人類の存亡を賭けた重要な戦いです。」

「そうだな。ここで負ければもう人類に希望はないだろう。」

「・・・・俺、怖いんです。俺はただの中学生で、世界を救う力なんて持ってない。なのに、今では新魔王軍に目の敵にされて、最終決戦の指揮を執らなくてはならない。俺、とても怖いんです。」

俺の話を聞いたお爺さんは、今までで一番真剣な声で、俺に向かって行った。

「君はただの中学生じゃない。君は神に選ばれた音楽の勇者様だ。自信を持て。

一つ、アドバイスをしよう。未来のことは気にせず、今のことを考えて決断するんだ。そうすれば、きっといい未来が待っている。」

「今日はありがとう!若き日のわしよ、自信を持って戦うのだ!では、健闘を祈るぞ!『トゥ・コーダ』っ!」

そして、その瞬間、お爺さんの俺は光に包まれ、未来へと帰っていった・・・・。


   3


そのお爺さんは、未来から来た俺だったようだ。

俺は未来の俺と会うという不思議な体験をし、ドッペルゲンガー現象は起きないかと心配しながら屋敷へと向かっていると、途中で俺が頼んだ石を持って屋敷まで帰ろうとしているレクアスに会った。

「やあレクアス!石ありがと!これで矢を作れる!おお、結構重いな、これ。」

「でしょう。こんな思い物を持つのはプリーストの仕事ではないと思うんですが。ところであのお爺さんはいったい誰だったんですか?」

「俺。」

「へ?」

「いや、なんでもない。」

いや、合ってるんだけども。

「暗殺者が訪ねてきたり、ヒトシさんが訪ねてきたり、変な来客が絶えませんねー。」

「確かに。」

そういえば確かにそうだな。

ポッザはまだ分かるが、なぜ未来の俺が、時空移動奏法なんて大技を使ってまで俺に会いに来たんだろうか。

「ヒトシさん?ヒトシさん?」

「・・・・ああ、すまん。ちょっと考えごとしててね。」

「そういえば聞きましたか?新魔王軍内のスパイの情報によると、新魔王軍は総力をラタトール攻略に向けて準備してるらしいですよ。」

「マジか!?」

「・・・・この街の駆け出し演奏者たち百人足らずで戦えるんですか?」

突然、レクアスがそんなことを聞いてくる。

まあ不安にもなるだろう。

なにより不安なのはこの俺だ。

ただの中学生だった俺は、突然『音楽の世界』というわけ分からん異世界に転移し、ほんとにいろいろあってなりゆきで魔王を倒したことになり、新魔王軍には目の敵にされる日々。

