表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/26

14

「やはり来たか」


 正義が階段から現れる。手には刀の代わりに札を持っている。


「青い炎が見えていたからな。いつかは来ると思ったが随分早かったな。今回はきっちりやらせてもらおう」


 正義が札を投げ捨てると、それらは一瞬にして大型の猟犬へと姿を変貌させてこちらへ襲ってくる。

 銀の毛並みを持つ猟犬三匹が警察署内を駆けまわる。

 周りの人間は異常事態を察していないのか、微動だにしない。

 こいつらは式神とか使い魔みたいな物か。


 シャウトで戦うことを想像する。

 カミちゃんから出かける前から教えてもらったように、強く強力なシャウトのイメージだ。

 俺の左腕が真っ黒な外殻に包まれる。右肩から新しい腕が生えてくる。体の所々が鎧のように硬化していく。

 世界がゆっくりと動き始める。

 こうなってしまえば犬の動きなど簡単によめる。

 弾丸のようにまっすぐ飛んでくる先頭の犬がこちらに飛びかかってくるのを見計らって左に避ける。

 飛んでいる最中に方向転換が出来るわけもなく、そのまま顔にシャウトの右ストレートが決まる。

 二匹目を左手でなぎ払い、そのまま二匹目を三匹目にぶつける。

 正義が踏み込み刀を振り下ろす。刀は形を自在に変え、分散しながら俺に向かってくる。

 もはや刀と言う表現は間違っている。

 弾幕。そう、表現するしか無い。

 俺の左腕にまとわりついていた外殻が、外れて宙に浮く。おおよそ右腕と同じような状態だ。


「すべてを掴みきれ!」


 俺はすべての刀だった弾たちを見ていく。

 身体能力をかなり向上させている状態であるにもかかわらず、弾丸は自転車程度の速度を維持している。

 通常なら認識不可能の速度だ。

 ただし、今の俺は通常ではない。

 弾を視るだけでシャウトが一瞬にして弾を掴み取る。

 視野と腕の神経が直結したかのような動きで、その速度は弾の速度をはるかに超える。

 正義の口元が少し歪む。勝利を確信する笑顔の歪みだ。

 俺はその場で横へ飛ぶ。俺の板場所につかみとった弾がもう一度飛来してくる。


 刀であると言う認識を捨てなければならない。もちろん散弾銃でも無い。

 幾つもの液体を操作するための指揮棒だ。奴の化神の凄さはいくつにも分散しながら、攻撃できる柔軟性にある。

 分散性と言う意味ならばイノセントブルーに近いが、イノセントブルーにはあのような切り裂くような力は無い。

 何度回避しても無限に来る弾を相手にしたくない。例え、シャウトの速さがあったとしても長くは持たない。


 俺は一度退避するために天井へ向かってジャンプする。 

 幽霊である以上物体通過が出来るはずだ。事実幸だってできている。


 重要なのは出来るという確信だ。


 弾は天井を狙って俺へついてくる。

 しかし俺のほうが速い。いくら分散した広範囲に及ぶ攻撃ができようとも、三次元的な動きまでは完全にこなすことはできないということだろう。


 天井に頭をぶつける。

 自分が幽霊であるということを、

 自分には肉体など存在しないことを、

 強く認識する。


 勝利へ一歩踏み出すためには危険な行為だろうとやらなければならない。

 たとえそれがぶっつけ本番の行為だとしても


『あんた様がボールにぶつかったのは肉体があった頃の名残じゃよ。肉体を捨てれば空を自由に飛ぶことも物体を貫通することも出来る。まぁ疲れるし実際に使うような場面はほぼないじゃろうがな』


 カミちゃんが出かける前に教えてくれた事を、強く信じる。


 大丈夫だ。

 幸だって今やっていたじゃないか。


 視界が暗転する。


 自分がもう一度死んだのでは無いかと不安になるが、視界はすぐに晴れる。まず見えたのは蛍光灯だ。

 俺は無事に天井を通過することに成功したらしい。体も徐々に床から這い出てくる。

 床に着地をする行動はそのまま死につながる。俺の体を追って弾丸たちは未だについてきている。


 俺は自らの肉体の感覚をすてさり、隣の壁にぶち当てる。

 次の物体貫通も成功し、事務の部屋に当たる。

 さすがにあの攻撃性能と本人の性格を考えれば、イノセントブルーみたいに弾一つ一つから情報を得るなんて高度な事はできないだろう。

 ここが建物内であることと、自分が幽霊であることを生かしたヒットアンドアウェイ戦略を取れば確実に勝てる。


 人である以上肉体の制限を抑えることはできない。

 壁から刀が突き刺さってくる。刀はその場で破裂し、四方八方に飛び散る。

 おおよその場所さえあっていれば適当に攻撃しても当たると言う無策にも近いような行為。 しかしながら、その行為をポーカーフェイスの圧倒的な質量と、分散性によって驚異的な戦略に成長させている。


 問題はそのポーカーフェイスの性能では無い。

 正義の肉体の問題だ。

 どんなに早かったとしても早すぎる。

 シャウトのように肉体そのものを強化する能力があるとでも言うのだろうか。それならなぜ今まで使わなかったんだ?

 自然公園で使っていれば簡単に捕まえられたはずだ。

 俺は弾丸を避けるために床へ退避しようとする。弾丸の一つが俺の腕をかする。

 時間が減っていく。以前の直撃ほど減りはしなかったが、痛手としては今回のほうが大きい。

 魔法により魂を大量に消費している以上、ダメージをこれ以上受けられない。


 なぜアイツは一瞬にして追いつけたんだ?


 ……駄目だうまく思い浮かばない。

 とにかく、弾丸が当たったことぐらいは向こうにバレている可能性は高い。情報収集といえる程度のことができなくても、触覚ぐらいは持っていてもおかしくない。攻撃に特化しているシャウトにだって触覚の共有が出来るのだから出来る前提で動くべきだ。


 正義が超速度で動けることが解った以上。ヒットアンドアウェイの作戦はほぼ不可能だろう。


 他になにか、せめてどうして超速度で動けるかぐらい判断出来れば、まだどうにかなるはずだ。


 俺はイノセントブルーを探す。資料を見つけた時は俺にイノセントブルーを飛ばす約束になっていたからだ。

 だが警察署ロビーにイノセントブルーらしきものは見つからない。

 しかしここに来て妙案がひとつ思い浮かぶ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