表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/31

悩まし過ぎる問題

 玄関の前に立っていたのは、薄い黄色のワンピース姿の春菜だった。


 近くに住む従妹と言っても、会うのは年に数回程度。

ちょっとカール気味の長い睫に大きな瞳が整った顔立ちの中でも、特に目を引く、所謂美少女系だ。


「お邪魔ぁ。ちょっと、早かったかな?」


 そう言いながら、玄関で靴を脱ぐと、勝手にリビングまで上がり込んできた。

 春菜の後を追って、リビングに向かう俺の耳に、階段から駆け下りて来る足音が届いた。


 女の子の気配に、大原が駆け下りて来たに違いない。


 その気配は春菜も感じたらしく、座りかけていたリビングのソファの前で立ち止まり、階段の方向に視線を向けている。


「お邪魔します。

 准の友達?」


 階段から姿を現した大原を見て、春菜が俺にたずねた。


「はじめまして。

 俺、伊藤の中学の頃からの友達の大原」


 俺が紹介する前に、自分から大原は名乗った。

 茉実の事が好きなんじゃねぇのかよ。

 その態度は何だ! と、言ってやりたいところをぐっと押さえた。


「あ、私は従妹の北島春菜。

 よろしくね」

「悪りぃな、俺たちは出かけなければならないんだ」

「どこへ?」

「今日は俺たちの親がいないんで、晩御飯を一緒に食べに行くんだ」

「俺もお邪魔していいかな?」


 はい?

 大原の発言に、俺は目が点になった。


 が、春菜も拒否はしなかった、と言うか、ここで拒否るほどの理由はまず無いのだが、そう言う訳で、保育園に迎えに行った妹の彩佳も含め、四人でファミレスに行く事になった。


 しかも、なぜだか、大原は春菜の横に座り、楽しそうに春菜に話しかけてばっか。


 どうして、お前が春菜の横にいるんだぁぁ!!

 ちょっと、ムカッとしたので、俺はあのボタンを押した。



 明日は春菜とは合わせない。


 そんなつもりで、俺は春菜との待ち合わせ場所を近くの本屋に変えて、家は留守にした。


 カバンを手に制服姿で本屋の中をうろついて、春菜を待つ。


 本棚に並ぶたくさんの本。

 高校生と言う立場を考えれば、参考書に問題集も必要なんだろうが、俺的にはやはりコミックとラノベだ。

 時折、興味のある本を手に取って、中をチラ見してみる。

 そんな時、横腹をつんつんされた。


「待ったぁ?」


 春菜だ。


「いや、今来たとこ」


 ずいぶん前に来ていたし、春菜はカノジョじゃないが、一応お約束だ。


「そっか。

 で、今日はどうするの?」


 ポケットの中からスマホを取り出して、時間を確認るすと、まだ17時台だ。


「そうだなぁ。

 まだちょっと早いから、もう少ししてから食べに行かない?」

「いいよ」


 そう言うと、春菜は俺から離れて行った。

 きっと、自分の見たい本を探しに行ったに違いない。


 俺は視線を後姿の春菜から、再び手にしている本に戻した。

 何冊かを手に取りなおして、30分ほどが経過した。


 そろそろ行くか。

 そんな気分で本屋の中、春菜の姿を探すと、雑誌の棚の前に立っている春菜の姿を見つけた。


「春菜、気に入った本あった?」

「ねぇ、ねぇ、これ知ってる?」


 右手で手招きしながら、春菜が俺に手にしているファッション雑誌を見せようとしている。


「なに?」

「初のファンミーティングをやるの知らなかったんだよぅ。

 しかも、場所は近くのホテルエークラで!

 時間は明日の昼間だけど、学校サボって近くで待ち伏せしちゃおっかなぁ」


 春菜を惹きつけていたのは、春菜の大好きアイドルグループのファンミーティングの情報だった。


「でも、それ中止になったやつだろ?」

「えっ、マジで中止になってんの?

 そっかぁ。

 でも、よくそんな事知ってるのね?」

「は、は、ははは」


 思わず苦笑いするしてしまった。

 そう。この話は昨日、正確には今日の夜、四人で行ったファミレスの中のテレビで見たもので、海外の仕事から戻ってくるはずが、現地の天候悪化で空港が閉鎖されたため、戻って来れなくて、明日の昼に間に合わなくなったと言う話で、世間にはまだそう広まっていないはず。


 まあ、そんな事、ここで言っても仕方ないので、黙っておくことにする。

 残念そうな表情で、春菜が手にしていた雑誌を戻した時だった。


「伊藤」


 目の前の春菜の声じゃない。聞き覚えのある男の声。

 振り返ると、そこには笑顔を浮かべた大原が立っていた。


「なんでお前が」

「なんだよ。その言い方」


 俺が言いたかったことを大原が知る訳もなく、大原は俺の言葉に不満げだ。

 俺としては大原と会わないために、家を留守にして来たと言うのに、どうしてここで会ってしまったのか?


「いや、そう言う訳じゃ」

「で、そのかわいい子、誰?

 もしかして、カノジョ?」

「俺の従妹だよ。

 お前、小野田狙いなんだろ?」


 昨日の大原の春菜に対する積極的すぎる態度が気に入らなかった俺は、ついついそんな事を口にしてしまった。

 大原が驚いた顔つきで固まった。


「し、知ってたのかよ」

「見てたら、分かるよ」

「そ、そ、そうなのか?

 お前とは中学卒業してから、会ってなかったはずだが、それでもそう見えていたのか?」

「ああ。見え見えなんだよ」


 そう言うしかない。

 昨日の、正確には今日の俺の家での話では、高校に入ってから小野田への想いに気づいたと言う事だったが、そう言い切るしかない。


 それから結局、妹も合わせた4人で、ファミレスに行った。


 話題は、大原の恋の相談とテレビでやったアイドルグループのファンミーティング中止についてだった。


 そんな話題の中にいても、俺の頭の中は別の事でいっぱいだった。


 一日を繰り返したところで、試験のできは仕方ないし、石野に振られると言う事も仕方ない。

 だが石野の怪我と、今日の大原との出会いはちょっと違う気がする。


 これから起きる事を知っている事で、その未来を変えたはずだったのに、結果的には変わっていないと言えるじゃないか。


 未来は変えられるのか?

 変えられないのか?


 悩まし過ぎる問題。

 俺はその答えを出したかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