はっきり言ってここまで俺が生きてこれたのは奇跡だ。

俺の低い幸運値が頑張ってくれたんだろう。

「レクアス、安心しろ。俺を誰だと思ってるんだ。俺は魔王も邪神も倒したスイタヒトシだぞ。」

根拠のない言葉が、口から出た。

それはおそらく、自分へのはげましの言葉だったんだろう。











第三章 開戦


   1


「緊急警報!緊急警報!新魔王軍の襲来を確認!住民の皆さんは速やかに避難してください!演奏者の皆さんは至急ギルドに集まってください!」

「ついに来たか!」

俺たちは、最終決戦に向けて、準備を進めてきた。

それが、ついに実るときが来た。

新魔王軍が、ついに来たのだ。

おそらく百五十万ほどの大軍だと思われる。

対するこちらは、駆け出しの演奏者百人足らず

勝てる確率は限りなく低いが、やらなければ勝てる確率は0だ。

俺はあのボロい防具を身に着け、楽器と矢筒を背負い、左手には弓を持ち、腰にはマウスピースの入ったポーチ、懐にはポッザからもらった短剣が入っている。

「すぐに武器を全部持ってギルドへ行くぞ!」

「「「オオ!」」」


   2


ここはギルド。

俺たちがギルドに入ると、演奏者のみんなはすでに揃っていた。

みんな、やる気に満ちた顔をしている。

人類の命運を賭けた最終決戦が今、始まろうとしているのだ。

「みんないいか、敵は大軍な上に士気も高い。マトモにぶつかれば秒殺だ。それよりもまずは守りを固めるんだ。レクアス、支援奏法を頼む。」

「分かりました!任せてください!」

「新魔王軍はどこに陣取った?」

「あのクレーターに新魔王と精鋭がいる本陣とし、その周辺に兵を置いています。」

「そうか・・・・。あそこは平地だから、兵の数が多いほうが圧倒的に有利だ。敵もそれを知っているのだろう。なら、奇襲は無理か。大軍には兵糧攻めという手もあるが、果たして奴らが飯を必要とするのかも微妙だ。」

「どうするんですか?」

「遠距離攻撃だな。」


   3


「新魔王様!敵の攻撃が始まりました!」

「突っ込んできたのか?」

「いや、遠距離から攻撃してきました。」

「だろうな。この大軍に突っ込んでくるのは狂気の沙汰。先鋒隊に蚊を潰せと命じろ。」

「ハッ!」


「ヒトシ!新魔王軍の先鋒隊がこっちに向かってきたわ!」

「まずいな。この人数差では太刀打ちできない。『シールド』っ!『アウェイキング』っ!」

俺はチューバケースを真ん中にシールドを張り、さらに覚醒スキルをかけた。

そう、俺はこう見えて最近では少なくなったチート持ち系主人公なのだ。

俺のチューバケースは最強の盾であり、シールドを増強する力もあるため、まさに鉄壁の守りである。

さすがの新魔王軍も、これでは攻められないだろうと高を括っていると、新魔王軍は俺の予想をはるかに超える兵器を出してきた。

「あ、あれは、起動楽器ハンマーフリューゲル!」

でっかいグランドピアノが爆音を出しながら向かってきたのだ。

その音は秒で俺が張ったシールドを破壊すると、こっちに向かってゆっくりゆっくり向かってきた。

「シッ、シールドが破られた!?張りなおしても意味がないか・・・・。ならばこれを張ってやる!『シャットアウト・サウンド』っ!『アウェイキング』っ!」

シャットアウト・サウンドとは、例えていえば防音壁だ。

音を武器に戦うこの世界では最強の防御スキルだ。

それにチューバケースの増強+覚醒スキルがかかれば超最強になるはずだ。

しかし。

「おいレクアス!なんだあれ!ヤバいんだけど!なんでシャットアウト・サウンドが秒で破壊されんの!?チューバケースもアウェイキングもあったのに、信じられない!」

「ええ、見ての通りヤバいですよあれ!神話によると、かつてまだ邪神ノイズが支配していたころの王都に突如現れ、街を半壊滅状態にまで陥れ、一応神であるノイズですらも苦戦したと言われる起動楽器ハンマーフリューゲルです!」

「やべえなそれ。」

俺はとりあえずあの爆発する矢を撃ち込んでみた。

しかし矢は刺さりもせず、そして爆発してもハンマーフリューゲルには全く効果がないようだ。

「やっべえなあれ。どうすりゃいいんだ。『アッパーシフト』っ!」

俺は渾身の一撃をくらわしてみたが、やっぱり効果がない。

チートやん。

チート級やん。

俺なんかチートでもなんでもないやん。

ふざけんなよサウンド!今度文句言ってやる。

「なにあれ、どうすりゃいいの?」

「あれは人類最強である王族ですら倒せないと言われています!倒すのは恐らく無理だと思います!」

「・・・・陛下、言われてますよ。」

こうなったらこっちも切り札使ってやる。

「フフフ。私の手にかかればあんなただのデカいピアノなんてワンパンさ。見ておれ!国王の力を!」

陛下はそう言いうと、聖剣アシュビトゥスを抜き放ち、ハンマーフリューゲルへと向かって行った!


