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駆け去って行った茉実

 未来は変えられるのか、変えられないのかと言う問題。

 その答えを出す方法を思いついた。


 ヒントはファンミーティング中止のニュースにあった。

 大きなニュースがあると、一日戻って、そのニュースをネットに予言としてアップする。

 最初はそれほどの反響もないだろうが、それを繰り返すことで、いつか俺の予言は世間に広まって行くに違いない。

 そして、その予言で不利な状況に陥る者たちは、それを回避しようと努力するはずだ。


 その結果がどうなのか?

 俺は世間を使って、試すことを決めた。


 俺は次々と予言をアップしていった。

 予言があっても避ける術がない地震。

 高速道路での大きな事故。

 暴力事件。

 俺が注目を浴びるようになるまでに、そう時間はかからなかった。


 そして、俺が期待する結果が出た。

 車で交通事故を起こした芸能人。

 そのニュースを予言としてアップした。

 その芸能人は俺の予言を信じ、事故を避けようとしたのだろう。

 バイクを使う事にしたらしいが、結局バイクで事故を起こしてしまった。


 石野が自転車にはねられたり、本屋で大原と会ったのと同じのようだ。

 どうやら、大きなイベントと言うのは、プロセスを変えても結果は同じらしい。


 誰も決められた未来からは逃げられないのだ。




 茉実との結論を先送りしたまま、夏休みに入ってしまった。


 大原は夏休みまでに、茉実に告ると言っていた。

 茉実からは何も聞かされていない。

 まだ告っていないのか、告ったのか?

 すでに告っているとしたら、その結果は?

 気になる事ばかりだ。


「そんなに茉実の事が気になるなら、茉実の告白を受け入れておけばよかったじゃん」


 不純な俺の言葉が突き刺さる。


 俺は一体、どうしたいんだ?

 そんな思いを抱きながら、自分の部屋のベッドに寝転んでいる俺に、家のチャイムの音が届いた。



 俺の家にやって来たのは、茉実だった。

 ベッドに腰掛けて座る茉実に向かい合うように、机の椅子に座る俺。


 茉実の表情は硬く、笑みは無い。

 きっと、俺の結論を質しに来たに違いない。


「いやあ、暑いよなぁ」


 心の準備が出来ていない俺は意味のない言葉で、その場をつなぐ。


「何か冷たい飲み物用意するよ」


 そう言って立ち上がると、そそくさと部屋のドアに向かった。

 階段を降りる時も、冷蔵庫から冷たい麦茶を取り出すときも、頭の中はこの場をどう切り抜けるかと言う事でいっぱいだった。


 有耶無耶のままやり過ごせるのが一番だが、俺の家まで乗り込んできた以上、茉実にも覚悟があるはずで、そんな都合のよい事にはならないはずだ。


 とすれば、答えはYesかNoの二つしかない。

 どちらだ?

 どっちを選ぶ。


 答えを出せないまま部屋に戻って、茉実に麦茶を差し出す。


「そうそう。エアコンもかけようか」


 そう言って、開けっ放しにしていた窓を閉めようと、窓に近寄った。


 ついさっきまでは青空だったはずなのに、真っ黒な雲が空に広がっていて、大粒の雨が降り始めている。

 俺のこれからの運命を暗示するかのようで、暗くなりそうな心を抑えて、窓を閉めると、エアコンをかけた。


「茉実ってさあ、この休みどこか行くの?」


 とりあえず、時間を稼ぎたくて、意味も興味も無い質問を口にした。

 茉実は顔を上げて黙り込んだまま俺に目を向けた。


「お、お、俺はさ。

 夏休みだって言うのに、どこにも行く予定無いんだ」


 どもり気味の俺の言葉にも、茉実は反応を示さない。


 返事をしない茉実。

 俺も黙ると、空気は果てしなく重くなる。

 それを避けようと、とりとめも無い話を一人続けていく。


 どれくらいの時間、一人で喋り続けただろう。

 喉がかれた感覚に、麦茶を飲もうとグラスに手を伸ばした瞬間、茉実が俺に視線を合わせてきた。


「あのさ」


 そう言って、茉実がひざの上に置いていた両拳をぎゅっと握りしめると、スカートの裾がちょっと動いた。


 来た!


「な、な、なに?」 


 茉実の言いたいことに気づいていても、気づいていないかのような返事する。


「中学の時の同級生の大原君と、准くんは仲よかったよね?」


 そっちの話か。

 ちょっとの安堵の後、俺はこれはさらに追いつめられている事に気づいた。


 この話は結局、俺の答えに繋がって行く。

 しかも、大原と言う存在が、先送りと言う俺の逃げ場を塞いでしまった。


「あ、ああ。いたな、そんな奴」

「あのね。大原君から付き合って欲しいって、今日言われたんだ」

「そ、そ、そうなんだ。

 で、茉実はどうなの?」


 その言葉に、茉実の視線は厳しくなった。


 俺を睨むような視線。

 でも、どこか悲しげな雰囲気も入り混じった表情で、茉実は立ち上がった。


「もういい。

 私、言ったよね。准くんの事好きだって。

 なのに、どうして、そんな事言うのよ」

「いや、だって」


 返す言葉が見当たらない。


「私の事、好きじゃないんでしょ。

 だったら、そう言ってくれたらいいじゃない」

「そんな事は」

「大原君に、そう言ったんでしょ!」


 とんでもない展開になってしまった。

 はっきりとそんな事は言っていないはずだが、似たような事は言った気がする。


「石野さんの事が好きなんだったら、そう言えばいいじゃない。

 なんで、はっきりと言ってくれないのよ」


 そう言うと茉実は俺の部屋を飛び出した。


「待ってくれ」


 そう言うのが精いっぱいだった。

 茉実は俺の言葉なんか、気にもせず部屋を飛び出すと階段を駆け下りて行った。


 窓に駆け寄り、外に目を向ける。

 茉実との事に集中していたため、気づいていなかったが、外は激しい雨になっていた。


 大粒の雨と、雷。

 そして、道路には水があふれていた。


 茉実は傘を持っていないのか、傘もささず道路に飛び出した。

 一瞬で茉実の体はずぶぬれになり、足元も水につかりばしゃばしゃと飛沫を上げながら、ためらって振り向くような事もなく、茉実の家に向かう坂の向こうに駆け去って行った。

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