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2-2


そして周りに気配が無いのを確認してから再びクロームは青年に向き直ると手を引き、にやっと笑みを浮かべながら地面から立たせたこう言った。

「ったく、あの程度の腕で夜の森の中に入るなんて殆ど自殺行為だぜ? まああの獣が賢かったお陰で無駄な命を枯らせずにすんだけどよ」

「あ、ああ。すまない……。森の調査をしているのに夢中になって彼らのテリトリーに入っていたのに気が付かなかった……」

「はぁ? こんな真夜中に何をやっているんだか。どっかの凶暴なチビ娘でもあるまいし、そんな商人のナリでなんかの研究でもしてるのか……よっと」

クロームはそう言って木に突き刺さったサーベルを引き抜き青年に渡した。

「まあね。でもこの状況を知らないとすると君は、いやアーツフェルド君は別の大陸から来た異邦人なのかな。それならばあの不思議な力も少しは納得がいくのだが」

「あ? ああ、まあんな事はどうでもいいって。それよりもあんたの名前を教えてくれよ。俺だけが名乗っているってのは不公平だろ?」

するとクロームはどこか焦るような素振りを見せつつ、しどろもどろに答え、青年はどこか納得出来ないながらも頷きこう言葉を返した。

「……なるほど、それもそうだね。では改めて助けてくれてありがとう。僕の名はノルン。

ノルン・エルフィリウムだ。君はアーツフェルド君で良いんだよね?」

「ああ。どっちかと言うと名前で呼んでくれ。その方が何かと都合が良いんだ。つうか、エルフィリウムって事は……何だ。お前もしかして『アレ』なのか?」

青年ノルンはクロームの驚く表情に静かに頷く。

「ああ、その通りだ。僕はキャラバンの大将に拾われた『孤児』だったんだよ」

その言葉にクロームは納得したように頷いた。

――元々エルフィリウムとはこの世界と大地母神そのものを表す言語である。

しかし別の意味もありこの世界では身寄りの無い子供達は皆、原書の大地より生まれし民として下の名を『エルフィリウム』とされ、その為数年前まで迫害を受ける要因となっていたのはこの世界に住む誰もが知る語られぬ歴史の一つでもあった――

「でも、一昔の混沌の時代ならともかく戦乱の終わった今なら少なくない名だと思うが、何故君はそんなに驚くのだろうか?」

クロームは怪訝としたノルンの言葉に軽測な発言だったと勢いよく頭を下げた。

「あ~悪ぃ。なんつーか。俺にもその名前の知り合いが居てよ……。しかも人ととは思えないほど凶暴な奴なんだ。だからどうにも苦手でさ。悪いけどそんな理由で名前で呼ばせてくれよノルン。その代わり俺も名指しでクロームと呼んでくれて構わないからよ」

するとノルンは必死に謝るクロームを見て肩を下ろして。

「……やれやれ。嘘を言っている感じはないようだね。ではクローム。僕の居るキャラバンに戻るとしよう。またいつ物騒な客人が姿を現すとも限らないからね」

「ああ、さんきゅうー。そんじゃノルン。道案内よろしく」

その後。二人は早々とこの場を後にするのであった。


 それからしばらくしてキャラバンの居る森の入り口に戻った二人だったが、ノルンのケガを見て獣達を根絶やしにしようと動き出す部下を抑えるのに時間を費やし、結局あまり休んだ心地の無いままキャラバンと共に獣達の居た森で夜を明かす事となった。

「やれやれ、全く血の気の多い連中ばかりですまないなクローム」

「はは、つーかさ、それだけノルンが皆に信頼されているんだろうよ。それよりも飯までゴチになっちまってこっちこそ助かったよ」

ノルンの言葉に笑みを浮かべながら野菜スープをお代わりしまくるクローム。

この体のどこにそれだけの要領があるか不思議でならないと言った周りの目も気にせずがつがつ食べまくり、ノルンはそんな光景を見て苦笑を浮かべてこう言った。

「いや、君が居なければ僕は殺られていたかもしれない。それに比べればなんて事はないさ。本当に感謝しているよ。しかしクロームは何故あの場所で倒れていたんだ?」

今更ながら素朴な疑問をぶつけるノルン。

すると途端にクロームの表情は固まり、動きは静止して持っていたスプーンを手元から落としてこう叫んだ。

「あーーー!! やっべぇぇええ忘れてた! 俺、フィアの所に向かってたんだ。つーか、ここどこだよ? もしかして別世界じゃないよな。異世界だったら俺帰れねぇぞ!」

取り乱したように身支度を整え、急いでこの場から去ろうするクローム。

「やれやれ、まあ少しは落ち着け。どうやら混乱しているようだが状況を確認してからでも遅くはないだろう。まずどうやってこの大陸に来たんだい? それを僕に話してから行動を起しても遅くは無いんじゃないか?」