   4


「・・・・やべえ、強え。全然ダメだ。」

「陛下・・・・、やっぱりハンマーフリューゲルのほうが強いんですね。」

陛下がボロボロになって帰ってきた。

「おのれ!国王の本気を見せてやる!『グリッサンド』っ!」

陛下が放ったそれはもちろん全然効かない。

「陛下!もう諦めてください!」

「じゃあどうするんだスイタヒトシ!なにかアレを倒せるような策はあるのか?」

「やりたくはなかったですが、こうします。」

そう言うと俺は演奏者カードに手を伸ばした。

あのお爺さんの俺とのクエストでスキルポイントが貯まり、ギリギリあの奏法を覚えられるようになった。

「ヒ、ヒトシさん!なにをする気ですか!?」

「ふふ・・・・、俺は神話を創った男になれるよ。」

俺はハンマーフリューゲルの下にデカい奏法陣を作り、うろ覚えだがなんとか詠唱を済ませ。

「さあ、起動楽器ハンマーフリューゲルよ、行ってこい!『トゥ・コーダ』っ!」

時空移動奏法で、ハンマーフリューゲルをかつての王都へ転送した!

「・・・・それって何の解決にもなってなくないか?これでノイズはコイツの存在を知り、設計図を書き残してそれを封印し、それを新魔王軍が見つけてコイツを造るんだぞ。」

「これでいいんです!これでとりあえず飛ばしとけば何とかなります!」

「てか、そしたらこれを造ったのは誰になるんでしょう。」

「・・・・確かに。」


「新魔王様!スイタヒトシはハンマーフリューゲルを昔の王都に飛ばしました!」

「なんだと!?なんと恐ろしいやつだ・・・・。まさか時空移動奏法まで使うとは・・・・。よし、私が直々に行ってみよう。」

「新魔王様直々に!?」

「ああ、真の魔王の強さを見せてやるのだ。」












第四章 最終決戦~そして伝説は再び笑う~


   1


「『アッパーシフト』っ!『フラッター』っ!」

「『ディスコード』っ!」

「『シュピールツォイック』っ!」

敵はたかがオークだ。囲まれなければ倒すのはわけない。

俺たち演奏者は向かってくるオークをバッタバッタと倒していた。

ムダに数が多いので、こっちの体力が先に尽きないか心配だが、まあ適当なところでシールドを張ればいいだろう。

俺がシールドを張る準備を少しずつしていると、突如オークの攻撃が止まった。そして、真ん中に道を開け始めた。

そして、その道を歩み、こっちへ向かってきたのは・・・・。

「し、新魔王!?」

まさかのラスボス登場である。

「フハハハハハ!どうしたスイタヒトシよ、偉大なる魔王の登場に腰が抜けたか?」

「・・・・会えて嬉しいよ。ラスボスなのに自分から出てくるなんて信じられないけど。」

「フハハハハハ!そろそろオークどもとの遊びも飽きただろう。私が直々に相手をしてやろう!」

「そりゃどうも!じゃあもう始まってんの?『アッパーシフト』っ!」

「『シールド』っ!」

俺はさっそく不意打ちで必殺技をかますが、新魔王がシールドを張る。

「お主も一応前魔王を倒した勇者ならば不意打ちは無かろう!もっと正々堂々と戦えんのかね?こんな風にな!『サウンド・ビーム』っ!」

「『シャットアウト・サウンド』っ!『アウェイキング』っ!」

新魔王は音のビームを放ち、俺はそれをあの鉄壁な守りで防ぐ。

しかしさすがは魔王。俺の鉄壁の守りですら少しずつヒビが入っていっているようだった。

「レクアス!シールド修復奏法を頼む!」

「ま、任せてください!」

「フハハハハハ!このビームの前にいつまで持つかな?」

と魔王は言ったようだが、この防音壁によって全く聞こえない。

「スイタヒトシ、どうする?この防音壁もいずれは破壊される。それまでになにか有効な手立てを考えねば。」

「・・・・陛下、あれ取ってください。」

「どれ?」

「・・・・ストーンです。」


   2


「ダメだ!さすがに無茶だ!」

