この世界のユニコーンについて Part1
「ユニコーンさん」
「何だ」
「服、着てくれません…?」
「しつこいぞ、何故我が人間のルールに合わせないといけんのだ」
「いやでも僕が恥ずかしいんですけど…」
「安心せい、誰も我の裸を見て通報したりはせん」
「えっ、それどういう意味ですか」
「行けば分かる、お前にはこの世界でのユニコーンについて教えなければならぬからな」
(行けば分かるって、今説明して欲しいんだけどな…)
「言うよりも、直接見た方が理解しやすかろう」
「確かに…?」
(見た方が理解出来るってことは、何か複雑なことがあるのかな…)
「ところで名前を聞いていなかったな」
「あっ、そう言えば自己紹介していませんでしたね」
「我はユニコーン、名はない。好きに呼べ」
「僕は大神忍です、友達からは忍って呼ばれます」
「忍よ、お前は「何故ここにいるのか」を聞いたな」
気が付いた時には、この世界におり、目の前にはユニコーンがいた。
不思議なのは、何故僕がここにいるのか。
アニメのように助けを請うなら、何か力を授けるはずだ。
だがこのユニコーンは、ただ付いて来いと、それだけを言った。
僕は平凡な一般人だ、とても何かを求められているとは思えない。
(一体、どんな理由なんだ…)
「簡潔に言おう」
「は、はい」
「お前には我の番になって貰う為に、呼んだのだ」
「……番って、あの番ですか?」
つまりこのユニコーンは、僕をオスとして呼んだと言っているのだ。
「他に何がある」
「何で、僕なんです…?」
「ユニコーンは穢れなき魂を求める、この意味が分かるか?」
「……つまり、僕が童貞だから呼ばれたってことですか」
「そういう事だ」
何と情けない理由だろうか、そんな理由で呼ばれたとは生涯の恥である。
だがこの理由には、一つ納得出来ないものがある。
「童貞ってだけなら、僕じゃなくても良いですよね…?」
童貞と言うだけなら他にもいる。あの世界で、僕だけが童貞な筈がない。
「逆に問おう、お主は何故だと思う」
「……平凡だから?」
「違う、我は平凡な人間など欲してはいない」
「なら、何が理由なんですか?僕に特徴なんて」
「見た目が好みだったからだ」
「……凄い普通の回答をしますね」
「嬉しいだろ?こんな美人に好かれるのだから」
「でもユニコーンじゃないですか」
「良いんだぞ、ここで無理矢理襲っても」
「すみませんでした許してください、めっちゃタイプです」
「なら、襲っても文句はあるまいな?」
「どっちにしろ詰んでた…?」
「これで分かったろ、お主には拒否権などと言う生易しいルールが存在しないことを」
どうやら僕には、このユニコーンと共に行き、番になるしかないらしい。
断れるのなら断りたいが、知らない世界にいる以上は言うことを聞かなければ死んでしまう。
「分かりました、貴方に付いて行きます」
「それで良い」
止むを得ず、僕は全裸の長身筋骨隆々のユニコーン(人間Ver.)と街に行くことに。
(でも行けば分かるって、もしかしてこの世界の人達は全裸が普通なのか…!?)
「いや普通に服を着るのが常識だぞ」
「なら、どういうことなんです?」
「まぁ、この世界でのユニコーンを知る良い切っ掛けになろう」
「…?」
道中はユニコーンを見ず、外の景色だけを見て心を無にしながら進んだ。
やましいことを一瞬でも考えれば、襲われる可能性がある。
いくら僕が童貞とは言え、初めてがユニコーンは流石に嫌だ。
せめて同じ種族が良い。
(あれ、襲うって言ってた割には何もしてこないな…?)
「お主の世界では、惚れた相手のことを何も知らぬのに交尾するのが普通なのか?」
「そうじゃないですけど、だって明らかに体格差ありますし」
「まぁ実際、襲うと思えば襲えるが」
「げぇっ」
「ある程度、仲良くなってからの方が人間は良いのだろ?」
「まぁ、そうですね」
「無理矢理するのは良いが、それでは興が乗らんのだ」
「…はぁ」
(良かった、これで急に襲われることは無いんだな)
僕はそれが分かっただけでも一安心だ、こんな絶対に強い人?ユニコーン?に襲われては抵抗出来ない。
(……待てよ、興が乗らないってどういう意味だ?)