だがノルンに肩を叩かれクロームは少しだけ残っていた理性を取り戻すと。

「ああ……まあそりゃそうだな。それじゃあ話すけどよ。聞くも涙。語るも涙。まず俺は幼馴染のフィアのいる場所に向かおうとしてそこで凶悪な奴に追われていたんだ――」

これより数日前の出来事を思い出すようにクロームは興奮気味に語りだした。

      ◇      

時間はさらに戻って数日前。

「うわぁぁぁあああ!!! こっちくんじゃねぇぇぇええ!!!」

そんな悲鳴にも似た叫びを上げ死に物狂いで一人の無謀な少年クロームが出口の見つからない廻航で砂煙を上げながら駆けずり巡っていた。その理由は単純に空間隔離された学園から抜け出る為であった。とは言え本来ならば正規の手続きをすれば数日で学園からの申請が降りるというのにそれすらも待てなかったクロームはもう一つの出口と噂される学園の地下にある禁断の廻航に足を踏み入れるしかなかったのだ。

その為、クロームは角の生えた鳥や、睡眠を妨害された火を吐くトカゲの群れに襲われ、何とか逃げ切ったと思ったら今度はとがった髪が気に入らないとの理由で何故か言葉を話す鉄のハサミを持った巨大ガニにまで追われる羽目になっていた。

『ぐっふふ~。切らせろ。切らせろ。その髪切らせろ!』

「冗談いうな! そんなに切りたきゃ自分の髪でも切ってろ!」

『髪無い。在るのは目玉。だから切れない。だからお前の切らせろ!』

「だったら他の獣の毛でも切ればいいだろうが、つうか美容室にでも就職しろアホぉ!」

そう叫びながら後ろから伸びてくるハサミを器用に避けるクローム。

とは言え、もうかれこれ半日ほど逃げていると言うのに一向に諦める気配のないその巨大ガニの執念にはある意味関心するほどだった。

「くっそ~。どこだよ出口、つうか入り口まで消えてるし……あ~。これじゃあ外に出れねぇじゃねぇかぁあああ!!」

『出なくていい。お客減るし。だから髪切らせろ。今なら泡のシャンプー付き』

「それテメェのヨダレじゃねぇか。死んでろボケぇぇぇぇッ!!」

とは言え、話せる相手がいつまでも魔物では話にならない。

そんな訳でひたすら廻航をさ迷っていたがいくら走っても出口らしき場所に辿り着けずに居た。何故ならこの廻航は入り口あってほぼ出口無しの特殊な迷宮であり学園の教師ですら移送方陣が使用できない場合のみ通る場所でもあった。そしてそれを立証するようにすでにクロームはここの時間にして二日ほど迷宮の中をさ迷っていたりしていた。

「くっそおお。腹減ったぞ、こんちくしょう! つうか……行き止まりかよ?」

しかもすぐに出られると考え食料などまったく用意してこなかったのが裏目に出たのか空腹の為に属霊を呼ぶ気力も無く、髪を切られたくないと言う意地が尽きればさっくりと斬られる状況に陥っており挙句に散々走りまくったせいか気が付けばクロームは小高い崖に似た袋小路に追い込まれていたりした。

まさにクロームの命(と言うか髪が)絶体絶命の危機である。

「マジかよ! ここから落ちたらしゃれにならないぞ。って、この音はまさか!」

すると待っていたと言わんばかりにハサミをシャキシャキ鳴らし、どこにその巨体を隠していたのかクロームの前に姿を現す巨大ガニ。

『ぐっふふ。おっお客さんいらっしゃ~い。お勧めは角切りカット……かも?』

「かもって何だよ! って言うかテメェはそれしかできねぇだろうがぁあ!」

『……言うねぇお客さん。なら……別のカットを試してみる?』

そう言ってどこか嬉しそうに近づいてくる巨大ガニに後ずさりをするクローム。

しかし、これ以上進むと間違いなく崖から落ちてしまう状態であった。

(ああもう、こうなったら髪を切らせるか? いや無理だ。コイツ絶対に『あっ間違った~』とか言って首をちょん切るのは目に見えている。なら……こうするしかない!)

