第8話「寝床」
僕とカイラとカズの3人で今夜の寝床を探し始めた。風雨を凌げて、3人が入れる寝床はなかなか見つからなかった。それどころか、1人分の寝床さえ見つからなかった。ふと見た夕日が、瓦礫の山に半分ほど沈んでいた。周囲がどんどん暗くなっていった。寝床を探すのが、ますます難しくなっていった。
「こんなんじゃいつまでたっても見つからねぇぞ。寝れねぇじゃねぇか。」
カズが文句を言い始めた。
「うっせぇぞ。クズ!」
カイラが直ぐに返事をした。
「すいませんでした!」
そう言うとカズは先程と打って変わって、ものすごい勢いで寝床を探し始めた。カズはカイラに怒られないように、必死になっていた。僕もカズに負けないくらいに必死になって、寝床を探した。けれども、そう簡単には見つからない。
「寝床ってのは、見落としがちなところにある。だから、諦めずに同じ所でも何度も探せよ。」
カイラがカズと僕に言った。たぶんカイラはこの3人の中では1番、外の世界の事を知っている。だから、そのアドバイスを信じて僕はもう一度、さっきと同じところを探し始めた。
「なかなか、見つからないなぁ。うわっ!」
左足が突然、瓦礫を踏み外した。もう、辺りは完全に暗くなっている。よく見えない中で、瓦礫の上を歩くのはいつもよりも一段と難しい。
「大丈夫か?」
カイラが僕に声をかけた。
「大丈夫そうです。」
僕はそう言いながら右足で踏ん張って、瓦礫の隙間に入ってしまった左足を引き抜こうとした。ぐらっと一瞬だけ体が揺れた。次の瞬間、僕が乗っていた瓦礫が音を立てながら崩れていった。
「わぁーーーーーー!」
僕は背中から下に落ちていった。何も掴むところがなく、僕の手が空を切る。どれくらいの高さから落ちるのかも分からなくて、身体中から冷や汗が吹き出た。そのまま、背中全体にものすごい衝撃が走った。
「ぐはっ!」
僕は一瞬、死んだかと思ったが死んでなかった。しかし、ほっとする前に、背中に激痛が走る。
「痛い。痛い。痛い。痛い。痛いいいいぃぃぃっーーーーー!」
そう繰り返し言いながら、僕は横になって背中をさすった。
「おい!大丈夫か!」
上からカイラの驚いた声が聞こえてきた。
「どうした?」
カズの声も遅れて聞こえてきた。僕は2人の声が聞こえた方を見た。そこには人が1人通れるくらいの穴があいていた。
「背中が.......痛い.......です。落ちました。」
僕は背中をさすりながらそう言った。上に見える穴から、カイラとカズの顔が見えた。
「背中から、落ちたんだな。分かった。ちょっと、待ってろ。」
そう言うとカイラは穴を通って下に降りてきた。カイラが難なく僕の横に降り立つと、カイラの身長くらいの高さに穴があることが分かった。どうやら僕は、カイラの身長くらいの高さから落ちたらしい。思っていたよりも低かったが、それでも背中はとても痛かった。
「ちょっと、背中見せて。」
カイラは僕の背中に怪我がないか見てくれた。
「あざになってる所があるけど、出血はしてないみたいだ。ひとまず、安心だな。」
カイラはそう言って僕を落ち着かせた。
「痛いの痛いの飛んで行けー。」
カイラがまたあの歌を呟きながら、僕の背中をさすった。どこか子供扱いされているように感じるその歌は、少し恥ずかしかった。
「また、その歌ですか。やめてくださいよ。」
僕はカイラに言った。
「なんか、懐かしい歌だな。」
まだ、穴の方から覗き込んでいたカズがそう言った。
「なんでそんなにこの歌を嫌がるんだ?お前が痛そうだから歌ってるのにさ。てか、カズも降ろしてやるか。」
カイラがそう言って立ち上がった。
「ほら、こっちに来い。下に降ろしてやる。」
カイラはカズに言った。相変わらずカズはカイラに触られるのをとても嫌がっていた。それを見かねたカイラはカズに言った。
「めんどくせぇ奴だなぁ。今日はたぶんここが寝床になる。中は3人寝るには丁度いい広さだ。だがお前が私に従わないなら、今晩は外で寝てもらう。まぁ、クズ兄貴には鉄クズがお似合いだもんなぁー。」
そう言って、カイラは笑った。流石のカズも頭にきたらしくカイラになんとか言い返そうとする。
「てめぇ。よくも俺をクズ呼ばわりしやがって。」
そうカズが小声で呟いているのが聞こえた。しばらくして、カズは自分で下に降りようと、穴から身を乗り出した。それを見逃すことなく、カイラが両手でカズを受け止めた。
「ギャーーーーァァァ。」
またカズは叫んだ。本日3回目だ。
「うっさーーーーい。黙れぇ!」
カイラが怒りながら叫んだ。カズはカイラの両手に支えられながら下に降ろされた。カイラに降ろされている間、カズの体はピクリともせずに固まっていた。降りてすぐのカズの顔を見ると白目をむいていた。思わずその顔に僕は笑ってしまった。カズは僕にそっくりなので、そんな顔されると僕まで恥ずかしかったけれど。
「もう、おわった…よな。足……ついてる…よな。」
カズは放心状態でそう言った。
「降ろしてやったぞ。」
カイラは何の気なしにそう言った。そして横になっていた僕の方にやって来た。
「まだ痛むか?とりあえず、穴の下から少し離れた方がいい。崩れてくるかもしれない。」
カイラは僕にそう言った。
「そうですね。もう痛みもだいぶ引いてきたので場所を動きます。」
そう言って慎重に、僕は立ち上がった。背中は少し痛いけれど、足は何ともなかった。カイラが服のポケットからマッチとロウソクを取り出した。僕はそんなものを持っていたのかと、服の汚れをを叩き落としながら静かに驚いた。カイラは慣れた手つきでロウソクに火を灯した。そのロウソクはカイラの腰あたりの高さの瓦礫の上に置かれた。暗かった空間が明かりで照らされた。カズがまだ放心状態で突っ立っている奥に、広い空間があった。3人で寝るには本当に丁度いいくらいだった。よく見ていくと四角で囲まれた奥が長い空間だった。
「おい。お前、目を覚ませ。」
「大丈夫ですか?」
僕とカイラでカズに呼びかけた。しばらく声をかけていると、突然カズが口を開いた。
「ん……?ロウソクなんか持ってたんか。」
気を取り戻したカズの第一声は、腑抜けた感じだった。
「当たり前だ。ロウソクは旅の必需品に決まってるだろ。」
カイラはカズに言った。
「そうですよね。カイラさん流石ですね。」
カズは一転してカイラの機嫌をとろうと必死になっていた。
カズ
元は第3世代の人間。核戦争でDNAが改変されて、姿がスライム状になっていた。最初に触れた人間のDNAをコピーして人間の姿になる。しかし、カズの場合は女を怖がっているため男にしかならなかった。プライドが高め。