「大丈夫です。俺はストーンについて少し調べました。ストーンを兵器として使うのは大変難しいが、唯一シンプルなのは、自らに取り込むことだと。」

「しかし・・・・。」

そう、俺は今からこのストーンを取り込み、ストーンのエネルギーで新魔王を倒そうと考えたのだ。

「スイタヒトシ、ストーンはとてつもないエネルギーを持った石だ。普通の人間であるお主がこのエネルギーを取り込めば、制御できずに身体が崩壊するかも知れんぞ?」

「・・・・覚悟のうちです。人類を救うためには、この方法しかありません。」

「そうか・・・・。」

そう、俺の肉体はとてもストーンのエネルギーに耐えられるようなものじゃない。

素手で直接触るだけでも火傷するだろう。

そんなものを身体に取り込むんだから、死は覚悟せねばならない。

「ヒトシ・・・・。」

「任せとけって。このスイタヒトシ、人生最後の見せ場だ。

そういうと俺は、スキル屋で『これは最終決戦の切り札になる』と言われた、同度奏法の詠唱を開始した。

「陛下、ストーンの準備をお願いします!」

「ああ、分かった!」

「ヒトシさん!」

「レクアス、今までありがとうな!俺は人類のために散る。あとは任せたぞ!」

「・・・・死ぬのが、怖くないんですか?」

突如、そんなことを聞いてくるレクアス。

そりゃ怖い。

俺はまだやり残したこともいっぱいある。

しかし、自己犠牲精神とでも言うのだろうか。

俺の死で救われる命があると思えば、少し気持ちが軽くなる。

「・・・・本望だよ。」

「そうですか・・・・。」

そして、ストーンの力を封じていたカバーが陛下によって開けられる。

「な、なにをするつもりだ!?まさか・・・・!?」

的なことをどうやら魔王は言っているようだ。

聞こえないけど。

「ヒトシ!防音壁がそろそろ限界かも!」

「そうか、まあ大丈夫だろ!」

「え?」

「俺もそろそろ、本気出すから!」


   3


心拍が異常に早い。

エネルギーが漏れているのか、身体が発光している。

ヤバい。

身体への負担が大きすぎる。

それだけではない。

俺が構えているこのチューバも超高温で、ちょっと融けかけてる。

「ヒトシ!壁が破れる!」

「いつでもいいぞ!破れたらあのビームも吸収してやる!」

ほんとはそんな余裕ないんだけど。

「破れた!破れたよヒトシ!」

「お、お主、何をしているのだ!?ストーンを取り込もうなど狂気の沙汰だぞ!」

破れた瞬間、新魔王の声が耳に入ってくる。

「奇跡を起こすには、狂ってることをしなくちゃダメなんだよ!」

やべえ。

限界かも。

俺がそう思った時、懐が光った。

そうだ。

こいつがあったか。

懐をまさぐると、そこにはエネルギーを吸収して結構な高温になっている短剣が。

「これでもくらえ!」

俺はその短剣を新魔王に向けて投げた。

俺の力が向上しているのか、それとも奏法の力か、その短剣は見事、新魔王の腹に刺さった。

そして、その一瞬で、少し吸収しているエネルギーが減り、休憩になった。

「ぐっ、舐めたマネを!『ヒール』っ!くそっ、さらに強いビームを撃ってやろう!ハハハハ、ただの人間であるお前はどこまで持つかな?」

「ぐぁぁ・・・・っ」

やべえ。

限界だ。

体中が悲鳴を上げている。

もはや走馬灯も見えない。

やべえ。

「ヒトシさん!」

「ん?どうしたレクアス?」

俺の身体には今、とんでもないことが起きている。

それに気づいたんだろう。レクアスが声をかけてきた。

まあ、もう何を言ってくれるか分かってる。

「・・・・神のご加護を!」

レクアスはいつも俺が不安になったとき、それをこの言葉で断ち切ってくれる。

「お、お主、そろそろヤバいんじゃないのか?左手が灰になってるぞ。」

「うるせーな!左手が灰になろうが徹夜しすぎてハイになろうが関係ねーよ!ただ、お前たちはここで死ぬ!覚悟しろ!」

まだだ・・・・。

まだいける!