『多分成功するからね。動かないでね。お客さ~~~~ん!!!』

クロームは不気味な笑い声を浮かべて近づいてくる巨大ガニを見て足に力を込める。

そして振りかざしてきたハサミを数回避け、興奮して赤くなったカニが再び攻撃を仕掛け体勢を崩した所に思いっきり横っ腹目掛けて渾身の蹴りが勢いよく決まった。

『あ、そんな~~~~。まだ切ってないのにぃぃぃ』と言いながら落ちていく巨大ガニ。

その情けない光景を上から満足そうに見るクロームだったが。

「ふぅ、もう二度とカニは見たくないな。しかし蹴った俺もこうなるとは。これは女神様でも予想できないよな。はは………つーわけで、誰か助けてくれぇぇぇ!!」

その反動で足場が崩れ、一緒に落ちる事に変わりは無かった。言葉にならない悲鳴を上げてひたすら地面の無い空間を落ちていくクローム。すると偶然か必然か。突如そんなクロームの真下の空間に裂け目が生じ、カニが吸い込まれて消えていった。

「なんだありゃ? こうなりゃヤケだ! なるようになりやがれ、うおおおりゃあ!」

クロームは叫びながら最後の気力を振り絞り必死に空間を泳いでその空間に飛び込んだ。刹那、気が付くと周りは暗くなり空気の流れが変わったのを肌で感じ声を上げる。

「あれ? もしかして助かったのか? はは……らっ…… きぃー」  

だがその途端、疲れよりも極度の空腹でクロームは身動きすら出来ず森の中にまっさかさまに落ちていった。ただ運良く周りの木々がクッションとなりかすり傷程度で地面に落下出来たのは不幸中の幸いといった所だろう。

そして、その後すぐにノルンに見つけられ時間は今に繋がっていく事となる。

      ◇      

 まるで見えるかのように事の起こりを熱く語り終えてからクロームはノルンを見た。

するとノルンは少し考えてから、実に驚いた表情で手をポンと叩きこう言った。

「なるほど。つまり……クロームは『迷子』なのか? その年で?」

「ぐっ、それをいちゃああ終わりだっての!」

長々とした話をノルンの一言で一蹴され肩を落とすクローム。

だが話を聴いたノルンは苦笑をしながら止めていた馬車に戻り、再び何かを持ってクロームの前に戻ってくるとそれを広げてこう言った。

「あははは。いや悪い。君も何かと苦労したんだね。それならまずはこの場所の説明からしないといけないな。ではこれを見てくれ。これはキャラバンが移動の際に使う地図なんだけど、見覚えのある場所はあるかい?」

「あ、ああ。この大陸はサウスビィルだよな。って事はここは大地の大陸なのか?」

クロームのその問いかけにノルンは首を振る。

「いやここは水の大陸ウェルクルトさ。そして現在地は港町と王都の間にあるオルバス山道にある森の中だよ。それでクロームは彼女を探しにどこに向かおうとしてたんだ?」

「彼女って……まあそこまで深い間柄じゃねぇけどさ。とりあえず水の大陸のどこかに居るってしか聞いてなかったぜ。何せ助けに行く事しか考えていなかったからな!」

そう言いながら豪快に笑うクローム。

ノルンは少しだけ呆れた表情を浮かべながらもその無謀な行動力とあまりにも良い人柄を理解し敬意を称してこう言葉を返す。

「ふ。それは大したものだ。しかしそうすると虱潰しに探していくしかないんじゃないのか? とは言えこのウェルクルトはとても広い。地図には載っていない村は以外にも多いんだ。まずは大きな町で情報を集めるほうがいいと僕は思うな」

「ああ確かに。それじゃあ大きな街を教えてくれよ。急いでそこに向かうとするからよ」

途端にクロームは水を得た魚のように喜び、急いでその場から走り出そうと勇み出した。がノルンは逆にそれを見て、よほど助けに行きたい人が大切な人なのだろう、と思いながら地図をしまうと静かに頷きこう述べた。

「そうだね。ならばとりあえず今日は僕等のキャラバンで休むと良い。今から山道を歩くのはとても危険だからね。それにまた『迷子』にならないとも限らないだろ」

「ぅっ、いやそれは確かにそうだけどよ。でも、俺はのんびりしてられないんだぜ?」

クロームは急かすようにノルンに言った。

するとノルンはふっと笑みを浮かべ苦笑しながらこう言い返す。

「まあ、めんどい事は抜きにして、時には一休みも大切だよクローム。それに明日になれば僕の言いたかった事がわかるだろうさ。それじゃあ、おやすみ」

どこか謎掛けにも似た言葉を置いて後ろ向きに手を振りその場から立ち去るノルン。

するとクロームはそんなノルンを見て未だ学園でのんびりと暮らしているであろう、もう一人の恐ろしい幼馴染の事を思い出し肩を落としながら呟く。

「つーか、めんどいって……。こんな所でアイツの口癖を聴くとは思いもしなかったぜ。どうしてっかな~アイツ。今頃英霊と共に大暴れしてなけりゃあ良いけど……」

だが途端に脳裏に流水の如く静かに怒る姿と過去の情景が思い出され、身震いしながらクロームは頭を振り、仕方なくその日は寝床に戻るのであった。

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