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俺がロビーで待機していると、天井から刀が差し込まれる。先ほどと同じように炸裂する。
体が少しすくむ。
霊体である弾丸は何度も部屋の中を跳ねまわる。四方八方から大雨が降っているようだ。
ある程度時間がたつと、弾丸はまた元の刀の姿に戻っていく。
「やれ、どこへ消えたのだか」
正義は天井から抜けて出てきた。
最初からあいつも幽霊であったということか。それなら俺と同じような速度で動いていてもおかしくは無い。
幽霊から幽霊は透けて見えないので、俺には気づかなかったが、気づく要素はいくらかあったはずだ。
こんな人の多い場所であんな挙動不審な行為を堂々と出来るはずがない。
謎の女の子が言っていたように、幽霊が見えない人間にとっては幽霊に語りかける瞬間は気持ち悪いだけだ。ましてやそんな行為を警察署の中でやってしまえば、市民からクレームが来るだろう。
それを幽霊が居たからしょうがなかったで許されるわけもない。
ならば最初から自分も霊体になってしまえば良い。幽体離脱と言うやつなのだろうか。さすが霊媒師。合理的な判断だ。
思わず感心してしまうが、それならこちらにも利点が出てくる。
相手が幽霊である以上。肉体がある時以上にもろくなっている。肉体は魂を守る盾としても活用されている面がある。
今の俺がまさにその状態だ。
正義はきょろっと辺りを見渡す。俺は視線を合わせないようにしながらも小説越しに何度も正義を見る。
俺が今隠れている場所は璃々の体の中だ。
俺達が何らかの手段を用いて結界の中へ入ってきたのは解るだろうが、その手段までは割れていないだろうし、ましてやその手段が人だと判明していたとしてもどの人に取り付いていたかまではわからないだろう。
正義は刀を握り直す。刀を大きく再構成する。
全二十メートルを超える巨大な刀がそこに出来上がる。その刀を両手で持ち、部屋を一刀両断するように大きく振り回す。
スイングの勢いに合わせて刀はさらに巨大化していく。
しかしこの刀は幽体でできていて、一般の人々も混ざっている状況だ。実際に何かが切れる事は無い。
これらは幽体であり、幽霊でなければ全く無縁のものだ。
理論上は。
だからといって長年培われてきた肉体の反射を理性で抑えこむのは難しい。
刀を振り回すモーションを見ていたのは俺だけでは無い。霊感少女である璃々にも当然見えていた。体を借りている状態と言っても、体の持ち主である璃々の方に主導権が存在する。
「そこか!」
大きかった刀が崩壊し球上になったかと思うと俺へ向かってくる。
直線上に存在していた観賞植物が粉砕される。
奴はこの一撃ですべてを決めるらしい。
人の目などお構いなしに、璃々ごと俺を殺すつもりだ。
俺は璃々の体から抜け出す。弾幕が目前まで迫っている。避けるだけならば簡単だ。しかし避ければ最後、璃々の命は無い。
だからといってこのすべてを受け止めるすべを今の俺は持っていない。
「終わりだな」
正義はつぶやく。
俺は笑う。正義が俺に見せつけた笑いを出来る限り模倣する。
なぜなら今の俺には勝利が見えているからだ。
「シャウト、いまだ!」
床に潜めていたシャウトが正義の腹をぶん殴る。
正義の敗因は俺とシャウトが同じように行動していると思っていたことだ。
化神の行動範囲は多種多様だ。イノセントブルーのように広範囲に移動出来るものから、ポーカーフェイスのように一部分は常に手元に持っていなければいけないものまで。
シャウトの行動範囲は半径五十メートル。
力をすべて攻撃に振っていた正義にこの一撃を避けるすべなど存在しない。
正義は天井にたたきつけられる。急な攻撃に肉体の名残を消し去ることは難しい。
正義はぐったりと倒れるが、弾丸は消えない。
化神はあくまで魔法を使う魂であり、本人から魔力の供給を受けているとは言えかなり自律的な判断を下している。
それはこちらから完全な命令ができないと同時に、こちらが命令できないような状態であったとしても以前の命令を全うすることができることを意味する。
弾を一つ一つ自らの手で掴んでいく。
シャウトで身体を強化している状態ではあるが、シャウトそのものは未だに体から外している。
シャウトが体にある状態に比べその強化幅は格段に落ちる。
弾を拾いきれず俺に当たる。時間が減っていく。
時間が遅く感じる。弾は未だに尽きること無く飛んでくる。新しい命令を出せない以上。この弾幕が最後の攻撃だ。
二発三発と被弾数が増えていく。滞在できる時間が一時間を切ってしまう。
さらに被弾数は増えていく。
視覚と触覚が完全に一つにつながっているわけではない。その合間に認識する手間ができてしまう。本来ならば存在すら理解できない一瞬がここでは大きな差として現れる。
これ以上被弾すると、俺の魂が危なくなる。
もう少しで、弾幕が終わりを告げるが、このペースでは俺の魂が先に消失する。
ここで終わりたくは無い。
ここで終わってはいけない。
ほんの一瞬の出来事であるはずなのに神経を異常に消耗する。手の動きが油が刺されていないロボットのようにぎこちなく感じる。
能力に自分が耐え切れていない。
急に横から衝撃が加えられ吹っ飛ぶ。
青い炎を見つける。幸だ。幸が証拠を手に入れて戻ってきたのだ。
「良かった。間に合った」
幸の体から煙が立ち上がる。わずかの合間ではあるが、正義の攻撃を直撃している。傷は深手のはずだ。
「よくねえよ! 幸! 大丈夫かよ!」
俺は幸を抱きかかえる。見た目的には完治しているが、幽霊の見た目と実際の体力は関係性が無い。
「大丈夫、私が守るって約束したから」
幸は微笑しながら答える。
何時そんな約束をしたのだろうか。まぁいいか。とにかく幸が無事ならば。