「おい、お主、左腕が完全に消滅してるけど大丈夫か?今なら楽に殺してやるぞ?」

「そりゃあ無理な相談だな。もう後戻りできねえ。俺は死ぬ。でもお前たちも死ぬ!」

「本当にやる気か・・・・!?」

「ああ、ずっと前からその気だよ!」

「そうか。・・・・お主と戦えて光栄だった!地獄で会おう!」

「みんな、離れろ!」

「『ユニゾン』っ!」

そして、俺は最後の大技をついに解き放った!


気が付くとそこは、白い何もない部屋。

腕は戻っているが、その代わり幽体だ。

目の前にはあの音楽の神・サウンドが。

ああ、俺、死んだんだな。

「やあスイタ少年よ。今回は激戦だったな。」

「ああ、俺を導くのが女神じゃないのが残念だけど、まあ新魔王は倒せただろ?」

「それだけじゃないぞ。ここに集まっていた魔王軍のほとんどはお主によって消され、これから国王は街の演奏者を集めて王都を守っているアスクーシュへ一戦しかける気のようだぞ?」

「ほう、じゃあハッピーエンドだな。」

「君は死んでるけどな。」

「確かに。」

「さて、君はこの後どうする?日本に帰るか?」

「う~ん・・・・。」

「と聞くところだが、悪いが君にはもう一仕事してもらうことになる。」

「は?」

待て待て待て。

最初は魔王討伐だけって話じゃなかったか?

「今回の戦いで国王は魔族を人類が支配する体制を強め、人類と魔族の戦争はもう起きないだろう。しかし・・・・。」

「しかし・・・・?」

「いや、未来のことは教えられない。これは神のみぞ知ることだ。しかし言っておこう。この先、あの世界では、さらなる脅威が現れる。そのとき、君の力が必要となるときが来るだろう。」

「俺?」

「そうだ。今回の戦いでぶっ壊れたチューバは修理して、さらにグレードアップしておいたぞ。チート持ちなんだから頑張ってくれ。」

「なんかいまだに神器って感じがしないんだよなー、これ。」

「そうか?まあモノに頼って勇者になることなんかできない。肝心なのは少しの勇気と熱いハートさ。」

「いいこと言うね。・・・・よし、行ってくる!」

そう言うと俺はチューバを持ち、深く深呼吸した。

「神のご加護を!」

「神はあんただろ。」

「確かに。」

そして、俺は白い光に包まれ、あの世界へ戻っていった。




























エピローグ

あの戦いの直後。

みんなが続々とギルドに帰ってきていた。

そして、みんなはきっとそこで見た光景に目を疑っただろう。

「・・・・え?」

「やあみんな。帰ってきたぜ。」

「ヒトシ・・・・!」

そう、俺は帰ってきた。

「な、なんで・・・・?」

「いや、よく分からんけどこの先どうやら俺の力が必要になるらしいから。全くサウンドも無責任だよなあ。最初は魔王討伐だけだって言ってたのに。」

「サウンド様にお会いしたのですか?」

「ああ、何回もあってる。」

「すごいですね!プリーストとして羨ましいです!」

「レクアスはとても有能で素晴らしいプリーストだって、こないだ言ってたよ。」

「おお、それはとても嬉しいですね!でも・・・・。」

「でも?」

「でも、一番嬉しいのは、あなたともう一度、会えたことです!」

ちょっと涙目で、笑みを浮かべ、そんなことを言ってくるレクアス。

「・・・・俺も、また会えて嬉しいよ。」

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