「教えんぞ」
「何で照れてるんですか」
「照れてなどいない」
「……もしかして」
少し考えた結果、ある答えに辿り着いた。
「言わないと言っているだろ!」
「そういう経験が無い、とか」
「~~~っ!」
どうやら当たりらしい。
「ちょっ!?暴力は無し!暴力はダメですから!」
しかし、これだけの巨体に胸倉を掴まれて持ち上げられるのは聞いていない。
一回でも殴られたら気を失いそうな拳を見て、彼女を必死に咎める。
「はぁ、はぁ…!」
気を落ち着けてくれて、一先ず殴られずに済んだ。
(ふぅ、死ぬかと思った…)
若干の命の危険の感じたが、羞恥心で人を殺めるようなことはしないらしい。
「ああ、そうだよ!私は処女だ!それの何が悪い!?」
「悪いとは言ってませんけど」
「うるさい!今度こそ本当に殴るぞ!」
「すいませんでした許してください」
「……ユニコーンが清廉潔白なのは知っているな?」
「ええ、はい。処女を求めるって言うぐらいなので」
「私達ユニコーンはオスメスに関わらず理想を求めるが、人間も他人に対し理想を求めるだろ?」
「そうですね、優しい人とか見た目が良い人とか」
料理が出来る人、家事が出来る人、身嗜みがちゃんとしている人など、挙げたらキリが無いが人は誰しも誰かに対して期待や希望を抱く。
「ならば自分も、その理想に合ったユニコーンでいるべきだろ」
それを掲げるのであれば、自分もそれ相応の何かを持っているべきだと、このユニコーンは語る。
「急にまともなことを言いますね…」
あまりにも、まともな価値観に温度差で風邪を引きそうだ。
「私は常に真剣なのだが?」
「全裸なのに?」
どちらかと言うと、僕よりも彼女の方が風邪を引きそうではあるが。
「仕方がない、一発逝っておくか」
「すいませんでした許してください、もう何も言いません」
芽をギラリと輝かせながら、力を込めて掲げられた拳に思わず屈してしまう。だって怖いだもん。
「…まぁ良い、次は無いぞ」
「はい、本当に以後気を付けさせて頂きます」
「さぁ悪ふざけをしている間に、着いたぞ」
「着いたって―――」
「ここが人間の街、ヴィレッジだ」
「……ここが?」
「ここが」
僕が着いた場所は、街と言うよりも村だ。ヴィレッジと言っているのだから、そうなのだろうが、それにしても人があまり居ない。
「ユニコーンさんが言っていた、行けば分かるって」
「いや、人が居ないから裸でも問題が無いと言う意味では無い」
「えっ、じゃあ何で?」
いくらユニコーンが神聖な生き物とは言え、人の姿形をしておきながら全裸は許される筈はない。
「まぁ、慌てるな。会えば分かる」
(会えば分かるって言うけど、そんな凄い理由があるのかな?)
かなり誇らしげな顔をしている辺り、きっと凄い理由があるのだろう。
しばらく街、もとい村を歩いていると遠くから、こちらに向かって来る人影が見えた。
(あれは…?)
「ほら、来たぞ」
「来たぞって、もしかして人ですか?」
「ああ、そうだ」
ようやく見せられると、一緒懸命に積み木を積んだ園児のような表情をしている。
一体どんな理由があるのかと僕も少しだけ、ワクワクする。
「はぁ、はぁ、はぁ…!い、いらっしゃったのですね…」
「ああ、今日は紹介したい奴が居てな」
「しょ、紹介したい奴、ですか…」
「ああ、私の番だ」
「な、なんと!?」
「ふふっ、お主らには世話になったからな」
「そ、そうでしたか…!大変、目出度いことでありますな…!」
「そうだろ?だからお主らに知らせに来たのだ」
(あれ?確かにユニコーンさんが裸なのに何も言わないけど…)
まるで見えていないかのように、この人は話している。
しかし、隣にいるユニコーンの誇らしげな顔が続いている。
(一体、どういうことだ…?)
「い、いやー大変喜ばしいことでございますな、ははっ…」
(…?)
先から思っていたが、どこか話し方がぎこちない。
緊張をしていると言うよりは、怯えていると言った方が近い感じだ。
「いや本当に、見つかって良かったですな…」
「はっはっはっ!もっと喜んで良いんだぞ、村長よ!」
「ははっ、そ、そうですな…!はははっ…」
(………これ)
人の心が読めない僕でも分かる。
これは、ただ恐怖を覚えているだけだ。何故かは分からないが、この村長と呼ばれている人物はユニコーンに対して畏怖を覚えている。
(て言うか、やっぱここ村だったんだ)
それに、村長さんの僕を見る目が明らかに可哀想な者を見る目だ。きっと、かなり困らされたのだろう。
隣にいるユニコーンは誇らしげに笑っているが、普通に怯えられているだけのようだ。
(どんなことをされてきたんだ…?)
村で暴れ回り、人口を減らしたとしか思えない。若しくは、それに匹敵する程の大事件を起こしたに違いない。
先はまともな価値観を見せたが、ユニコーンと人の価値観は絶対に違う。恐らくは、それが原因で起こった何かがあったのだろう。
「よし、では我らの為の愛の巣を探すとするか」
「……僕が住む為の家ってことですね」
「そうとも言う」
「で、でしたら、この村よりも…」
「そう言えば、この街はもっと人が居ただろう?何故、居ないのだ」
「……えーと、皆出稼ぎに行っていまして」
「そうなのか、戻ってくるのなら家を借りれんな…」
(てっきり、無理矢理住もうとするとものだと思ったけど、意外とちゃんとしているんだな…)
「よし、次の街に行くぞ」
「次の街?」
「ああ、そうすれば我が裸で居て良い理由も分かるだろう」
「はぁ…?」
「では我らの愛の巣を探しに、行くぞ!」
こうして僕は、今度こそ本当に街に行くこととなった。




