第25話 龍神は大空をも掴む
数日ぶりの親友との再会
前回までのあらすじ
さとり、こいしと戦い、俺は謎の視界の白化に見舞われたが、地底を脱出するに至った。精神世界が何故白く何も聞こえない空間になり、気が付いた時には既に色々済んでるのかはわからない。
もしかしたら、俺の知らないところで何か起こってるのだろうか、妙な不安がある。
それはそれとして、地底を抜けた俺は龍のススメもあり、次の目的地を人里とし、歩を進めるのだった。
妖怪の山から離れて10分。どうでもいいだろう事が頭の中に浮かんでくる。
「しかし、ここに来てやっと人の居る場所に行く事になるって、俺どんだけ遠回りしてたんだ……」
激動だったな
「他人事みたいに言いやがって。大体ここに来てから何日経ったかも俺はわからねぇってのに」
4日だ
「え?」
レミリアのところ、幽々子のところで1日。霊夢の神社、八雲紫のところからお前が暴れて気絶して1日。
早苗のところで1日、地下で1日……計4日だ
「今日で5日目かよ……お前が日数を律儀に覚えてる事はともかく、もうそんなに経ってただなんて」
あと2日で1週間が経過する事実に、俺は浅く溜め息を吐く。ホンの数日の記憶に言うものではないが、これまであった事がまるで昨日の事のようだ。
それに俺は感じている。自分の体、内心の変化。4日前の俺には無かったものだらけだ。容易に人を殺し得るだろう弾幕を見て綺麗と思ったり、体に至っては謎に力が漲る感覚だ。体付きもガッチリしてきてる気がする……今着てる服が少し体に貼り付くような程度のキツさを覚えるくらいだけど。
ふと、僅かに人の声がチラチラと聞こえてきた。
どうやら人間の里とやらが近いようだぞ
「そうらしいな。んじゃ、早速入るとしましょうかね」
10分かそれ以上の時間歩いて見えてきたのは、簡素で広めな戸無し出入り口とその横に隙間無く木杭を打ち込んだ特性の柵。入り口の奥には人々の姿と家屋が見える。
ただ何となく今までの事から予想していた事だが、どうにも人々の服装や家屋が古めかしい。
お前も同じ疑問にたどり着いたか
「あぁ。どうにも古い……具体的にどのくらい前なのかわからないけど、取り敢えず圧倒的に昭和より前なのはまぁ……」
お前は勉強が苦手だったな。ならば俺の見解を述べるとしよう。
服装からして大正か明治、或いはそれよりも前と言うところか……まぁ尤も、この世界の成り立ちからして今言った時代よりも遥かに前と考える事も出来る。この幻想郷は、どれだけ時が進んでも、この先どんな文明発展が行われようと、この景色が変わる事がない。言い換えるなら、人と言う種が存在してるにも関わらずそう言った変化が起きないと言うことは、誰かが出る杭を打ち、発展を断ち切りでもしない限り現状の維持ができないと言うことだ
「えらく難しい事を言うな。その現状維持をしてる奴って一体……」
お前もよく知るあの金髪で胡散臭い日傘の女だ
そこで俺はハッとした。
確かに、あの人なら……と言うか、多分能力的にも、そう言うのを悉く隔絶してきたんだろう。それでも流れる何かを全て堰き止めるわけではなく、俺みたいな人や物はそのまま受け入れたに違いない。
だから俺がここに居る。俺は今、幻想郷に立っている。
「あの時許すべきだったか、疑いが出てきたな……」
まぁ流石に今更だ、四の五の言っても仕方がない。ひとまず俺は里の中に入る事にした。入って十数秒くらいで、俺は里の人の視線を独占する事になった。
「なんだあいつ」 「見ない恰好してるね」 「まさか妖怪か?」 「そういや似たような奴居たな」
うーむ、視線で体に穴が空きそうだ。見られる気まずさから自然と歩く速度も増していく。そそくさと歩いているうち、誰かと肩がぶつかった。
「あ! すみません、大丈夫です……か、あれ?」
「あぁ大丈夫っす! このくら……い?」
そんな────嘘だ、ありえない……だって、お前は、こんなとこに居る筈が……
「誠……」
「龍神……?」
■■■■■
「……そうだったのか。道理でお前を最近見なかったわけだ。俺はお前が行方不明になったって聞いて、めちゃくちゃ心配したんだ! でもこうしてまた会えるとはなぁ!いやー幻想入りしてみるもんだなぁ!」
「誠は俺よりこの世界に順応してるね……」
「まぁ、俺の場合は知識ありきだからな。ここは人里、人間の居住区画ってところだ。大抵の人間はここで暮らしてるし、一部には正体を隠して妖怪も暮らしてたりする。幻想郷は、全てを受け入れるからな!」
何とも誠は前向きだし、俺の知らないところでずば抜けてる。
昔情緒溢れると言えば聞こえはいいが、この人間の里は、所謂飼育園……管理の為の園だ。弱肉強食は俺達の住んでる世界にも存在はしてた。ピラミッドの頂点が人間ならば、人間よりも上は居ない。だがここでは頂点が人間じゃなく妖怪……
面倒な話だ、この事は誠には話さない方が良いか。言語化出来る気がしないし、何より……
────楽しそうな誠の感情を邪魔したくないな
