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さっそく破魔神社に戻って捜査資料を調べてみよう。と言うわけにもいかなかった。
「これなら絶対に漏らさないよ」
「そりゃ確かにもらさないだろうけどさ」
警察署をまるごとイノセントブルーでコピーしてくるなんてありかよ。
当然破魔神社の中に警察署を作るようなスペースなどあるわけがない、第三位相破魔神社虚数空間。簡単に言うならば新しい空間を作ってそこにイノセントブルーが警察署を持ってきた形になる。おかげで警察署以外は真っ白で何も存在しない気持ち悪い空間になっている。
「大体、位相を増やすってどういうことだよ?」
飲食店で量を増やすみたいに簡単に増やせるような物かよ
「他にもトコヨみたいな世界がいっぱいあって、その階層の名称が位相なんだ。数が大きければ大きいほどウツシヨから離れてるって考えれば良いよ。
で、位相はやる気になれば作ることだって出来るの。今みたいにね」
幸は瞬きもしない合間に何もない場所へドアを作り上げた。
「第四位相破魔神社虚数空間で、ちょっと遊ぶ?」
「遊ばないから、それよりも、これ事態をイノセントブルーで調べるってのはできるのか?」
「さすがにこの大きさのものをコピーしたら他には何もできないよ」
「ってことは」
「うん。二人で探そうね」
協力者である幸が積極的なのに、俺が疲れるとか面倒なんてセリフ吐けるわけがない。
刑事課だけを調べればそれで終了だろうと思った俺が馬鹿だった。
紙の資料の大半は科学的見地から見た事件ばかりで、そこから俺と事件を結びつける何かは見当たらなかった。
その紙を調べるのに一日。
次に当たったのがデジタルデータだ。
パソコン内部の電子データもイノセントブルーは完全にコピーしているが、それは同時にパスワードなども同時にコピーしていることになる。
そのパスワードを紙に書いて保存するアナログな人間を探し、パソコンに打ち込むのにさらに一日。
パスワードを忘れてしまった時のメモを椅子の裏に貼るなんて理解できない。そっちの方がパスワードよりも忘れやすい。
パソコン内部のフォルダを漁っていく。機械に関しては幸はド素人なので主に俺が調べることになったが、調べると言うほどのことも無かった。
デスクトップ画面に心霊課報告書という名称のファイルが存在していた。
はやる気持ちを抑えながらクリックする。
ファイルはいくつかの項目にわかれている。犯人の使用した魔法の分類、犯人像、そして
「次回犯行予測」
俺はそのデータを実行する。
どうして正義が俺を殺人犯だと思ったのかは大事なことだ。ここから殺人鬼への手がかりが見つかるかもしれない。
でも、それは失われるかもしれない人命よりも大切なことなのだろうか?
いや、そんなことあってたまるか。
『犯人が位相固定の魔法を目的とした儀式殺人と仮定した時、実際の犯行場所と死体遺棄をする場所は別の可能性が高い。
次の死体遺棄場所は第二位相とのつながりが強い場所となる。この条件に当てはまるのは県立藤峰高等学校になる。
犯人が殺害するであろう人物は、魂の力を持ちながら、その力を十全に使いこなしていない人物。肉体の許容量と魂の大きさでは肉体の許容量を優先する傾向がある。
時間は、五月二十七日の二十時から二十一時の合間、このタイミングが一番位相のつながりが強いタイミングになる』
この後はこの殺人に対する対策方法がずらりと書いてあるが、要約すると現状の設備予算人材では回避不能との事だ。
「幸、行くぞ」
俺はマウスを置いて椅子から立ち上がる。現在の時刻はすでに二十七日の十九時十二分。
次の犯行まで時間が無い。
「峰高に行くの?」
それが最善の策だろうし、実際に俺はそこに行こうと思っている。
「少し違う。俺達は魔力が強いくせして、化神を使わない奴を知ってるだろ?」
「……璃々さん?」
俺は力強く頷く。
このファイルが本当だとするのなら、次の被害者は高確率で璃々になる。
「璃々を見殺しにしてまで殺人鬼に会いたいわけじゃない。そんなことをするぐらいなら、取り越し苦労でも璃々の安全を確認して、殺人鬼を見逃すほうがマシだ」
「うん。璃々さんを探そう」