それから俺と誠は時間が経つのも忘れ、俺がここで体験した事、誠がここで体験した事をお互い語り合った。
気が付けば、夜はすっかり更けていた。
「うわ、めちゃくちゃ暗いじゃん。どうりで店の提灯が明るいわけだよ」
「そうだな。宿を探さないと……」
「宿つっても、俺等お金ないぞ?」
「あぁ、実は俺持ってるよ。里に来る前にさとりから貰ってて」
「マジか!? やるねぇ!」
それから俺と誠は里内にある宿に入り、食事を済ませて体を洗う事も一応出来たので、あとは寝るだけだったのだが……
「なぁ、龍神……」
「ん、どうした誠」
「お前、龍に変身できるんだろ?」
「まぁ、そうだな」
「なら、俺と戦ってくれよ」
「は?」
突然、誠はそんな突拍子もない事を言ってきた。
「俺はお前と喧嘩したことが一度も無い。だから一回、ガチでやり合ってみたかったんだ」
「何でそんなこと、そんなの何の意味もないし、俺はお前を傷つけたく────」
「お前、俺が傷つく事だけしか考えてないのか……?」
「え?」
「俺は、弱くないぞ」
困惑していた俺を誠の眼差しが射抜く。確かに、誠とは喧嘩をした事が無かった。それだけぶつかる事もなかったと言う事、俺はそれで良いと思ってた。
でも、誠は男同士の本気のぶつかり合いがしたいんだと思った。まるでスポ根じゃないか、そんなの。それでも誠からは意地とも違う何か特別なものを眼から感じた。
俺は弱くないぞ……か。俺とお前は対等だって言いたいんだろ。対等に、決まってるだろ!
「……わかった。お前が望むなら、相手してやる」
■■■■■
場所変わって、妖怪の山付近、遥か上空……推定1000mくらいか。俺と誠は、空中で2人、立っていた。
「ここなら恐らく誰にも迷惑が掛からない筈だ。仮に迷惑だとしても、妖怪相手に気を遣う必要はあまりないだろう」
「んまぁ、確かに。じゃあ、変身しろよ」
「あぁ……」
俺は誠に促され、応えてから目を閉じて静かに集中し始めた。
龍、今回は俺だけにやらせてくれ
男同士の本気の喧嘩か。邪魔はしない
龍と言葉を交わした5秒後、俺の足下に蒼い炎が滾り出す。それが逆巻いて、次第に俺の周囲を回り始める。拳の表面から蒼い炎が滾り、それが全身に回ると、俺は開眼して集中で内側に凝縮させた波動を解放する。
瞬間、一気に倍以上に炎が膨れ上がり、その中で俺の体は大きくなり、青く染まり、そして形を変えた。衣服なぞ当然破れ散る。
自分の意思で変わるのは、3度目か────
気を発して炎を払い、俺は龍となった姿を誠の前で顕にした。
「フゥゥゥゥーーーー…………待たせたな」
「……す、すげぇ。姿形だけじゃなく、声までめちゃくちゃ迫力あるな」
自分の意思を除けばもう何度目かわからない人型に近い身の丈2mを優に超える筋骨隆々の蒼い龍……誠が驚くのも無理はない、俺だって何度見ても驚くさ。
さて、こう言う時はノリが大事なんだったな。なら、誠相手にはこのセリフが一番良いだろう。
「出しな……テメェの、ザ・スカイを!」
「! ……あぁ……やろうぜ! 親友、拳咲 龍神!」
直後、誠は2m近い蜃気楼のような頭をした筋肉隆々の人型の幽○紋を出して殴りかかってきた。
攻撃は一瞬だったのだろう。だが俺の目には酷く遅く見える。体を少し右に逸らし、次の一手を待つ。左拳を空振った大空は、その体勢から左脚を振り上げ、超音速の連続蹴りをこちらに放ってきた。
蹴りの軌道がよく見える。精々秒間1000発か。途轍もない速さではある、俺以外ならな……
「ふん……!」
ほんの息を吐くように声を張り、秒間1000発の蹴りを全て左手で防ぐ。片足の攻撃なんだ、片手で事足りるだろ。
すると大空は蹴り足を直ぐに引っ込めて、今度は拳と足を織り交ぜた連撃を繰り出して来た。速度は上がった、片足で秒間1000発なら両手なら秒間2000、いや、3000発は出せるだろうな。
だが実際に出せる攻撃数は両手両足を交ぜても精々秒間3500、悪くて3000よりちょい上ってところか。単純な足し算に依る速度じゃない。攻撃頻度的に拳の方が多く、足は少なくなる。腕は短いが動かし易く軽い。それに指だって細かく動かせる。機転が利くんだ。
でも脚は違う。筋力的にパワーはあるが、それは動かし難くスピードも遅い。当然ながら上半身の攻撃と下半身の攻撃を全く同時には出せない。
それは、幽○紋でも同じだろ? 動きは物理法則に、人間の可動域に沿って成り立つ。
なら、足も織り交ぜたラッシュってのは、フェイント特化という感じだな。
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一方、誠は攻撃を大空で行いつつ、打ちひしがられていた。
(やばいぜ……! こっちは既に空気抵抗をゼロにして攻撃してるのに途轍もなく強ぇ! なんなんだこりゃ……反則、いやぁ違うな。そんな生ぬるい表現で言えるなら俺がこんな絶望感を味わう事もない! でも同時に、底知れない高揚感!!! お前こんなに強かったんだな……龍神ッ!!!!!)
最強との戦いに身を投じ、直に感じた絶望と高みを見た事による高揚に胸を躍らせ、誠は覚悟を決めた。
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突然、連撃が止み、大空が誠のところまで退がった。よくよく見ると、誠は額に汗を蓄えながらも楽しそうに構えを執っている。
「笑顔とはね」
「ハハ! しんどいぜ、これでも天子に勝って結構強い自負あったのによぉ、プライドズタボロだよ全く! でも、俺は嬉しいよ……お前とこうして本気の殴り合いが出来てるんだからなぁ!!!」
殴り合いって、一方的な気もするがツッコまない方が良いな。直ぐ様誠は右拳を腰まで引くと、大空も同じように拳を引いて拳の先端にリング状の何かを形成し出した。
「行くぜ……大空『震空波』!!!」
誠は渾身で振りかぶり、引いた右拳を瞬く間に突き出した。その時、想像を絶する空気の振動音と衝撃が俺の前で生じた。これは、ソニックブーム?
ソニックブームであり、空振であり……それにあの拳の前にあったリングは圧縮空気を回転させてバブルリングと同じ条件を作り出していたな。
あの1発は、一時的に光速に限り無く近かった。
バブルリングは確か水中で勢いよく空気を吐いたときに出来る渦状の空気の輪のやつか。吐いた方向が方向だけに、回転方向は決まってピッチングマシンで言うところの送り出し方向だ。それなりに軽いモノなら圧力の低い中央に引き寄せられてからリングに巻き込まれる。
つまり、圧縮空気をリング状に且つ超高速で回転させて、そこに拳を突き出して拳を加速させたって事か。
やるな誠、今のは空気だけだったから良かったが、直にくらうのは流石に良くないな。
空気弾のようなものだけだったが、それでも俺を数メートル退かせる威力だったので、直撃を警戒する事にした。
「チッ……これでもダメか、結構良い感じの出来たと思ったのに」
「いやそんな事はない。あれは直撃なら正直痛い」
「それでも痛いだけなんだなぁ……」
一応褒めたつもりだったのに、誠は肩を落としてしまった。気を取り直して、誠は腕を交差させて力を溜め始めた。
「なら最後の手段だ……お前は、果たして無限に広がる大空に触れるか?」
すると、誠は腕の交差を解いて深呼吸すると、誠の周囲の空気が妙な感覚を帯びた。
「『無限の大空』……!」
一体何を────────
なるほど、大空そのものと言う事か。相手は無限の大空と全くの同じになっちまったな、どうする?
なんだそりゃ? つまりなんだ、俺は大自然を相手にしてるって事? なるほど。でも忘れたわけじゃ……ってか、普通龍なんだからわかるだろうが、自然なんて龍にとっては思いのままだろう。それをわざわざ言うって、相当意地悪いよな、お前……
「まぁいいさ……全力で、殴るだけだ」
徐に両手を拳に変えて強く握って力む。人間ならいざ知らず、人智を超えた龍の膂力ならば、力を込めるだけで熱が生まれ、空気が弾け、光が歪む。一度これを解き放てば、この世の全ては消えて無くなる。
だから、力を込め過ぎずに、一撃昏倒。全力に見せかけた最大の手加減……!!!
「来いよ! ス◯ンド使い!!!」
「行くぜ! 龍神様!!!」
気分が最高潮に達した瞬間、雄叫びを上げつつ俺と誠は互いに突撃した。間合いに入った直後に拳を突き出し、両者で噛み合うクロスカウンター。
誠の大空の拳と俺の龍の拳がすれ違い、その拳がお互いに当たる直前、俺は体を前に乗り出し、それから拳を瞬時に引く。
鳴り響く剛とした破裂音が戦いの決着を知らしめた。
「────────ありがとう、誠。水龍、頼む」
続く
親友との戦いの後、龍神は一度博麗神社に戻る事になる。
そこで彼等は壮絶な戦いを拝むことになった……!
次回、東方龍神録、復活版──第26話 最強vs最強 です。お楽しみに




